52、墓守②
後半投稿です。少し短め・・・・。
楽しんで頂けたら幸いです。
『絵梨、全ての事が解決したら瀧田の幸せも考えてやってくれないか?』
『まあそう言うな。その分あの子は私が居なくなった後、お前の力になってくれるはずだから』
『一寸先は闇なのだよ、絵梨』
眉を下げて言っていた祖母の悲しい顔は今でも覚えている。
瀧田が白芭の血縁・・・。
波乱万丈の人生を送り、絵梨同様白芭から消された者。
白芭郁三を異常なまでに嫌悪する瀧田の姿を数日前に絵梨は2度、目にしている。
彼女もまたあの爺さんに翻弄された1人であったなら、その態度にも説明が付く。
祖母ちゃんがこの事件の後でいいから瀧田の幸せを、本家の血筋である私に託したのは、そういう意味か。
とんでもない事実が隠されていたな。と呆れるやら驚くやら心境は複雑だ。
いや、今はそのことは後回しだ。
思考を目の前の伊代に戻し、幼さの残る彼女に質問した。
「伊代、伍平の生まれ変わりに施されたあの呪術の重ねがけは解除は出来ないの?」
「解除は呪術を施されたご本人である琴子様でも無理でしょう。その時の感情のままに呪術を放っておられたので文言を全ては覚えておいででない以上、正確性がないだけに解除は誰にも出来ないと思った方がよろしいかと」
ガーン!!
行き当たりばったり的な行動に、顎が外れる。
「その時の感情のまま?」
溢れた絵梨の言葉に、伊代は頷いた。
「はい、苛立ちを、その、呪術に混ぜ込んで、放たれておられましたので」
目を逸らしながら言う伊代に絵梨は半眼で見つめた。
「白芭としてそれはどうなの」
呪術の痕跡からなんとなく気づいていたが絵梨は盛大に呆れた。
「・・・・あるまじき行為と初代様ご夫婦も申されておられました」
「誰も止めなかったの?」
「もちろんご両親は何度も注意はされていましたが、隠れてバンバンされていらしたので・・・・」
バンバン?
さらに呆れながら伊代を見据えた。
「その度に注意はしても常習的に行っていたなら、意味がないでしょう」
「確かにそうですが、白芭の将来を背負った琴子様に誰もが頭が上がらなかったのが現状でしたので、結局あの方のわがままを本気で注意できる者はおりませんでした」
初代が使い物になるまでに時間がかかったと文献に在ったことから、2代目の琴子に期待をかけていた者達からすると確かに無理を言うことは出来なかったのは仕方ないとして。
ただその矛先をただ1人に向けられている現状を誰も何もしなかったのだろうか。
呪術を目に出来る高彬などは、その都度わかっていたはずだが・・・。
まさか・・・。
何もしなかったのではなく、琴子がすることを見越して放置していた?
要の〈鍵〉としての行動は、術師であり伴侶となり得る絵梨に対しての執着心はかなりのものだ。
相性がどの程度だったかは分からないが、初代の〈鍵〉であった高彬は恋人時代も初代に呪いが降りかかった後も寄り添い続け、支えるほど絆は強固だった。
付き人とはいえ自分の妻に邪な目を向ける男に嫌悪感を抱かなかったなどあり得ないだろう。
と、なれば本気で娘の行為を止める気がなかったかだ。
その弊害が前世で人生を全うし、死して何度かの転生を繰り返した恭二が、前前前世の因果をその身に宿したまま今世に生を受けたのだとしたら・・・・。
それは流石にやりすぎだ。
因縁、いやここまで来ると悪縁だ。
それを植え付けた琴子は・・・・その生まれ変わりと言われている、姉マリンの業は深いぞ。
業:人間の身、口、意による行いや、前世からの悪行、報いを意味する。
だからこそ今世で恭二は第3の〈鍵〉に選ばれてしまったのか。
硬く握った拳を震わせながら絵梨は問うた。
「琴子はなんと言って呪術を放ったの?」
『そんな目で母上様を見るな!』『見るなと言うに、何故見るのだ!』『己の根性は腐っておるのか!見るなと言うておろう!』『だから母上様にそのような目で見るな!』
伊代から発する言葉の数々に幼い子供の癇癪にしか聞こえないが、それが呪術となると別問題だ。
だが・・・。
「それだけの呪術を放っても、伍平はやめなかったと?」
「やめるはずはありません。呪術で縛ったところで憧れる人物に無意識に目を向けている者にその呪言は響きませんので」
そうか!視線のみの注意では呪言の効果がなかったのか!
憧れや尊敬の念の元を断たなければ、呪術は相手に効かなかったと言うことだ。
暗示を行う時も、長い言や曖昧な指示では相手に浸透しない。
何より相手の受け取りようによっては違う指示に変わると祖母ちゃんが言っていたことにも繋がるのか。
「結局伍平のその行動を止められなかったの?」
「いいえ、琴子様は何度も呪術を放っても効果がないことに痺れを切らし、最終的にはその視線を他に向けるように縛られたのです」
「他に?」
「はい」
『初代に向ける全ての感情を他の白芭の者に変えよ』
「対象者をすげ替えたのね」
しかし初代の子供は5人いたとされている。
「対象者が多いように思うけど。それで指示は通ったの?」
「当時10歳だった琴子様には初歩的な術しか使えず、少女の知能ではそれが精一杯だったのでしょう」
琴子が第一の儀式を受けた後に呪術が使えたことにも驚きだが・・・。
知力、精神力、体力、気力、社交力(コミュニケーション力)、感性(情緒力)。
それらを鑑みて、やっぱり早くから儀式をするリスクがあったことを考えれば、35代目の祖母の改革は正解だったと思わざるを得ない。
時代背景の中、半世紀前に35代目が第1の儀式を10歳から20歳に変えたが、前世のあの時代や女性の結婚が16歳と早かった昭和前期頃までは、無秩序な事例が発生したとしても、改革はやはり難しかったのかもしれない。
それ以前に10歳やそこらの年齢で呪術が扱えた琴子は呪詛師として天才だったのだろう。
故に白芭を背負って立つ琴子が、間違ったことをしても誰も注意が出来なかったと推測され、見逃された。
「ですがその半端な呪術(呪言)のせいで弊害が生まれました」
だろうな。と思いながら先を促す。
「初代様へは何の関心も寄せられなくなった代わりに、白芭の他の方々に対しその感情を向けるようになったのです」
やっぱりな。
「琴子の弟妹にも向けたということよね」
「それだけではありません。初代様の子子孫孫、男女問わずです」
「・・・・琴子はそれに満足したの?」
「初代様が全てであった琴子様にとっては大変満足がいく結果になったのだと思います。それ以降、伍平に呪術は行っておりません」
「その言い分からすると琴子自身も伍平からそういう視線を向けられたはずでしょう。それは構わなかったと言うこと?」
「些細なことです。憧れ、羨望、憧憬、羨慕、渇望、崇拝。そう言った視線に慣れていた琴子様にとってはその内の1つでしかありませんでしたから」
「初代、つまり母親に対しその視線は許せなかっただけで、自身も含めて弟妹や娘に対してそういった視線を向けることには許容出来たと?」
「その通りです」
思考が完全な子供かと思えば、そうでもないのか。
琴子の母親に対する感情だけが異常なだけで、他は普通の思考を持っている。
やはりどこか、要臭が漂うな。
よくよく考えたら、要が高彬の生まれ変わりなら、その娘の琴子が父親に似ただけなのか・・・・?
いや、ちょっと待て!
瀧田から聞いた話が本当なら、私も要も依代のはずだ。
つまりこの体だけが生まれ変わっただけで、その魂は切り離しているという話だった。
なのに、琴子と同じような言動を行う要は本能なのか?
肉体に魂が引っ張られているのか?
〈鍵〉とはもともとそう言うものなのか?
「・・・・伊代」
「はい」
「話は変わるが、〈鍵〉とはそもそも何なのだ。夫、伴侶とは言わず何故〈鍵〉と言われているのか。それに応える回答をあなたは持ち合わせているのだろうか?」
「〈鍵〉とは何か、ですか。面白い質問をされたのは初めてです」
!?
歴代の当主達は疑問に思わなかったのか!?
「何故〈鍵〉と呼ばれ、そこに存在しているのか。その正しい答えは持ち合わせておりません。何せ私の知る〈鍵〉と呼ばれた方はお2方だけですので」
2人。1人は初代の〈鍵〉高彬。
もう1人は、、、琴子の〈鍵〉か!
家系図に載っていない真の2代目琴子とその〈鍵〉。
「1人は初代の〈鍵〉高彬。ではもう1人は琴子の〈鍵〉ね」
「はい、名は朧様と言います」
「どんな男だった?」
「そうですねぇ。私から見た朧様は忠犬」
え?
「ですが琴子様は朧様を、駄犬と呼んでいました」
・・・・・・はい?
だ、駄犬??
どんな人物だった聞きたかったのに、斜め上行く回答に絵梨は戸惑いポカンとした。
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明日1話UP予定です。




