51、墓守①
話が長くなったので2話に分けて投稿します。
今回前半部分投稿です。
翌日、混乱する考えは一旦置いておき、遅めの朝食後に絵梨は要と一緒に車で都内の北外れに向かっていた。
今日は要のリクエストで白芭の祖父母が眠っている墓地にお墓参りに行っている最中だ。
仲嶺の方のお墓には昔から両親、特に母親には行くな。と言われていた為、姉と2人でお盆時期にはお留守番をしていた記憶しかない。
そのため、仲嶺のお墓の場所を知らない。
宇崎に聞いても、行くなの一点張りであまりいい場所や地域ではないのかもしれないと成人してから唯一行けるお墓が姉の墓石しかなかった。
ここに来て白芭の墓地にお参りに来れたことは絵梨にとっても考え深かった。
埼玉県との県境にある、森に囲まれた公園に白芭の墓地は存在している(らしい)。
昨日夜遅くに瀧田から送られて来た地図を頼りに向かった先の、公園裏手に入り口があるという。
公園近くの駐車場に車を停め、絵梨は降り立った。
昨日とは打って変わり快晴。
肌寒くはあるが、1月にしては暖かい日だった。
それでもお墓参りには防寒!と、絵梨は白の厚手のハイネックにクリーム色のダウンジャケットにジーパン姿。
要は黒のハイネックにグレーのコートと黒紺スラックス姿だ。
家を出る前にお墓参りとはいえ、絵梨の親族に会うということでフォーマルスーツを着ようとした要を止めて私服に着替えさせたのは絵梨だ。
確かにある意味顔合わせだが、お墓にそれは場違いだ。
正式な挨拶をしに行くのに、結局私服で来る羽目になった要は至極不機嫌だったが、絵梨が手を握って移動したために裏手入り口まではなんとか移動出来た。
公園の裏口まで行くと、そこには門扉が聳え立っていた。
ただその門扉は絵梨にだけ見えているらしい。
要の目には公園周辺の石垣が見渡す限り連なっているようにしか見えないらしく、門扉があると言われて驚いていた。
この先にお墓以外に何かあるのか。
罠とかはないと思いたいが、白芭の人間はイタズラ好きが多い印象の絵梨は、先に1人で行って来ると要に告げた。
認識阻害の札を要に預け、人から声がかけられない人物を思い浮かべて待っててほしいと告げたならば、昨日会った大学時代の要の親友①の姿に変身していた。
なぜその男なのか?
思ったことが顔に出ていたのか要が「こいつが1番、人に興味を向けられない非モテ」なんだそうだ。
親友なのに辛辣だな。
腕時計で時間を確認しながら門扉に近づけば、勝手に門扉がゆっくりと開いた。
自動ドア?
不思議に思いながら門扉の内側に足を踏み入れれば、そこは結界内だったのかそれまでの騒音が消し去られ静寂が訪れた。
周りを見まわしても風も太陽の日差し、気温さえも遮られた空間には空気だけが存在してるような、どこか大きな箱の中にいる印象を受けた。
ただ不思議なことに熱くも寒くも感じない快適な空間だった。
視界の先には門扉から続く石畳の小道が多少蛇行しながら先に続いており、周囲には木々が立ち並んでいた。
ここからでは墓地は見えない。
この道の先に白芭の墓地があるのか?
そんなことを考えながら足を踏み出し少し進んだ所で、数日前に聞いた忌々しい鎖がジャラジャラと地を這う音が聞こえ、体を強張らせその音の正体を探るために耳を澄ませた。
すると木々の間に人1人通れる小道があったのか、そこから1人の少女が姿を現した。
年齢にすればまだ幼さの残る16、7才の地味な顔立ちの少女だ。
真っ白な小袖に青みのかかった白い褶という着物を羽織り腰布で固定した下女のような格好の少女は絵梨を見て笑顔を向けて来た。
その彼女の体は黄金色に輝き、悪意は感じられない。
ただ、その右足首には幼馴染と同じ気を放つ普通のツルリとした鎖で繋がれていた。
彼女は何者なのか・・・。
「お待たせ致しました。白芭の方」
そんな彼女は絵梨に笑顔を向けたまま、綺麗にお辞儀して挨拶する。
そして顔を向き合わせ、絵梨の目を見て少女はさらに言葉を落とした
「ここは白芭でも限られた者、儀式を受け〈鍵〉を受け取った特別な存在にのみ解放された空間にございます。良くお越しくださいました白芭の星よ」
悪意は感じない。が、なにぶんその鎖が気になる。
多少警戒しながらも、その言葉に絵梨も頭を下げた。
「白芭の女帝、35代目当主の孫に当たる絵梨です」
「絵梨様よくお越しくださいました。私はこの墓地を管理、道案内をしております、伊代と申します」
足を動かす度に鎖がジャラジャラと鳴り、どうしてもそこに目をやってしまう。
「管理に道案内か、それで呪術によって縛られているの?」
「いいえ、これは我が当主様が若くして亡くなった私をこの地に繋ぎ止めるために施してくれた救済なのです」
笑顔で言う伊代という少女の言葉に嘘はないようだ。
後光がさす勢いの満面の笑みに、絵梨はそれでも忌々しそうに鎖を見つめた。
「そう。しかし奇遇ね。数日前に私はあなたの足にあるような鎖を、いやそれよりも歪で執拗なまでの呪縛を目にしたばかりよ」
鎖の先はご丁寧に恭二の鎖同様、付かず離れずあの黒い空間が伊代に合わせて移動している。
しかもそこから放たれる気は恭二のものと同じだが、印象があまりに違い過ぎている。
恭二の時のような禍々しさはなく、伊代のものは穏やかな気を放っているのだ。
術者の意思が気に込められているのなら、確かに伊代のものは慈悲。
救済という受け取りも納得だが・・・・。
それに比べて恭二のものは、悪意の塊のような気を放っていることを鑑みれば、術者は相当怒りを滲ませ術を施している。
何をすれば、あれほどの呪縛を受けるというのか。
伊代の鎖と比較して恭二のものは色褪せ、鎖も劣化しているように見えた。
だがあの棘の鎖が霊魂(心臓)にまで干渉しているように見えることから輪廻を何度か繰り返しながら、いまだに術に囚われているのかもしれない。
あいつが、あいつの前世が相当の過ちを犯した証拠とでもいうのか?
苦渋の表情を浮かべる絵梨に、そしてその言葉に伊代は驚いた表情をした。
「歪?執拗なまでの、呪縛?」
「表現としては合っている。伊代の足にある緑色の縄のような細いものではなく、硬質な棘だらけの鎖が体中だけでなく心臓にまで何重にも巻きつけた男を見た」
その言葉に伊代は心当たりがあったのかピンと来た表情の後、応えた。
「ああ、伍平の生まれ変わりの姿をご覧になったのですね」
その言い方からすると、恭二の前世が伍平という人物なのか?
「伍平、とは誰のことだ?」
「伍平は初代様の〈鍵〉であられた高彬様の付き人だった者です」
!!
高彬の付き人!?
恭二の前世が、自分や姉のマリンの宿縁で繋がった相手だとは思っていたが、まさかそこに繋がっているとは思わなかった絵梨は驚いた。
「待って!ではその伍平の呪縛と伊代のその救済を行った人物って・・・」
「はい、白芭の2代目様です」
高彬かと思ったが違った。
でも当初の推理通り前世の姉が犯人だった。
顔を強張らせた絵梨は問うた。
「白芭の家系図には載っていない真の2代目のこと?」
絵梨の言葉に、笑みを深めるだけでそれ以上口を開かない伊代に、口止めかそれに近い縛りを課せられいると感じた絵梨はため息を吐いた。
過去、白芭の当主達がここで伊代と会い、同じ質問をしても家系図しか知らない者達は、2代目と聞いて誰もが白芭葵子だと思っただろう。
たがこの笑みは肯定を意味する。
伊代をこの地に縛ったのは、真の2代目、白芭琴子。
姉さんの前世の人物だ。
恭二が第3の〈鍵〉に選ばれていた事から憶測はしていたものの・・・・やはりあの呪縛は白芭琴子が施していた。
恭二の鎖に触れた時に感じた術者の姿は幼い少女だった。
伊代よりも幼い、だが威厳ある声を発する者だった。
白芭琴子は10歳の頃に第一の儀式を行い、14歳で結婚出産していると聞かされている以上、伊代の言葉と推理に矛盾はない。
冷や汗が出る絵梨は伊代に質問した。
「伍平は何をして、あれほどの呪縛を受けたの?」
「そもそもその呪縛というのは正確ではありません。呪術の重ねかけのせいであーなったのです」
重ねがけ!?
眉を顰めた絵梨はさらに質問した。
「それでも縛る行為をなん度もするということは伍平が何かを仕出かしたから、ある意味仕置きで行ったものなんでしょう?」
「仕置き・・・そうですね。あの方にとってお母君は特別でしたから、その方に邪な感情を持っていた伍平が邪魔でしかなかったのでしょう」
「邪?恋慕があったということ?高彬の付き人がその妻に恋慕していたと?」
「恋慕というよりかは憧れや尊敬が顔に出やすかっただけです。それは高彬様もわかっておられました。が、それを問題に思ったことは一度もないほど、伍平は健全でそれを実行するほどの勇気も度胸もない男でした。だから高彬様は放置なさっておりました」
「ではなぜ・・・」
そこまで言いかけて、絵梨は閉口させた。
琴子は極度の初代第一主義のマザコン。
視線だけも初代に向けられることに嫌悪を示したとしたなら・・・・。
「伊代」
「はい」
「あなたは白芭のなんなのだ?」
「私は白芭の初代様がお産みになったお子様方の謂わば乳姉妹に当たります」
つまり乳母がいたのか。
「白芭琴子と共に育ったと?」
琴子の名を聞き、伊代は驚きと共に言葉にした。
「ああ、ご存知なのですね。これは興味深い」
白々しい。
絵梨が目を眇めて伊代に言った。
「35代目である白芭の女帝が、真の3代目葵子の生まれ変わりと知っていたのではないの?」
「そうですね。35代目様が亡くなる少し前に〈鍵〉方であった俊明様のお墓参りに来られた時に教えて頂きました。つまり絵梨様も35代目様に告白されて知っていたということですね」
「・・人伝えではあるけれどね」
「人伝え、ああもしかして瀧田ですか?」
「そうよ」
女帝の補佐官を伊代が知っている?
絵梨は違和感を覚え、彼女に質問した。
「瀧田を知っているの?」
「もちろんです。あの方が白芭の補佐官を補う前からここに出入りしておりましたから」
絵梨は過去一驚き、声を失くした。
伊代は今とんでもない発言した自覚はあるのだろうか・・・。
ここには白芭の人間でも限られた者にしか開放されていない場所。
しかも儀式を受け〈鍵〉を受け取った者のみが入場を許可されていると伊代自身が言っていた。
ならば瀧田は・・・。
白芭の血筋であるということだ!
それも〈鍵〉を受け取った分家の血筋!
面白な、良かった、続きが気になる!と思われたらブックマーク登録、作品の「評価」⭐︎アイコンボタン押して頂けると、大変励みになりますので、ポチッとよろしくお願いします。
明日このタイトルの後半UP予定です。




