表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/53

50、証言者達の不可解な言動の正体


 知崎の邸宅を出た要の車は夕方道路が混み合う時間に約1時間超かけて、親友河野の実家近くに来ていた。


 途中パーキングに車を停めて絵梨に言われるがまま、外が夕焼けに染まる中、河野の自宅前まで徒歩で行くと道路挟んだ向かい側の家に目を向けた。


 絵梨は少し離れたところで様子を見ていると、要が見上げた自宅から1人の女性が飛び出して来た。

 その上でラフな格好の彼女は、要に駆け寄った。


「知崎先輩ですよね!今日は茂春しげはるくんに用事が?」

 頬を染めながら言う彼女の言う茂春とは河野名前だったはずだ。


 同じ大学出身である証言者は、要を知っているだろうと思っていれば、案の定その女性は何かを期待するような表情で要の前に出て来た。


 淡いピンク色の雰囲気を纏ったそんな彼女に、要は引き気味だ。

 どう言えばいいのか、躊躇ちゅうちょし絵梨を見た要に釣られるように女性が絵梨の方に顔を向けた時、絵梨は内心狙い通り!とニヤリと笑って呟いた。


 《付いて来い》


 すると彼女の目は濁り、指示通り絵梨の姿を追って後ろを着いて行く女性を目にし、要も黙って2人の後を追った。


 2、3分ほど歩いた先に団地内にある、小ぢんまりとした公園に行き着いた。

 陽が沈み、薄暗くなった公園内にはいくつかの街灯が灯っていたが、奥にあるブランコに乗っている少年1人以外は誰もいなかった。


 絵梨は公園の手前半分だけに指を鳴らし、結界を張り防音にした。

 それまで公園外側を通る車の騒音や、犬の散歩をしながら公園の街灯を頼りに集まり井戸端会議をしていた主婦の雑音など全て遮断された。


 要は初めての現象に驚き、絵梨の側に寄って行った。

 絵梨は公園内の樹木の側を陣取り女性と対峙するために、向かい合った。


 自宅前では人の目を引き過ぎるために移動したが、ここなら邪魔も入らず質問出来そうだと嘆息した。


 横に来た要に背中に回って支えてほしいと頼むと、素直に背後に周り絵梨の両肩に手を置いて来た。


 手薄になる背後を要に任せ、絵梨はフーッと息を吐き、自分自身とくっついている要の姿だけを背景に馴染ませ、カメレオンのように姿を隠すようにイメージした。


 その上で、もう一度女性を見て両手で一度パン!と手を叩いた。


 すると濁った目の女性はキョトンとした表情になったが、状況を理解する前に質問した。


「質問する。榊原とはどういう関係だ?」

 過去何度も聞かれた質問だろう。


 言われた本人はこれまでの証言通りに「遊んだ仲よ」と言った。


 しかしその言葉を絵梨が聞いた瞬間、ポン!とつづみの音が聞こえたと同時に、狐の面が女性の顔前に現れすぐに消えて行った。


 変な現象に驚き、もう一度絵梨は同じ質問をして見た。

 その時の返答も同じもので、鼓の音と共に狐面が女性の顔に被るようにそこに存在するが、返答し終わるとその仮面は消え去る。


 白芭の目にはそう見えるが、要に聞くとそんな音も現象も見えないと言う。

 むしろ要の親友が言ったように『能面のような張り付いた笑みと濁った目をしていた』らしい。


 もう一度同じ質問をすれば、お決まり文句が飛び出す現象に、絵梨はじっと彼女を見つめた。


 さらに同じ質問を繰り返し、いつどこで遊んだのか聞くと、そこには困惑した女性の顔とそんなことは言っていないと涙目になって返答する現象は報告にあった通りのものだ。


 ただ困惑している時には鼓の音も仮面も発生していなかった。


 と、なれば予測した通り、ある一定の質問をした時には“お決まり文句を言う“ように呪術をかけられていると見て間違いないだろう。


 その副産物としてあの音と仮面が白芭の目には映るようだ。


 では誰がこんなことをしたのか、だ。


 もう少し情報が欲しい。

 もう10回目は超える質問にはなるが女性に「榊原」と言えば、何度も同じような質問を繰り返してしまった弊害なのか、おかしな現象が彼女に現れ始めた。


「さか、さかき、榊原、彼、彼とは、あ、あそ、遊んだ」

 彼女は首を少し傾げながらまるで壊れたレコードのように言い始めた。


 一瞬怯んだ絵梨と要だが、絵梨の耳と目にはポ、ポポン、ポン、ポポポという乱れた音と狐面が何度も見え隠れしていた。

 そしてそこまで来てようやく見えたものが、他にもあった。


 彼女の首に呪文のような文字が、首輪のように刻まれているのを見て絵梨は目を見開いた。


 幼馴染の鎖の時のように、何かしらの情報が取れないか?

 そう思い絵梨が意を決しその呪文に触れた。


 すると何度も首を傾げながら壊れたおもちゃのような動きをする彼女の頭上にポン!と、煙と共にそこから1人の男性のあぐらをかいた姿が現れた。


 その現象に流石の絵梨も驚き、消したはずの自身と要の姿が現に露わになった。


 一歩後ろに下がり要の体に密着する形になったが、要もまた女性の様子がおかしくなったので絵梨が危害を加えられることを懸念して片側の手を肩からお腹に腕を回して抱き抱えた。


 そんな2人を意に返さず、煙から出て来た男が口を開いた。

 《誰や、僕をここに呼んだんは〜》


 ・・・・・・・・・・・・は?

 誰やねんはこっちのセリフなんだが!?


 要はその煙も男も見えていなかったが、何か気配は感じているようで女性の頭上を凝視していた。


 絵梨はイメージとして呪った相手が見える程度だと思っていたのに、まさか首輪のような呪文から人が出て来るとは思わず、閉口した。


 状況的に見てこの男が彼女に呪いをかけた人物なのだろうが、見覚えのない者に絵梨は盛大に警戒した。


 男は日本伝統衣装の水干を着ており、何故かその水干の前身ごろをはだけさせており、だらしない格好だ。


 水干:1000年程前から庶民などが着ていた衣装。現代では流鏑馬やぶさめの射手や神職(特に女性)、時代行列などの衣装として着用される。コスプレや舞台衣装としても定番である。


 男の顔は清潭な顔立ちだが、女性顔だ。


 線が細く、シャープな顔立ちだが、喉仏がある。

 一人称が僕であることから性別は男性だ。


 見た目だけで言えば、二十代半ばか後半の人物だ。

 色素の薄いウルフカットに近い茶髪を後ろで無造作に括った髪型に、一文字の目にスッと伸びた鼻と不適に見える口角の上がった口元。


 はだけた水干の首もと、向かって右側に特徴のある黒子がやけに目立った。


 ただ恐ろしいとは思わなかった。

 姉の怨霊のような姿があまりに強烈だっただけに、先ほど貴婦人とも遭遇した経験が良くも悪くも絵梨を冷静にさせた。


 状況について行けずキョロキョロとしている男に、絵梨は意を決し口を開いた。

 《お前は誰だ?》


 そう問えば男は、絵梨の存在に今いま気がついたように驚き、顔を一瞬強張らせたがすぐに余裕のある顔に戻った。


 《驚いた〜。まさかそっち側から話しかけて来る者がおるとは思わんかったわ〜》


 呪いの残骸のような存在が、返事を返して来た!?

 驚きが表情に出たのか、男には呆れ顔を向けられた。


 《なんや、そっちから質問して来たんに、その態度はひっどいなぁ》


 そしてこちらの動きをちゃんと見て理解もしているらしい。


 意思疎通はできそうだともう一度質問した。

 《お前は誰だ?》


 《芸があらへんなぁ、またおんなじ質問かいな》


 《榊原とはどう言う関係だ》

 《お!質問の意図を変えて来おった》


 《答えろ》

 《うーん、どう答えてほしいんや?》


 相手の余裕な態度に一瞬怯んだが、顔を強張らせながらも絵梨は質問を続けた。


 《お前が彼女に変な術をかけたのか?》

 《ん?彼女言うたらこの子のことかいな。ああ、そうやで》


 肯定した!?


 《なぜだ?不特定多数の人物に呪ってお前になんの徳がある?》

 《うーん、何故と言われても。僕はお願いされたさかい、そうしただけやで〜》


 お願い、された?


 《誰にだ?》


 絵梨の言葉に、憤慨の表情を隠さず男は上から顔を逸らして口を開いた。

 《そんなん誰でもええやろう。強いて言うなら僕のご主人様や》


 《お前のご主人様とは誰だ?》


 《そんなん、なんであんたに教えなあかんの?》

 面倒くさそうに腕を組んで言った男は絵梨の顔を見て一瞬動きを止めた。


 じっと顔を見て一文字の目を少し開かせて驚いたように見えた。

 《あんさん、まさか》


 そう言った男は煙を絵梨の方に向けると上から覗き込まれた。

 ぎゃー!!!こいつ移動もできるんかい!?


 体を強張らせた絵梨に、要が敏感に反応し無意識なのか絵梨の前側をまるで蝿を追い払うように手を振って見せた。

 その仕草に驚いた男は絵梨と要をその目に捉え、笑顔を凍らせた。


 そして《あ、あかん》と呟くと絵梨から離れて、煙と共にドロンしそうな雰囲気に絵梨は慌てて男の服に手をかけると、相手はクン!とその動きを止めた。


 その現象に絵梨自身だけでなく、男も驚き2人して目を合わせるおかしな状態に陥った。


 《なんでこっち側に干渉できんねん!》


 それはこっちが聞きたいわ!


 干渉出来ればと思ってはいたが、まさか本当に出来るとは思っていなかった絵梨もパニックだ。


 ただその感情は顔にも態度にも出さないように心掛けた。

 《消えるなら答えてから行け。お前のご主人様とは誰だ?》


 《・・・聞いても、おもん無いで》

 《面白いかどうかはこちらで判断する》


 そもそも面白さは求めてない!


 《あんさん、その顔立ちは白芭の人間やろう。現当主かいな》

 顔を強張らせ言う男に情報開示する。


 《悪いが違う。白芭はその門を数年前に閉じたからな》


 一文字の目で絵梨を凝視した男は少しの間、口黙り何かに気がついたのか冷や汗を流しているようだった。

 《白芭のことわりから外れた存在・・・・そうか、君か》


 何を言っている?ボソボソと言う男の声は途切れ途切れにしか聞こえず絵梨は困惑した。

 そんな絵梨に男は助言のような言葉を落とした。


 《ならば白芭の隠された存在よ。この件はある事を覆い隠すためだけに行われた陽動作戦や。真実に辿り着くために、ややこしい事をしてしもうた困った人がおんねん。その意図、しっかり理解して事件の真相を見極めや》


 陽動!?


 動揺のせいで男の水干を掴んでいた手を緩めた瞬間、男はパッとその場を離れた。

 絵梨はしまった!と後を追おうとした絵梨の手が宙に浮いた時、男はそれまでの憎たらしい笑みを収め綺麗な笑顔を向けて来た。


 《運が良けりゃ、また会えるかもなぁ。ほなまたな、お嬢はん》


 言いたいことを言った後、男は本当にドロン!と煙ごと消え、そこには公園の一部背景が見える景色に絵梨は呆然とした。


 取り憑いていたわけではないだろうが、目の前の女性は男が消えた後一瞬振らついたが正気に戻ったようで頭を仕切りに振っていた。


 絵梨はなけなしの理性でもう一度カメレオンのイメージをし、要含めて姿を消した。

 効果はあったようで、目の前の女性は首を傾げた。


「あれ、私なんでこんなとこにいるんだっけ?」


 そう言った女性は何度も首を傾げながら足を引き摺るように自宅の方へと足を向けた。

 公園入り口に差し掛かった時スマホの着信音が聞こえ、上着ポケットからスマホを出した女性は電話に出ていた。


 相手は婚約者だったようで結婚式の打ち合わせの話をしながら、帳が下り始めた薄暗い夜道の中に姿を消して行った。


 その姿を見送った要は絵梨が身動きをしないことに不思議に思ったが、体が強張っていることから何かあった事を察した。

 寒空の下、北風に乗って雨まじりの雪が降り始め、気温が一気に下がって来た。


 思考が停止しているのか、考え込んでいるのか。

 どちらにしてもこのまま何もせずに立っているのは体の芯から冷える。


 要はそう判断し、絵梨の手を握ると車を止めたパーキングエリアに向かった。

 車に戻り、誰も一言も口を効かない状態で自宅に戻ると、要がお風呂の準備をしている間、絵梨は無意識に台所に立つと一心不乱に料理を作り始めた。


 本日の夕飯は叔母から届けられた野菜を使った簡単な野菜炒めと具沢山スープだ。

 それらはチャチャっと作ったのだが、3日後の料理の仕込み!と多種多様の野菜をおろし器で、うぉー!!!!!!!とり始めた。


 なんだあれ!なんだあれ!なんだったんだあれは!?


 動揺を隠すように一心不乱にっていると、時間を忘れていたようで、先に入浴を済ませた要に優しく両肩に手を置かれた。


「エリン、それは俺がやっておくから先にお風呂入っておいで。体が冷えているから芯から温まっておいで」

 好意に甘え、これとこれ、この果物をとにかく磨りおろして鍋に入れて置いて欲しいと伝え、浴室に向かった。


 衣類を脱ぎ捨て、浴室で一度体をお湯で流してから浴槽に浸かった絵梨は温かなお湯に全身で触れ、強張った体が解されていく感覚に釣られるように心も解れて行った。


 指先が異常なほどに冷たかったが大きく息を吐き、両手で湯船のお湯をすくうと顔に当てた。

 顔にも熱が伝わりようやくホッと出来た。


 浴槽に身を委ね、天井を呆然と見上げて術師の男を思い出していた。


 《この件はある事を覆い隠すためだけに行われた陽動作戦や。真実に辿り着くために、ややこしい事をしてしもうた困った人がおんねん。その意図、しっかり理解して事件の真相を見極めや》


 人を呪ったにしてはやけに親切な、間抜けな男だった。

 その言葉の信憑性は皆無だが、可笑おかしな程あの男から悪意は全く感じなかった。


 男の体からは、見えるはずの悪意の黒い影は一切なかったのだ。


 ただ最初話す言葉の端々には黒いものを感じたが、奴が私を白芭を認識した途端にその警戒を解いたのか言葉にも黒いものが混じらなくなり・・・・。


 そして、あの最後の言葉だ。


 あの時あの男が助言と共に心の底から笑って最後捨て台詞を吐いた時、彼の身もその言葉も黄金色に染まっていた。

 そこに嘘はなかった、と言う事なのか・・・・。


 奴は榊原の悪い噂は陽動だったと言っていた。

 それを先導したのが、あの男の主人だという。


 どこのどいつだ。

 しかも高校時代からの榊原の親友2人の記憶も消し、この件をさらにややこしいことをしてくれた。


 そんな事までして撹乱させる意味がどこにあるのか。

 当然姉の事件とも関係しているとなると無意味な行動を起こされ、絵梨はイラついた。


 ただ、奴は絵梨ではなく要を見て、何かに気がついたようにあの場を離れようとした。

 その上で、絵里が白芭の人間であると認識してから饒舌になった。


 と、なればあの男は白芭を知っていると言うことか。


 ご主人様とは誰のことだ。

 あの男自身は白芭にとっては敵ではない。


 が、その主人はそうとは限らない。


 榊原の不貞疑惑で不可思議な現象を起こし証言する者たちのカラクリは解明されたが、謎がまた増えた。


 瀧田の言が正しいなら、その相手は白芭の負の連鎖を引き起こした呪術師ということになるが・・・。

 その相手のことが今は情報が皆無なだけに犯人像も浮かばない。


 点ばかりが点在し、線引きが出来ない現状に絵梨は途方に暮れた。


 このまま捜査して、本当に事件解決に持っていけるのか。

 自信を失った絵梨はブクブクと息を吐きながら湯槽に頭ごと沈めた。


 長い間考え込んでいたのか心配して浴室に入って来た要に、浴槽に沈んでいた絵梨を見て、その後騒動になったのは言うまでもない。



 


面白な、良かった、続きが気になる!と思われたらブックマーク登録、作品の「評価」⭐︎アイコンボタン押して頂けると励みになりますので、よろしくお願いします。


明日1話UP予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ