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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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48、能力に翻弄される者とそれぞれの不穏と行幸


 夕食も食べて行きなさいという芯之介に、絵梨と要は行くところがあるからと夕食は遠慮した。


 残念そうに「また来なさい」と言われながら、知崎邸を後にしようと静波に大きく手を振られながら車に戻り、目的地に向かって走り始めた。


 門扉が開き、車を発車しかけたその時、横から人影が出て来て、要とかばんに入れていた認識阻害の札を取ろうとしていた絵梨も驚いた。


 そこにいたのは3人の男性で、その内の1人は数日前に要マンションの駐車場で会った堂本という男性だった。

 要は3人を見て、軽く舌打ちした。


「知り合い?要くん」

「悪い、こいつら皆な大学の時の友人たちだ」


 では姉の婚約者の遊び相手を言われる女性を知っている人物がこの中にいるのか?

 3人を見回し、奴らが惚けているのを見てスン顔になった絵梨と、怒りを滲ませた要は窓を半分程下げた。


「お前ら何のつもりだ」

 地を這うような要の低い声に1番奥にいた男性は怯んだが、堂本ともう1人の男性は引かなかった。


「堂本から聞いて今日絶対マドンナの妹がここに来るって聞いて、俺らも挨拶がてら出迎えたんだよ」

 窓に手をかけて吠える親友①に、要はフロントガラスに顔を向けた状態で「頼んでない」と冷たく言った。


「だったら後日紹介してくれたのかよ!お前絶対隠すだろう!?」


 親友①の言葉に感化出来ずに要がそっちを向いて吠えた。

「今はまだその段階にないからだ。結婚式の前には紹介するつもりだった」


「なんで今じゃないんだよ!」

「昨年末の報道を見てそれを言うのか。彼女はあの報道のせいで外を歩くのも自由に出来なくなったんだぞ。どこから情報が漏れるかわからないのに、自慢げに婚約者ですって連れて回れない状況なんだよ」


 要の言い分に親友①が黙った。

 ようやく静かになった、と絵梨は要の親友達に再度目をやった。


「それより堂本、何で今日が顔合わせの日だと知っている?」

 要の言葉に、呆れ顔の堂本は言った。


「あれだけお前が浮かれて仕事してて気づかない方がおかしいだろう。挙げ句今日の予定をキャンセルして会長、社長までも自宅にいるとなると何かあると誰でも分かるわ」


 ・・・・・要だけでなく、もしかしたら芯之介と一心もここ1週間程ずっとそわそわしていたのかもしれないな。

 この一族は言葉では言わないが、行動に出やすい家系なのかもしれないなと絵梨は思った。


 堂本は運転席の窓側に近づき親友①を押し退けると絵梨に声をかけて来た。


「初めまして要の大学時代からの親友、堂本(たける)と申します。現在知崎製薬で秘書課に勤めており、要の行動からあなたのことは察しておりました。料理がお上手とのことでいつか、我々友人一同を招待して頂けると幸いです」


 実ははじめましてではないのだが、相手は知りようがないのでそこはスルーした。

 しかしビジネスか?と言いたくなるような自己紹介に、唖然として絵梨が「ああ、はい」と返答してしまったものだから他の2人も自己紹介をし始めてしまった。


 堂本の顔を押し退け自己紹介して来たのは先ほど要に食ってかかっていた親友①だ。


「あ!俺は清水です!清水大和!俺も大学から要とはマブダチです!いや〜マドンナの妹と聞いてどんな人かとワクワクしていたんですけど、これほどとは!マドンナよりお美しい!」


 マドンナ。

 さっきも言っていたな。


「マドンナ、とは姉のことですか?」


「そうです!ミス大学に一年生の頃から選ばれ続けた無敗の高嶺の花!仲み、ね〜!」

 姉の名前を話そうとした清水の体にタックルして妨害したのは堂本だ。


 その隙に1番後方にいた男性が弱り顔で窓際に寄って来た。

「悪い、要。配慮が足りなかったよ」


「構わないよ。どうせ堂本の話を聞いて清水が強引にお前をここまで連れて来たんだろうから、つみがあるとするなら言いふらした堂本と配慮のかけらもなくここまで来た清水だ」

 きっぱり言い張る要に堂本と清水が吠える。


「「何で俺たちだけなんだよ!!」」

 仲が良いな。と2人に視線を送った時、要が口を開いた。


「エリン、彼は大学時代1番仲の良かった親友、河野だ」

「河野茂春(しげはる)です。よろしく」


 1番まともな人だな。と河野と言う人には好感が持てたが、残りの2人は頂けないなと顔を固くした。

 こうも口が軽い者がいては秘密厳守も危うくなる。


 この時絵梨は祖母との会話を思い出していた。


『絵梨、人に暗示をかけることは多用してはならない』

『知ってるよ。混乱をもたらすからでしょう』


『それもあるが、同じ人間に多用すると精神を来す可能性があるからだ。それゆえに長い暗示は避け簡素に指示しなければならない』


 高校二年生の頃に進路をどうするかで話し合いをしている時に、祖母が言っていたことだ。

 今思えばこの頃には祖母は絵梨が姉の事件のことで動くことを知っていたのだろう。


『継がない私になんでレクチャーするかな』

『受け継がずとも両親や姉のことを知りたいと思えるようになるかもしれないだろう?』


『今でもそうしたいよ。でも祖母ちゃんが許してくれないんじゃん』


『今のお前では動かない方がいい。それに今から大学に行くために勉学を優先するのにそんな時間はないだろう』

 痛い所をつく、と絵梨がウッと口黙ったところで祖母は続けて言った。


『せめて成人するまでは動くな』

『時間が経てば経つほど情報が少なくなってくるのに?』


『白芭を継がないと言った以上お前は術が使えない。教えていないからな。だから絵梨に出来るのは暗示くらいだ。あれは〈鍵〉を受け取る前の術者でも使える程の初歩的なものだからな。そう言う意味で助言しているのだ』


『助言、ね・・・。で何に気をつけろって?』


『暗示を行う上で指示は簡素が基本だ。長い指示は、相手に浸透しない可能性があるし、相手の受け取りようによっては違う指示に変わる可能性があるからだ。だから暗示をかける時は簡素に命令形で指示しろ』


 自信はないが、やるだけやってみようと絵梨は口を開いた。


 《そこに3人、ならえ》

 怨霊などに効果のあった言語で言えば、彼らは素直に車の運転席横に整列した。


 要は驚き親友達から絵梨の方へ顔を向けたが絵梨は再度言葉を言い放った。

 《今日ここで見聞きしたことは忘れろ。私たちの乗っている車は見ていない。いいな》


 簡素な指示は思ったより難しいな。

 そんなことを思いながら3人を見れば、ぼーっとどこを見ているか分からないが、指示が通ったのか微かに皆が頷いた。


 《分かったなら、ここから立ち去れ》


 そう言うと、彼らは車の横に飛び出す前の位置に着き、敷地と敷地の間に身を隠すように入り込み、座ったり中腰になる者がいた。


 ずっとそこに居たんかい・・・。

 そう思ったのは絵梨だけでなく、要も嘆息すると車を走らせた。


「何やったの?」

「口が軽いから口止めの意味でね。今彼らは私たちが乗っている車を見ていないように暗示をかけたわ」


「なるほど。じゃああいつらは居もしない俺たちをずっとあそこで待機しながら待つってことか」

「気の毒ではあるけどね」


「いいや、勝手に断りもなく目の前に現れるあいつらが悪い。この寒空の下で凍えながら待つがいいさ」

「風邪引く前に帰ってくれればいいけどね」


「大の大人なんだ。体調をきたしてまでは無理はしないだろう」


 それならいいが、意地を張らなければいいなと思った絵梨だったが、彼らの意気込みは並大抵のものではなかったと知ったのは週明けのことだった。


 車を走らせ数十分後、絵梨のスマホが震えた。

 車内にラジオが流れる中、絵梨が鞄からスマホを取り出し画面を見れば宇崎真一からの電話だった。


「電話かい?」

「うん、真兄から。ちょっと出るね。多分白芭の遺言公開のことでなんらかの情報が入ったんだと思うから」


 そういえば今日がその公開日だってさっきも言ってたなと思った要はラジオの音量を下げながら「どうぞ」と絵梨を促した。

 絵梨は電話をスピーカーにして出た。


「はい、絵梨です」

 そう言えば真一の声がスマホ越しに聞こえて来た。


『真一です。今よろしいですか?』

「うん、大丈夫よ。それより白芭に何か動きがあったの?」


『遺言書公開は無事に終了致しました』

「向こうの様子はどうだったの?」


『和やかに進行され、全ての財産と権利が譲渡し終わったようです』

「それは、ご機嫌だったでしょうね」


『はい、特に白芭郁三氏は外に聞こえるほどの豪快な笑い声をあげてエリンのことを口にしたようです』

「なんて?」


『あの女の孫の割には身の程を知っていたようで安心した!』

 そう言って高らかに笑っていたと言う真一に、絵梨は郁三に向かって鼻で笑った。


「他人を誘拐してまで私を探そうとしたのに無駄足だったことに憤慨してるのかと思えば、祖母ちゃんは余程の財産を残してたのね」


『そのようです。だからこそあちら側は強行手段に出たとも言えますが、そう言う意味では今後はあーいったことは起きないと思います』


「そうね。2度と交わりたくはないから、私もそう願うわ」

 切実に思う。

 これ以上他人を巻き込んで騒動を起こされたくはないから・・・。


「じゃあ、なんの問題もなく譲渡は済んだのね」

『それが弁護士が帰った後に、ひと騒動はあったようです』


「騒動?」

『白芭なぎさと郁三氏の間で揉め事が起きていたと聞いています』


 遺産が郁三に全て入ったとして、後になぎさに譲渡されることが決まっているのに何を揉めたと言うのか?


『報告によれば、例の絵画ですが。郁三氏が人に譲ると言っていたそうです』


 は!?

 1番そこが肝だったはずなのに、白芭なぎさでなくても遺憾である!


「誰に譲ると?」

『それが、潜入してる者からの情報では、郁三氏の、愛人、だそうです』


 はあ!?

「郁三って80過ぎのお爺さんよね!?」

 なのに愛人って、嘘でしょう・・・・。


『30年以上の関係のようです。身内の妨害もあり内縁の妻に収まっているようですが、あの郁三氏が頭が上がらない人物のようです』


「・・・・当然、ただの絵画でないと知った上での譲渡なのよね?」


『・・・はい』

 絵梨は思わずチッと舌打ちをした。


「なぎさが憤慨ふんがいしたと言うなら、完全に持って行ったってことよね」

『絵画と、女帝が持っていたもう半分の権利書を揃えて、持って行ったそうです』


 ・・・・・・・・。

 女帝の予言もそこまでは見通せなかったと言うことなのか?


 郁三が生きている内にその土地に問題が起きれば、その後の処理に郁三が乗り出さざるを得ない。

 そうなれば目的は達成されるが、亡くなった後では今回2人が揉めた以上、土地で問題が起きてもなぎさは座視するだろう。


 座視:何もしないでただ見ていること(座して視る)


 そうなれば分家の範疇を越える話になり、一般人が被害に遭うことになる。


 これって・・・まずいのでは?

 絵梨は背中に冷たい汗を流した。


「真兄、その内縁の妻が何者か調べてくれる?どっかのタイミングであの絵画を回収しなきゃいけなくなるかもしれない」

『わかりました。引き続き潜入を続行させ身元を洗います』


「よろしく」

『それと瀧田さんのことで少しだけですが、分かったことがあります』


「分かった。それは週明け聞かせてもらうわ」

 これから絵梨がどこに向かうか知っている真一は了承した。


『はい。それより、知崎との顔合わせは終わられたのですか?』

「なんとか無事終わった。今は、移動中よ。姉さんの婚約者と遊んだと証言した女性に会いに行って来るわ」


『同じ文言を繰り返すアレの謎に迫るおつもりですね』


「今だからこそ分かることがあるかもしれないから行ってくるわ」


『そうですか。知崎も一緒なのでしょうからそこは心配しておりませんが、お気をつけて行って来て下さい』


「ありがとう。それより恭二家族は帰って来た?」


『まだです。少し前に遊園地からは出たようですが、今日は夕食を外で食べるそうで帰りが遅くなると連絡が入っています』


「そっか。じゃあわだかまりは無くなったと思っていいのかな?」

『そのようです。みそぎが効いたようです』


 ああ、あの禊ね。

 絵梨はお昼前に響子から送られてビデオ映像を思い出しニヤッと笑った。


「新兄も見たの?」

『ええ、父に映像が送られて来たので宇崎全員が目にしたと思います』


「さすが響子ね。そこで真兄に送ってない所が侮れないわ」

 族長に送った意図は、恭二の奇行に対し禊は済ませたので皆に対し水に流してくれと言っているのも動意だ。


『彼女は万能であると言われる所以でしょう』

 そりゃ、モテるわな・・・。


「何度考えても恭二にはもったいないわ」

『決めるのは本人である響子さんです。エリンが言えることではありませんよ』


「分かってるよ」

 それでも言わせてくれ!

 あんな良い子ならもっと思いやりがあって優しい良い男いただろう!!!(泣)


『それ以上は馬に蹴られるだけなので、自重して下さい』

「今回は引き下がるけど、もし同じようなことがあった時は容赦しないわよ」


『その場合は我らも同じ意見です』

 電話を切った絵梨は夕焼けを前にぎゅっとスマホを握った。


 仏の顔も3度までよ!覚えてなさい!恭二!!!!


 ちょうどその頃、恭二家族はファミレスに入っていた。

 注文したものを待っている間、恭二は身震いを覚え腕を交差させ摩った。


「どうしたのパパ?」

「いや、悪寒が・・・」


「だいじょうぶ?」

「大丈夫だよ。花凛は今日楽しかったか?」


「うん!いろんなところみてまわれて、たのしかったよ!パレードもみれてうれしかった!」

「また行こうな」

 幼子の頭に手を置いて言えば、満面の笑みが返って来た。


「ほんとう!じゃぁつぎは、えりちゃんもいっしょがいいな!」

 そう言われた恭二はグッとへの字口になって答えなかった。


 そのやり取りを見ていた響子が、ドリンクバーで飲み物を取りに行き戻って来たところだった。

 笑ってジュースの入ったコップを娘の前に置きながら「そうね」と応え2人の目の前の椅子に座った。


 恭二は目の前のビールに手を伸ばし、幼馴染を思い浮かべながら苦虫潰したような表情でがぶ飲みした。


 恭二家族が団欒していた頃、絵梨や宇崎の面々は響子から送られて来た映像を何度もリプレイしていた。


 ねずみーランドのスペースマウンテンに乗った恭二が情けない顔で大絶叫している映像はある意味、人に晒したくないもので、これ以上誰もこの件には触れないでおいてやろうと思えるには充分なものがあった。


 が、本人すればたまったものではなかったのであろう。

 園に入ってすぐに、禊のために乗ったため昼食は喉を通らず、さっきまでずっと生きた心地がせず顔色が悪かった。


 遊園地を出たあたりからようやく息を吹き返したところだった。


 それを理解している響子はお腹を空かせたであろう夫に暖かい言葉をかけ、久々親子で会話を弾ませた。





面白な、良かった、続きが気になる!と思われたらブックマーク登録、作品の「評価」⭐︎アイコンボタン押して頂けると励みになりますので、よろしくお願いします。


次回の投稿は週明け月曜日です。


よろしくお願いします。


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