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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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46、化かし合い


本日3話目UPです。


 とにかくこの人をまずはどうにかしなければと絵梨は要に声をかけた。


「普段しっかりしているなら、今もそうしてくれない。せっかくの顔合わせを台無しにしたくないわ」

 握られた手をそのままに苦言を言えば、急にハッとして要が絵梨の顔を見た。


 どこか心酔したような目つきだった要の表情が変わった。

「戻って来た?」


「ごめん、浮かれ過ぎてた」

 家族の声は耳に入らないのに絵梨の声は入るらしい。


「1人で浮かれるのは、放置と一緒だからね。せめて常識の範囲以内にしてほしいわ。でないと気持ちが追いつかないどころか引くから」


 弱り顔になった要に、大事なことなのでもう一度言っておく。

「引くから、思いっきり」

「どれくらい?」


「結婚辞めたくなるくらい」

 声を大にして言い終わるかどうかの時に要に「自重します」と食い気味に言われた。


 その返答に絵梨はにこやかに「よろしい」と言えば、そんな2人のやり取りを見た絢音が笑った。

「やっぱり、あなたはちゃんと要くんの綱は握ってるんですね」


 はい?どう言う意味だ?


「数日前だったかしら、また夕方退勤時間前に早退するって秘書と揉めてた要くんが一通のメールが届いてからは、以後一切わがままを言わずに仕事に邁進しているって報告が上がってるんです。あれ、絵梨さんが何かメールを送って何か言ったからじゃないですか?」


 あれか?[仕事に邁進せよ]と送った件か?

「言いましたね」


「暴走気味になる要くんを抑えられる人は今までいなかったけど、あなたはそう言う意味でもすごい人だわ」


 言い方を変えれば、自由自在に“要を動かせる者“という意味だ。


「不快に思われたということですか?」

「いいえ、むしろ彼を時期後継者として、その気にさせてほしいのです」


 言われた言葉に絵梨は顔を強張らせた。

「どういう意味です?」


「彼は知崎グループを一心さんの後を継ぐ身です。しかし彼自身にその気がないようで色良い返事がいまだに聞けていないんです」


 なんか面倒な話になって来たな。


「それに関しては、彼同様私も前向きに検討する気には慣れません」

「あらなぜ、知崎を思いのままにできるのよ」


「私にはそれ以上のものを手にする機会を得ながら、それらを手放す予定です。正直知崎は眼中にありません」


 それまで黙って聞いていた一心が口を開いた。

「手放す予定、というのはもしや昨年末に報道のあった遺産のことかい?」


「そうです。今まさにこの時間、彼らは女帝の遺言書を聞いてる時間でしょう。私は遺産、名誉、全てを放棄する旨を弁護士に伝えています」

「かなりのものだと聞いているが、本当にいいのかい?」


「私にとっては無意味なものです。私はお金よりも他に大事なものがあると思っているので、躊躇ためらいなく放棄しました。祖母の思い出とこの能力だけで充分です」


「あら、そういうところは要くんによく似ているのね」


「彼はどうか知りませんが、跡取りというのであれば静波さんがいるではないですか。彼女は大変優秀な学生と聞いています。彼女が後継者で充分ではありませんか?」


「静波は女の子よ」

「今どき男女で差別するのはナンセンスでは?」


 絢音と絵梨が笑顔で応酬していると、一心と要がオロオロとしていた。


 絵梨はこれ以上お家騒動に巻き込まれるのはNO!と、言い放った。

「ではこうしましょう。静波さんに相応しいお相手を私がお探しし知崎を今以上に発展させることをお約束します」


 絵梨の言葉に知崎の面々が驚き目を見開く中、絵梨はさらに言い募った。

「ですので、今後私たちには構わないで頂きたいのです」


「そ、れは、、、要くんも同じ考えなのかしら?」

 絢音の言葉に、要も何処どこかホッとしたような表情で、力強く頷いた。


「そう、双方が納得しているのなら、もう言わないわ」

 絢音は降参とばかりに肩を落とした。


「父さんも構いませんよね」

 要の言い分に芯之介も頷ずかざるを得なくなった。


「まぁ、静波に良いご縁を占ってくれるというのなら反対する理由はない」

 一心も口を閉ざしたことで同じ意見なのだろう。


 いや〜よかったよかった。

 危うく知崎を背負って立たなければいけなくなるところだったと絵梨は胸を撫で下ろした。


 と、いうかこの絢音という人、今私を試したな。

 じっと絢音を見つめれば、にっこり笑われた。


「ごめんなさいね。あなたの為人ひととなりが知りたくて」

「義姉さん、だから言ったじゃないですか。エリンはそんな人間じゃないって」


「ええ、でも人はお金を前にすると変わることがある。私の両親のように」

 その言い方からすると彼女の両親は大金を前にし、人が変わったということか。


 まぁ、言わんとするところは理解できる。


 金に汚い人間は一定数いる。

 目の前に膨大なお金がぶら下がった途端、本性が現れる者が・・・。


 白芭の分家がいい例だろう。


 有り余るお金を手にして有効に使えるならいいが、使い所使い道を見誤り人生を狂わせる者は意外と少なくない。


 それに・・・使い方を知らない者が手にした物が多ければ多いほど、甘い汁を吸おうと関係ない人間が群がって来る。


 権力やお金に寄って来る者の中に善意な者がどれだけいるのか。

 お金の切れ目が縁の切れ目と言われる所以ゆえんだ。


 お金は大事だ。だがその裁量が難しい。

 お金がなければ生活に困るが、あり過ぎても争いの元となる。


 だからこそ絵梨は、適度なお金があれば充分だと思っている。

 そういうお金は自分の手で足で健全に働き稼くことが賢い生き方だと思っている。


「嫌な思いをしたならごめんなさいね」

「いいえ、知崎ほどの名家なら致し方ないかと。ですが私には分不相応なので諦めて頂きたいです」


「あなたほど相応しい人もいないでしょうに」


「ご謙遜けんそんを」訳:そんなことはありません!

「私はあくまでここには田中絵梨として来ています」訳:仲嶺でも白芭としては来ていません。


「ですので、敬語は不要ですので普通にお話し下さい」


「では、どう呼べばいいかな?」

 芯之介の言葉に絵梨は本心から言った。


「私のことはエリンとお呼びください。親しい人にはそう呼ばれているので」

「わかったよ」


「それと弁護士や仲介人から話がいっていると思いますが、現在私は表立って動けない身です。完全に白芭と縁が切れるまでは私との婚約発表は待って頂きたいのです」


「聞いているよ。白芭の生き残りと知られない程度でならOKなんだよね」

「はい、それと結婚に関してはこちらの都合で申し訳ありません。今年いっぱいは難しいと思うので来年初旬で予定を組んで頂きたいです」


 要が「え!?」と騒いでいるが皆が無視して顔を突き合わせる。


 知崎としても次男の結婚式を蔑ろにするような真似はしたくなかったのか、充分な準備期間が欲しかったようで絵梨の案には大賛成だったようだ。


 前から要が今にでも結婚し入籍を!とここにいる面々には言っていたらしいが、却下だ。

 その辺は絵梨と知崎の親族の思惑が合致して双方がホッとした。


 1人を除いて・・・・。


 めちゃくちゃ機嫌が悪くなった要に絵梨は困惑した。

 知崎一家はまた始まったとばかりに、明後日の方向を向いている。


 ここは私が宥めるしかないのか・・・。

「要くん」


「エリンはひどい。父さんたちと変わらないよ。猫を取り上げられた時の感情を再度味わっている気分だ」

「私はどこにも行かないし要くんの側にいるのに、同じなわけないじゃない」


「すごく楽しみにしていたんだ。なのに」

「私も腹をくくった以上、同じ気持ちよ」


「だったら!」

「でもまだいろんな意味で片がついてない。入籍だけでも先に済まそうとは思うけど、これが1番厄介なのよ。知崎要の配偶者欄に私の名前が記載され、そこに戸籍謄本までぶら下がったら、私の素性が丸見えになる。今はまだ時期尚早じきしょうそうなのよ」


「エリン」

「うん」


「エリン」

 何かと葛藤しているのかグッと拳を握りしめる要に、絵梨は初めて自分から要のその拳に手を置いた。


「ごめんね。できるだけ早く決着つけるから」

 誤魔化す気はない。

 真剣な表情の絵梨に、要は眉を下げるしかなかった。


「エリン、それじゃこれだけは身につけてくれないか」


 そう言って懐から指輪ケースを取り出し、定番のパカッと開ける仕草をした。

 中にはどこかで見たエンゲージリングが収まっている。


 これは、あれか。

 知崎の元執事の中華料理屋で見た知崎会長夫人が残した指輪か?


 そう思った絵梨同様、その指輪を見て芯之介と一心が立ち上がり声を荒げた。


「お前!それ母さんの指輪だろう!」

「やっぱりお前が持ってたのか!前に持ってるなら出せと散々言ったのに隠し持ってたな!」


 どういう状況?

 知崎の男性陣がテーブル挟んで指輪のことで揉め始めた。


 そのやり取りに当の本人である要は、しれっとした表情で2人を見ておりりてなさそうだ。

 呆然とそのやり取りを見ていると向かいに座る絢音と静波が立ち上がり、絵梨に手招きして来た。


 状況についていけずに、その2人に着いて行き、リビングソファに座る2人の目の前に絵梨も座った。

 今も喧々囂々(けんけんごうごう)の知崎の会長と社長に止めなくていいのか?と絢音を見るがフフフと笑われた。


 止める気はないと言うことか・・・・。


「おじさん、変なこだわり持つといつも、あーなんです」

 静波の言葉に絵梨はえ?と首を傾げた。


「大したことない事ですけど、食事がいい例ですかね。好きなものはとことん好きで好んでそればっかり食べるんです」

「偏食家ってこと?」


「少し違うかしら。出されたものは全てに手をつける常識は持ってはいるのよね〜」

 そう言ったのは絢音だ。


 彼女は顔を横に向け、ダイニングで一方的まだ言っている2人と耳に指を突っ込んで無視を決め込む要をチラリと見合った。


「他社との付き合いで会食に出ても好き嫌いなく出されて来る料理はきちんと食べるんです。ここでの食事に参加する際も家政婦さんが作る料理も食べる。でも社外や食堂で食事する場合。自分で注文する場合は決まったものしか食さない」


「立食パーティーなんかは自分で食事を取って食べるじゃないですか。その時なんか顕著けんちょに現れるんです」


 その言葉に絵梨は、そう言えば・・・と、視線を要に向けた。

 要の家で過ごす間、デリバリーなどを利用して来たがほとんど同じメニューだった。


 ジャンキーなものを好む傾向にあるのか、唐揚げ筆頭にラーメン、餃子、チャーハン、ハンバーガーに丼物、挙句にはスナック菓子に菓子パン、カップラーメンなどを自宅に常備していた。


 低賃金の人なら金銭的に食事にお金がかけられずに低価格、高カロリーを重視するならいいが、要ほどの知名度のある会社と地位ならそれには当てはまらないのに、あえて取っている食事の中心がそれではどう考えても体に悪い。


 流石にそういった食事ばかりではビタミン、ミネラルなどの栄養価が低すぎて、この間とうとう絵梨の方が根を上げて、いい加減野菜が食べたいと苦情を言ってデリバリーされたものが、ビビンバだった。


 このままでは仕事に異常をきたす!と、元々自炊していたこともあり自分で作ることにしたが・・・。


 要のあの万年な行動は、いただけないな。

 静波は大したことないという発言は、他人に迷惑をかけないと言う意味なのだろうが、将来的に見ても本人にはいい傾向とは言えないな。


 そんなことを思っている絵梨をよそに、ダイニングテーブルではさらにヒートアップする会長と社長にあそこだけカオス状態だ。


 絵梨はため息を吐き、で、あれは?と指を刺せば、絢音が笑った。


「亡くなったお義母さんの指輪は本来なら大事に仏壇の中に収められて、この家を継ぐ者、つまり[一心さんに嫁いでくる嫁に渡すこと]と会長のお父様がそうお決めになったそうなのですが、いざ私たちの結婚が決まった時にその場所に指輪は無くなっていた」


 つまり、要が誰にも言わずに所持していたってこと!?


 ん?でもあの時要は小さい頃から持ち歩いているって言ってなかったか?


「何でも前にも無くなったことがあってその時、要くんが持っていたことがあったとかで3人が問いつめたらしいんだけど、知らないと言い張るし、部屋を大々的に捜索しても出てこなかったので、結局新しく作ってもらったんです」


 そう言って掲げた左手の薬指には、要が持っているものよりも一粒一粒が一回り大きなダイヤが全周についている豪華な指輪が輝いていた。


「それはご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 本来は要が謝罪すべきことなのに、本当に困った人だ。


「いえいえ。寧ろ私は義母のものより良いものを頂くことになりましたから遺恨はないんです。ただあの2人は違ったのでしょうね」


 思い入れのあるものだからこその反応なんだろうが、要は要で幼い頃に亡くなった母親の遺品を寂しさを紛らわすために身につけておきたかったのだろう。

 複数あれば問題なかっただろうが、結婚指輪は一つしかないのだ。


 この家も発展していった家柄なだけに個々同士の意思の疎通、会話が圧倒的に少ないのだろうな。

 事業のことなどは不可もなくやり取りはできるのに、いざ家族となると会話が激減する家族は多いのは否めない。


 ただこの場合、お二人が溜飲が下げられないのは要のあの態度が原因だろう。

 すでに絢音の指に新しい指輪がある以上、あの指輪に拘る理由はないのだから。


 やれやれと立ち上がり要の横に立った絵梨はジュエリーケースの中にある指輪を持ち上げた。

 その行動で芯之介と一心の声を閉ざし絵梨を見合った。


「要くんこの指輪を嵌めるに当たって一つ条件があるわ」

「何だい」


「黙ってこの指輪を持ち出したなら、今更でしょうけど家族に謝って」

 皆が目を見張る中、絵梨はもう一度言った。


「お祖父様の言いつけを無視し、家族に迷惑をかけたんだから、今この指輪はケチがついた状態なの。そんなものを私着けたくないわ」

 そこまで言えば要は、立ち上がり素直に頭を下げた。


「母さんの指輪を持ち出して申し訳ありません」

 綺麗なお辞儀に芯之介と一心は毒気が抜けて、さっきまでの勢いがなくなりポカンとなった。


「幼い頃に亡くなった母さんが恋しくて、常に持ち歩く真似をして申し訳ありません」

 そこまで言われたら2人は眉を下げざるを得なかった。


「確かにまだ5歳だったお前には母親は恋しかっただろう」

「そうだったなら、一度お前から取り上げた時にそういえばよかっただろう。そうしたら祖父じい様もあんなに怒らなかっただろう」


 その言い分に要はもう一度眉を下げて「すみません」と謝った。


 やれやれ、これで男性陣の遺恨も無くなったかと肩を撫で下ろした絵梨は次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

 気がついた時には、真っ暗な空間に取り残されたように、1人立ち尽くしていた。




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明日1話UP予定です。



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