44、各々の善意に翻弄される
長らくお待たせ致しました。
本日3話UP予定です。
この時間2話投稿、もう1話は正午にUP予定です。
よろしくお願いします。
また作品の設定上、季節は1月下旬頃です。
現在夏真っ盛りですが、作中の行事イベントにお付き合い下さい。
午後の始業前には保健室に戻れた絵梨は、戸を開けて驚いた。
食後すぐに戻るように言った2人がまだ保健室にいたからだ。
なぜいる?と項垂れていると、葉山はそんな絵梨に気にする素振りもなく保健師に近づくと話しかけて来た。
「先生、今週末は予定があるみたいだけど、来週末は空いてる?」
質問の意図はわからんが一応返答する。
「まぁ、今のところは」
「じゃあ、一緒に試作品作らない?」
全く話が見えない。
「何の?」
「もちろん、バレンタインのチョコのよ」
はい?!
驚く絵梨に静波も2人に近づくと口を開いた。
「来月になったら叔父さんソワソワし始めると思うんです。なので早めに作っておくことをお勧めします」
力説する静波に絵梨は弱り顔になる。
「買ったものを渡すじゃダメなの?」
「喜ぶのは手作りだと思います。それに毎年ウチでは手作りのものを渡してるので、既製品はガッカリすると思います」
宇崎も響子中心に毎年大量のチョコを作っているが、裏にある児童養護施設の子どもたちに配るためだ。
絵梨も毎年、その行事には手伝っていたのだが、今年は別で動く必要がありそうだ。
まさか自分が私事でそこを抜けるとは思っても見なかったと嘆息した。
「来週?」
「はい!私の家でする予定なので2週連続にはなりますが、家にお越しください!」
行くのはいいが・・・。
「(要が)一緒に行くって言いそうだな」
懸念事を呟けば、静波から意外なことを言われた。
「その辺は大丈夫です。今回は母が中心になって執り行うので、そっち経由で叔父さんには話してもらうので、付いて来ることは絶対ないです」
それは・・・・・なんか良いこと聞いた。
あの要でも義理の姉には頭が上がらないと言うことだろう?
内心ニヤリとした絵梨だった。
「ところで2人は随分仲良くになったのね。一緒にバレンタインチョコの試作品を作るなんて」
絵梨の言葉に静波は笑顔で葉山を見た。
「はい、葉山先輩が例のストーカー先生のことで目撃情報の提供者と聞いてお礼を言いに行ったら、意気投合しまして」
美少女がはにかんで言えば、葉山もニッカリ笑った。
「学年違うけど、私も静波ちゃんも1人っ子で兄弟いないから、1人っ子あるあるで盛り上がっちゃって。後、趣味も人の好みも似てるから色々相談してたらアドバイスくれたの」
「アドバイスってバレンタインのチョコのこと?」
「そう!今年は私も彼氏に渡したくて。でもお菓子作り得意じゃないから話のついでに相談したら、来週試作品作るから一緒にどうかって誘ってもらったんです!」
「そっか、(彼氏と)うまく行ってるのね」
「お陰さまで!」
私は何もしていないけど?
「去年先生がやらずに後悔するよりやって後悔の方が気持ち的にも楽だって言ってくれたから、ダメ元で告白して交際に発展出来たんだもん。まじでありがとう」
「あれって恋愛の話だったの?」
え?と戸惑い顔を向ける絵梨に、葉山も困惑顔だ。
「逆に何だと思ったの?」
「3年生の話の途中で出た話題だったからてっきり進路のことかと思ってたわ」
「嘘でしょう!?」
だからこの子、彼氏のことを頻繁に報告して来ていたのか・・・・・。
「まぁいいや。結果オーライなんだし、先生が恩人なことには変わりないもの!」
「そこはノーカンでしょう。それより予備礼が鳴るわよ。教室に戻りなさい」
2人は時間を確認して慌てて保健室を後にしたが、絵梨は葉山の後ろ姿を見て、このまま何事もなければいいなと思った。
先ほど瀧田の情報収集とともに、宇崎には葉山の実家の情報も入手するように頼んだ。
特に祖母が訪問した6年前を中心に捜査してもらうように指示した。
不穏分子は出来るだけ暴いておく方がいい。
そう思っていたら2日後、葉山家の事で思わぬ情報がもたらされた。
メールで送られて来たその内容に言い知れぬ不安が込み上げて来た。
昼休憩に教職員室の奥にある会議室で、恭二夫婦と一緒にお弁当を食べている時に理事長の真一からスマホに送られて来た資料に、絵梨と響子は目を通す。
捜査の中心人物である恭二は知っている内容なのか涼しい表情をしていたが、絵梨と響子は顔を強張らせた。
「え、6年前の大口案件の話を持って来た企業って、葉山さんの彼氏の家なの?」
「そのようだ」
恭二夫婦の言葉を聞きながら、絵梨はメールをどんどんと下へとスクロールする。
葉山製作所は地元密着型の小さな町工場だが、その当時2つの事業提案がなされていたようだ。
大口案件の方は設備投資の話もあり、すぐにでも取り掛かれる案件ゆえに葉山の両親は1にも2にも飛び付こうとしていた。
それほど当時はコロナの影響で仕事がなくなり金銭面で切羽詰まっていたと収支報告書が添付されていた。
ところがそこに女帝が現れてその大口案件ではなく、もう1つの案件の方に注視した方がいいと助言された。
葉山家は半世紀前に会社の危機を防いでくれた白芭が言うならと、即座に大口案件を断ったらしい。
初期投資にお金はかかるが、継続して行うなら後者だとアドバイスを受け実行したところ、コロナ禍でありながらすぐに借金返済の目処がたち、翌年には利益が出たと葉山家は倒産を免れたようだ。
大口案件であった方の仕事に関しては、他の企業が飛びつき事業展開したようだが、現在も思うように業績が伸びていないらしい。
それどころか見込みが甘かったのか、その案件を持って来た企業はここ数年赤字続きのようで株価も暴落していると記載されていた。
その今にも倒れそうな企業の息子が、現在彼女が付き合っている男だと言う。
「偶然?」
響子の言葉に、恭二もそこは分からないらしく無言だ。
株式会社TABE
この一帯を牛耳る大物一族だが、戦後その力は衰退。
田部一族は小物部品を受注しては子会社に生産依頼する所謂元請け業者だ。
精密な生産技術を持っていない田部は、それを町工場の職人に任せっ切りのお殿様事業を展開し、品質管理を怠った納品を繰り返した事で、段々とその信頼を失っているようだ。
そんな田部一族を束ねる会長の1人孫が、葉山の彼。
田部海斗、か。
「この男の子って学年は葉山さんの一学年上ってことは、来月卒業よね。大学は決まってるの?」
「情報としては本命は他県の国立大学。滑り止めに県内の私立を併願で申請。11月に出願・試験してそっちはすでに合格していると聞いてる」
今週末が共通テストだ。
国立受験ならその後実施で、早ければ合格発表は3月上旬だ。
何となくだが、その頃に嫌な予感がする。
いや違うな・・・。
「問題が起きるとしたら、卒業式前後か」
「感か?」
「うん」
会議室壁にかけられた12ヶ月が表示されたカレンダーを見て絵梨は呟いた。
「1月は何もない。でも2月、、、うん、下旬に何か起きそうね」
「鈍チンのお前が言うことにどれだけ信憑生があるのか肌肌疑問だが、白芭の能力開花の後では無視も出来ないからな」
「あんた一言余計なのよ」
「事実だろうが!」
ああ!?と睨めっこする2人に「相変わらず仲良しさんねぇ」と呑気に言う響子に「「仲良し違うわ!」」とハモれば響子は笑った。
あの日以来夫婦もそうだが、恭二と花凛の間に微妙な空気が流れ、他者を交えなければ会話もままならない状態に陥っていた。
今日も絵梨の提案で夫婦揃って昼食することにしたが、ぎこちないやり取りに、白芭が関係しているだけにこっちが気にすると、手を差し伸べてしまった。
聞けばまだ夫婦は大人だから周りに対して取り繕うことも出来るが、親子はそうはいかないでいるらしい。
花凛が必要以上に恭二に怯え、手がつけられないと親の方が滅入っていると響子から相談を受けていた。
夫婦間だけでも元に戻さなければ、と普通に接していればようやく響子の顔に取り繕ったような笑みは消えていた。
絵梨はスマホを白衣のポケットに入れながら口を開いた。
「この件はまだ先のようだがら、注視はするけど今はそこまで気にしなくていいわ。それより花凛ちゃんの方が問題よ」
絵梨がそういえば、2人は黙ってしまった。
「今週末、親子でテーマパークにでも行って来たら?」
持っていた鞄から3枚のチケットを取り出しテーブル上に置いた。
「ねずみーランドの入場券?」
チケットを見て響子は目をキラキラさせたが、恭二はその日付を確認して眉を顰めた。
「お前何勝手にこんなもの用意してんだよ。今週は共通テストで俺も響子も生徒のサポートで仕事だぞ」
「心配しなくてもこのチケットを取って来てくれたのは真兄よ。族長の指示でね」
絵梨はその上で、恭二に視線を向けた。
「この意味わかるよね。宇崎もこの事を重く受け止めてるってことよ」
休みやるから娘の機嫌取って来い。それがわかった恭二は少し目を赤くした。
「真兄から伝言よ」
『礼はいらん。親子水入らずでのお出かけも何げに今回初めてなのもどうかと思って謝罪の意味も込めて送った。花凛と、ちゃんと仲直りしてくれたらそれでいい』
「だってさ」
「愛されてるわよね」
そうね。
「「花凛、(ちゃん)がね」」
絵梨、響子揃って言えば、恭二は苦虫潰したような表情になったが、どうせ俺は、、、と拗ねてしまった。
それを見た響子がまた笑っているのを見ると、蟠りが解消されるのもそう遠くないと思う絵梨だった。
平日は難なく時間が過ぎ、週末になった。
知崎本家に挨拶に行く予定もあり、いつもより少し遅い時間ではあったがゆっくりと朝食を要と2人で取っていると、ゲリラの如く恭二家族が要マンションに押し掛けて来た。
響子の必死の形相に、言われるがままオートロック解除後部屋に通したが、どう言うわけか大きな衣装ケースといつもの化粧道具一式を持って登場した響子の横にはおめかしした花凛と、その後ろに真っ青になっている恭二がいた。
「何事!?テーマパークはどうしたの!?」
「後で行くわよ」
「早く行かんと乗り物制限あるでしょうが!」
泊まりじゃないんだぞ!と言えば、恭二に手で制しされた。
「俺も散々言ったが一切引かなかったんだよ」
真っ青な顔の理由はそれか。
「響子」
「分かってる。でも今日は絵梨ちゃん、要さんの家族と顔合わせで大事な日じゃない。準備くらい手伝わせてよ」
「いいや、昨日のうちに衣装預けてくれたら自分で着たよ」
「メイクの話をしてるのよ。衣装はそのついでよ!でないと絵梨ちゃん適当なお化粧して行くでしょう!第一印象はめちゃくちゃ大事なんだからね!」
なんで私以上に気負ってんだよ。
「衣装は族長からね!宇崎の好意は受け取ってちょうだい。本当なら両親が手伝ってくれるもんなんだろうけど、、、、」
それ以上続かなくなった響子の言葉に微妙な空気が流れるの中、均衡を破ったのは要だった。
「ここで押し問答するだけ時間が一瞬で過ぎちゃうよ。そうしたらテーマパークで過ごす時間減っちゃうから、ここは好意を受け取ったらどうだい。エリン」
実は嬉し過ぎてどうしていいか分からず恥ずかしいんでしょう。と耳元で言う要にジロリと睨めば、にっこり笑顔を向けられた。
その後要は、響子の足元にいる花凛に跪き、挨拶した後彼女の手を取って部屋を退出して行ったため、慌てて恭二が追いかけて行った。
要には、恭二のことである程度事情を説明しておいた絵梨は、あれでも気を利かせてくれたらしい、と婚約者に眉を下げた。
その後すぐに自分では絶対チョイスしない可愛らしい厚手のツーピースのワンピースに袖を通し、ヘアメイクを施してもらっている間、親友に質問した。
「行きたくなかったの?」
「違うよ。花凛も喜んでたから」
「じゃあなんで?」
「私たちのことに真摯に向き合ってくれてる絵梨ちゃんの晴れ舞台を前に無碍には出来なかったの」
「タイミングが悪かったってこと?」
「そうでもないよ。本来なら私も恭二くんも共通テストの関係で土曜出勤の予定だったから、休みになったことは良かったのよ」
そのおかげでここに来れたし、と言葉を付け足された。
「私、子供じゃないのよ」
「同い年なんだから知ってるわよ。でも門出でしょう。一緒に準備したかったの」
「早い早い。門出って言うなら結婚式とかでしょう。顔合わせは門出とは言わないわよ」
「私や恭二くんにはなかったことだから」
あの当時は恭二も天涯孤独の身だっただけに、両家の顔合わせなんてなかったことを知っている絵梨は黙った。
「それに結婚式となったら知崎家が出て来るだろうから私の出番はなくなるわ」
・・・・確かに。
要とか要とか要とか、、、、後少し静波か?
「白芭や仲嶺のご家族がいれば良かったけど、今はいないから普段お世話になってる絵梨ちゃんに感謝の気持ちも込めて今日ここに来たの」
「気持ちは嬉しかったよ。でもお世話はお互い様でしょう。それに折角の親子でのお出かけに、私のことで水を刺したんじゃないかと焦ったのよ」
「大丈夫!ここ出たら速攻で行くから」
心からそう言っている彼女のオーラはこれまで以上に黄金に輝いていて後光が射す勢いだった。
「そっか。ありがとね響子」
「こちらこそ、いつもありがとう。これからもよろしくね」
「うん。こちらこそ、よろしく」
そこから速攻でヘアメイクを施してもらい、ちょうど終わった頃に要と恭二と花凛は帰って来た。
寒いのに冬空の下でマンション近くの公園で遊んで来たらしい。
3人は耳や鼻を真っ赤にして入室して来たが、要が緩衝材になったのか恭二も花凛といくらか一緒に遊べたようだ。
花凛の表情が少し表情は和らいだようだが、まだ完全には戻っていない。
後一押ししとくか。
「恭二」
「なんだよ」
「あっち行ったら贖罪も兼ねてジェットコースターに乗って来なさい」
はあ!?と驚く恭二に「それをあんたの禊とするわ。1回でいいから花凛ちゃんのために乗って来なさい」と言うと、言われた本人は足元の愛娘を見た。
「あんたがその類いが苦手なの知ってて言ってるわ。もし乗って来たなら私も響子もあんたを許す」
あんな形して絶叫系は全く無理な恭二なのだ。
だが往生際の悪い恭二は、言い訳を口にしようとした。
「花凛は・・・」
「そこも大丈夫」
絵梨は膝を付いて花凛を呼べば喜んで抱きついて来た。
「えりちゃん、きれい!」
「本当、ありがとう」
「きょうは、いっしょにいけないの?」
「うん、この後あのお兄さんと予定があるから行けないの。でも花凛ちゃんが今日どれだけ楽しかったか、また私に聞かせてくれる?」
「うん!いいよ!」
「後ね、花凛ちゃんのお父さん。この間読んで上げた絵本の悪魔が取り憑いてるみたいなの」
仕込みは完璧である。
この間花凛に読んであげた童話は『ビビリな悪魔』と言うタイトルの絵本だったのだが、その悪魔は取り憑いた相手が大声を出すと驚いて逃げ出すと言う内容のものだった。
読み聞かせて帰宅した関係で帰りが遅くなった理由を要に問い詰、聞かれ、やむなく恭二のやらかしを話す羽目になったのは一昨日のことだ。
「え!?だからパパあんなにこわいかおして、どなったの!」
「そうなの。だから遊びに行った先に大声が出せるところがあるから、そこでお父さんを正気に戻してあげてくれる?」
「そしたらアクマどこかにいく?」
「うん、絶対いなくなる」
「わかった!かりんパパといっしょにいってくる!」
乗り物には身長制限があるから花凛では一緒には乗れないだろうが、と響子を見れば分かってくれたのか頷いてくれた。
「ってことだから、禊して来なさい」
絵梨が逃げ道を塞ぐと、への字口の恭二に花凛は久々父親に自分から近より「パパがんばろうね!」と言われては拒否出来まい。
「分、かった」
よし!意趣返しは出来たと絵梨はニコニコだった。
その後すぐに追い出すように恭二家族を見送ると、要に後ろから抱きつかれた。
「エリン今日は一段と綺麗だ」
「響子の力作だからね」
「ありがたいね」
そう言って近づいてくる要の顔に手を置いた。
「うん、だから今日はキスは無しよ」
化粧が崩れては本末転倒だ。
「帰ったらいっぱいして良いってことだね」
今日はって言ってんじゃん!聞いてくれよ!
これまでの傾向上、それも無理なんだろうなと諦めの境地で絵梨は、瀧田からもらった認識阻害の札を持って知崎の本邸へと車で向かった。
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もう1話UPしています。




