42、策動
加筆修正しました。
「スペア?」
「候補として登っている可能性を示唆しただけで、本題はそこじゃない。でも瀧田さんにしたら興味惹かれる話だろうから食いついてくる可能性にかけてあえてそう言っただけよ」
「スペアって使えるの?」
「使う気はないわよ。仮説が正しいならその〈鍵〉と私は、水と油っていうより火と油だから」
「それって相性がいいってことじゃないの?」
「・・・勢いが良すぎても相性は最悪なのよ」
火元を自由自在に扱えられるなら兎も角、勢い良すぎて火事になったら周りに迷惑でしょうが。と例えて言えば響子も納得してくれた。
その後スーパーに寄って、車での買い出しに欲を出して数日分の買い出しを行った。
自宅のアパートに向かう際に、要に[仕事に邁進せよ]とメールしておいた。
先週も静波や絵梨の送迎で仕事を切り上げ、会社に迷惑をかけたのは一目瞭然だった。
本日は響子に送ってもらう旨と、スーパーに寄って帰ることを伝えれば、相当嬉しかったのか速攻で返信が来た。
自宅に戻り冷蔵庫の処理を行い、私物もいくつか持って車に戻った際に、アパートの鍵を響子に預けた。
「当分はあのアパートの契約は解約しないでおくから。もし息が詰まる事が起きた時は避難場所に使いなさい」
「絵梨ちゃん・・・」
「この先、無いことに越したことはないけど、大喧嘩することもあるでしょう。でも宇崎の中じゃ気が休まらないだろうし1人になりたい時は出て来るだろうから、自由に使って」
「・・・うん、ありがとう」
響子も本心では不安が拭えないのか、泣き顔に近い笑みを浮かべて鍵を握りしめていた。
「そん時はちゃんと報告しなさいよね。今度は絶対〆てやるから」
そう言えば、響子はようやく「もう、絵梨ちゃんったら」と笑ってくれた。
その日の夜、要が速攻で仕事を終わらせて帰って来て、2人で夕食に舌鼓を打っている時に響子から連絡が入った。
[瀧田さんに連絡したよ]
[明日の正午でよければ伺いますって返信が来ました]
とメールが入ったので、学校近くの喫茶店で待ち合わせするように地図を配布してもらうように頼んだ。
翌日、正午に指定した場所に行けば道路に面したガラス張り窓際の一番奥の席に、瀧田は背中を向けて座っていた。
顔馴染みの喫茶店のマスターに、ここに来るといつも注文していた昼食をオーダーして瀧田の方へ足を向けた。
瀧田の背中側にはプランターラックが間切りであり、その上に観葉植物がいくつか置かれており店内の雰囲気を上品に演出をしていた。
絵梨はそのプランターラックの手前側の席に瀧田と背中合わせになるように席に着いた。
「忙しいのにすぐに対応しいてもらって助かったわ」
「こちらも大変興味深い話が聞けると聞き、居ても立ってもいられなくなりまして」
少しイラついた声にも聞こえた絵梨は笑ってしまった。
「真梨様の3本目の〈鍵〉をどこで聞かれたのです?」
真梨本人から聞いたのかと言われ、そんなわけないだろうと否定した。
一昨日、滝田が3本のうちの2本には言及したがもう1本存在することは話の流れで初めて知ったと言えば再度瀧田は閉口していた。
お水とおしぼりを運んで来たマスターの奥さんに二、三話しをして彼女が席を外してから瀧田と会話を再開させた。
「〈鍵〉が宿縁の相手と聞いてまさかと思ったのよ。おそらくランクは最低ランクだろうけど、実在しているだろうと」
瀧田の無言が肯定を物語っており、絵梨は顔を強張らせた。
「昨日おかしな現象を目撃した。棘の蔓のような見た目でありながら硬質な鎖に繋がれた者を。仲嶺に最も近く私や姉さんの身近にいた人物よ」
瀧田の手元にはコーヒーが置かれていたが、口をつける余裕もなさそうだった。
水を飲んで喉を潤すと絵梨はさらに声を発した。
「宇崎恭二は、姉さんの3本目の〈鍵〉で間違いないのね」
「・・・はい、なぜそう思われたのです?」
「あいつは、、、昔から姉さんしか見えていなかった。それこそ要くんが妄信的に私を見て来る姿勢に似ていて既視感が湧いた。ただ、姉さんは昔からあいつを忌避していた」
「忌避、ですか?」
「そう、異常なほどに避けていた。嫌うにしては接点がほとんどないほどに避けていたのに、なぜ姉さんはあいつを徹底して忌避していたのか。逆もまた然りで恭二もなぜ物心つく前から姉を追いかけていたのか。そこに宿縁が絡んでいたなら分からんでも無いと感じたのよ」
「真梨様の3本目の〈鍵〉は、〈鍵〉にあらずと当主様はおっしゃっておりました」
「つまり良いご縁ではないということよね。真っ当な縁ではあり得ないとお祖母ちゃんの占いでも出たなら、あいつの現状にもある程度の仮説が立つ」
ここでマスターの奥さんが絵梨の注文したサンドイッチとコーヒーを運ばれて来たために話を中断した。
コーヒーを一服し、ほっと一息吐くとサンドイッチを手に話をした。
「あいつの体に巻き付いた鎖は歪にそして執拗に全身と心臓に何重にも巻き付いていた」
「《呪縛》、ですか」
「おそらく。そしてそれを施した人物は、幼い少女だった」
「分かった、のですか?」
「鎖に触れた時に思念が残っていたのかそう感じたわ。それだけでなくその鎖が放たれた黒い空間から放たれた気が、、、一昨日見た姉さんらしき者の気と似ていた」
「それはおかしいです。真梨様は第一の儀式を受けた幼い頃には呪術はまだ使えなかったはずです」
「そう、だからあの呪縛は前世に行われた成れの果て。生まれ変わってまでも縛られる強固な呪縛を施された痕跡」
「つまり・・・」
「姉さんが白芭琴子の生まれ変わりなら、琴子が呪縛を執拗なまでに行った弊害が現世で良い意味合いではない宿縁として存在してしまい、〈鍵〉に選ばれたと考えるなら辻褄は合う」
「その上でなぜご自分のスペアと思われたのです」
「まず前世の恭二は、今世と同じく私たちと親しい間柄だったと考察した。出なければ《呪縛》で縛らず《呪詛》で消せば楽だったはずだもの。そうであるなら前世の私とも関わり合いがあると思ったのよ。宿縁を〈鍵〉と呼ぶなら私の占いにも引っかかっていると考えた」
「確かに」
「その上で、今世にまで残る《呪縛》は解除できるのだろうか?」
「本題はそこですか?」
「ええ、今あいつは響子と結婚して子供もいるのよ。あの《呪縛》のせいで姉さんにいまだに縛られたままで、ついこの間子供に冷たく当たってしまった。このままではあの家族は破綻を迎えるようになる」
「!響子さんの!?」
恭二のへ現状を聞き驚いた瀧田に、絵梨はお願いをしてみた。
「解除をお願い出来ない?」
瀧田は気持ちを落ち着かせるようにコーヒーをなん度も口に含み、ようやく口を開いたが良い返事ではなかった。
「残念ですが、私には難しいかと」
「根拠は?」
「白芭琴子は呪術師だったと言われています。隠専用の術者のポテンシャルは普通の術者では突破出来ません。おそらく白芭の女帝でも解除は難しかったと思います」
「全盛期でも?」
「はい」
それは、、、、私でも無理だと言っているようなものだろう。
ではあいつはあのままなのか・・・・・。
「ただし、あなたであるならそれも可能かもしれません」
「〈鍵〉が強固だから?」
「それもありますが、初代様の依代であるなら普通ではあり得ない突破口が見つかる可能性はゼロでは無いかと、、、」
曖昧な言い方だな。
まあ瀧田にも答えを持ち合わせていない以上、仕方ない話か。と嘆息した。
むしゃくしゃしてサンドイッチを口に含んでいると瀧田が、他に聞きたいことは?と先を促してきた。
「俊明お祖父ちゃんの死について調べたい。被疑者の同僚という人物に会って話がしたいんだけど、今現在どこにいるか調べて欲しいの。約30年前にその人物の情報は受け取ってるはずよね」
「相手が今現在もどこにいるかは把握しています。ですが彼は頑なに会うことを拒否されております。これはやましい事があるというより、性格的なものかと」
「どゆこと?」
「偏屈ジジイというのがあの人の周りの評価でして」
偏屈ジジイだと!?また面倒な・・・。
「まぁいいや。白芭の祖父の名前出してダメなら、今の私の名前を出して接触してみてくれない。それでも拒否されたら別の方法を見つけるわ」
「承知しました。それ以外にはもう用事はございませんか?」
「週末までで良いから、白芭のお墓の場所教えてよ。昨日要くんと話してて彼がお祖母ちゃんに挨拶したいっていうからさ」
「なるほど。確かに〈鍵〉を受け取った絵梨様と要様ならあそこに入る資格がありますから、地図を送っておきましょう」
そう言って立ち上がった瀧田は、自分の伝票を持って移動し絵梨の席の上に1枚の名刺を置いて行った。
店の入り口で会計をしている瀧田を見ながら名刺をひっくり返すと瀧田の連絡先が書かれていた。
[人を介して連絡の取り合いは合理的とは言えないので直接連絡し合いましょう]
どこか捻くれた文面に片目を眇めながら、店を後にする瀧田を無意識に追えば、目の前の信号を渡り向かい側の歩道を歩く瀧田から視線を外そうとして、動きを止めた。
こんなところに知り合いでもいたのか。
にこやかに近づき話しかけるのは、瀧田より少し年上の女性だ。
2人は親しげに話をしており、絵梨は思わず腕時計の時間を確認した。
その時店の外から窓ガラスが遠慮がちにコンコンと叩かれ、顔を上げると葉山と静波が揃って立っていた。
昨日といい今日といい、学年の違う2人がなんで一緒にいるんだ?
葉山の手には近くのお弁当屋の袋を持っており、絵梨に見せつけるように掲げた。
何やってんだと苦笑いしながら、残りのサンドイッチを頬張り、マスターに2、3お願いをしてから店を後にした。
先ほどまで瀧田が人と話していた場所には誰もいなくなっており、通りの防犯カメラの位置を確認してから2人と共に学園に戻ろうと歩を進めた。
「先生1人で昼食してたの?」
「いや、親類の知人とちょっと会って話してたのよ」
「こんな時間に?」
昼休憩に入ったばかりの2人からすると勤務時間のはずの保健師が仕事を抜け出して?と首を傾げていた。
「今日は本来目的があって午後出勤にしてあったのよ。理事長には許可をもらってるから、決してサボりではない」
事実である。
「ただ会う予定は1時間程度だったから、その時間だけ学園を抜けて来たのよ」
「親類の知人って、何かあったの?先生よく家のことで調べないといけない事があるって言ってたけど、それと関係すること?」
「まあね」
情報収集の目的もあったが、それとは別に今、気になったことは事件とは関係ないことだけどね。
そう思った絵梨は振り返り、瀧田がいた場所をもう1度見た。
『絵梨、全ての事が解決したら瀧田の幸せも考えてやってくれないか?』
『は?何でよ。祖母ちゃんの側近なんだから祖母ちゃんがやれば良いじゃん』
『そうしてやりたいのは山々だが、残念かな私では無理なのだ』
『白芭の女帝が出来ないことを私が出来るわけないじゃん』
『いいや、私がいなくなった後それが出来るのはお前さんだけだ』
『え〜面倒くさい事、押し付けないでよ!』
『まあそう言うな。その分あの子は私が居なくなった後、お前の力になってくれるはずだから』
『白芭を継がない私に、あの人が力になるとは思えないけど?』
『先の事は分からんだろう』
『継がないって言ってんの!』
『一寸先は闇なのだよ、絵梨』
『し、つ、こ、い!ねぇ聞いてる!?祖母ちゃん!』
あの時点で祖母は、私が白芭を継がなくとも能力を欲することを知っていた。
なぜ自分では無理で私には可能と判断したのかまでは当然のことながら何も聞かされてない。
今回、多少の嫌悪感を滲ませながらも彼女なりに私に協力してくれている以上、祖母のお願いは聞かざるおえないだろう。
その上で瀧田の幸せとは何なのか。
彼女が何を望み何を得たいのか?
その辺の情報が一切ないのは、後々致命傷になる。
ただ、瀧田奈美恵には謎が多い。
女帝の策略なのかは分からないが、彼女がどこから来たのか、どういう経緯で女帝の側に仕えることになったのか。
あの姉さんでさえ、瀧田の素性を突き止められなかった・・・。
昔姉さんは女帝の側近の有能さに衝撃を受けて、自分にも同じような人が欲しいと候補者選定の参考にしようと瀧田を探ったが、何も得られなかった。
女帝が徹底して隠した可能性もあるが、ある時からプッツリその痕跡を辿れなくなったと、姉が愕然と落ち込み愚痴を散々聞かされたことだけは覚えている。
能力を使えばわかることかもしれないが、彼女のことは優先順位が低いだけに正直夢で見るにしても、今じゃない。
それに都合よく見れるとも思っていない。←これ重要
おそらく姉さんは瀧田の素性を探るために宇崎を頼った可能性があり、真一はある程度その情報を持っていると確信している。
あの当時には掴めなかった情報を地道に、今回は現代の文明の力を使ってでも暴いてやる。
これまで白芭から出ずに女帝に付き添っていた彼女が、今この辺を歩いているからこそ得られる情報があるはずだ。
帰ったら真兄にあの時のリベンジ案件をお願いしようと、急いで学園に戻った。
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次話は来週月曜日UP予定です。
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