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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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41、幼馴染の奇行の正体


 恭二が父親に向ける感情を知っている真一なら、今後も穏便にことが済ませられるように上層部含めこの事実を黙っていてくれると思うが、どこから情報が漏れるかわからない以上慎重に行動した方がいいな。


 そう思った絵梨は深いため息をついた。が、


「いや。私の口が、売り言葉に買い言葉でうっかり漏らす方が確率としては高いのか?」


 あいつとの関係性に思わず口をついて出た言葉に、肯定する言葉を言って来たのは、帰らせたはずの蘭丸だった。


「そうね。俺よりよっぽどそっちの方が確率高そうだよね」

 人の心を読んだように確信ついたことを言うんじゃない。と半眼で窓の外に佇む蘭丸を見た。


「それよりなんでまだここにいるのよ」


「何言ってんの。もう夕方だよ。俺あれからちゃんと午後の授業全て終わらせて戻って来たところだよ」

 蘭丸の言葉に驚き腕時計の時間を確認して、呆然とした。


 まじであれから数時間経ってんじゃん。

 と肩を落とした絵梨に蘭丸は自身のスマホを持って横に振る仕草をした。


「それより仲嶺の長女の部屋で何が起きたのか、知りたくない?」


「その事ならもういいわ。響子が水に流すと言った以上、これ以上踏み込むのはフェアじゃない」


「確かにね。でもあの異常な光景は今後またトラブルになる可能性は否めないよ」 

「・・・どう言う意味?」


「花凛が異常なほど怯える原因があるってことだよ。あの時の恭兄の言動には宇崎の長老達も眉を(ひそ)めたくらいだからね」


 聞けばあの部屋は保全の意味で、監視カメラが至る所に置かれており、定期的にその映像を確認するほど厳重に管理されていたらしい。


 昨日その部屋で恭二が騒いだ為、宇崎の諜報部員が防犯カメラの映像を確認し、その異常性を目の当たりにした事で直ぐに上に報告が上がっていたらしい。


 当然、長老達や族長の耳にも入っており、宇崎は事態を重く受け止めたようだ。


 今朝、理事長室で異常な雰囲気が漂っていたのも、それが原因か。と眉を顰めた。

 だからこそ、恭二も鍵を返還した。


 それを反省と捉えた族長が今日1日謹慎処分で済ませた。

 そんなところか。


 窓辺に移動し、無言で手を差し出せば、蘭丸はスマホを渡して来た。

 画面上にはいつでもその映像が見れる状態になっていた。


 再生ボタンを押すと姉の部屋の中が映し出され、部屋中央に恭二らしき人物が佇んでいた。


 ブツブツと何か言っているのはわかったが、音声はそれを拾いきれていない。


 異様な空気の中、部屋の入り口に小さな影が刺し、遠慮がちに父親に声をかけている花凛の声が聞こえて来た。


 恭二はそんな娘には目もくれずにテーブル上にあるフレームに向かって相変わらず何か言っていた。


 別のアングルに切り替わった時、この時の恭二の顔が真正面から捉えられ、それを見た絵梨は戦慄が走った。


 幼馴染の見たこともない恍惚とした悦に入ったような表情に、本能的にキモっと思ったが次の瞬間真顔になった恭二は、目だけが下に視線を向けた。


 また別のアングルに切り替わった時には恭二の足元には花凛が来ており、ズボンを引っ張っていた。

「パパ、なにしてるの?ここには、はいらないほうがいいってじいじがいってたよ」


 可愛らしく言う花凛に、恭二は無表情な上に冷たい視線を向けて足を蹴って花凛の手から逃れると次の瞬間、普段の恭二にはあり得ない娘に対して乱暴な言葉が部屋中に響いた。


『お前如きがあの方の部屋に入るなど不敬千万!今すぐに出ていけ!!』


 言われた言葉の意味がわからず花凛は怯え「パパ?」と震える声で呼びかけるが、その後恭二が花凛に視線を向けることなく、無視していた。


 その事にショックを受けたのか花梨はボロボロと大粒の涙を流し、その後逃げるようにその場を出て行った。


 映像から花梨が消え去った後にバタバタと廊下を走る音が徐々に聞こえ、その部屋の扉が開け広げられた向こう側で、必死な形相の響子が花凛の後を追っている映像が映っていた。


 映像はそこで終わっていた。


 無言でスマホを返した絵梨に蘭丸も黙って受け取ると沈黙が続いた。


 普段のあいつではあり得ない口調と娘へ向けるあの眼差し。

  

 蘭丸が言いたかったのは、こう言うことか。

 重い溜息が出た絵梨を見て蘭丸が口を開いた。


「普通じゃないよね。あれでも恭兄、花梨を可愛がってて良いお父さんだったのに、あんな姿が捉えられたのには誰もが驚いてたよ」


 確かに普段を知る者から見れば、乱心しただけにしか見えないだろうと絵梨は目を伏せた。


「何で俺が態々(わざわざ)エリン姉ちゃんにこれを見せたと思う?」


 勿体ぶった物言いの蘭丸に絵梨がゆっくりと瞼を上げ少年に視線を向ければ、相手はニヒルな笑みを浮かべて窓から身を乗り出し顔を近付けて来た。


「俺らはこれを見て(・・)も恭兄がただ乱心したようにしか思わないけど、『白芭』の目にはどう(・・)映っているのか知りたかったからさ」


 その言葉に絵梨はただ黙って無表情に腕組みをして外にいる蘭丸の顔を見つめた。


 蘭丸は人懐っこい笑みに戻ると窓枠に手をかけその手に顎を乗せ、振り子のように頭を振って絵梨の言葉を待った。


『白芭』の()、か。

 彼の言う通り絵梨には彼らが見えないものが瞳に映っていた。


 映像に始まった当初から恭二の体には例の鎖が何重にも巻き付いており花梨が来るまでそれ(・・)に動きはなかった。


 だが、花梨が自分の存在を知らせるように恭二のズボンに手をかけた瞬間、それ(・・)は恭二を拘束するように首を中心に締めげるように移動した。


 それがスイッチになったのか無表情な上に冷たい視線へと変貌した。


 映像には花梨の手から恭二が逃れるように足を蹴ったように見えたが、その直前にそれ(・・)が鞭のような動きで花梨の手を祓い除けていた。


 その後、恭二の首に巻き付いたそれ(・・)は首だけでなく心臓も締め上げ、何らかの(・・・・)力が閃光のように加わるとあの暴言を吐いた。


 あれは《呪縛》だ。


 何者かの術に縛れた者による行動に過ぎない。

 本人の意思とは違うものだ。


 《呪縛》がいつ発動するか分からない中、この奇行が今回だけとは限らない。


 蘭丸が言った今後またトラブルになる可能性は否めないと言った事はそういう事か。

 スッと視線を蘭丸に向ければ、彼は臆せず口を開いた。


「俺は恭兄を誰よりも信頼してるし尊敬もしてる。だから響子姉ちゃんにも手を出さなかった。あんな態度だけど良い上司なんだ。けど今回俺が納得出来ない事案が発生した。普段の恭兄には考えられないようなことが」

「・・・・」


「仲嶺の長女の事件が白芭が関係しているとわかった今、今回の出来事にも不可解な力が関わっているじゃないかと」

 蘭丸はそこまで言うと力なく俯き「思いたかったんだ」と言った。


 その上で上目遣いで「違うの?」と美少年に問われ、ぐぬっと眉を下げた。


 この子、思っていた以上に曲者だな。と盛大に溜息を吐くと「違わない」と肯定した。


 その言葉に蘭丸は再度窓枠に手をかけて身を乗り出した。

「じゃあ、その事を族長に知らせて良い?今回の事で恭兄事件に関して全権剥奪されたんだけど、撤廃出来るよね!」


「ライバルに塩を贈るの?」

「何言ってんの、勝負はフェアじゃないと面白くないでしょう」


 本心なんだか冗談なんだか、掴みどころのない子だ。

 だからこそ族長はこの子を引き取ったのだろうが・・・。


 まぁ、あいつが路頭に迷えば響子や花梨が困る。

 そこまでは望んでない、と彼の意見に賛成した。


 その上でもし今後同じような事が、それ以上の事が起きた場合は、今度こそ誰の指示も聞く気はない。


 その時は、私が恭二を〆る。

 そう族長に伝えるように言えば蘭丸はどこかホッとしたような表情になった。


「器用なんだが不器用なんだか」

 とどの口が言っているのか蘭丸に言われ、絵梨は「君に言われたくはないわね。でも褒め言葉として受け取るわ」と言っておいた。


 そこへ保健室のグランド側から複数の足音と共に聴き慣れた声がして来た。

「えーなに何!先生逢引き!?」

 そう言って外の保健室の窓に飛び付いたのは葉山と、なぜか静波だった。


 葉山は面白そうに、静波は心配そうに少し焦った顔で絵梨の顔を見ていた。

 今時、逢引きて、、、。


「どこをどう見たら逢引きに見えるのよ」

「え!俺たちそんな風に見える!?うれしみ〜」

 2人に反応は全く逆だった。


 絵梨は呆れて蘭丸を見た。

「君の好きな人は響子じゃなかったの?」


「エリン姉ちゃんと親しくしてる響子姉ちゃんが好きなの」

 ・・・・・どう違うんだ?


「ところでこの子、誰?」

 葉山がずいっと蘭丸を覗き込んで、ギョッと目を見開いた。


「やだこの子、イケメンじゃん!」

 うるさ、賑やかすぎる窓の外にため息が出るが静波が何か言いたげにこっちを見ていることに気がついた。


「俺がいい男だからって惚れるなよ」

 そんな中、長い前髪をファサッと外に靡かせてキザ男のようなセリフを吐いた蘭丸に、葉山は一刀両断した。


「ガキに用はないわよ。それに私彼氏いるし」

 バッサリ!切られて打ちのめされている蘭丸に、年齢的に言えばこの2人の女学生の方が恋愛対象の方が健全だろうにと思ってしまった。


「そうやって同年代の子を口説くくらいが可愛いわよ。間違っても響子や私を口説こうなんて思わないことね」


 追い打ちかけるように言えば、ガーンと言う表情になった蘭丸に葉山がトドメを刺す。

「やーい、振られてやんの」


「うるさい!」

 初対面のはずだが、犬猿の仲か?と言わんばかりに言い合いになっている葉山と蘭丸をよそに静波が窓脇にしがみつき絵梨を見上げてきた。


「先生、浮気じゃないよね」

 冗談でもそう言うことは言わないでほしい。


「要くんか聞いたら絶叫するから、冗談でもそんなこと言わないでよ」

「じゃあ違うんですね」


「当たり前でしょう。どんだけ年離れてると思ってるの?」

 ほっとした静葉の横で蘭丸が煽る。


「何言ってるの!6歳差(絵梨と要)も9歳差(絵梨と蘭丸)も似たようなもんでしょう!」


「年上と年下じゃ意味合いが大きく変わるわ、馬鹿者!」


 ませたこと言う蘭丸に喝を入れると、ちぇーっと唇を尖らせた。

「で、この子何?」


「隣の児童施設の子よ。恭二の代わりにお使いに来てくれたのよ」


「恭二ってあの用務員のおじさんのこと?」

 おじさん、、、。私あいつと同い年なんだが、、、、。


 打ちのめされる絵梨をよそに葉山が1人憤慨し腰に手を置いて吠えた。

「なんでおじさんが来ないのよ。今度から君、ここに出入り禁止ね」


「はあ!?何であんたに指示されなきゃいけないんだよ。そもそも俺はダメで恭兄はいいってどういう理屈だよ!」

 それな。


「だってあのおじさんなら先生とどうこうにはなりそうにないし、あの人妻子持ちでしょ」


 その言葉に参戦するように静波もしれっと加わる。

「先生と仲悪そうだしね」

 ・・・・だから?


「でもあんたはダメ!先生がほだされたら困るもの!」

 どう言う理屈?


「それって俺ほどのイケメンならエリン姉ちゃんが絆されて落ちるって言いたいわけ?」


 驚いた蘭丸が絵梨に顔を向けるとニッカリ笑った。

「だってさ!それなら俺もっと迫ろうかな?」


「うちの生徒で遊ばないでくれる。君はもう良いから帰りなさい」

 ぶった斬って話を終わらせた。


 若者の相手するのは疲れる。

 帰ったらもっと疲れる相手がいるのに、仕事場まで疲弊するのは勘弁だ。と背中を向けた。


 ましてや恭二家族のことで考えることは山積みだ。


 近いうちに瀧田をもう一度招集した方がいいかもしれない。と顔を強張らせれば背中で若人同士がまだ言い合いをしていた。


「ほら帰った帰った」

 蘭丸を煽る葉山に絵梨は「2人もそろそろ帰り支度しなさいよ」と釘を刺して、今日は早めに退勤することにした。


 理事長から話が回っていたのか、その後すぐに響子が保健室に顔を出した。


 早めの退勤なら足がいるだろうと、響子の車で要のマンションに送ってくれることになった。


 2人で落ち着いて話がしたかったこともあり、その行為に甘えて響子の軽自動車に乗り込んだ。


「要さん家でいいんだよね」

「いや、スーパーで買い出し後、私のアパートに寄ってくれる?」


「何しに?」

「冷蔵庫、冷凍庫の処理よ。持っていけるものは持って行って賞味期限が切れたものは処分しようと思って」


「腹、くくったんだね」

「・・・まーね」

 シートベルト閉めながら肯定する言葉を吐くしかなかった。


「婚約まで一気に行ったんだもん、逃げられないよね」

 どこかはしゃぐ声の響子に、ジロリと瞳を向ければ「流石よね」と呟かれた。


「天邪鬼な絵梨ちゃんの性格を女帝はよくわかってるんだと感心しちゃった。完全に逃げ場を失わないと絵梨ちゃん逃げちゃうから外堀がっちり埋めてるんだもの」


 グヌっと推し黙った絵梨の横で響子はエンジンをかけて車を発車させた。


「私、絵梨ちゃんには要さんくらい押しが強くて甘やかしてくれる人がちょうどいいと思うの」

「その根拠は?」


「秘密が多くて思春期に辛い経験した絵梨ちゃんはずっと孤独の中で生活してきたでしょう。私や恭二くんじゃ埋めてあげられないものがあるから、絵梨ちゃんに寄り添って何があっても見離さない人は打って付けだと思っちゃったの」


 学校前の信号に引っかかり停車させた響子は絵梨の方へ顔を向けると笑った。


「私たちが困ってた時に絵梨ちゃん真剣に相談に乗ってくれたじゃない。頼れる人がいなかったあの時代に同じ学生だったにも関わらず手を差し伸べられて、少なくとも私は救われたわ。だからこそ絵梨ちゃんには絶対に幸せになってほしいの」


「響子・・・・」

「要さんが〈鍵〉だって聞いて絵梨ちゃんには不本意なのかもしれないけど、私は良かったと思ってしまったの。だって〈鍵〉なら裏切ることはないんでしょう」


「理屈ではそうだね」

「違う、ことがあるってこと?」


「姉さんの〈鍵〉は少なくとも世間の評判ではその理屈から逸脱してる。それが宿敵の仕業なのかもわかっていない。楽観は出来ない」


「あ、、、、そっか」


「ただお祖母ちゃんはその懸念もあって私に最上の〈鍵〉を置いて行った。早々のことはないと思いたいけど同族はともかく、術者のポテンシャルは強者に軍配が上がる。相手次第では、ひよこの私ではお祖母ちゃんの時と同じように〈鍵〉を奪われる可能性は大いにある」


「対策は打つんだよね?」


「知崎との婚約を公に公表することは当分控えてもらうようにしたけど、どこから情報が漏れるか分からないからね。そう言う意味でも力をつけるために、一度白芭の書庫に行かないといけないとは思ってるよ」


「去年ならまだしも今は仕事してることが足枷になってるよね」

 訪問看護をして頃なら確かに自由に仕事は選べていたが、今更それを言っても仕方ない。


「休日を利用して行くしかないわ。昨年末の報道で私の存在が公になったとはいえ、まだ相手方に居場所までは知られてないのなら猶予はあるはずだから。地道に行くしかないわ」


「・・・良かった。また逃げ癖が出てたらどうしようかと思ってたんだけど」

 ギクっと揺れた絵梨には気づいていないようで響子は笑った。


「逃げかけたけど、思い留まったわよ」

「そこは要さんに感謝しないとね」


「・・・何でそこで要くんが出て来るのよ!」

「鎌かけたんだけど、ムキになるってことはビンゴだね」


 苦虫潰したような表情の絵梨はそれ以上言葉を出せなくなり腕組みしてフロントガラスの先を見つめた。


 車内でラジオが流れている中、絵梨は響子に質問した。

「響子・・・・恭二のことは一旦保留にする。その上であの症状はいつから起きてたの?」


「・・・顕著に現れたのは絵梨ちゃんがお姉さんのお墓参りした日の夜からよ」


「それまでに響子は、あの部屋で恭二と話はした?」

「異様な雰囲気だからね。私は無理だったわ・・・」


「わかった。言いにくいこと聞いてごめん」


「絵梨ちゃんは無意味なことは聞かないでしょう。だから気にしないで。むしろ役に立てれたのかな?」


「今の状態ではまだ何ともいえないけど、これから判断できるようになるわ。そこでなんだけど、響子」

「何?」


「瀧田さんの連絡先聞いてるよね」

「うん」


「彼女に連絡してほしいの。聞きたいこととお願いしたいことがあるから最短で会って話がしたいって」

「何を聞くつもりなの?」



「姉さんの3番目の〈鍵〉と、私のスペアの〈鍵〉についてよ」




 


面白な、良かった、続きが気になる!と思われたら「評価」⭐︎アイコンボタン押して頂けると励みになります。

よろしくお願いします。


次話は明日投稿予定です。



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