表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/54

38、不穏


 その後、朝食を食べ出勤時間になり要の車で雨混じりの雪が降る中、宇崎邸まで送迎してもらった。(要が送ると言い張るので制し出来なかった)


 その間、滝田からもらった札を使って行動したおかげで、他人には姿形が違って見えるため、すっぴんで移動できたことは僥倖だった。


 実に便利の良いものを頂いたと宇崎邸の前で要と別れて、札をカバンに入れて宇崎邸の玄関を開ければいつものように響子が待ち構えていた。

 ただその顔色が悪い。


「響子、まさか昨日も徹夜で翻訳してたわけじゃないよね?」


「違うよ。花凛に聞いたらわかると思うけど昨日は、ちゃんと寝たもの」


 その割には元気がないように見えるが、何かあったのか?

「それなら良いけど、寝付けなかったの?顔色悪いわよ」


「そう?寝たのにおかしいなぁ」

 笑った顔を見たら、気のせいか?と首を傾げたが、何かあるなら響子のことだ。私に言うだろうとこの時は気にも留めなかった。


「それより花凛ちゃんは?」

 いつもは母親の足元にいて、真っ先に歓迎してくれる可愛らしい存在が今日はいない、とキョロキョロしてしまった。


「花凛は族長と裏の施設に行ってるわ。今日はみんなで朝食を食べるんですって。もうすぐ片付けも終わって帰って来ると思うわ」


 響子と恭二の今年3歳になるの娘は、この春幼稚園に通う予定だ。

 両親が働いている関係で昼間は宇崎の親族たちが手分けして花凛のお世話をしてくれているのが実情だった。


 代々そうやって宇崎は運営して来ていたため、ここでは珍しいことではない。

 このシステムのおかげで響子は休学を出さずに大学に通い続けられ無事4年で卒業出来たとも言える。


 時折裏の児童養護施設の子どもたちと花凛との交流も兼ねて族長、宇崎の家長である宇崎圭一郎(真一の父親)が花凛を連れて一緒に訪問することが多多あった。


「族長にしたら花凛ちゃんは孫同然だからよく可愛がってくれるよね」

「うん、本当の孫でもないのにありがたいわ」


 児童養護施設には何らかの家庭環境の問題があってここに来る子供達がほとんどだ。

 保護者からの虐待(身体的、心理的、性的虐待やネグレクト)、他には親の病気、経済的困窮(こんきゅう)、離婚など理由は様々だ。


 彼らは何らかの心の傷を持っていることが多いため、大人を好まぬ者も少なくない。

 そう言う意味でお世話する側としては、小さな子ども(花凛)と一緒の方が養護施設の子どもたちとのコミュニケーションが取りやすいことも功を奏しているのだろう。


 族長の弟の息子、恭二(甥)の子どもである花凛は族長にとっては又姪の間柄だが、自分の息子が現在独身な上に結婚する気がない人なだけに余計に花凛を可愛がっている節がある。

 宇崎の最近の一番の悩みことの一つだろう。


「そう言う意味じゃ、真兄も早く結婚すればいいのに」

 顔はイケメンの部類に入るし、その気になればすぐにまとまりそうなものを。何を躊躇ためらってるんだか。


 思わず愚痴のようにもらせば、響子に呆れ顔を向けられた。


「絵梨ちゃんには言われたくないと思うわよ。真梨さんのことがはっきりするまでは恋愛も見合いもしませんって宣言したのは、絵梨ちゃんと真一さんでしょう。なのに絵梨ちゃん抜け駆けして要さんと結婚決まったもんだから真一さん落ち込んでるんだから」


 それは不可抗力ですよ!響子!!と内心思いながら口を開いた。

「そもそも真兄はマリン姉さんのこと護衛対象としか見なかったのに、何義理立ててんだか」


「それ真一さんの前では言わないでよ。ケジメの問題だって2人で宇崎の親族に論破してた絵梨ちゃんが言えることじゃないからね」


 だから不可抗力だっての!?と2人で言いたい放題している間に地味メイクを施してもらい、幼子がいない空間は寂しく、早々に職場に足を向けた。


 教員室の壁にかかっている保健室の鍵を取り、仕事場に入室。

 荷物を机の上に置いた瞬間、校内放送が流れた。


 〔保健室の田中先生、田中先生。至急理事長室にお越しください〕

 ・・・・・この声は、恭二?


 さては昨日の話を聞きたくて先走ってんだな、あいつ。と呆れた。

 呼ばれたからには行きますけど!


 と保健室の戸を勢いよく開けた時、目の前の二階に続く階段の上から聞き慣れた声がした。

「先生何やったの?理事長室に呼ばれるなんて」


 笑いを含んだ声がして顔を上げると、そこには2年生の葉山が軽快な足取りで降りて来ていた。

「おはよう、葉山さん」


「おはよう先生!ホームルームの時間まで先生と話しようと思ってたのに、マジなんで呼ばれてんの」

 タイミング悪い!と憤る葉山に、絵梨は最もらしい言い訳を言っておいた。


「多分、私の任期が後、半年だから。その辺の話じゃないかな」

 家の事情だけなら、スマホで呼びつけるだけで良い。

 そうしなかったのは、保健師としての田中絵梨にも用があったからだろう。


 その言葉に葉山は呆然となり、階段途中だった位置から絵梨の前まで移動してきた。

「え!?先生今年の夏までなの!」


「そうよ。元々産休の先生の代わりに臨時で入っただけだからね。お子さんの容体が落ち着かないって入院されてたから長引いたけど、その体調も改善方向だって聞いてたから、それ以上に伸びることはないんじゃないかな」


「え、じゃあ、私たちの卒業式の頃には先生いないの?」

「そうなるね」

 事実として告げれば葉山は眉を下げた。


「先生におめでとうって言って欲しかったのに」

 絵梨の高校時代の保健室の先生も、絵梨が卒業前に学校を辞めて行った。


 あの頃葉山と同じ感想を持った記憶のある絵梨も眉を下げたが、出てきた言葉は違った。

「そこまで言われたなら、卒業式には顔を出すわよ」


「いいの!?」

「もし任期の話が出てきたら、理事長に相談してみるわ」


 そう言って理事長室に一番近い廊下を歩いて向かえば、絵梨の背中に向かって葉山が「絶対約束もぎ取って来てよね!」と声が返って来た。


「わかった」

 少し葉山の方に顔を向けてそう言えば、葉山は笑顔で親指を突き出してきた。


 慕われて悪い気はしないな。


 そんな風に思っていたのに、理事長室に向かえば仁王立ちの恭二が立ち塞がった。


「あんた自分でここに呼んでおいて、立ち塞がるって何してんのよ」

「遅い!」

 あ!?


「保健室に生徒が来てたんだから仕方ないでしょうが!?それとも職務放棄してでも来いって言ってんの!?」


 それなら、“大“至急って言葉を入れて放送しろ!と言うと、流石のバカも生徒がいたのかとグヌっと押し黙った。


 フン!と鼻息荒く理事長室に入室すれば、宇崎の古株の陣営も中で待機していた。

 ただ響子がいない。


「響子は?」

「あいつは住職からもらった冊子の解読があるからな。そっち優先だ」


 まあ、彼女らしい返答ではあるな。

と絵梨は頷いてソファに座った。


 異様な雰囲気の中、絵梨は昨日のことを皆に説明して行った。

 話終わった時には皆、複雑な表情を浮かべていた。


 それはそうだろう。

 呪いだの因縁だの、それらをどうやって対処すればいいのか前例がないだけに戸惑うのは致し方ない話だ。


 少ない情報は相変わらずだが、拾える情報から突破口を探るしかない。


 そう言う意味で確かに響子の翻訳が今一番の情報源になる可能性は否めない。

 今後の捜査としては今まで通り地道に行い、今一度情報精査をしていこうと皆が一致したところでその場はお開きになった。


 宇崎の重鎮たちと恭二が退出する中、絵梨は真一に3つのことをお願いした。


 1つは宇崎の邸宅内に保管している姉、マリンが使っていた部屋の捜索を時間が空いた時に入れるようにその部屋の鍵を預かった。


 もう1つは姉の婚約者とコンタクトを取ってもらうように頼んだ。

 いくつか聞きたいこと確認したことがあると言えば、真一は了承してくれた。


 もう1つは学園での任期が終わって半年後の卒業式に出席したい旨を伝えた。

 その件に関しては保護者も出席する中に紛れて出席する分には問題ないと許可を得たのでお礼を言って理事長室を退出した。


 廊下を進み保健室に一番近い階段に向かえば、屋上に続く階段上から人の話し声が聞こえてきた。


 1人は恭二、もう1人は声変わりしたばかりの少年のような声がしていた。

 また何か任務の話でもしているのだろうと、気にもせず下に降りていた絵梨だったが、聞こえて来た話声の内容に思わず足を止めた。


「恭兄、いい加減にしなよ」

「お前何の真似だ?」


「それはこっちのセリフだよ!最近の恭兄、自分でおかしいって気づいてないのかよ!家族をないがしろにして仲嶺の長女の部屋に夜な夜な侵入しては物思いにけてんじゃねーか!」


 絵梨は眉間に皺を寄せてバッと階段上を見上げた。

 姉さんの部屋に夜な夜な侵入ってなんだ?!


「お前には関係ないだろう」

「ああ、関係ないっちゃー関係ねーよ。亡くなった人を思うことは悪いことでもないしな。けどな、家族に心配かけといてその態度はねーんじゃねーか」


「それこそお前には関係ない話だろう」

 恭二はイラついているのか早口で対応しているが相手は一歩も引かなかった。


「やっぱりわかってねーな!俺だってこんなこと言いたかねーよ!けどあの花凛が落ち込んでる姿見たら無視できなかったんだよ!」


 !!

 絵梨は大きく目を見開き、そっと屋上の方へ足を向けた。


 屋上に向かう階段途中の180度に折り返された踊り場に2人は立っていた。

 恭二は踊り場から屋上方面に顔を向け、もう1人は屋上に続く階段途中で立ち止まり上から恭二を見下ろす形で2人は向かい合っていた。


 花凛が落ち込んでいると聞き、恭二も閉口し目を見開いていた。


 ここからでは対峙している相手の顔は階段の柱が邪魔で見えなかったが、声の感じからある程度誰かは想像がついた。


「花凛が、、、何だって?」

 ここで恭二は動揺したように声を震わせて相手に問いかけた。


「恭兄が夜な夜な秘密の部屋に侵入し、自分が話しかけても返答もせずにぶつぶつとその部屋の主の写真に向かって話しかけてる父親に、得体の知れないものを感じて怖いって今朝あいつ暗い顔してたよ」


 その言葉に絵梨は驚いたが、それよりもさらに驚いたのはその言葉に、微妙な表情をした恭二に違和感を覚えた。

 それに気がついたのは対峙していた少年も同じだったのか、呆れた声が降ってきた。


「無意識だったのかよ」

 困惑顔で恭二がうつむいたところを見ると、どうやらそのようだと絵梨は感じた。


「何が恭兄にそんな行動取らされてるのか知らないけど、いい加減にしときなよ。不安に駆られてんのは何も花凛だけじゃない。響子姉ちゃんだってそうだ」


 その言葉に絵梨は今朝の響子の様子を思い出してハッとした。


 解読に関しても再三無理はするなと釘を刺したにも関わらず徹夜して没頭したり、今朝は顔色の悪い親友を思い出しそこにそうせざるを得ない事情があったことをこの時初めて知った。


 響子が悩みを抱えていたために現実逃避のために没頭したり娘のために昨晩は一緒に寝たにも関わらず、目の下にクマを作るほど寝られなかったことに今更気づき、自分に腹を立ててぎゅっと手を握り込んだ。


「俺は、、、」

「亡くなった人を思うことは勝手だけどな、家族に心配かけてまでするのは違うだろう。いい加減にしとけってのはそう言うことだよ」


 黙って頷くしかなくなった恭二に少年は盛大にため息を吐いた。


「恭兄がこのまま態度を改めないんなら、俺が響子姉ちゃんもらうよ」


 ・・・・・・・?

 絵梨も恭二も相手が何を言ったのか分からず思考が停止する中、少年は爆弾発言を落とした。


「恭兄が年上のお姉さんに執着するのと同じように俺も年上のお姉様が大好きなのよ。まさに響子姉ちゃんはドストライク。家庭円満だと思ってたからちょっかいかけなかったけど、あんたが不和ふわ持ち込むなら俺遠慮しないよ」

「お前!?」


「それにそう思ってるのは何も俺だけじゃねーぜ。何せ響子姉ちゃんは万能だからな。憧れてる野郎は腐るほどいるんだ。危機感、感じてねーの?随分余裕だね」


 この子結構、あおるな。

 冷や汗を出してるのは絵梨だけではないだろう。


 恭二も思い詰めた表情をし床をじっと見つめているが瞳が忙しなく揺れていた。


 このやり取りで馬鹿な幼馴染の反省に繋がり行動を改めるきっかけになるなら、絵梨もこれ以上夫婦のことに首を突っ込むのはやめておこう。


 そう判断しちょうど2人を視界から離して向きを変えた時、ジャラジャラと固い鎖が床を這うような音を耳で拾い違和感を覚えた。


 何の音だ?


 バッともう一度踊り場にいる恭二を見た瞬間、今まで視界に捉えていなかった物が視界に入り戦慄が走った。


 恭二の体にいばらのような細かいトゲ状の鎖が何重にも巻き付いている姿を見て、心臓が大きく跳ね上がった。

 不思議なことに床の一部に黒い空間が広がっており鎖はその中に繋がっていた。


 ただの空間じゃない。

 黒い空間はタプン、トプンッとまるで粘度の高い水を連想される動きをしていた。

 そしてその黒い物体から発せられる“気“がどこかで感じたものを連想させ、さらに震えた。


 思考が混乱しその場を逃げるように離れ、それでも思考がついて行かず呆然とゆっくりを階段を降りて行った。

 2階途中の踊り場あたりを降りている時、恭二が勢いよく階段を駆け降りてきた。


 恭二は絵梨に話しかけることもなく横を通り過ぎた瞬間、例の鎖が視界に捉えた絵梨は無意識にその鎖に手を伸ばした。


 人の目に見えるものではないことは感じていた。

 鎖を触った瞬間その存在はスッと消えて行ったが、何故かその鎖から他人の存在を感じ取った。


 1人の少女。

 顔ははっきりしないが凛とした佇まいでありながら、発せられる声はまだ、、、幼い。


 誰だ?


 まさか今感じた少女が恭二を鎖で縛っているのか?


 困惑しながら駆け降りる恭二に巻き付いているトゲの鎖の先は、恭二の体同様に心臓にも何重にも巻き付いた状態でいびつに存在していた。


 そしてどういう原理なのか、黒い空間は自在に移動可能なのか恭二に付かず離れずの距離を保ったまま移動していた。






面白な、良かった、続きが気になる!と思われたらブックマーク登録、作品の「評価」⭐︎アイコンボタン押して頂けると励みになりますので、よろしくお願いします。


次話は明日UP予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ