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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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37、先人の教えから学ぶこと


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 その部屋の中央に設置された随分と豪華な応接セットには白芭の女帝と年配の男性が1人。2人は対面する形で座っており、祖母の背後にはソファを挟んで瀧田が静かに佇んでいた。


 室内には響子が見ればよだれを垂らして見入りそうな芸術品々が上品よく置かれたアンティークなキャビネットの他、ご丁寧に人の目や耳から情報を遮断す結界が施された特別な部屋のようだ。


 その部屋の中で祖母は女帝らしいと言えば女帝らしい太々しい表情で腕を組み、目の前に座る人物を睨め付けていた。

『犯人が死んだ?』


『はい、、、申し訳ございません』

『あの時、奴を白芭に引き渡してほしいと懇願したにも関わらず、法律に則りこちらで処分するというからこちらは引き下がったのだ』


 組んでいた腕を解き、応接テーブルに拳を振り下ろしドン!と音を立て『なのにこの体たらくはなんだ?!』と抗議した。

 相手はびくりと体を震わせて声を振り絞っていた。


『我々も、想定外、でして』

 1人で白芭の女帝に説明している白髪が混じるその人物は持っていたハンカチで緊張の為、額から流れ出る汗を拭いながら対応していたが、祖母は追従の手をやめなかった。


『それを加味してこちらも提案したのに問題ないと突っぱねたのはそちら側だろう。それともあなた方は白芭を馬鹿にしているのか?』

『とんでもない!』


『ではなぜ実行犯が留置場で亡くなっている?事件からまだ1週間と経っていないこの時分に!我々を狙った原因もわからぬまま!脅威が過ぎ去ったのかもわからないのに!それなのにお前たちはまた白芭に助言を求めると言うのか!』


『申し訳ありません!我々も上層部からの伝言をお伝えしているだけでして』

 確かにそうだ。

 面倒なことは官僚に任せ、政治家は高みの見物を決め込む輩は多い。と祖母は鼻でフンと笑った。


『だがそんなことこっちには関係ないんだよ。政府がそういう態度で接して来るならこちらにも考えがある。悪いが今後は政府とは一線引かせて貰う』

『白芭様!』


『これほど信頼できぬ組織と取引するほど白芭は安くないぞ。帰ってその上層部に伝えて来い。お前たちの傲慢なやり方のせいで犯人の意図も掴めず事件は迷宮入り。そこに残った現実は夫を殺されたことで白芭の女帝はその力の大半を失った。能力の信憑性が乏しくなり自信がなくなったので今後の取引はやめさせて貰う。とな』


 言いたいことを言った祖母は瀧田を連れてその部屋を出て行く。

 室内にいる官僚は何度も祖母を呼び止めていたが聞こえないふりをして退出して行った。


 渋い表情の祖母と瀧田は建物の外に向かうため、前後に並んで廊下を歩いていた。

『これ以上の情報は政府は掴もうとはしないだろうな』


 何せ犯人が、政府関係の要人警護を担当する人間だったため、事件が公になるのは避けたい政府はこのまま有耶無耶にしたまま幕を引きたいのだろう。


『恐らく。しかし知り合いの刑事から垂れ込みは入っています。もう1人の警察官僚が何か情報を持っていそうとのことですが、その者も口を割らないそうです』

『会う段取りを取ってくれる?』

『すぐにでも』


 この時瀧田はすぐに手配したようだが、その対面は叶わなかったようだ。

 警察の情報によれば、その人物は総理官邸の護衛シフトを変わってほしいと実行犯に頼まれシフトを変わっただけでその理由までは知らないと証言したことで、重要参考人ではないと結論づけたからだ。


 結局何故白芭の女帝を狙って殺そうとしたのかわからないまま、政府の思惑通りこの事件の幕は下ろされたようだ。

 ただ、絵梨は実行犯のあの時の表情を思い出し、違和感を覚えた。


 ナイフで人を傷つけ致命傷を負わせた瞬間、自我を取り戻し動揺したように見えた犯人。


 負の連鎖。

 白芭以外の術者の存在か。


 白芭当主やその子子孫孫への恨みが負の連鎖を引き起こしているなら、祖父が殺害された事件の動機にはなる。

 犯人は祖父ではなく祖母に向かって走って来ていたことから、狙われていたのは間違いなく白芭の当主だったなら辻褄は合う。


 それなら黙秘を続けたと言う犯人もシフト変更を代わってくれと頼まれた人物も呪われていたとするなら、その証言の信憑性は皆無に思える。

 実行犯はすでに亡くなっているようだが、もう1人の警察官僚は現在も生きている可能性はある。


 当時祖父の年齢と同じくらいの人物であるなら現在70代くらいか。

 生死は微妙な年齢ではあるが、瀧田に探してもらった方が良さそうだ。


 そう感じた時、夢の世界に白い光に包まれ、絵梨は直感で目覚めの時だと判断した。


 重たい瞼をまつ毛を揺らしながら上げれば、薄暗い部屋の中、壁側を背に室内の方に体を横たえているようだ。

 後ろには要がピッタリくっついているようで、暖かな体温と共に腰からお腹に腕を回されて嫌でもその存在を意識する。


 その要の後ろにある窓に備えつけているカーテンの隙間から少しだけ朝焼けの赤い光が透けていた。

 まだ1月だ。


 空が明け切っていないようだが、今は何時だ?と室内の扉上部に設置してある時計に目をやり、針が上下一直線に刺しており深いため息を吐いた。


 本日は平日。学校に行く準備をした方が良さそうだと向きを変えると要の腕の中にすっぽりと入る形をなり、ぎゅっと抱きしめられた。


 いつの間にか着替えがなされており、長Tにズボンを履いていたが、要のものなのかどれもブカブカだ。

 着替えにも気が付かずに寝てたなど、昨日どれだけ疲れていたんだと息が漏れる。


「おはようエリン」

「おはよう要くん」

 相変わらず不埒な手が腰から下に行こうと移動するその手をぎゅっと握って進行を阻止する。


「お触りもダメなのか?」

 この後仕事だっつーの。

「どこの変態よ」

「男なんてそんなもんだろう」


「孤高の紳士が呆れる発言ね。世の中の女性陣に声を張り上げて言ってやりたいわ」

「良いねえ。俺も愛してやまない女性が出来た!って叫びたい」


「・・・・なんの話?」

「なんだろうね?」

 この人わざと言ってるのか、真剣に言ってるのかわからないと顔を見上げてジッと顔を見つめた。


 寝起きで身支度していない要の顎には髭が生えており、普段こざっぱりしている時と違い少しワイルドさが増している。

 絵梨の視線を受けてうっとりするほどの笑みを浮かべて絵梨のひたいにチュッと口付けを落として来た。


 額に髭が当たり、チクチクする。

 だが問題はそこではない。

 この人が初代の〈鍵〉の生まれ変わり、か。


「白芭高彬」

 声に出した絵梨の口から出た名前が自分の名ではないと要は不快感を露わにした。

「誰?」


「白芭初代の〈鍵〉だった人の名前」

「その人がどうしたの?」

 覗き込むように質問してくる要の瞳には嘘は混じっていない。

 やはりは前世の記憶はないのか。


「いや、なんでもない」

 知らないなら、あえて余計な知識を与える必要はないと、話をぶった斬った。


 しかし要は違ったらしく話を戻すために、絵梨を仰向けにすると両手を頭上で1つに重ねてベットに固定した。

 変な体制に目を剥いて要を見るが、そこには邪なものとは違う狂気じみたものを感じ体が硬直した。


「えっと、要さん。この体制はなんでしょう?」

「初代の〈鍵〉の名前をなんで呼んだの?何かあるから声に出したんだよね?なのにここで話を終わらせるって、俺的には気に入らないな」


 のっしりと絵梨の体の上に要が固定できるほどの力で器用に体を重ねて来たことでベットに縫い付けられてしまった。

 この状態では腕を解かれても絵梨は身動きが完全に取れなくなったと焦った。


「えっと、どこら辺がでしょうか?」

「どこら辺?俺以外の男の名前を聞かされて気分が悪い上に、俺と同じ〈鍵〉なんだよね。俺の立場を揺るがす存在とも取れるし、エリンとなんか関わりがある気がしてはらわた煮え繰り返るほどイラついているよ」


 現代の高彬が前世の自分に嫉妬している。

 ある意味シュールだが、記憶のない要にしたら他人と同じなのか。


 その気持ちわかるな、と思った。

 初代の依代と言われた絵梨にも当てはまる感覚だった。


 ここで絵梨は観念して、昨日瀧田に言われた前世の話をすると、要の態度は軟化し腕だけは解かれた。

 今世だけでなく前世も2人繋がりがあると知り彼は喜んでいたが、先ほどの態度とはえらい違いだ。


 自分は記憶が無い分、前世を持ち出されても覚えてもいないし比べられるのも嫌だった。

 宿縁と言われればそうなのだろうが、正直それを今世にまで持ち込むのが正しいのかわからない。


 絵梨は自分の気持ちを吐露すると、はしゃいでいた要も真顔に戻りゆっくりと口を開いた。

「お互い前世の記憶がないなら、そこに囚われるのはこれ以降やめよう。記憶が無いと言うことは赤の他人も同じだしな。だから難しく捉えずに今世だけ見つめて知崎要と仲嶺絵梨として自分たちの人生を歩めば良いんだ。白芭が関係している以上無視が出来ない時は出て来るかも知れないけど、その時は俺も力になるし一緒に乗り越えよう」


「そこにとてつもなく重い現実が待ち受けているかも知れないのに?」

 珍しく弱音を吐く絵梨に要はのし掛かったまま頭を撫でた。


「マリンの事件の真相を探る上で出てくる事実なのに、エリンは尻尾巻いて逃げるの?違うよね」

 今まで君は、常に前を向いて姉を信じて事件の真実を探ろうと邁進していたじゃないか。と頬に逆さ手ですっと撫でた。


「ただの事件じゃない可能性が出て来て、私1人じゃ受け止められる自信がない」

 弱いところなんて今まで誰にも見せて来なかった。そういう意味で一昨日の出来事は絵梨の意識を少し変えたようだ。


 しかも昨日の瀧田の話を聞いて一族の根幹を揺るがした因縁が関係しているとわかった時、重圧で押しつぶされる心は、事件の真相に近づきたいのに足を踏み出せなくなっていた。


 勇気がどこかに行ってしまった。

 また逃げ癖が発症したのだ。


 絵梨の気持ちも理解できると、要は絵梨を抱き抱えそのままくるりとベットの上で転がり自身の上に絵梨を乗せた形になるとぎゅっと抱きしめた。


「1人だと思うから怖いんだ。大丈夫。確かに白芭の本家の血筋はエリン1人だけになったけど、君には心強い仲間いる。宇崎筆頭に親友の響子さん、昨日立ち会ってくれた、瀧田、さんだっけ?それに俺もいる。どんなことがあっても俺は君を守るし離れないよ」


 覗き込むように絵梨の瞳を見て言う要に絵梨は瞳を揺らして見つめた。

 そしてやはり恥ずかしくなり顔を伏せ頭を要の胸に押し当てた。

 そんな絵梨の行動を冷静に見た要は頬を綻ばせた。


 俯いた絵梨の顔は見えないが、耳元が真っ赤に染め上げており、要は可愛いと頭上にキスをした。

 絵梨は以前夢で見た祖母の言葉を思い出していた。


『彼はあなたにとってこれ以上のない最強のカードだから。必ずあなたの隣であなたのためにあなただけを見つめて行動してくれるから素直に受け入れなさい』


 それと同時に姉と一緒に聞いた祖母の教えも頭に響いた。

『2人にとって〈鍵〉はどういった存在になるのかは、本人の心持ち1つでどうにでもなるからね。どうせなら幸せと思える人生の方がいいだろう?』


 あの時祖母は面倒がらずに向き合い相手の声に耳を傾けよと言う教えだった。

 あの言葉は現実を受け入れ、〈鍵〉と向き合えば術者としての幅が広がるという意味なのだろうか。


 実際先ほどの夢で見た祖母も言っていた。

『夫を殺されたことで白芭の女帝はその力の大半を失った』


 祖母は死ぬまで現役と言われるほどの人物だった。

 能力の枯渇は見られなかったが、実は半分ほどの能力解放しか出来なくなった現実を見ると、〈鍵〉の存在の大きさを改めて嫌でも感じる。


 亡くなった祖父の、簡易的に〈鍵〉の一部を所持していたとして微々たる解放にしかならないのか?

 心がそこにはないから?


 前世からの繋がりのある宿縁の〈鍵〉。

 夫、ではなくわざわざ〈鍵〉と呼ばれる意味がある。と言うことか。


 相性が良い=ランクの高い〈鍵〉。

 祖母や瀧田は相性を体と表現したが、その解釈は偏りすぎなようにも感じる。


 もしかしたら能力の壁に対し、〈鍵〉はその突破口の扉を開ける役割があるのだとすれば・・・・。

 術者の能力の壁それぞれに合わせた鍵の生成をするのが〈鍵〉と言うことか?


 白芭の女帝にいくら前世の記憶があり術に対する知識を水を得た魚の様であっても、受け止める器が小さければ動けない。

 〈鍵〉は人生における伴侶であり、術者の能力に必要な器でもあると言うことなのだろうか?


 初代の〈鍵〉であった高彬は陰陽師だった。

 初代の師でもあったなら、白芭の能力の根源でもある。


 そんな高彬の生まれ変わりである要は、初代の依代の側にいる。

 SSSトリプルエスの〈鍵〉として。


 それは、歴代の当主たちが成し得なかった能力の解放も可能を意味するのか?


 【受け入れ】【向き合い】と言う言葉は精神の話だ。


 暴走気味の要に絵梨の感情が置き去りになりがちだが、瀧田が言うように“諦め“て受け入れる方が能力解放には最善なのかもしれない。

 しかし、だ。


 今も体に巻き付く腕の強さが半端ない。

 思わず「苦しい」と言葉が漏れた。


 そう、要の言動全てが“重たい“のだ。

 今も苦言を聞いて、慌てて腕の力を抜いたがこの日の冷え込みに風邪を引いたら大変だとずれ落ちた布団をかき上げ絵梨をすっぽりと布団で覆った。


 過保護すぎる。

 反発したくなる感情は、前世から来る防衛本能なのか?と疑問も浮かんだが、大きく息を吐いた。

 どの道、婚約の話は進んでいるわけだし、いらん労力は使わんに限る。


 要の親族もあの瀧田でさえも“諦めろ“と言うくらいだ。

 どんな呪いだよ!と思いながら、布団に包まった絵梨は要を見上げた。


「近日中に知崎と白芭で婚約は成立するはずだから、今週末に知崎に挨拶に伺おうと思う」

 その発言に要が満面の笑みを向けて唇を寄せてきたが「ただし」と付け加えた。


 一瞬動きを止めた要に絵梨は頬に手を置いて白芭の置かれた実情を説明した。


「姉さんの事件を含めて不可解なことが多すぎるの。他の術者の存在も明らかになったし、白芭内の相続問題にはケリがつけられる算段はつけたけど、姉さんの事件の全容を掴むまで一般に対しては顔出しはしない方が良いと思う。下手に公表して知崎が記者たちの標的になるのは避けたし、婚約したことを公表するのはいいけど、相手は私だと発表するのは待って欲しいの」


「仲嶺絵梨=白芭の生き残りという構図が見えなところまでなら公表しても良いってことだね」

「うん、これまでのように長々と捜査を続ける気はないから、もう少し辛抱してね」


 わかったと頷いた後、要が具体的に「結婚式は半年後くらいかな?」と弾んだ声に出して来たが、そこは物理的に無理だと反論しておいた。


 正直言ってそれまでに一族の負の連鎖を止められる自信もないし確証もない。

 それに学校の臨時保健師の仕事も夏休みまでが任された任期だ。

 7月の結婚式はどう考えてもスケジュール的にも避けたい。


 そのことも含めて週末、知崎家に挨拶に行った時に話を詰めることで双方の意見が一致した。


 


次回は来週月曜日UP予定です。

よろしくお願いします。



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