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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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34、宿縁と因縁


 見慣れた病院の廊下を歩いていた祖母の朋恵の前を忙しなく移動して来た医療従事者達の一人と肩同士がぶつかり、祖母は弾き飛ばされる勢いでその場に座り込んだシーンから始まった。


 祖母の顔色が悪い。

 頬の削げ具合から、これは余命宣告を受けた直後の出来事のようだと絵梨は直感した。


 そこにいつも寄り添っている瀧田の姿は横にはなく、少し離れた廊下先の通路から荷物を持って移動して来ており、祖母の座り込んだ姿を見て慌てて駆け寄る姿が見えた。

 そんな瀧田より先にスッと祖母に手を差し出す者がいた。


 医者達に続いて廊下を小走りで駆け寄っていた背の高い人物だ。

 最近は衣食住だけでなく行動を共にすることが増え、見慣れた人。

(少し若い、要くんだ)


 ではこの夢は祖母が要と邂逅した時の夢か・・・。


 差し出された手に祖母は笑顔で御礼を言って手を重ねた瞬間、驚いたように大きく目を見開いた。

 祖母が俯いていた関係で要にはその顔をは見えていなかったようで、そのまま引き上げると「お気をつけて」と言うと先に走って病室に入って行った医療従事者達を追って同じ病室に入ろうとしていた。


 瀧田が要をすれ違い、祖母に駆けつけ体を支えながら「当主様、大丈夫ですか!?」と病院ということもあり小声で聞いていたが祖母は呆然としたままだった。


 力無く振り返り病室に入ろうとしている要の後ろ姿を見た時、一瞬だが要の視線が廊下にいる祖母に向いていた。

 2人の視線がかち合い、要が廊下から見えなくなった時、祖母は『お祖父様?』と呟いたのだ。


 その姿は瀧田が言ったように狼狽し震えていた。

『当主様、どうされました?どこか怪我されたのですか?!』

『違う。瀧田・・・・瀧田』


『はい、瀧田はここにおります。当主様がお許しになってる間はこの瀧田は何があっても当主様からは離れはしません』

『それなら瀧田。医師に入院の日にちを遅らせてほしいと伝えて来てくれない?今すぐに調べなければならないことが出来た!』


 そこまで言い切った祖母の瞳にはこれまで白芭の女帝として仕事をしてきた当主の顔つきだった。

 瀧田は主が自分の容態を無視してまでやるというのなら止めても無理だと察し、廊下の端に置いてあった椅子に祖母を座らせると、医師に話を取り付ける為に駆け出していた。


 それを横目で確認した祖母は力無く膝に肘をついて真っ直ぐ見据えてため息を吐いた後、呟いた。


『お祖父様も人が悪い。私がこんな状態になってから難題をふっかけるなど、趣味が悪すぎますね。しかし思い出したからにはあなたの宿願、成就できるように打てる最善の手を打ちます。ですから・・・・・あなたもやり遂げて下さい。白芭に続く()()()()。ここで食い止めるためには初代の依代よりしろとその〈鍵〉がここからは必要ということなのでしょう。全く、回りくどいことをなさる』


 泣き笑いのような表情をした祖母は硬く目を閉じた。


『絵梨は不本意だと憤慨するだろうな。一族の後始末を自分がしなければいけないことに。だが初代の呪いから始まった白芭を、初代の依代が終止符を打つなら誰も文句は言わないだろう。そういう意味でも絵梨にはこれまで4代と続いた負の連鎖をここで止めなければ絵梨の命も危ぶまれる。私にできる時間が限られる中、できるだけ情報を精査せねば!』


 先ほどから祖母の口から出てくる"負の連鎖"とはなんだ?

 曽祖母の事件と両親と姉のことか?しかし4代とはどういうことだ?

 ここに来てまだ私の知らないことが、ある!?


 夢はここで終わり周りが白み初めて、意識が浮上する。

 意識が現実に戻りかけ、耳だけが情報を拾う。


 室内に響子が入室して来たのか、瀧田と言い争っているようだった。

「どんな話をすれば絵梨ちゃんが気を失うのです!?」

「落ち着いて下さい。キャバをオーバーしてしまっただけです」


「その話を信じれる根拠を私はあなたに持ち合わせていません。もっと詳しく話して下さい!外には要さんも待機しています!あなたが女性1人だけ入室を許可するというので、我々宇崎は従ったんです!」


 自分が気を失ったせいで大事になっている・・・・。

 すまん響子。

 ソファから上半身を起こしながら口を開いた。


「そう怒鳴らなくていいわよ、響子。私が貧弱だっただけだから」

 完全に上半身を起すと、響子は駆け寄って来た。

「絵梨ちゃん大丈夫なの!」


「心配かけてごめんね。大丈夫よ。瀧田さんも言ったようにキャバオーバーになっただけだから」


 ただ失神も悪くはなかった。

 祖母のあの言葉を引き出したのだから!


「響子、廊下に」

「出ないわよ」

 話の途中で遮られ、絵梨が驚いて響子を見れば真剣な表情で否定された。


「また何が起きるかわからない以上、私は絵梨ちゃんから離れないからね」

 ・・・・・・。


 白芭のことを響子に共有して良いものか。

 絵梨には判断しかねなかったが、意外にも瀧田が了承してしまった。


「そこまでいうならお好きにどうぞ」

「あなたに言われなくても」

 響子は瀧田を睨みながら反論していた。


 なんだ?私が気絶していた間に二人の間で何かあったのだろうか?


 しかし瀧田は持論を口にし勝手に肩を落とした。

「白芭が解体されず、絵梨様が継いでいたならあなたが現当主の補佐を任された人なのでしょう。絵梨様の第一の儀式の際にも立ち会っていたことから考えて絵梨様にとって最も信頼できる人物ということでしょうから」


 今から4年前。

 第一の儀式を受けるつもりがあるなら、1人信頼できる人物を連れ立ってある場所に来てくれと瀧田から連絡を受け、その時に絵梨は身重の響子を連れて瀧田と対峙した。


 そういう意味でこの2人は初対面ではないはずなのだが、絵梨が気絶している姿を見て現在響子は瀧田に嫌悪感を顕にしていた。

 落ち着きなさい!と響子の腕を引っ張ったが絵梨の前から退こうとしない響子に絵梨は戸惑ったが、その行動を目にして瀧田は目が笑った。


「実に惜しい。補佐官として当主に忠誠を誓うその姿勢。私が朋恵様に向けるものと遜色ないものなのに、ここで白芭を無くすとは」

「いい加減諦めてよ。何度も私は白芭は継がないって言ってるでしょう」


 儀式を受けた4年前にも白芭は継がないが両親と姉の為に能力開放をする。

 その確約がなければ第一の儀式すら受けないと宣言して行ったほどだ。


 しつこいと嫌悪感丸出しで言う絵梨に続いて響子も遺憾の意を表した。

「それに忠誠ってなんですか?私と絵梨ちゃんは親友です。どちらが上とか下とかではありません!」


 絵梨に続いて響子にも否定され、瀧田は肩を落とした。

 最後の悪あがきだったのだろうが、無理なものは無理だ。


 ところで、だ。

「瀧田さん。先ほど気絶していた間にお祖母ちゃんの夢を見ました。そこで2つの疑問が浮かんだのだけど」

「何でしょう?」


「1つ。初代は夢でお告げを受けなくなったと言っていたのに、今私を含めて歴代の当主達は夢でお告げを受けています。それはなぜですか?」

「簡単な話です。初代様は呪いを受けた直後は神の声を聞こえなくなった。しかしその後、懸命に陰陽師の力を習得し技を学び、与えられた環境の中でも苦労しながら一生懸命に生きる初代様に神様は慈悲を施されました」


【その姿勢を崩さぬうちは神は白芭を見捨てない。声が聞こえなくなった分、夢で告げてくださると約束してくださったのだ】

「初代様の手記に書かれている一文です」


「なるほど、初代後期に目紛しく功績が残せたのも、そういうことがあったからだと?それはわかった。その上でお祖母ちゃんの言葉にはまだ私が知り得ていない情報があるわよね。“負の連鎖“。お祖母ちゃんは確かにそう言っていた。しかも4代続く連鎖であると。どういうこと?」


 響子も横で初めて聞く話に驚き目をに張っていたが、口を挟んでは来なかった。

 瀧田も珍しく目を見張ったが一瞬で無の表情に戻り、ため息を吐いた。


「白芭の前で隠し事は無理な話でしたね。この話もするつもりでしたのでお答えいたします」

 瀧田が素直に白状してくれるなら、と絵梨は自分の知っていることを吐露した。


「幸恵曽祖母様の非業の死。それに関しては、叔母さんから聞いてる。それと仲嶺の両親と姉さんの死。私はこの3代の死しか知らない。4代というからにはお祖母ちゃんの時代にも何かがあったんだよね?」


「・・・その通りです。非業の死を遂げたのは俊明様です」


「え、待って。お祖父ちゃんは不慮の事故で」

 不慮、の事故も言い換えれば非業の死ではないのか?と気付き震えた。

「そんなの聞いてない」


「無駄に怖がらせるのも考えものだ。当主様と美鈴様があえて隠されたのです」

「怖がらせる?」

「俊明様は・・・・殺されたのです」


「殺!?」

 驚いて響子が口元に手を置いていたが、絵梨は肝が冷えたが目が縋った。


「誰に?」

「・・・犯人はその場で取り押さえられ、すでにこの世を去っています」


 亡くなっている。

 だが解決済みだと?

「情報はあえて隠蔽したの?」


「いいえ、隠蔽()()()。が正解でしょう」

 つまり祖母が行ったことではない?

「誰が?」


「俊明様が殺された場所が問題なのです」

「だから!どこよ!回りくどい言い方は好きじゃない!」


「総理官邸です」


 苛立っていた絵梨は、一気に冷や水を浴びたように冷静になり瀧田を凝視した。

「官邸?」


 そういえば、祖母の代で政府とのやり取りを取りやめていた。

 約30年前の事だ。

 祖父が亡くなった時期とリンクしている。


「まさか、政府と距離を置いた原因は・・・」

「俊明様の一件が原因です」


「動機は?」

 それまで黙って聞いていた響子が口を開いた。

「動機は何ですか?白芭の女帝の関係者に手を出してその後の報復を考えたら正気の沙汰とは思えません」


 確かにそうだ。総理官邸を出入りしている相手なら白芭の存在を知る者達だ。

 そんな人物が白芭に牙を向くなど、自殺行為もいいところだ。


「動機は・・・・わかっておりません。ただ言えることは、俊明様は当主様をお守りするためにその身を差し出したということです」


「つまり、、、白芭の女帝を殺そうと近寄ってきた者と対峙した。ということですか?」

 響子は呆然と呟いた。


 その横で絵梨は顔をしかめた。

 あり得なくはない。

 祖父は元警官だった。咄嗟に夫として〈鍵〉として祖母を守ったはずだ。


「はい。当主様に向かってナイフを抱えて走ってくる犯人の前に出て取り押さえられました。しかしその相手を見た瞬間、俊明様は一瞬その力を抜いてしまわれた。その一瞬の隙を見て犯人はもう一度ナイフを振り翳し俊明様の心臓を・・・・」


 取り押さえていた手を緩めた?それなら・・・。

「顔見知りの犯行ということ?」

「はい。後の調べて2人は警察学校の同期だったと聞いています」


「その人は捕まったんだよね。動機については話していないの?」

「黙秘を貫きました。政府も狙われた相手が白芭ということもあり有耶無耶にはせず、裁判なしでそのまま刑が執行されました。ところが刑務所に入った翌日その者は亡くなっていました」


「自殺?」

 響子が吐露したが、絵梨は違うと否定した。

「普通の死ではなかったのね」


「その通りです。白芭は死後の霊体と会話が可能と申しましたが、一つ例外がございます。それは呪い呪われた者との会話は皆無ということです」


 何となくわかっていた。

 万能ではない能力にはどうしても穴ができやすい。


 曽祖母に関しても両親や姉の事件で霊体と話ができるなら、祖母が実行しているはずだ。

 それが出来ていないということは、そこに何か問題があったからだ。


 曽祖母はアホ太郎を呪って亡くなった。

 姉も同じように誰かを呪ったと言っていた。


 そして両親と、祖父を殺した者の霊魂との会話が成り立たなかったということは、その者達が能力者でない以上、呪われた側。


 だから負の連鎖なのか。


「正直幸恵様の事件と俊明の事件が起きた際に、そこに何か関連があるとは思っておりませんでした。しかし真梨様と美鈴様夫婦の事件が勃発し、いい知れぬ不安を当主様は感じておりましたが、その正体には気付けないままでした」


「そこに白芭の古い因縁が絡んでいたなら説明がつくと?」


「当主様が生きている間に起きたこの全ての出来事が例の外道出現により起きたことなら高彬様の輪廻転生のタイミングを見ても間違いないかと」


 隣で響子が輪廻転生って何!?と目をキラキラさせて瀧田と絵梨を見比べているが、それどころではない。


「まず、我々の方が不利な立場に立たされていることを理解している?」

「後手に回ったことですか?」


「それもある。けれど、その理屈からいえば、奴は白芭のことを熟知している。4代前からうちに呪いをかけ続けているなら我々の行動もわかっているはず。派手に動けば気付かれる」


「確かにそうです。しかし白芭の人間でありながらその誰もがその存在を巧妙に隠していた人物が1人だけいます」


 絵梨と響子が目を見開く間、瀧田は真面目な表情で言い放った。


「誰もがあなたの自由を許し、白芭からその存在を隠し続けてきた、そのお陰で今あなたは無傷でいられているのです。それは逆に外道もその存在をまだ掴めていないということです」


 皮肉にも何にもなっていない。

 母が次女には白芭を継がせないと祖母と取引し、それに同調するように誰もが隠して来た人物が、初代の依代?


 出来過ぎた話だ。

 しかし懸念事はそれだけではない。


「私たちは相手のことをいにしえの因縁ということしか知らない。相手がどんな相手なのか、男なのか女なのかもわからないのよ。不利というのはそういう意味も含まれている」


 渋い顔をする瀧田もそこは理解しているのだろう。

 しかしその重い空気を打ち破ったのは意外にも響子だった。


「それならもう少ししたら分かるかもよ」

 はい?


「この間住職さんからもらった白芭に関する冊子を解読しててわかったのは、あの書物。白芭の成り立ち。つまり呪いをかけられた経緯や原因、呪いを行った人物に関することが書かれているみたいなの」


 ・・・・・・・・なんだって!?



 

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