32、輪廻転生
いきなりぶっ飛んだ話で、頭が痛い。
追いつかない思考で考えようとしても否定が先に来てしまい、纏まらない。
だってそうだろう。
近年、漫画や小説でそういったものが普及しているが、それはあくまでフィクションだ。
作品と思えばその設定は面白いと思えるが、現実となれば別問題だ。
だっておばあちゃんが白芭葵子、2代目の生まれ変わりってことでしょう!?
「信じられないのも無理はありません。当主様も生まれた時にはそんな記憶は存在していなかったのです。しかし・・・御結婚され初夜を迎えられた直後、記憶が蘇ったのです」
「待ってよ。瀧田さんはそんな話を信じたの?」
「私も最初は信じられませんでした。しかし初夜の翌朝取り乱した俊明様と閨で半狂乱の朋恵様を見たら、信じるしかありませんでした」
俊明って、おじいちゃんが取り乱した?
何があったというのか。
「初夜を迎え、朝になり隣にいる妻を見たら驚愕な表情を向けられ『何故ここに実睦がいるのだ』と言われ俊明様は他の男の名前が出て来て驚いておりました」
、、、白芭実睦は2代目葵子の〈鍵〉だった方だ。
「その時俊明様は思わず『朋恵殿?』と当主様の名前を呼ばれたそうですが、その時に『私は葵子だ!妻とは違う名を呼ぶなど無礼であろう!』と反論したと言うのです。寝所を飛び出した俊明様に私が呼ばれ、朋恵様の所にかけつけた時には、現実と過去の記憶と混ざった状態で髪を振り乱してぼろぼろと泣きながら『何故今私はここにいるのです!しかも白芭の子孫として!?どう言うことですか!お祖父様!』と叫んでおられました」
違和感を覚え、絵梨は目を眇めた。
お祖父様?
「白芭葵子は2代目よね。お祖父様とは誰のこと?」
「・・・そのことですが、後に当主様が仰られたことですが、白芭の家系図には不備があるとのことです」
不備、とはどう言う意味だ?
「白芭葵子様は、本来は3代目なのだそうです」
初代と白芭葵子の間にもう一人いると言うこと?
「家系図から消えた2代目様。白芭琴子様という人物が実在していたそうですが、初代様と記述が混ざり2代目様の名を隠したのだろうと当主様は憶測されていました」
「何故隠す必要があったの?」
「それは・・・白芭がいかに崇敬に値するか知らしめるために一族の見栄の表れだろうとのことです」
隠した。
不都合なことがそこにあったからか。
「初代か、2代目のどちらかが使えない人物だったってこと?」
「そうではありません。初代様は巫女でありながら呪いによって白芭姓を与えられたのはご存知だとは思いますが、呪いはそう単純なものではなかったようです。ある文献を探し出し裏どりは取れています。初代様は呪いにより巫女から陰陽師の体に作り替えられたと考えればわかりやすいと思います」
神の声を聞いていた巫女が、陰陽師に?
聞いて最初に感じたのは、それは酷な話だ。と言う感想だった。
陰陽師で有名なのは安倍晴明だが、本来の陰陽師は陰陽五行思想に基づき、占い、天文観測、暦の作成、呪術(厄払い)などを行った技術系国家公務員のことだ。
そのうち先の3つは知識があれば誰でも出来たが、最後の呪術に関しては“素質がなければ“出来るものではなかった。
平安時代には朝廷に属さない民間の陰陽師もいたらしいが、国の機関である陰陽寮に所属する陰陽師(公式陰陽師)は定員6名だったと記録されている。
そこに特例で割って入った一族、それが女性家門の白芭だった。
しかし、だ。
生まれてこのかた巫女として自然に神の声を聞いて来た人が、陰陽師になれと言われて呪いにかかってすぐに陰陽師の術が使えたとは思えない。
そうなれば、白芭の初代の功績と彼女への異常なほどの崇敬の念は異質を放つ。
絵梨は知っている初代に関することを口にした。
「初代は【巫女時代も朝廷の筆頭巫女であった時と同様、白芭の当主としてその力を朝廷のために力を大いに奮った】白芭の至る所にその記述は残されているわよね」
「はい、しかし古い文献を詳しく調べて見るとその時期がズレているのです」
「ズレ?」
「初代様の功績が記述なされた時期が呪いにかかって11年後、目紛しい活躍をし始めたのがそれから4年後になっているのです」
空白の時間がありすぎる。
それを意味するのは、何だ?
「御託や質問はいい。結論を言って」
「はい。初代様は呪いを受けてから当然ですが神の声は聞こえなくなり、その後思うように呪術を扱うことが出来きなかったようです。そんな時に朝廷より勅命を受けた。と文献には記載されております」
【次代を直ぐに作り、白芭の存在意義を示せ】
絵梨は唖然とした。
「つまり子供を産め、と?」
「そうです。その勅命の翌年琴子様が誕生し、当時第一の儀式を受けられる10歳の頃に琴子様は能力の1次開放を行い、その眼だけで新しい主上の期待に応えたそうです」
「つまり初代の功績と言われたそれらは2代目の功績であって初代のものではなかったってこと?それより保健師として気になったんだけど、目紛しい活躍がその4年後っていうのは彼女が〈鍵〉を受け取ったってことでしょう。14歳で結婚って早くない?」
「いいえ。あの時代は初潮を迎えれば結婚出来たようですので珍しいことではありません」
いやいや、保健師の立場からすると成長過程の若人になんつー酷なことを、、、。
「酷なのは初代様の心情も考えず朝廷が出した勅命でしょう。あの頃は紋を持つ者が1代に1人と知られていなかったので、次々と子を設けろと指示されていたようです。結果5人のお子様を10年の間に設けられておりますが、完全紋を持って生まれたのは琴子様お1人だけ。下の御兄弟の内お2人は男児。残りのお2人は半紋と薄い完全紋を持った女児だったそうです」
それ以上の説明は不要だ。
時の主上は自分の地位を確固たるものにするために、完全紋を持つ者を大量に生産させ朝廷を支えるように仕向けようとしたが、結局正当な後継者は一人しか生まれなかった。
人の心情を無視した勅命をするような朝廷なら、完全紋を持つものを産まない、産めない初代に非難の言葉を平気で吐いたはずだ。
やり切れないな・・・・。
「勅命が下った直後、憤りを感じたのは初代様の〈鍵〉方様だったようです。あの当時のお産は命懸けです。なのに沢山設けよと言う朝廷の意見を聞き、それが本当に正しいことなのか呪いを詳しく調べるために陰陽寮に要請を出し受理され、陰陽師の加茂家の当主様が10年に渡ってその分析を行なっていたようです」
陰陽師二大家門、安賀両家。
安倍晴明を輩出した陰陽道宗家、阿部氏。
同じく陰陽道宗家、加茂氏。
阿部氏は後に分家の土御門家。加茂氏は分家に幸徳井家を輩出し、この陰陽師支配の一翼を担っていた。
その加茂家の当主が呪いの分析を?
白芭の初代、櫻の〈鍵〉。白芭高彬の要請で行ったと?
「白芭高彬とは何者だったの?」
初代、櫻の要請で陰陽寮の人間が動くならまだしも、〈鍵〉方の要請で動くなど本来はあり得ない。
余程の高貴な身分か、高官でなければ阿賀両家の一つが動くとは思えない。
なぜなら彼らは主上のためだけに与えられた存在だから・・・。
「高彬様は元々、加茂家の門下生だったそうです」
予想を外して、陰陽師の卵だった!?
だが、本家本元の出身であったなら、白芭の家系図に堂々と加茂家出身者として記載されていただろう。
でもそれがなかったと言うことは・・・。
「分家だったってこと?」
「いいえ、養子だったそうです」
あの時代の平安後期。
阿賀両家では熾烈な競争が行われており、安倍晴明一強の時代が終わり両家の力は拮抗していたと言われている。
そんな中、一族の力だけでは心許なかった陰陽師たちは阿賀両家に留まらず他の陰陽家も素質のある若者をそれぞれが支援し、強い陰陽師となれる者を養子に迎えたと言う。
「初代の〈鍵〉が加茂家の養子?認められてたってことは陰陽師だったの?」
「そのようです。呪いの本質を理解せず闇雲に子供を産むことが正しいのか。疑問に思われた高彬様の要請で義父を召喚し調べてもらったようです。加茂家の陰陽師総出で10年かかって漸く、5人目がお子様がお腹にいる時に一代に一人の正当な後継者が生まれると結論づけたと記載されておりました」
「ふーん、その高彬って相当優秀だったのね。陰陽寮の半分近くが動いたってことでしょう?よく主上が許したよね」
「そこは、筆頭巫女をそんな風にした前主上のツケを払う形になり、致し方なかったようです」
(!?前主上!)
「・・・・代替わり?」
「いいえ、白芭誕生を望んだ主上はまだ二十代でした」
「ツケ・・・・ああ、引きずり下ろされたのね」
「そのようです」
筆頭巫女の能力を細く長く続くように呪いをかけられ、白芭が誕生している。
時の主上もまさか筆頭巫女が呪いにより陰陽師とそう変わらない者になるとは思っていなかったのかもしれないな。
血の縛りで筆頭巫女が以前より劣った者となったことで他の皇族から反発が出て、その座を奪われたのか。
臣下の手前、その後主上となった者が後始末を行わざるおえなくなった。
そこには打算もあっただろう。
白芭を救済し、末長く後世まで支えてもらうことも含まれていたのかもしれない。
実際政治の中心となる人や組織にずっと白芭は寄り添い続けて来た。
約30年前までは、祖母も政府に出入りしていた記録は残っているのだから。
この話の行き着く先が何なのか今はまだわからないけれど、自分にも関係していると言われている以上、無意味に聞こえることでも聞くしかない。
考えをまとめていこうと絵梨は思考を巡らせた。
「なぜ2代目の記述が省かれたのか。少しずつ見えて来たけど、初代は最後まで“白芭“になれなかったの?」
「いいえ、一番身近にお手本がおられましたから呪いを受けてから15年後には白芭の顔として朝廷に立っていたそうです。ちょうど、琴子様が葵子様をご懐妊した頃に入れ替わるように」
一番身近のお手本ね。
〈鍵〉である高彬が陰陽師であったなら確かにそうだ。
「そこからは軌道に乗った白芭は表で活躍する阿賀両家の裏方として朝廷を長い間支え続けました。『しかしその影で消し去られた者がいることを我らだけでも覚えておかなければならない』と朋恵様はおっしゃっておられました」
本当の2代目、白芭琴子か。
葵子の母であったなら、忘れようと思っても忘れられぬ存在だろう。
白芭が解体され家系図も更新する必要性がなくなった今、確かに覚えておくくらいしか我々にできることはないか。
「不満はなかったのだろうか?」
「琴子様のことですか?葵子様としての記憶のある母君は初代様。つまり櫻様至上主義だったそうで、恐らく喜んで功績をお譲りになったのだろうとのことです」
「、、、、マザコン?」
「それとは違うようです。白芭の始祖となる存在の櫻様を敬うように全ての子にそういう風に育てたのは高彬様だったようです。しかし予測不能だったのは琴子様に限っては思っていたよりも病的なほどに櫻様を慕いすぎて、高彬様でも途中その思想を止めることができなくなりお手上げ状態だったそうです」
病的?
なんだろう。要臭が漂う感じが、恐ろしいんだが・・・。
まあ、二代目本人が気にしてないなら家系図から消えていることは一旦置いておこう。
「琴子様が葵子様をご出産後は2人で朝廷に出廷していた関係で、高彬様がお孫様である葵子様のそばにいることが多かったのだそうです。そして幼い頃から陰陽師本家の流れを汲む祖父、高彬様から直に術を教えられ来た関係でお2人の関係は師弟関係でもあり、かなり距離が近ったようです」
!!!?
陰陽師直伝で術を学んだ!?
その白芭葵子の記憶を思い出したという祖母。
もしかして白芭の女帝って!
ガタリ!とソファを立ち上がった絵梨を瀧田は静かに見つめた。
「もしかしてお祖母ちゃんが白芭の女帝と言われていたのは、前の人生で3代目として生きて来た記憶を持ってたから?祖母ちゃんが若い頃から術者としてオールラウンダーと言われていたのは、、、、白芭として2度目の人生を歩んでいたから!?」
「そう言うことです。当主様もズルしているようで気が引ける。とおっしゃっておりました」
そりゃ、他の当主達が1から学んで来たことを最初から知っていればカリスマ性が生まれても仕方がない。
「補足するなら朋恵様は結婚する前から術を学ばれた際、1度で全てを覚えられる方でした。当時は前世の記憶はなくとも体が覚えていたのだろうと亡くなる前におっしゃっておられました」
輪廻転生ねぇ。
白芭の女帝がどうやって誕生したのか裏話はわかった。
その上で初夜の翌朝、白芭葵子の記憶が蘇った祖母が放った言葉が問題だ。
『何故今私はここにいるのです!しかも白芭の子孫として!?どう言うことですか!お祖父様!』か。
白芭葵子の言う祖父とは陰陽師だった高彬のことを指しているなら、生まれ変わり、輪廻転生を望んだのが彼だったと言うこと?
でもなぜ?
「白芭高彬はなぜ、孫を輪廻転生させたの?そもそもそう仕組んだのは本当に高彬だったの?」
「・・・・高彬様が亡くなる前、葵子様に2つのことを告げていたそうです。宿願としてその役割を補ってほしいと懇願されたのだそうです」
2つの願い?
「この記憶は残念なことに朋恵様が亡くなる少し前に思い出したもので、高彬様は巧妙にその記憶を封じておられたようです」
「どう言う意味?初夜の日に白芭葵子として記憶が蘇った時に思い出したわけではないってこと?」
「朋恵様曰く、『高彬様の生まれ変わりと邂逅したその瞬間、その願いを思い出した』『その意味を知るために〈鍵〉方が代々受け継がれて来た手記の冊子をひっくり返したのだ』とそうおっしゃったのです」
(!?)
「高彬の生まれ変わり!?今この時代にいるの!」
「はい。そしてそれを意味する事は、高彬様が宿願と言われたことに関わることにも繋がります。まずは絵梨様。あなたのその紋が大いに関係することです」
「・・・・・初代と同じこの紋が?」
「そこは聞いておられたのですね」
「うん、叔母さんに。お祖母ちゃんが亡くなる直前に教えてもらったって。ただそれ以上のことは叔母さんもわからないって言ってたわ。詳しいことは瀧田さんに聞いてとも言われた」
「そうですか。では紋の話から致しましょう」
次話は来週月曜日予定です。
よろしくお願いします。




