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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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29、影のキーマン 


保険でR15指定にしておこうかと一瞬迷って、やめたんだけど。

あれくらいは大丈夫、、、、だよね?


誤字脱字、修正しました。


 翌日要は目が覚めて驚いた。

 普段はショートスリーパーで短い時間で睡眠が足りるのに、自分にしては長い時間ノンストップで寝ていたようで、平日ならすでに出社時間じゃないかと額に手を置いて嘆息した。


 しかし自身の腕の中にすっぽり入り込んで丸くなっている存在を感じ、次の瞬間頬を緩ませた。

 昨日絵梨が心に溜め込んだものを吐き出してくれたこともそうだが、彼女なりに泣いて甘えてくれたことが嬉しくて少し暴走気味に行動してしまったが、2人の距離が縮まったことは結果オーライだったと心が躍った。


 腕の中であどけない寝顔を晒してほぼ裸で寝ている愛しい存在に、また下半身が反応するが、せっかく縮まった2人の距離をここで無に帰すのは望まないと我慢した。

 起こさない程度にその頬を指の甲でそっと触れていると、くすぐったかったか身じろぎしたが、そのまままた静かに眠った姿を見ては幸せを噛み締めていた。


 どれだけ見ていても飽きないな。

 起こさないように抱きしめジッとしていたが、一向に治らない自身の息子に、このまま彼女が起きて来たらまた怯えられると、静かに退出して浴室に篭った。


 昨日に続き、真冬に水をかぶるとか何してんだと感じながら、それでも昨日の彼女の乱れた姿を思い出しては何度も欲望を吐き出し、何とか沈め、寝室に戻れば愛しい婚約者はまだ夢の中だった。

 外はすでに朝というには陽が高くなっており、そろそろ起こそうかと迷っていると玄関のチャイムが鳴った。


 絵梨は意識の遠いところでその音を聞き、肌触りのいいシーツの感触を肌で感じながら身じろぎしたが、額に温かなものが当てられた。

「エリンは寝てていいよ。誰か客が来たようだ」

 そう言って要が寝室から出て行った後、絵梨は素直に意識をまた夢の住人へと向かわせた。


 要は、せっかく絵梨との休日を邪魔され機嫌悪くインターホンを覗いて、眉間に皺が寄った。

 そこには三日連休最終日であるにも関わらず、仕事関係で見知った人間がソワソワと立っていた。

 来る予定も用事もない相手にため息が出た。


 インターホン越しに返事をすれば、落ち着いた女性の声が聞こえてきた。

「副社長お休みの所、申し訳ございません。急ぎ確認して頂きたい資料がありましてお持ちしました」


 そう言われては断れないと、オートロック解除をして部屋まで来てもらった。

 このままの状態で来客に会うのはまずいと、風呂上がりで全裸の要はウォークインクローゼットに移動し早急に服を着込んだ。


 数分後、玄関で対峙したのは、昨日堂本から会議中に結婚相手にと話が上がった秘書の絹谷だった。

「資料を確認して頂きましたらすぐにおいとまいたします」

 しおらしく言う彼女に要は顔を強張らせたまま、室内に入れた。


 彼女は要と同い年の同期でもあったが、真梨や絵梨とは違う美人の部類で昔から男性から好意を向けられるのか一人でいるところを見たことがないほどモテる人種ではあった。

 大人しい性格で垂れ目も相まって庇護欲をそそられると言っていたのは誰だったか。 


 副社長と秘書という関係上よく顔を合わせる仲ではあったが、要は彼女のことを全く女性として意識したことはなくこの間も会議中になぜ彼女との結婚話が出たのか嫌悪感しか生まれなかった。

 リビングにある応接セットのソファに対面する形で座りスマホをテーブルの上に置いた要は、気怠さもあり座っていたソファに完全に体を預けた。


 そんな要がいる場所のテレビ台上部にあった絵がなくなっていることに気がついた彼女はフフと笑った。

「あの絵は処分されたのですか?」

「人にゆずった。それがどうした?」


「いいえ、あまり良い趣味には思えなかったので譲られて正解です」

 その言い方に棘を感じ眉間に皺を寄せた要に、絹谷は慌てて訂正した。


「誰かから譲られたものと伺っておりましたので、副社長が気に入られていたとは知らず失礼致しました」

「どうでもいい。それより資料をくれ」


 機嫌悪く言えば、持っていた茶封筒から資料を取り出した彼女は笑顔で要に渡して来た。

 無言で受け取り、何枚かある資料を一枚一枚目を通し目をすがめた。


「絹谷さん、これを誰が持って行くように指示したんですか?」

「え?それは堂本さんが」

「この資料は急ぎとは違う。明日会社に出勤してからでも充分だし、納期的に見ても来週でも問題にならないものだ」


 わざわざ用事を作って休日にここに来るなど他の思惑がない限り説明がつかない行動だ。

 ましてやこの間の結婚話だ。

 いやでもその思惑がなんなのか余程のバカでない限り気付かぬ訳は無い。


 では堂本がその思惑に同調して彼女をここに寄越したのか。

 あり得ない。

 一昨日堂本には、俺が口説き今すぐにでも一緒になりたい人がいると説明し、今後は誰の横槍を受け付けないと言ったばかりだ。

 以前ならともかく、このタイミングであいつが俺の望まないことに加担するとは思えない。


「本当に堂本がこれを君に、休暇中の俺に渡して来いと言ったのか?」

 険しい顔でそこまで言えば、彼女は慌てて弁明して来た。


「申し訳ありません、もしかしたら急いで受け取ったので、堂本さんが違う書類を渡されたのかもしれません」

 あくまで堂本がミスをしたと言いたいのか?


「そうか、それなら今ここで堂本に確認の電話をしてみていいか?」

「どうぞ」

 落ち着いた様子で笑みを浮かべて言う彼女は、困っているようには見えず首を傾げた。


 本当に堂本が頼んだのか?

 そう思ってスマホを取り上げた時、寝室の扉が開き要は思考が停止した。


 部屋から出て来た絵梨の格好が、全裸で下にショーツのみの姿を目の当たりにし慌てて駆け寄った。昨日Tシャツを脱がしたことをこの時本気で後悔した瞬間だった。



 その少し前


 絵梨はもう一度夢の住人になれるかも〜と身をゆだねて、体感的な時間にしたらすぐだ。

 悪寒とも違う何かの()()を感じて一気に意識が覚醒し目を見開いた。


 要の住居に誰か入って来たようだが、あまりの不穏な空気に落ち着かなくなり、横向きのまま上半身を起こした。

 冷や汗が出るほどの緊張する空気感に肌がビリビリする。


 何かが絵梨のテリトリー内に侵入して来た。

 漠然とそう感じたが、頭はまだ寝ぼけていたかもしれない。

 不穏な気配が気になり、何も考えずに寝室の戸を開けて出たのだが、要がものすごい形相で駆け寄り、ぎゅむっと一切の隙間なく抱きしめてきた。


「エリン駄目じゃないか、そんな格好で出て来て!」

 どんな格好だ?と自身を見下ろし、悲鳴を上げかけた。


 全裸にショーツ1枚で人前に出ればそりゃ要もなりふり構わず、絵梨の姿を隠すはずだ。

 しかもお客様がいる前でだ。


 さすがにこれはまずいと絵梨も要に抱きついたが、それ以上に部屋の空気が異常に重たく思わずその気配がする方に顔を向けるが要が隙間なく抱きしめている関係で全く見えない。


 室内にいた相手は絵梨の存在に気がつき、慌てて部屋から出ようと移動したようだ。

「申し訳ありません、お客様がいらっしゃるとはつゆ知らず。今日はこのまま退出致します」

「そうしてくれ!」


 退出しようとする人物の声で客が女性であると気がついたが、絵梨はその相手の後ろ姿を目で追って、その存在に釘付けになり凝視した。


 彼女は一目散に部屋を出ようとしていたが、絵梨の目にはそこには彼女1人だけでなく2人に重なって見えた。

 彼女の首に、巻き付いている腕とそれに繋がる体躯からドス黒くもキラキラとしたオーラを放つ長い髪の女性が浮いた状態で存在していた。


 退出する女性を守るかのように、白いワンピースのような衣装を身にまとったその者は後ろ肩から前側に腕を回しピッタリと彼女にくっ付いていた。

 目は全体が窪み真っ黒な状態で、両目の端から黒い涙を流していた。


 足がしっかり存在している以上、あれはただの浮遊霊ではない。

 そして何よりその者の顔を見て、絵梨は驚き時間が止まったように感じた。


 退出する女性に()()()いる者が絵梨に気がつき、顔を傾け180度首を回すと絵梨に向かってニタ〜っと笑った。


 重苦しい空気の中、この時絵梨の脳裏にカチッと機械じみた音が聞こえ、黒い涙を流す者が何かを呟き、その言葉のあまりの衝撃に絵梨は目を見開いたまま、固まり動けなくなった。

 その出来事は一瞬であったにも関わらず長い時間に感じた邂逅に、ドッと冷たい汗が全身から噴き出るほど衝撃的だった。


 要の住居玄関が閉まる音が聞こえた瞬間、止まった時間が動き出したように絵梨は呆然とその場に力無く座り込んでしまった。


 彼女が部屋を出る直前、憑いている者が振り返ったその顔は・・・・・・信じられないことに、姉の真梨そのものだった。


 何が起こったのか分からなかった絵梨は、座り込んだ状態で無意識に涙が溢れた。

 要は何が絵梨の琴線に触れたのか分からず、着ていたカーディガンを絵梨の肩にかけ、一緒に座り込みずっと抱きしめたまま何度も背中を撫でていた。


 絵梨は頭が混乱し、思考が空回りする。


 あれは、なんだ?

 あれは本当に姉だったのだろうか?

 昨日早朝の回想夢で、姉は誰かを呪って死んだと聞かされたばかりだ。


 どうしてあの人に憑いているのだろう?

 その前に今、出て行った人は誰だ?

 姉とはどういう関係なのだろうか?

 疑問は尽きなかった。


「要くん、さっきの人は誰?」

 呆然と呟けば、要は淡々と答えてくれた。

「彼女か。秘書課の人間だ。急ぎの資料に目を通して欲しいとここに来ていた」


「秘書課・・・名前、なんて人?」

「絹谷だ。絹谷姫奈(ひな)。彼女がどうかしたのか?」

 要の言葉に、一呼吸して絵梨は答えた。


「姉さんがいた」

「え?」

「怨霊となって姉さんがあの人に憑いてた」


「待て!本当にマリンだったのか!」

「だって!姉さんそっくりだったし、トレードマークだった口元のほくろもあった!ただ・・・・その顔は悲しそうで、目から黒い涙流してた。どうして!どうしてあの人に憑いてるの!!」


 重苦しい不穏な空気に当てられ、脳内は混乱し頭を抱えて子供のように声を出して泣く絵梨を要はどうしていいか分からなかった。

 時間が経てば落ち着くかと待ってみたが、取り乱したまま一向に泣き止まない絵梨を心配しシーツでグルグル巻きにして宇崎の邸宅に向かったのはどうしようもなかった。


 宇崎の本宅に上がり込んだ要は、簀巻き状態の絵梨を抱えていた関係で異様な程いろんな人間に睨まれながら尋問を受けていた。

 遅れて出迎えた真一と恭二は呆れ顔だ。

「どう言う状況だ?」


 簀巻き状態の絵梨が醜聞も忘れて大泣きである。

 またベットで泣かしたのかと冷たい視線を向けられた要は、さっきあった出来事を話せば、真一は顔を強張らせた。


 宇崎の応接室に通された時、ここで響子に絵梨を奪われ要と一触即発かと思われたが「まずは服を着せましょう」と柔らかい口調で言われて流石の要も了承した。


 その後、退出した絵梨に思わぬ来客が来たのはその後すぐのことだった。

 宇崎を訪ねて来たのは、絵梨が待ち望んでいた白芭の女帝の長年付き人であった瀧田だった。


 服を着て応接室に戻った絵梨は落ち着くどころか先ほどよりも混乱したように目はうつろで頭を抱えて泣き叫んでいる状態だった。

 そんな状態の絵梨を見て瀧田はその場にいる全員を部屋の外で待機するように告げた。


 白芭関係の人間とはいえ信用していいのか宇崎の面々は悩んだが、絵梨を落ち着かせる術を持たない者達は結局皆がすごすごと立ち去って行った。

 一人、要を除いて。


 要は困惑気味で瀧田を凝視し、それに気づいた瀧田も要を見るや否や丁寧なお辞儀をして来た。

「覚えておいででしょうか?数年前、病院で我があるじに手を差し伸べて頂いた心優しき紳士様」


「どこかで見た記憶があり、考えておりましたが。病院・・・・もしかして私が祖父の見舞いに行った際にお会いした方の?」

「はい。あの時廊下で人にぶつかり座り込んでしまった方が私の支える主、白芭朋恵様。絵梨様の祖母にあたる方です」


 まさか偶然絵梨の祖母、白芭の女帝と呼ばれた人と会っていたとは思わなかった要は、縁とは皮肉なものだなと複雑な気持ちになった。


 祖父があれだけ白芭を追っていたのに、自分の死に際になってまさか同じ病院にいたとは夢にも思わなかっただろう。

 しかもそれがエリンの祖母とは。


「エリンの祖母君だったとはつゆ知らず、すぐに立ち去る対応を取ってしまい申し訳ありません」

「とんでもございません。急患対応で急いでおられたのは見ていて理解しております」


 その階の患者が急変し医師達が急いで向かう際に、医療従事者の1人が廊下にいた朋恵とぶつかり主はその場に座り込んだ。

 そこへ要に手を差し伸べられ立ち上がった朋恵は、その青年がその後医師達に続いて同じ病室に入るのを目撃している。


「それにあの時の邂逅があったからこそ絵梨様の〈鍵〉に相応しいと主は直感しすぐに調べましたので、今があるのです」


 なんと言う出会いであったのか。

 これが運命と言うものなのだろうか。


 そう言う意味では祖父は最後に良い仕事をしたのかもしれない。

 父が聞けばそう言うだろう。


 二人が話し込んでいる間も絵梨は醜聞も忘れて声を上げて泣いていた。

 声を押し殺して静かに泣くことしかしていなかった絵梨では考えられない泣き方だった。


「エリン」

 泣き崩れて床に座り込んでいる絵梨の肩を掴みオロオロと顔を覗き込んだり背中を撫でたりしている要に瀧田は目を緩めて口を開いた。


「今現在、絵梨様は初めて呪術を目の当たりにし混乱している状態にあります。静めますので、要様もご退出願います」

「ここにいてはいけませんか?」


 心配で仕方ない。と絵梨を抱き込む要に、瀧田はそこは譲らなかった。


「申し訳ありません」

 絵梨を落ち着かせることが出来ない以上、瀧田に頼るしかない要は、仕方ないと絵梨の頭にキスを落とした。


 いまだオンオンと泣いている絵梨を残し「終わったら声をかけてください。廊下で待機していますので」と要は自分の不甲斐なさを痛感し苛立ちながら退出した。


 それを見た瀧田は眉を一瞬下げたが、すぐにポーカーフェイスに戻ると絵梨の後ろに周り「祓います」と九字を切った。


 右手人差し指と中指を掛けるように伸ばし、他の指を曲げて空中で横縦交互に4本、最後に横1本、格子状に直線に刀印で結んだ。

りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん


 そう唱え最後は検印(両手の指を内側に組み、人差し指と親指だけ立てて2本の指をピンと張って合わせる形)を組み、絵梨の頭上から地面に向かって斜めに空間を切るように素早く振り下ろした。


 その直後絵梨の周りの空気が、透明な薄い板のようなものが斜めに切り裂かれ、後にパリンと細かく割れたように見えた。

 その瞬間絵梨を中心に渦巻いていた不穏な空気と負の感情のようなものが霧散し、瀧田が絵梨の両肩を一度だけバン!と叩いた。


 その衝撃で正気を取り戻した絵梨は、今まで泣き叫んでいたのが嘘のように黙り、呆然と床に手をついて肩で息をしていた。


 



明日1話投稿予定です。

よろしくお願いします。



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