27、立ち位置 ⭐︎
保険でR15指定にしておきます。
「白芭用語で言えば私は異分子なんだそうよ」
絵梨の言い分に要は憤慨し声を荒げた。
「誰がそんなことを言ったんだ!?」
「お祖母ちゃんや姉さんはそんなことを言ったことはないわ。でも分家方の人たちはよく口にしていたわ」
分家方、、、エリンを卑怯な手段を使ってでも探していたあいつらか、と要は絵梨に回していた腕の力を強めた。
「逆さ紋が問題だったのか?」
「、、、過去、そんな紋を持って生まれた者はいないとされていた。すでに正紋を持って生まれた姉の真梨と逆さ紋持ちの私。どんな形にしろ完全紋が出現した者が1世代に2人誕生したことは過去に一度もない。だから私が生まれた時、白芭内でも相当荒れたと聞くわ」
要がぎゅっと隙間なく抱きしめて来たが絵梨は弱り顔になって言葉を続けた。
「分家方を黙らせる意味もあったんだろうけど、祖母は家系図に姉の名前だけ記載し、私を排除した」
「それは、、、エリンを守るために行ったことだろう?」
「今冷静に考えればそうなのかもと思えるけど、幼い頃の私には周りが言う通り『異分子』『余計な存在』『いらない子』という風に映ったのよ」
だから卑屈だったって言ったのか、と要も悲しくなり腕の力が更に強くなり絵梨は流石に苦しくなって来たと、何度か腕を叩くと意図は伝わったのか謝罪と共に腕の力が弱まった。
そんなやり取りが徐々に絵梨の心を解きほぐしていたのだが、要は気づいているだろうか。そう思いながら、絵梨は更に吐露する。
「次代として幼少期に第一の儀式を受けた姉さんは天才と言われ白芭内でもその地位を確立していた。そこへ私が割って入って行くだけの技量も精神力もなかった」
年1の白芭見学でさえも苦痛で、祖母の仕事風景を見ずに当てもなくフラフラと邸宅を彷徨いていた時、従業員たちが囁いていた。
『名は体を表すとは言うが次代として正式に指名されている真梨は、真の梨(次代)だが、おまけの存在である絵梨は絵に描いた梨(偽物)である』
陰口を叩き、失笑していた者の言い分は隠れて聞いていた絵梨も的を得ていると思っていたことだ。
『あんなことを聞く必要もないし気にしなくても良い。だって君は特別だから』
幼い頃そう言ってその場から連れ出してくれた人がいたが、あれは誰だっただろう。
曖昧な記憶は彼方に追いやり、要に集中して話を戻した。
「どんなに努力しても姉には敵わない。年が離れていたこともあるけれど、その絶対的強者を前に私は全てのことから逃げたのよ。そんな私が姉の代わりに後釜に座ろうとも思わなかったし、対抗しようとも思えなかった。姉とは良い思い出だけで過ごしたかったから」
「切磋琢磨することも出来たけど、エリンはマリンの立場を優先したんだね」
要に言われて、これまでとは違う涙が溢れた。
「だって不出来だ異分子だって言われた私が姉さんと張り合ったり、下手をしたら足を引っ張るようなことになったら、申し訳ないもの」
「君は優しいね」
「臆病なだけよ」
今でこそ白芭の生き残りとして威厳よく立っているように見せているが、自分自身どこか歪だと感じている。
ハリボテがさもそれらしく見えるように虚勢を張っているに過ぎないのだから。
「エリン、それは違うよ。人の立場に立って考え行動出来る人がどれだけいるか。でも、そうだね。その気持ちを周りの人に伝えていたら、また違う結果にはなっていたかもしれないね」
白芭一族の誰もがワンマンが過ぎると憤慨したが、自分もやっぱり白芭なのか、みんなとそう変わらなかったな。
そんなこと誰も教えてくれなかったし、己の個を大事にする人たちしか見てこなかったから気づけなかったと今ならわかる。
宇崎も立場的には対等のはずだが仲嶺の時の風潮が残り、あそこの一族は絵梨に付き従っているところがある。
己を律し生活している絵梨に文句のつけようがなかったのかもしれないが、むしろこの問題を解決するために我らを引っ張っていってほしいと言う気持ちもあり、強く出れなかったのかもしれない。
そんな中、要の大人の包容力というか対等の立場での助言などを聞いていると、ハッとさせられることもあるし、文殊の知恵ではないが今まで見えて来なかったことが見えてくる。
暗闇の中、手探りで前に進んでいた者に暖かい手を差し伸べられ導かれる安堵のホッと息を吐ける感覚にも似ていて、、、、。
こうして少しずつ話をしていると気持ちが安らぐ感覚がして絵梨は無意識に、片口にあった要の顔にスリっと頭を寄せた。
要はその行為にホワッとしたが、自分を律した。
まずは大事なことは口にしようと要は両腕を絵梨のお腹の上で手を組み体を密着させた。
「エリン」
「何?」
「まず分家方がどう思おうと、君は尊い存在であることは理解してほしい」
お腹に回した腕に力を入れて大事なことを告げる。
「それは俺だけにとどまらず、マリンにとっても女帝と言われた君のお祖母さんも同じ気持ちだったはずだ」
そう思いたい。と絵梨が硬く瞼を閉じ二の句が告げないことに要は片腕を外し絵梨の頭を抱き抱えた。
「昔からマリンは妹のエリンの自慢ばかりしていた。どれだけ君が可愛いくて仕方がないか、目に入れても痛くないと言わんばかりに、女の兄弟がいない俺や宇崎、榊原を前に高々と言っていたほどだ」
へ?姉さんそんなこと言ってたの?
「性格が悪いだろう。欲しくても妹を持っていない者に対して自慢するあいつにどれだけ苛立ちを覚えたか」
半眼で言う要を横目で見て、思わず姉らしいと笑みが溢れてしまった。
「だからマリンは君に対して居なければいいなんてこれっぽっちも思っていなかったよ。それにお祖母さんにしてもそうだ。亡くなる直前のことなのに遺言を残し、俺と縁付けてこの世を去られてる。後の事などどうでも良ければ、知らないと無視することも出来たのにそうしなかったことが君を大事に思っていた何よりの証拠だ。それにこの間夢でお祖母さんの回想夢を見て、その人の思いを聞いて、他の誰でもない君が、こうしていれば良かった、ああしていれば良かったと泣いていたじゃないか」
要の話を聞きながら絵梨は静かに涙を流した。
そうだ。姉のことや両親のことも含めて一緒に解決したかったと言った祖母の顔には無念を口にしながら慈愛が満ちていた。
仲嶺を出て見知らぬ場所での生活にも、かなりの配慮をし支えてくれたのはお祖母ちゃんだった。
卑屈になる癖が抜けていないなと、瞼を閉じ大粒の涙を落とした。
「見えていることが全てではないよ。人の本質は口には出さなくともその行動に起因するものだ」
要がそう言えば、絵梨は黙ってゆっくり頷いた。
「もうその2人はいないけど、俺がそばにいるから」
がっちり抱きしめられ完全に身動きが取れない状態だったが絵梨は戦意喪失していた。
「エリンのために存在しエリンのために行動するから。何より俺はエリンが居なければもう生きていけない」
大袈裟な。
「大袈裟なんて思うなよ」
だからなんで思ったことが分かるんだ。
「エリンは素直じゃないよね。まるで猫みたいだ」
絵梨猫も可愛いがと宣う要に、ジト目を向ければ鼻を摘まれた。
「君はツンデレなんだろうけど、人の好意は素直に受け入れなさい。俺は冗談や揶揄でそんなことは言わないよ」
愛おしそうに絵梨の目をじっと見つめ「まだ信じられない?」と言う男の色気よ。
絵梨は思わず視線を外したが、要は追従をやめず耳元で囁いた。
「始まりは急ではあったけど、俺はいい機会を与えられたと思ったよ。これまで知らなかった世界が開け、それまで見ていた景色が一変し色鮮やかに感じるほど価値観が変わった。これほど愛しいと思える存在ができると思っていなかった俺にとってエリンは奇跡なんだ」
これまで具体的な告白はされなかったが、こうまではっきり言われると恥ずかしさの方が増し、耳に当たる唇から逃れようと顔を背けたが相手が許してくれなかった。
頬に手を添え元に位置まで顔を誘導され、嫌でもお互いの視線が絡む。
「エリン、好きだ。愛してる」
武者震いなのか足元から頭の天辺に向かってブルブルと震え、その後林檎のように真っ赤になると両手で顔を覆った。
「愛してる。愛してるんだエリン」
別にそこは疑ってない!耳元で囁かないでほしい。
「エリンは、、、俺とこうしているのは嫌なんだろうか?」
「それは違う。ただ、、、怖いの」
「何が?」
「紋の影響とはいえ性急な欲情から始まり、お互いが我を忘れた行為の数々は、はっきり言って想像してたものより、その濃厚で、、、、最後は私への配慮もクソもなかったでしょう」
最後は恨み節全開で言えば、要は後ろで一瞬ウッと言葉に詰まったが気にしていることを質問した。
「グズグズに溶かしたことが嫌だったってこと?」
その言い方に今度は絵梨がヒョッと飛び上がり、言い方!?と相手を睨んだが、要は色気を抑えもせずに甘い言葉を吐く。
「愛おしい気持ちが抑えきれずに、甘やかしてあげたかったんだけど嫌だった?」
頼む、これ以上耳元で囁かないでくれ!こうしている間にも(どこが、とは言わないが!)疼き始めて我慢できなくなること自体がもう怖いのよ!
要の顔を再度睨みつければ、イタズラっぽい笑みを浮かべていた。
嫌がってるのを知っててやってるの?
イラついて「わかっててやってる?」と聞けば、蕩ける笑みを向けられた。
「エリン、そんな風になることはおかしなことではないよ。皆んなそうなるもんなんだ」
ウッと口どもる絵梨は、それでも認めたくなかった。
「求めてるわけじゃない」
「正常な反応だよ。今度は独り善がりな行動はやめて、ちゃんとエリンに合わせるし」
「何でやる事前提の話になってるのよ」
「まだそれは時期尚早って分かってるからしないけど、少しでも恐怖を払拭しておこうかと思って」
にっこり笑う要に半眼で見るが相手が一歩も引く気がないようで耳に口付けしながら宣言する。
「覚悟してて、今後は全力で口説くから」
要のその宣言は怖いと思いつつ弱気になって「お願いだからお手柔らかに」と言えばにっこり笑われた。
この話題から離れよう。流されそうになる自分が怖い、と完全に頭を切り替えて話を反らした。
「ところで大学での情報収集はどうだったの?」
その言葉に要は一瞬虚を突かれたように目を見開いたが、その後ニヤッと笑った。
まずは入手した写真を見せようと上着に入っていたスマホを取り出した。
入手の経緯を説明しながら写真を見せれば絵梨は夢中になって見つめていた。そんな絵梨を、足の間から要の膝の上に移動させ、2人でスマホ画面を見つめた。
「確かにこの女性は姉さんじゃなさそう。横にいる人物が榊原雅俊なら浮気相手の1人の可能性があるわね」
「そのことなんだが、あいつの性格上やっぱりあり得なさそうなんだよ」
「何が?どう言うこと?」
眉間に皺を寄せた絵梨に要は昨日友人から聞いた高校時代の榊原の様子を話した。
すると絵梨は顎に手を置いて考え込んでしまった。
数多くの女性に告白されても頑なに姉を思い続けたその行動には、術者に対する忠誠、献身的な態度を示している。そこは間違いなく〈鍵〉として機能していると感じた。
それが大学に入ってから、何かが起こったと言うことのだろうか?
「それと榊原と遊んだと証言した内の1人と接触した者がいて貴重な証言が得られたよ。遊んだと証言した者達全員が意味不明な証言を繰り返したいたのはエリンも知っているだろう」
うんと頷く絵梨を見た要は河野が言っていた不可思議な現象を伝えた。
「『遊んだ』と証言している時だけ、能面のような張り付いた笑みと濁った目をしていた?」
「『榊原』というワードに反応して『遊んだ』と言うお決まり文句が出てくるらしい」
榊原というワード以外の質問が出るとその発言に対し否定する言葉や、なぜ自分はそんなことを言ったのかと口にする、、、、か。
問題はそこだけじゃない。
「しかも遊んだと証言した女性のほとんどが姉さんが所属していたサークルメンバーだったと?」
「そうらしい」
瞼を閉じて思ったことは、榊原の大学内での浮き名は事実ではなく故意に作られたものの可能性が出てきたということだ。
証言者に実際に会って現象を確認しないことにははっきりしないが彼女達は呪われていた可能性を秘めている。
まず証言した女性(達)は、ある特定の言葉だけに反応し、決まった文言を吐いていたこと。特定以外の言葉には反応せず正気に戻っていることから、あり得る話だ。
彼女達はどこかで呪いをかけられたと考えられる。
ではどこで?
不特定の人物が証言していたなら気づけなかったが、姉が属していたサークルメンバーに証言者が集中していることが決め手になった。そのサークルが行われていた教室か集合場所の入り口に呪いを発生させ、そこを通過した者達を無差別に呪いを発動させなら辻褄は合う。
呪いは複雑になればなるほど労力もエネルギーも沢山使うが、それを単純かつ簡易的に行う術がある。
細かい指定をせず、発動条件を簡素化し、発動時間を短時間にここを通過する女性に限定し呪いを発動させれば、決まった言葉に反応させてお決まり文句を言わせることは簡単なことだ。
白芭の人間ならその血と体液だけで実行出来そうだと感じて、顔を強張らせた。
修行らしい修行もしてないのになんで自分はそんな考えが浮かんだのだろう。
しかもその理論でいけば呪いを発動させたのは白芭であると可能性を示唆している。
いくら姉はイタズラ好きとはいえ、婚約者の尊厳を貶めてまでするとは思えない。婚約解消されたとはいえ、紋に縛られた姉が間違ってもそんなことはしないだろう。
そうなれば誰かが榊原を貶めるために呪った結果、彼は浮き名を流されたことになる。
では誰に?
それにその推理が正しければ、目の前の写真の意味合いも変わってくることになるが、なんか余計にややこしくなって来たな。
どうやっても他の術者の影がちらつき始め、本当に私1人で解決出来るんだろうかと不安が込み上げてきた。
「エリン、まだもう1つ不可解なことがあるんだが」
「まだあるの!?」
「榊原は、、、、普通の〈鍵〉なんだろうか?」
「、、、どう言う意味?」
『これより先、私たちは赤の他人だ。間違っても親しいフリをしてはいけないよ。約束だ』
人差し指を唇に当てて言う榊原に親友達は最近まで彼の記憶だけ忘れていた。
その情報に絵梨は驚愕な表情を浮かべた。
次回は来週月曜日投稿予定です。
よろしくお願いします。




