26、胸襟を開く ⭐︎
胸襟を開く;心の内を打ち明けること
後半途中、卑猥な表現が入るのでR15指定にしておきます。
温泉街で叔母と昼食を食べた後、絵梨は誰にも帰ると連絡を入れないまま、新幹線に飛び乗った。
にも関わらず、最寄り駅に着いたその先で迎えに来ていた要の姿を見つけて震え上がった。
絵梨は自分のアパートに帰ろうとしていただけに、看過できないと、顔を隠す意味合いで被っていたキャップのツバを前側に倒しながら踵を返して逃げようとしたがキャリーケースを持っていたことと、運動神経は要の方に軍配が上がっていたことですぐに捕まってしまった。
肩に担がれて、人の目を気にしていると自分がバカを見ると気を失ったフリをして要の車に乗った。
どんだけ体力お化けなのか。
女性1人担いで、もう一方の手はしっかりキャリーケースを持って移動していた。
現在は後ろのトランクにキャリーケースを入れ込んでる要をバックミラーを覗きながら半眼で見やった。
運転席に戻ってきた要に不機嫌顔で横目で見やれば、素早くチュッと頬にキスをされた。
「おかえり、エリン」
笑顔で言う要にため息が漏れる。
「誰にも連絡してないのに、なんでここにいるのよ」
「そろそろ帰って来るとわかって、迎えに来たんだよ」
だからなんでわかるんだ!昨日の髪の毛の一件の時といい、おかしくないか!?
今朝回想夢が見れた要因の一つと思われた、紋がある場所の肌とブラの間に挟んでいるビニールに入った髪の毛だが、、、、。
昨日、要の家から旅館に向かおうと出発する際に、リビングで要に呼び止められて振り返った時、要は自分の前髪の毛を1本抜いて渡して来た。
何の脈絡もなく急に髪の毛を渡され戸惑いしかなかった。
え?これをどうしろと?
差し出された髪の毛を見るしか出来なかった絵梨はおかしくはなかったはずだ。
要も何かに気がつき、キャビネットの引き出しからジッパー付きの手のひらサイズの小さなビニール袋を取り出し、その中に自分の髪の毛を入れて再度絵梨に渡して来た。
「え?何?」
未だ状況を理解していない絵梨に要は笑顔で言った。
「昨日の朝、ベットの中で言っていただろう。髪の毛が欲しいって」
言った。
言ったが今じゃない・・・と項垂れる絵梨に要は真剣な声色で言い始めた。
「旅館に俺が一緒に泊まれないと言うこともあるけど、何が待ち受けてるか分からないだろう。不安なんだ。だからこれがエリンを守る糧になるかは分からないけど、持って行ってくれ」
媒体になり得るものが欲しいとは言ったが・・・まあ邪魔になる程大きなものではないしと受け取り、鞄に入れようとしたら信じられないことを言い出した。
問題はこの先の言動だった。
「肌身離さず持っていてくれ。紋の近くなら言うことはない」
と宣ったのだった。
それはブラと肌の間に入れ込めと?
「いやよ」
なんの呪術だ。
と慄くが、要は一歩も引かなかった。
出る時間が迫っていたこともあり、要に一泊温泉に一緒に着いて行くと言われても困る為、仕方ないとトイレに入って物を適当にブラの中に入れ込んで出て来たが、要に止められた。
「場所が違う」
そう言われて絵梨は震え上がった。
「なんで場所がわかるのよ!」
「なんとなく。紋の近くじゃないだろう」
怖!
面倒で胸の谷間にお座なりに突っ込んで出てきたのだが、なぜか要にはわかるらしい。
嘘でしょう!と慄く絵梨をもう一度トイレに押し込んだ要に、ただの勘なのか?
疑問に感じつつ、今度はズボンのポケット入れて出たら、先ほどよりも機嫌が更に悪くなっていた。
なんでわかるんだよ。
「今度はどこに入れたの?」
質問されたので、無言でズボンのポケットからビニール袋を取り出すと、要がそれを取り上げ絵梨のセーターを肌着ごと持ち上げて強行的にブラの脇、紋の場所に入れ込もうとしたので降参した。
「わかった!わかりました!自分で入れてきます!だから離して!」
1月の寒さに加え、要の指の冷たさが肌に当たりブルリと震えながら、自分の体を抱き込むように腕を巻き付けて言えば要も動きを止めた。
「絶対に紋のところに入れて来て!」
なんでそこに拘るんだよ。
その前になんでわかる?と首を傾げながら再度トイレに入って紋にくっつけるようにビニール袋をブラで挟み込んでトイレから出れば、要はニッコニコだった。
なんでわかる?
脱力する絵梨の降ろした髪の毛の束を手に取ってじっと見る要に、まさかと警戒すればやっぱり言われた。
「エリンの髪の毛も1本でいいからちょうだい」
「・・・・アイテムが決まってからにしようよ」
髪の毛を入れて持ち歩けるアイテムを美容師に聞いてみると言ったのは他でもない要だ。
「その時は俺もまた提出するよ」
仕事で必要な書類を提出するようなテンションで言われ、どうやって言い包めようかと一瞬悩んだが、、、絵梨は考えることを放棄した。
何度も言うが時間が惜しいし、旅館に泊まると駄々をこねられることを思えば安いものだと気持ちを切り替えて髪の毛一本を彼に渡した。
それがあったからか、要は温泉宿に着いてもすんなりと帰って行ったのだ。
髪の毛一本と私は同じ存在なのか??????????
そう思ったのは昨日送ってもらった時だけでなく、温泉に入る時や出る時に嫌でもその存在を目視、肌で感じ、その都度思ったことは『解せぬ』、、、、だった。
〈鍵〉はそういうことが、皆わかるものなのか。
今度瀧田が来た時に聞いてみよう。と切実に思った。
紋を持って産まれなかった母の相手である父は、そんなことは皆無だっただけに参考にならないとそっぽを向いた。
車を走らせた要は今まで以上に機嫌が良かった。
それは彼の会話ですぐに原因はわかった。
「今朝、白芭から委託された弁護士が知崎の本宅に来たよ」
昨日の今日で?思ったより早いな・・・と絵梨は嫌な意味で緊張した。
「弁護士、何て?」
「エリンとの結婚の打診に見えられたよ。父は最初冗談なのかと警戒していたが、俺が知り合いだと言うと目の色が変わったよ」
車を運転しながら、微笑む要に絵梨は最後の単語が気になった。
「変わった?なんで?」
「昔から知崎は白芭とのコンタクトを望んでいたが、祖父の代で諦めた経緯があったと話をしただろう。本物の白芭関係の女性と俺が結婚するならいうことはない。ましてや俺が望んでいると言質も相まって、反対する理由がないと嬉々として渡された書類にサインしていたよ」
祖母はある時期から、一見さんお断りの姿勢を取り始めたと聞いている。
そしてその信念は最後まで貫いていた。
余程信頼する筋からの紹介以外は全て断っていたため、知崎も例外ではなかったのだろう。
「山に関してはエリンに一任して欲しいと一筆書かれていたから、自宅にある絵画を外したよ」
絵画、ってあの部屋にあった絵のことか?
「風景画の?」
「うん、実はあれの中に権利書が入っていて、5年前にあの状態で渡されたものなんだ」
、、、、初めてあの家に行った日に、あの絵がやたらと気になったのはそう言うことか。
もしかしたら祖母が何か・・・。
そこまで考えて絵梨は真っ青になった。
あの絵が飾られた部屋で紋が発動した。
もしかして、あの絵に祖母が何か呪いをかけていて、何らかの条件で呪いが発動し暴走したと考えたならその後、紋に縛られず要が大人しいのにも説明が付く。
「その絵、外してどうしたの?」
「え?エリンに一任するって書いてあったから、ここに来る前に宇崎に預けて来たよ」
グッジョブ!要!!
良かった〜。これで一線越えることはそうないだろう。
と思った絵梨だったが予想を大きく外し、要の住居に着いた後、玄関先でキスの嵐から始まりベット直行の様子に震え上がった。
婚約が決まり興奮した要に、絵梨は本気で拒否の姿勢を貫いた。
無意識に溢れた涙を拭もせずに、当分体の関係は持たないって言ったのに反子にするのかと必死の抵抗を試みた。
要は婚約が成立したことで、約束事が頭から抜け落ちたようだが、絵梨にしたら何も変わっていない内面の実情に不安しかなかった。
あの時、紋が発動したとはいえ、正直言って全てが終わり時間が立つにつれ、徐々に恐怖が押し寄せてきた。
抗いようのない強制的に引き起こされた欲情。
感情の赴くままに快楽に溺れ、大人の階段を登るというより、目隠しをしてバンジージャンプから飛び降りる感覚に似ているほど理不尽なほどの恐怖と性急な性の解放。
短時間に体と感覚を劇的に変化させられた出来事は、戸惑いと恐怖という感情を生み出し忌避する選択肢しか絵梨には持ち合わせなくなった。
最初の経験が普通であったなら素直にこの関係にも現状にもすぐにでも受け入れられたのだろうが、何せ半日以上もの間その腕に拘束され、その間に絶え間なく押し寄せる快感を前に、無力にも彼にしがみ付く事しか出来なかった。
喘ぎ、強烈な快感に何度も果て、いろんな感覚が麻痺し口横から流れ落ちる唾液すらも淫靡で、揺さぶられベットの上で何度も上下に踊らされた。
時間が経つにつれ体力を奪われたにも関わらず、全身が敏感になり彼の吐息すらも肌に当たるだけで痺れ、指で至る所をツーッとなぞられるだけで快感が走り涙が溢れた。
どこにも力が入らないのに、快感だけは逃すことが出来ず、彼を受け入れている箇所は本人の意思とは別に動いているかのように、いつまでも畝り波打つ。
何度も泣きながら止めてほしいと懇願したが、舌が回らずうまく伝わらなかったのか、欲情に染まった彼の瞳は濃くなるばかりで更に何度も揺さぶられた。
本来なら初めて異性と夜を過ごした者は、嬉しいとか喜び、安堵といった感情を持つのだろうが、絵梨は強烈な経験をしたがために、常に律して来た自分がそこまで淫らな姿を晒したことへの戸惑いと強い恐怖だけが残った。
もう一度あのような経験をしてしまうと自分が自分で無くなるような気がした。
〈鍵〉とのあの時間は、2度と元には戻れなく不安が絵梨の気持ちを頑なにしていた。
ただ不思議と要自身に恐怖を抱いているわけでも忌避したいわけでもない。
紋の発動があったとはいえ、彼のことを嫌だと感じなかったことにも自分自身戸惑っているし驚いている。
その矛盾した感情が絵梨を余計にパニックを起こさせ、現状涙が止まらない。
そんな絵梨を見て流石の要も正気に戻り、何度も謝っていたが間違っても彼が嫌いなわけではない。
それをどう伝えればいいのか分からず、彼に対して申し訳ない気持ちが溢れ余計に涙が止まらない。
玄関先の冷たい床に座り込み嗚咽を上げながら泣く絵梨に要は断りを入れた上で抱き上げリビングへと移動した。
リビングには暖房がかかっていたのか、入った途端暖かな空間に触れ少し気持ちが和らいだ絵梨だったが、体は緊張したままなのは要は腕に感じ、慎重に応接セットの前まで移動した。
抱き上げたまま要はソファに座ると絵梨を自分の足の間に座り直させると後ろからぎゅっと抱きしめた。
「少しの間こうさせて」
そう言う要の足の間には硬くなったものがあったが「何もしないから」と宣言されたことで絵梨も黙って頷いた。
要はこの時、絵梨がここまで頑なな態度を取ることに正直理解できなかった。
あの日ここで彼女を抱いたことは、今までの価値観や感覚、それこそ自分の人生が塗り替えられた程、一変したのだ。
これまでの経験を覆すほどの性の解放は心躍ることで、何度でもしたい、心も体も快感に酔いしれたいとそう思える程に幸福感と達成感に包まれた。
故に絵梨は何が心に引っ掛かり、あの行為を忌避しているのか。
もちろん心の距離を先に縮めたいと言われはしたが、要は並行してもいいのではと本心では思っていた。
むしろ並行した方がより距離を縮める助走が着きそうだと思っているのだが、違うのだろうか?
なかなか泣き止まない絵梨だったが、少し落ち着いたのか鎖骨あたりに腕を回している要の腕に絵梨はそっと手を当て、感情を吐露し始めた。
「ごめんね。私、面倒くさいよね」
「そんなことは、、、」
「気に使わなくていいよ。自分でもそう思うもの」
沈黙が落ちる中、要は思い切って質問してみた。
「何がエリンをそうさせてるの?」
「何が、、、か。全てのことに自信がないんだと思う」
全て?
「要は、私の全てがハリボテで本物でないことが昔から卑屈にさせ、特に白芭に関しては忌避し続けてきた。逃げ癖が着いちゃったのね」
言われた言葉に引っかかるものがあり要は再度質問した。
「本物でないとはどう言う意味だい?」
「私は、、、白芭にとってはスペア、いや次代であった姉さんの代替ですらもなかったと言うことよ」
「エリンもマリンと同じように完全紋を持って生まれたのに?」
「本来完全紋は1代に1人しか生まれない。私が正紋ではなく逆さ紋を持って生まれたことも一因してるんだと思う。お祖母ちゃんも徹底して私を隠したがっていたから、恥ずかしかったのかな」
「隠したがった?」
「そう、、、白芭の直系の家系図が初代から記された巻物があるんだけど、そこには仲嶺真梨以外の名が、つまり正式な後継者として私の名は記載されなかった。白芭用語で言えば私は異分子なんだそうよ」
長くなったので続きは次話に。
一見;面識なく初めて訪れる客のこと
一見さんお断りとは、信頼おける常連である人からの紹介でしか取引をしないこと。
これはトラブルを避けるためでもあるが、既存のお客様への極上のおもてなしをすることが目的とされている。
明日1話UP予定です。
よろしくお願いします。




