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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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26/52

25、灯台下暗し



「しっかし、()()()もバカやったよなぁ」


 マドンナの話から思い出させる存在の()()()()に、堂本が口をついて出た。

 あの男が榊原だと誰もが気づき、そして静寂が訪れた。


 要にとっては、思ってもない展開に情報入手しやすくなって助かったと思ったが、目の前の清水と隣にいる河野は違ったようだ。

 堂本の言い分に憤慨したように怒りを滲ませ意外なことに反論して来た。


「悪く言うな」

 低い声で最初に牽制したのは河野だった。


「そうだ。あいつは、、、いい奴だった」

 河野の言葉に肯定するように呟いたのは、清水だ。


 要はこの時、違和感を覚えた。

 この2人は榊原とそんなに親しかっただろうか?


 大学時代を振り返ってもこの2人が彼と話をしている所を見た記憶がなかった要は質問した。

「お前ら榊原と親しかったけ?」


 意外そうに言えば河野が言いにくそうに視線をテーブルから外し床の方に向けた。

 その代わりに答えたのは清水だった。


「俺ら2人が同じ高校なのは知ってるだろう」

 大学のサークル内での清水と河野の自己紹介で聞いていた要は頷いた。

「実はあいつも同高だったんだ」


「、、、初耳なんだが?」

 戸惑い口にする要と違って2人は俯いた。


「俺らも何でかは分からないが、大学に入った途端に向こうが余所余所しくなってそれっきり」

「でもあいつが無意味にそんなことする奴じゃないって知ってるだけに、俺らもどうしていいか分からなくて」


 要はフムッと腕組みし、情報収集と聞き込みを始めた。

「高校時代は仲が良かったのか?」


「常につるんでたわけじゃないけど、結構話の合うやつで空き時間にはよく話をしてたよ」

 懐かしそうに話す清水に、河野は眉を下げて言葉を続けた。

「どっちかって言うと清水がからんで行ってたんだけどな」

「おい!」


 身を乗り出して抗議するように腕を上げた清水に河野は、両手で制しながら「な、だけにあいつの人と也を知っていたからこそ、あの事件のことは信じられないんだよ」と言葉を付け足した。


 その言葉に清水も再度肯定した。

「いい奴だったよ」

 抗議をやめ、落ち込んだように肩を落とした清水に違和感を覚えたのはその横にいた堂本だ。


「お前人類の男共は皆敵だって言ってたのに、あの男はそうじゃなかったって言うのかよ。状況的に見たらそいつお前の嫌いなタイプだろう」

「だからあいつはそんな奴じゃないって言ってるだろう!」


 感情的に反論する清水に補足するように言葉を発したのは河野だった。

「俺らは今でも信じられないんだよ。あいつが浮き名を流したってことに」


 メディアに流れた情報に要が信じられないように、この2人も同じ感想を持っていることにどこかホッとしながら、そう思わせた何かがあるからの発言ならそこを聞かなければと思った。


「状況的に見れば2人の発言には違和感があるが、お前達がそう思わせる彼の一面があったんだろう?そこを知らない俺達が共感出来るように、あいつがどんな奴だったか教えてくれないか?」


 要の言葉に2人は一瞬ためらったが、口を開き始めた。

「あいつ、それなりにかっこいい容姿してただろう」

「俳優の中村倫也の雰囲気や容姿に似てるからか、高校時代密かにあいつに憧れてる女子とか後輩多かったし、うち共学だったからイケイケ女子とかには取り分け人気でよく告白されたんだよ」


 それを聞いた堂本は顔を顰めながら清水を見た。

「どう聞いてもお前の嫌いなタイプだろう。モテる男は爆ぜろっていつも言ってるお前がなんでその男を擁護するんだよ」


「話の腰を折るな!それをひけらかすような男ならこっちだって願い下げだ!だが、あいつはそうじゃなかった!」

 そう言いながらむしゃくしゃした感情を発散させたかったのか、残りのビールを一気に飲み干し、「もう一杯!」と同じものを注文していた。


「外見も性格も物静かな奴だったから、一部の女子からしたら強引に押せば付き合ってくれるかもって思われてたんだろうな。気の強うそうな女に限って言い寄ってたよ」

 河野はその当時を思い出しながらチビチビとビールを飲みながら話を続けた。


「学校内でも外見がそこそこ良くて人気のある女子たちが代わる変わる告白しては、玉砕していく光景は側から見ると有り得なくて」

「だってそうだろう!可愛い子に告白されていつも『ごめんなさい』って言うんだぞ。もったいねーって何度思ったことか!」


「いつだったか、あいつとゆっくり話す機会があって聞いたんだよ。いつもいつも振ってるけど、まさか同性の方が好きなのか?って」

「直球だな、おい」


 流石の堂本も呆れて河野を見れば、「俺も天張ってて、おかしな質問したとは思ったよ」と苦笑いしたが、要は先を促した。

「そしたらあいつは何て言ったんだ?」


「あいつは、、、ずっと好きな子がいるんだって、はにかんで言ったんだ」

 ずっと好きな子、、、、マリンの事か。


「断り文句のように『ごめん、好きな子がいるんだ』って言うあいつに諦めの悪い女子が『分からないように付き合えばいいじゃん』って言った時に『僕は彼女に対してずっと誠実で有りたいんだ』ってきっぱり断ってるのを見て、こいつすげーな。って思ったことを今でも覚えてるよ」

 そこまであいつに思われ言わせる相手に、興味が湧いたのはここだけの話な。と河野は呟いた。


 河野の言葉に続き清水も「だからあいつのことは好きだったんだ」と言った。

 清水が追加注文したビールが届くと河野も空きのグラスを店員に渡しながら同じ物を注文した。


 しかしその横に座る現実主義の堂本は容赦なかった。

「でも実際にはマドンナと婚約破棄した上に浮気して別の女との間に子供まで作ってんじゃねーか」


「だからそれが信じられないって言ってんだろう!あいつがずっと思い続けた相手ってのがマドンナだったって知ったのは大学2年の時だ。2人が婚約したって噂が流れた時に、居ても立ってもいられなくて後にも先にもあの時だけだ。大学時代、あいつに声をかけたのは」

 ビール片手に弱り顔になった清水が言った。


『初恋が実ったのか?』

 そう声をかけたそうだ。


 要はその言葉に、自分もマリンに同じ事言ったなと冷や汗を垂らしたが、先を促した。

「あいつは何て?」


「『ああ、そうなんだ』って満面の笑みで応えてたよ」

 デジャヴ?っと瞼を閉じた要には気が付かず、隣の河野が補足した。


「あれだけマドンナに誠実で有りたいと操を立てて実行していたあいつが、やっと漕ぎ着けた婚約者を袖にして浮気するとか有り得ないだろう。当初の噂では大学卒業後すぐに結婚って話も出てたのに、その直前になって()()()は、あいつらしくない」


 同じ〈鍵〉の立場で考えても確かに有り得ない。

 やっぱりこの話には裏がある。今は漠然としてだが、そう感じた。


「それに、、、」

 言葉を続けた河野が途中で話を止めたことに違和感を覚えて「それに何だ?」と横に顔を向ければ、意外なことを言い始めた。


「あの事件後、あいつに声をかけられて遊んだって証言した数名の女子な。おかしな発言を繰り返すって情報が拡散してただろう」

「詳しいことは知らないが、それらしい噂は聞いたことがあるな」

 興味なさそうに呟く堂本に清水が半ギレ状態で横にいる人物に唾を飛ばす勢いで声を荒げた。


「一時期SNSで奇々怪怪って騒がられてたんだぞ!」

「知らねーよ!マドンナの事件だけで衝撃すぎるのによく知らない男の噂なんて興味なかったんだよ」

 今もそうだろうと思った要の耳に河野の意外な発言に現実に戻る。


「あの事件後、この話題には自分自身触れてなかったんだが、()()()()をした元女学生な。実はうちの近所の子で最近話す機会があって、その当時のことを聞いたんだよ」


「近所?」

「すぐ向かいの子なんだけど、親同士が仲良くて。今度結婚するって聞いて実家の親が用意したお祝いをお前が持って行けって言われて本当9年ぶりだよ。会って話してる時に、こいつもその証言者の1人だったなって思い出して。会話途中で思い切って質問して見たら、奇々怪怪の意味をその時知ったよ」


「、、、、何があった?」


「榊原雅俊とはどういう関係だったんだ?って聞いたら『向こうから声をかけられて何度か遊んだ仲』って普通に返して来たんだ」

「やっぱ遊んでじゃねーか」

という堂本のツッコミには河野は反応せず、言葉を続けた。


「いつ、どこで?って質問した時だよ」

『え?何が?私何か言った?』

「ってさっき自分で発言した記憶がないような素振りで話返すんだよ」


 !?教授が言っていた現象と同じだ!


「自分で榊原に声かけられて遊んだ仲だって今言ったじゃないかって質問を繰り返したら『うん、そうだよ』ってあっけらかんと言う彼女にイラついて、どっちだよ!って声を荒げたら向こうがきょとんとした顔をしたんだ」


『さっきからどうしたの?お祝いに来てくれたんじゃないの?』


 まるで自分の口から出た発言には本当に気付いてないような表情に河野自身が恐怖を覚えて震えたんだそうだ。


「何かがおかしいと思ってもう一度、『榊原』と呟いた時、目の前の彼女はそれがスイッチだったかのように同じセリフを繰り返したんだ」


『ああ、彼?向こうから声をかけられて何度か遊んだ仲』


「そう言った彼女の顔が能面のおたふくのような張り付いた笑顔なのに目の焦点が合っていないような濁った目を見て、それ以上踏み込むのは怖くて彼女に祝いの言葉を言って急いで実家に逃げ込んだんだ」


「それいつのことだ?」

「今朝だよ。嫁のつわりがようやくおさまって2人揃って俺の実家に立ち寄った時の事だ。今嫁は、久々自分の実家に帰ってるから俺は時間が空いたんで今日偶然にもここに来れたんだがな」


 聞いてて要はタイムリー過ぎんかと慄いたが、エリンがこの日に情報収集をと言っていた理由が何となく見えて来た。

 やっぱ、エリンは凄いな。


 思わずズボンのポケット辺りを上から触れば、ビニール袋の感触を指に感じ頬を緩ませた。


「あの当時、いろんな憶測だけが一人歩きしてただろう。何が本当で何が嘘かなんて分からない中、身勝手な人間が好き勝手言ってるの聞いてて、マドンナを汚される感じがして俺はこの話題には触れることをしなかったが、俺も一つ知ってることがある」


 ここで堂本が神妙な面持ちで会話に初めて前向きに入って来て驚いたが、その後意外なことを言い始めた。


「その男が遊んだと言われてる女性たちな。どうもマドンナが所属していたサークルのメンバーだったって話だ。警察に事情聴取された人間がそこに集中してるってんで、俺らが卒業間近の頃には解散したらしい。仲の良かった後輩がそのサークルに入って口説いてた子がいたのに解散して接点無くなったって騒いでたから間違いない話だ」


 マリンが所属していたメンバーの女性達に限って証言?

 聞けば聞くほど、違和感が増す。


「浮気するなら分からないよう隠すし、本命の遠いところでするのが普通だろう。彼女の身近の人間に手を出すとか本当バカだろうって本気で思ったことを今でも覚えてるわ」

 冒頭でも同じことを言ったのにはどうやらちゃんと理由があったようだ。


 確かにそれが()()なら相当のバカだが、あの榊原がマリン以外の女性に目を向けること自体、やっぱりおかしい。

 そう思ったのは要だけではなかったようで清水が持論を展開した。


「俺、思ったんだけど()()証言した子の中には、マドンナに対しするひがねたそねみの感情を持った子も含まれてるんじゃないかな」


 だが堂本は看過出来なかったようだ。

「警察が介入して証言取るのに嘘言ったってのかよ」


「そこは分かんないけど」

 気弱になってボソリと言った清水に堂本は追い打ちをかけた。

「それらの証言の信憑性が乏しくても、少なくとも妊娠させた相手がいた事は事実だろう」


 それ以上の反論を出しても答えは見えず、場の空気が悪くなり結局食事会は手元の飲み物が空になるとお開きになった。


 清水は最後お酒を煽り、悪酔いしたらしく店を出た時には足元がふらついていた。

 堂本が清水と同じ方向なので担いで駅の方へ行く中、河野が要に声をかけてきた。


「お前車をこの先のパーキングに止めてるんだろう。そこまで一緒に行くわ」

「、、、なんだ。まだ話足りないことでもあるのか?」

 歩きながら問えば、河野も歩調を合わせながら肯定的な返事が返って来た。


「お前が追いかける女性がマドンナの妹なら、あの事件の謎を今でも調べてるんじゃないかと思ってな。彼女不可解な死に方だっただろう」

 革ジャンの上着のポケットに手を突っ込んで言う河野に要は視線を向けた。


「、、、他に何か知っているのか?」

「大した事じゃない。でも俺も清水も数日前まで榊原のことで忘れていたことだ」


()()()()()?」

 思わず立ち止まり隣の親友の顔を見れば神妙な表情を向けられた。


「なんで急に思い出したのか、それが俺だけでなく清水も同じタイミングで同じ現象が起きてたことが気になってな」

「ちょっと待て、清水もってどう言うことだ?」


「俺たちが思い出したのはほんの数日前だ。榊原があの事件が起きる数ヶ月前。あの事件が起きる年の初め。ちょうどこんな1月にしては暖かい日だった。俺たちの前に現れて不可解な事を言ったんだ」


『これより先、私たちは赤の他人だ。間違っても親しいフリをしてはいけないよ。約束だ』


「見慣れているはずのあいつをどこか遠くの見知らぬ者に見え、戸惑っているうちに榊原が唇に人差し指を当てながら言った言葉を聞いた瞬間俺たちは本当に全てを忘れていた」


 要が二の句を告げられず親友を凝視する中、河野は続けた。

「不思議なことにその言葉を思い出すまであいつのことを思い出すことなんて一度もなかったし、その発言通り高校の頃の記憶にもあいつは()()()()()


 突っ込みたい気持ちはあれど、どこから質問するべきか。

 証言した女性達の不可解な動向含め、変な力が働いている。そう思わざるおえない現象の数々に要は冷たい汗が背中を伝った。


「ここに来て清水とも話をしたんだが、あいつも高校時代の榊原との思い出を忘れていたらしい。俺と同じように数日前に急に思い出して何かがおかしいと思って今日の飲み会の誘いにお互い渡りに船と参加したとあいつも言っていたよ」


「そうか」

 そう言うだけしか出来ない要に、河野は眉を下げた。

「こんな話が役に立つか分からんが、今後何か困ったことがあったら相談に乗るよ。やっぱり俺たちは榊原を信じたいから」


「俺も同じ気持ちだよ。貴重な情報提供感謝するよ」

「忘れてさえいなければ、もっといろんな情報収集ができていたのにな」

 落胆し肩を落とした親友に要は慰めになるかどうかは別として助言しておいた。


「どうだろうな。この9年間密かに調べていた者達はいたが、その誰もが何一つとして足掛かりになる情報を手に出来なかったんだ。それを考えれば今日いろんなことが知れた。正直言って俺は助かったよ」


「そうか?それなら少しは溜飲が下がったよ」

「エリンに良い土産が出来た」

 そう言って顔を緩ませた要に河野は笑った。


「ベタ惚れだな」

「否定はしない」

「そこまでお前を夢中にさせる彼女に、いつかは合わせてくれよ」


「当分は無理だろうな。昨年末の報道のせいで行動を制限しているし事件が解決しなければ先には進めないと釘を刺されたからな」

「まあ、どこぞの遺産問題にも関わってるなら身の危険もありそうだしな。気をつけるには越した事はないもんな」


「そうだな、特に清水には会わせたくない」

「そこ!?」

 口説かれたら堪ったもんじゃないと愚痴を言う要に、河野は独占欲半端ないな!と大笑いした。


 こっちは笑い事じゃない!と反論する要に、河野は「幸せそうで安心したよ」と捨て台詞を吐いて、堂本達とは違う路線の駅に向かって歩いて家路に向かって行った。


 要も色々な情報を入手できたと肩の力を抜き、ゆっくりと鼻から息を大きく吐いた。

 その後、少し遅くはなったが宇崎を訪ね、例の書類を受け取り家路に向かった。

 

 そんな翌日、白芭の代理だという弁護士が知崎家を訪れ、人騒動あったのは言うまでもない。

 要は絵梨との関係がどうあっても進展する内容なだけに、舞い上がり後に暴走することになる。

 

 

 



要ターン終了。

明日1話UP予定です。

よろしくお願いします。



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