24、悲劇のシンデレラの印象と人物像の乖離
要ターン続きます。
指定された時間まで少し時間があった要は一旦自宅に帰り、よそ行きの服装からカジュアルな装いを着替えてから現地に向かった。
メールの相手は大学時代の友人である堂本からだった。
彼は大学卒業後に自力で知崎の製薬会社に入社し、今では社内で上司と部下として接している者でもあった。
彼が要の秘書をしている関係で仕事で何かあったのかと思われたが、メールを見る限りただの飲みのお誘いだった。
上司と部下の関係になってからは、そう言う誘いは断るようにしていたのだが、堂本が同じ大学出身者である以上こいつも情報収集対象者だと気付き、その誘いに乗った。
指定された場所に足を向ければ、イタリアンの看板がかかっているおしゃれなお店だった。
入店すると夕食時間にしては少し早い時間帯のため、お客はほとんどおらず、店の手前窓際に一組の子供連れ夫婦がいるだけだった。
友人を探して店内を見渡せば店の奥まった席の半個室になった壁に覆われ場所を陣取り話に盛り上がっている集団を見つけ要は驚いた。
要がもうすぐ着くと駐車場から連絡していた関係で、壁に開けた扉のないアーチ開口の入り口から外を覗き込むように身を乗り出し顔をこちら側に向けていた関係で、要はその存在たちには気づけた。
友人1人だけかと思われた食事会に大学時代の友人数名がそこにはいた。
「おう!要。久しぶりだな!」
店内に入って来たのが要と分かり、1番に要のところまで駆け寄ってきたのは大学時代、1番仲の良かった親友、河野だった。
「なんだよ。みんなして集まって。俺抜きで飲み会する予定だったのか?」
急に誘われておかしいとは思ったと少し離れた席にいた堂本に視線を送って言えば、態とらしくチッチッと人差し指を振った。
「そんな訳ねーだろう。お前が珍しく飲みに来るって言うんで何人かに急遽連絡したらこんだけ集まったのさ」
情報収集対象者が増えて要にしたらラッキーではあったが、友人達がいる席に移動しながら思った事が口を付いて出た。
「みんな暇人かよ」
そう言いながら、お店の厨房に視線を向けると従業員も気づいたようで、1人入店の意味で人差し指を掲げると、理解したのか従業員が頭を下げて来た。
「まあそう言うなよ!みんなお前に聞きたいことがあって集まったんだからさ」
半個室の場所まで近寄った際に、横にいた河野に首に腕を巻きつけられてそう言われた。
「聞きたいこと?」
聞きたい事があるのはこっちだが?と首を傾げる要に、半個室入って左側奥にいた堂本はテンション高めに場を仕切り始めた。
「まあまあ!まずは乾杯しようぜ!」
その言葉に、要は手で制した。
「悪い。俺、車で来たし、この後寄るところがあるから酒はパス」
「なんだよ、付き合い悪いな」
「急に呼び出しといて何言ってんだ。食事だけでも付き合うだけ良しとしてくれ」
半個室の席は6名ほどが座れる広々とした空間がそこにはあった。
3人は少し前に到着していたようで、テーブルにはすでに3人分のおしぼりと水が入った小さなガラスコップが置かれていた。
「まあいいや、じゃあみんなまずは生ビールな。要は何にする?」
「俺は烏龍茶でいい」
言っている側から別の友人清水が自分のスマホで飲み物を注文しており顔を上げて友人達を見回した。
「まずは先に飲み物頼んだぜ。食事はどうする?」
「適当に注文しとけ。ここの料理はどれも美味しいからな」
堂本や清水がいる席の反対側の席奥側を河野が陣取りそう言った。
「OK!じゃあ定番メニュー4つ頼むぜ〜」
学生時代のようなノリでスマホで注文する清水の前で、要は着ていた上着を脱いで席の後ろの壁にあったハンガーに引っ掛けていると堂本に声を掛けられた。
「この後どこに行くんだよ」
「んーああ、小学校からの知り合いのところにな」
「小学校の知り合い?同窓会でも企画してるのか?」
「まあ、似たようなもんだ」
椅子に座りながら言えば、お店の従業員の男性が1人分の水の入ったコップとおしぼりを運んで来た。
「なんだ女のところに行く訳じゃないのか?」
「まーな」
適当に答えれば、意味深な顔を3人から向けられた。
「知崎のボンはまだ結婚はしないのかよ」
そう言った河野は2年前に社内結婚して現在奥さんが妊娠中と聞いている。
堂本は2ヶ月後に結婚予定で現在婚約中。
もう1人の飲み物や料理を積極的に注文していた親友、清水はすでにバツイチで現在婚活中と勝手に連絡が来ていたので知っていた要だった。
絵梨の事は今はまだ時期尚早だ、と黙っておこうと水を飲みながら視線を外した。
「相変わらず連れないねえ」
「そんなだから昨日社内で、お前の結婚の世話をしようと上層部も含めて話が出ただろう」
そんな話が会議中に出ていたことを思い出した要は、堂本に顔を向けて聞いた。
「そうだ。あれなんだったんだ?」
昨日あの会議中に、要が途中抜け出した事を秘書の堂本は外廊下で待機しており、知っている。
要が会議室を飛び出した時、堂本と秘書室長に必死の形相で止められ行く手を遮られたのだ。
推し問答を繰り返す中、多勢で引き止められると流石の要も動けず困り果て、伝家の宝刀よろしく『社長の指示で静波の危機を回避しに行く』と言うとムンクの叫びのような表情で皆が要から手を離したので、その隙に外に飛び出した要だった。
あの引き止めさえなければもう30分早く彼女の下に行けたものを、と昨日何度思ったことか。
しかもあの後会場に残った兄が、その場にいた者全てに箝口令を引いたことで要が普段ではあり得ない優しい口調で電話に出た件を外にいた者達は知り得ていなかった。←絵梨が魂が抜けかけた電話の際に兄が弟にその事は伝えている。
その抜け出す前の会議中にあった意味不明な時間を思い出した要は堂本の言葉を待った。
「知崎の副社長ともあろうものが、いまだに独身なのは如何なものかと一部の株主から話題が上ったらしい。で、良い人がいないならこの人はどうかと話題に登ったそうだが・・・・聞いてなかったのか?」
「それどころではなかったし、興味もない」
吐き捨てるように言った要にみんな弱り顔になった。
「お前が結婚して貰わないと俺たちが困るんだけどね」
「どう言う意味だ?」
テーブルに飲み物だけが先に運ばれ、皆で乾杯してから各々が意見を述べた。
「優良株が残ってると紹介してくれと言ってくる輩が多いってことだ」
「俺に関しては婚活中に俺以上の男の独身者が残っていると女の子の意識が全部そっちにを持って行かれて俺がモテないの!」
河野はともかく婚活中の清水の言い分に、要はあのなぁと額に手を置いた。
「婚活するのに交友関係ひけらかすように知崎の副社長と知り合いだと言わなければ良いだけだろう。知崎の秘書と知り合いって言っとけよ」
要が堂本のことを言えば、清水が微妙な顔になった。
「前にそれ言ったら全然モテなかった」
「うるせー!そもそも婚活パーティで要目当てで女が釣れてるだけで、お前に興味はないってことだろう。それのどこが良いんだよ」
「一瞬でもその場を支配できる権利が得られる!」
婚活中の男がドヤ顔で言うことに、皆がアホらしいと呆れ顔を向ける中、料理が続々と運ばれて来た。
パスタ2種類とマルゲリータピザ1枚とイタリア野菜のラタトゥイユがテーブルに並び、それぞれが取り皿を持って食事し始めた。
「実際どうなんだよ」
堂本の声に要は、何が?と視線を向けた。
「付き合ってる女はいないんだろう?」
そう言われて、思い浮かべる女が出来た要は頬を緩ませた。
「・・・・好きな女はいる」
要からそんな発言を聞くとは思っていなかった友人達は皆ポカンとし口に運んだ料理がこぼれ落ちる者もいた。
「え!誰!?」
「いつの間に!どこで知り合ったんだよ!」
嬉々として聞いてくる親友に中、堂本は神妙な顔つきになった。
「その人って同じ会社の人か?」
「いいや、全然違うぞ」
「違うのか!?」
物凄い勢いで聞いてくる堂本に要は首を傾げた。
「なんでそんな驚いてんだよ」
「いいや、今までそんな話聞いたことなかったから・・・どこで知り合ったんだよ」
慌てたように見える堂本にどうした?と皆が思っている中、要は口を開いた。
「まあ、元々顔見知りではあったんだが、この間知り合いのお墓参りに行ったら偶然そこで再会してな。ああ、この人好きだなって思ったら・・・押し倒してた」
お酒を飲んでいた者はグフっと吹き出し、食事をしていた者はダラリとパスタを口に含んだまま呆然とした。
「押し・・・・?お前が??」
「可愛かった」
組んだ両の手の上に顔を置いて目を閉じ思い出しているのか要が頬を染めて言う姿に河野と清水が驚いている横で堂本は真っ青な顔になった。
それに気がついた清水が横にいる堂本の肩を揺さぶった。
「堂本どうした?顔色が悪いぞ」
「、、、要に限ってそんなことがあるのかと思って」
それにしては挙動不審な堂本に要が聞いた。
「なんだ?気になることでもあるのか?」
「今まで社内の女性社員や取引先の令嬢、出入りしている女性営業マンから好意を向けられても1度もその気にならなかったし女に興味を持った事なんてなかっただろう。どんな女性なのかと思って」
「うーん、どんな女性ねぇ。俺も今、口説き中だからな」
「え?付き合ってる訳じゃないの?」
清水の突っ込みに要は心境を吐露する。
「俺は今すぐにでも結婚したいんだが、相手にはまだやりたいことがあるとかで渋られた」
付き合う前にいきなり結婚?と唖然とする者がいる中、堂本は思い詰めた表情で俯いた。
要はこいつなんか抱えてるな、と質問した。
「堂本、何が引っ掛かってる?」
要に続き、河野も口を出ししてきた。
「お前自分で気づいてる?物凄い顔色悪いぞ」
「大丈夫かよ?」
親友達に突っ込まれ、堂本は観念して話し始めた。
「お前にそんな女性の影なんか見えなかったから昨日会議中にお前の結婚相手にどうかって1人名前が上がったんだ。それがうちの秘書課の人間だったから、よく知っている人物なだけに俺はお似合いだと思って応援していたんだが」
秘書課の人間と聞いて要は片目を顰めた。
「相手って誰の事だ?」
「絹谷さんだよ。株主のほとんどが推したとかで、物凄い勢いで結婚話が出てるのを扉越しに聞こえて、でもあの時お前が会場飛び出したから、またの機会に話をしようってことで先延ばしになったようなんだよ」
そう言われて思い浮かべた相手は、仕事柄関わることもあるが特段何の感情も抱いていない人物だ。
「株主がなんで絹谷さんを推すんだ?」
「わからん。ただ彼女は昔からお前だけを見ていたから、そのまま話が進めばいいなとは個人的には思ってたんだが、好きな人が出来てたんだな」
「ああ、だからそんな傍迷惑な思いは捨て去ってくれ」
「わかったよ」
残念そうな表情をした堂本は置いておいて、要は顔を強張らせた。
本来株主は会社の業績を気にすることはあっても個人的な話には関与しないはずだ。
なんで俺の結婚に口を挟むようなことを言ったんだ?
何か嫌な感覚がしてそれ以降要は眉間に皺を寄せて食事をしてしまった。
食事も半分以上が無くなり、飲み物追加したタイミングで河野が口を開いた。
「要が口説いてる女性って仲嶺真梨の親戚縁者か?」
追加の烏龍茶が入ったコップに口を着けていた要はその言葉に驚き、少し警戒した。
昨年末の報道でマリンの事件を蒸し返されただけでなく、妹のエリンまで指名手配犯のように名前が拡散された。
しかもそのエリンが白芭の関係者と知られた以上、ここにいるのが気心知れた友人でもその警戒値は跳ね上がる。
「何でそう思った?」
「毎年お前が仲嶺真梨のお墓参りしてるのは知ってるよ。今年は昨年末の報道のせいでいつもより早めの参拝なら説明が付くし、大学時代お前が大学のマドンナと何度か話してるとこは見てるからな。元々悲劇のヒロインとは知り合いだったんだろう」
取り皿に入れているパスタをフォークで突きながら言う河野に堂本が「ヒロインじゃねー。シンデレラだ」と突っ込んだが、要はそれどころではない。
何が言いたいのか何が聞きたいのか。警戒しすぎて二の句が告げれず黙っていると河野が話を続けた。
「さっきどこで好きな女性と知り合ったか、という質問に対してお前は『元々顔見知りではあったが、知り合いのお墓参りに行ったら偶然そこで再会した』と言った」
河野は横にいる要に視線を向けてさらに口を開いた。
「元々マドンナと知り合いだったならその親戚縁者とも顔見知りの可能性があること。このタイミングでのお墓参りで再会したとなると彼女の妹である可能性が高い」
「河野、何が言いたい」
警戒心MAXで横の友人に鋭い視線を向けると、河野は真剣な顔で問うた。
「姉に似てめっちゃ美人?」
は?
「え、マジで要の想い人ってその娘なの!?マドンナの妹!!」
こいつらが気にしたのはそこ!?
河野だけでなく清水まで興奮したように身を乗り出して聞いて来る姿に要にどっと疲れから体が重たくなった。
「マジで?そうなのか?」
堂本も頬を染めて聞いて来る姿に、無性に苛ついた。
「だったら何だって言うんだ」
嫌悪感から低い声で牽制すると3人はお構いなしに質問攻めが始まった。
「え、え、え、マドンナそっくりなの!?じゃあ清楚系美女!」
「妹ってことは年下だよな。性格は?マドンナに似てお淑やかか、それとも小悪魔系?」
好き勝手言っているが、その印象はマリンのことを照らし合わせて言っているのか?
外面の良かったあいつは対外的にはそう見えていたのだろうが、実情は全く別だ。
仲嶺真梨。
誰もが口を揃えて外見も中身も女神のようだ、と心酔する老若男女は多かっただけにいつも人に囲まれていた人気者。
慈悲深く、人助けを当たり前にやってのけるあいつは、まさにヒーローだった。
だが昔から知っている者から見たあいつは全く違う印象を受けていた。
気心知れた者の前では、あいつはその仮面を脱ぎ捨てる。
河野達は、お淑やか、小悪魔系、清楚系、と並べ立てたが、それは幻想だ。
あいつは、面白がって事を大きくするトラブルメーカーな上に、人が右往左往して困っているのを見て喜ぶSっ気のある性格で正直言って悪魔だ。間違っても小悪魔系とかいう可愛らしいものじゃない!
思わず両手に拳をテーブルに叩きつけてしまった要だが、周りの友人はマリンの話で盛り上がっていて落ち着かない状態だった。
マドンナ、マドンナ、マドンナと連呼している友人に要は一切共感出来ずに、今ここにいない愛しい女を思い浮かべ、マドンナと言うならエリンにこそ相応しいと頬を緩ませた。
お淑やか、小悪魔系、清楚系←これはお淑やかも含むワードだが、どれもエリンにこそ相応しい。
大事なことなので2度言う。
間違ってもマリンではあり得ない。
マリンの良いところがあったとしたら、人を扱うのが非常に上手かった事くらいだろうか。言葉が巧みで、人の上に立ち、人を自在に操る、使う、才能はずば抜けていた。
宇崎真一は中学時代、マリンの事を人垂らしと称したが、的を得ている要も思った。
時折マリンの手の平の上で転がされる人を見ては、転がされている本人は小悪魔程度に思うのだろうが、要や真一が引きで見ると手の平の上どころか、よく見ると大鎌で大勢の人が転がされ右往左往している姿にしか見えず、ドン引く事が多かった。
それほどまでにマリンは悪戯好きで、好きな人程、その傾向が強まる悪い癖があった。
だから本当の初恋の相手である榊原にもヤキモチ焼かせたいなどと言って、あんな親しい人達にすら騙すようなことを幼い頃からしている彼女に(もちろんその他多数幼い頃から悪戯確認)、淡い恋心など持ち合わせないほど、要は何歩も後ろに引いたところからマリンを見ていた。
そこは真一も同じだろう。
ただ悪い奴だったかと言われるとそこは違う。
良い奴ではあった。
正義感が強く、曲がったことが嫌いな性格で、エリンを見ていると困った人を見ると手を差し伸べるその姿は、唯一姉妹重なって見えるところだ。
故に憎めない奴。
要がマリンに持っていた印象だ。
外見はよく似た姉妹だが、その与える印象は月とスッポンだと要は感じている。
マリンの事はともかく、これ以上エリンの話題に触れて欲しくなくて「彼女の話はしない」と牽制した要に親友たちはブーイングの嵐だったが無視した要だった。
因みに真一に言わせるとマリンは自覚ありの人垂らし。エリンは無自覚天然人垂らし、らしい。
明日1話UP予定です。
よろしくお願いします。




