22、分家方の動向を◯◯は見た
今回短めのお話です。
その頃
分家方は騒動の真っ最中だった。
某県の山手中腹にある大邸宅の周りには民家は無く見渡す限りが、ある一族の私有地として地元では有名な場所だった。
広大な園庭を有したその大邸宅の周りには視界を遮る常用樹が立ち並び、1角に建つ洋風家屋まで繋がる細道の両サイドには色とりどりの冬花が咲き誇っていた。
その庭園をお世話する若い庭師は、パンジー畑の1角を陣取り咲き終わったパンジーの花先を積んでいると邸宅内から響く怒号に驚き次の瞬間、声のする方へ冷たい視線を向けた。
先ほどこの邸宅の主人が出先から帰って来た所を見ていた庭師は、またかと息を吐いた。
感情の起伏が激しいここに主人は、1度感情を顕にすると手が付けられない。
怒りの矛先がいつこちらに向くか分からないと、庭師は静かに立ち上がり居間から姿が見えない死角に移動し室内の方を覗き見た。
すると、居間でけたたましい怒号と共に花瓶が割れる音が響いた。
室内では初老の男が怒りの形相を隠しもせずに更にキャビネットの上の物に当たり散らすように床になぎ落としていた。
「なぎさ!なぎさはおらんのか!」
邸宅内どころか外にまで聞こえる怒号が響き、少しすると奥から着物姿の女性がパタパタと草履の音を鳴らしながら居間に姿を現した。
40代半ばのその女性は長い髪を後ろで結い上げ、簪を刺さしていた。
どこか白芭の女帝の若い頃を彷彿とさせる面影を持つその女性は、間違いなく白芭の血筋であると分かる面持ちをしていた。
淑女然とお淑やかに、上品な立ち振舞で入室して来た白芭なぎさは、初老の男性に丁寧に対応した。
「ここに。どうかされましたか、お父様」
その姿を見た初老の男、白芭郁三は水浸しになった床に散乱している陶器の欠片を草履で踏みつけて声を荒げた。
「どうかしたかではないわ!坊主の孫がいなくなったとはどう言うことだ!?」
郁三が扉入り口方向に体ごと向きを変えた事で、庭からでは彼の背中しか見えなくなった。挙句そこから入り口側に少し移動した影響でなぎさの姿と重なり、双方の表情が伺えなくなったと庭師は舌打ちした。
会話だけでも聞き逃すまいと耳を澄ませた。
「そのことでしたら2日前に、そのことが判明した直後に使用人に託し、お父様に今後どうするか確認して来るように指示を出しておりましたが」
「そんな話は聞いておらんわ!」
「そんなはずはございません。使用人の話では内縁様との時間を邪魔をするなと激怒されたため、若い使用人が泣いて帰って来たと報告を受けております」
「私が悪いと言いたいのか!?」
「仲嶺絵梨らしき人物の捜索で私は動けませんでした。拉致に関してはお父様が責任を取るとのお話でしたからお任せしようとしたのですが、タイミングが悪かったのでしょうね」
郁三は自分の分が悪いと感じたのか一瞬グヌッと閉口したが、気を取り直して質問して来た。
「それよりその仲嶺絵梨は見つかったのか!」
「情報は正しかったようです。良い所まで追い詰めましたが、後一歩のところで見失いました」
「見失った?どう言うことだ!本物であったならお前の能力を使ってでも朋恵の孫をとっ捕まえるべきだったのだ!遺言書公開前に仲嶺絵梨に財産放棄させ、全ての実権を奪った後、白芭を再建せねばならんのだぞ!」
「わかっております。しかしどうやら仲嶺絵梨は第一の儀式を済ませていたのか途中で一切の痕跡が掴めなくなりました」
「・・・どう言う意味だ?」
「恐らくですが、後一歩の所で〈鍵〉を受け取ったと見られます」
白芭なぎさの言葉に白芭郁三は苛立ったようにチェスト前まで戻るとチェスト上に唯一残っていた写真立てを掴むと、なぎさに向かって投げ付けた。
郁三がチェストまで移動したことで庭師からは白芭なぎさだけでも、その顔が見れるようになった。
「ふざけるな!私を馬鹿にしているのか!お前なら仲嶺絵梨が第一の儀式を受けたならその場で気づいたはずだ!真梨の時のように!」
飛んできた写真立てが頭部にあたりまとめていた髪が少し乱れたが、なぎさは表情を変えずに答えた。
「仲嶺絵梨は現在24歳。で、あるなら4年前に儀式を終えているはずですが断言いたします。その頃に仲嶺真梨の時のような脅威は感じ取ってはいません」
「どう、言うことだ?」
「考えられることは仲嶺絵梨は姉ほどの潜在能力を秘めていなかったと言うことです」
「ハ、ハハハハハ!お前より能力が乏しかったと!」
嫌な笑みを浮かべて優越感に浸っている郁三だったが、次の言葉に顔が凍りつく。
「しかし逆さ紋とはいえ完全紋の持ち主です。白芭の女帝が最上の〈鍵〉を与えたことで思わぬ伏兵に作り替えたのでしょう」
「最上だと?有り得ん!お前の〈鍵〉はAAだ!それ以上の〈鍵〉など!」
「紋には第一儀式で能力の一端を垣間見る者もおりますが、〈鍵〉有り気の能力者も存在しています。そう言う者は第一儀式では能力解放に至らず、〈鍵〉を受け取った瞬間、全解放します。仲嶺絵梨はどうやらその後者のタイプだったと憶測致します」
なぎさの言葉に郁三は更に苛立ったようだ。
「馬鹿な!くそ!何もかも気に入らん!女帝などと持て囃され好き勝手し、白芭家門を引っ掻き回すだけ引っ掻きまして結局最後には勝手に家業を終わらせるなど、どこまで腐った女なんだ!」
こぶしを手が白くなる程強く握り、憤っている郁三は白芭の最後の当主に悪態を付く。
そんな中、白芭なぎさは冷静に言葉を落とす。
「〈鍵〉を受け取った以上、これ以上仲嶺絵梨の捜索は皆無に等しいでしょう」
「ふん!そこまで言われなくてわかっとるわ!それなら栞をすぐにでも第一儀式を行えるように執行人を探せ!」
「・・・・どう言う意味ですか?」
「仲嶺絵梨が4年前に第一の儀式を受けたのなら朋恵が亡くなってから1年後に誰かが執行人として儀式を行ったと言うことだろう。お前と同じ紋を持って生まれた栞にも能力解放の資格があるんだ。なんとしてもその執行人を探し出し栞に受けさせろ。その上でお前があの子の最上の〈鍵〉を探せ!」
「執行人を探すだけでも手いっぱいの中、〈鍵〉まで探せとおっしゃるのですか!」
「口答えは許していないぞ、なぎさ!執行人はどうせあの毒婦の付き人だった滝田だ!使用人の中にはあの腰巾着だった女の顔を覚えているものもいるだろう!執行人捜索はその者達にやらせてお前はとにかく〈鍵〉だ!仲嶺絵梨以上の〈鍵〉を栞に与えろ!いいな!」
これ以上反論しても自分を曲げない人だと知っている家人は諦め受領した。
「承知いたしました」
手を重ね腰を90度に曲げ、頭を下げた白芭なぎさは垂れ下がった髪の毛で表情を見られないことをいいことに、苦痛に満ちた表情で瞳を閉じてぎゅっと唇と噛んだ。
その時彼女の手は微かに震えていたが、顔を上げた時にはポーカーフェイスに戻し「すぐにでも取り掛かります」とその場を退出した。
庭師の目が見えないところまで移動した白芭なぎさは、廊下に出て目を眇めた。
「娘の幸せのためなら地獄に落ちる覚悟でやってやる」
と小さく呟いたのだった。
次回の投稿は来週月曜日に予定です。
よろしくお願いします。




