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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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20/51

19、本格始動


 翌日、叔母と待ち合わせている温泉宿へ公共機関を使って行こうとした絵梨だったが、要に大反対され結局そこまで車で送迎された。


 要はあわよくば叔母と邂逅し挨拶したかったようだが、まだ早いと絵梨が却下し温泉宿の前で別れた。

 

 チェックイン開始時間より少し早いが要請をすると、宇崎の手が回っていたこともありすんなり宿泊する部屋に案内された。


 そこは一組限定の特別邸の2つのうちの1つで、その中でも全く人目がつかない奥まった場所にある部屋を真一は押さえてくれたようだ。

 

 川沿いを見渡せる隠れ宿的な場所に案内され、人目を避けたがる絵梨や叔母への配慮も感じられホッと息を吐いた。


 別邸の鍵だけ預かり入室した絵梨は、チェックイン開始の時間を考えても叔母が来るまで後1時間は時間を持て余すな。とローテーブル横の壁際にキャリーケースを置いた。


 外に続く窓から川のせせらぎの音が聞こえ、居間の窓際に置いてあった籐の椅子に座って外を眺めた。


 川周辺には年末に降り続いた雪の名残がある中、温泉が湧く場所はいくつかあるのか所々で湯気が出ていた。

 叔母が来たらすぐにでも温泉に入りに行くかと頬を緩ませた。

 

 瓶底眼鏡を取り、髪の毛も野暮ったい前髪をあげて椅子に背を預け、閉まっている窓越しに見える峠を観察しながら絵梨は昨日のことを思い出していた。

 

 昨日要の自宅に着いた頃、要のスマホに知崎社長である静波の父から連絡が入った。


 帰宅した静波から学校での話を聞いて、絵梨にどうしてもお礼を言いたいとのことで何も考えずにその電話に出ると、開口一番 (あやま)られた。 

 お礼と聞いていたのになぜ謝られた?と思っていると『要のことで苦労していることでしょう』と、下手(したて)に出られて固まった。 


 その上で『諦めて捕まってくれ』とも言われて、どういうこと!?と慄く絵梨に静波の父は、要の性格をよく知っており、ロックオンした女が出来たと聞いた時にそのお相手にまず思ったことは()()()()だったそうだ。

 

 昔から好きな物や者は囲い込む癖があった要は、その趣味が他の人とは少しズレていたらしくその癖も数えるほどしか確認されていないが凝り始めると周りが見えなくなることが常だったそうだ。

 

 思春期を過ぎた頃にはそういった行動は確認されていなかったたけに大人になってこだわる者が出来たと聞いて、今までの経験上とんでもないことになると本能が告げたらしく、静波同様『諦めてください』と再度言われて魂が抜けかけた。

 

『うちとしてはあなたが何者であっても2人のことを応援します』とまで言われて二の句が告げられなかった。 

 静波から絵梨の心境や状況は聞いていたようで、それ以上の干渉は見せなかったが次に言われた言葉で身が引き締まった。

 

 利籐は学園を追い出された後、知崎グループが所持している倉庫の一角に呼び出され今現在対峙していると報告された。

 その上で態度を改める素振りを見せず、静波に謝るどころか悪態を取り続け責任転換する彼女に、宇崎から情報提供があった音声と共に侮辱罪で警察に訴えると、静波の父は言った。


 彼女のことは「学園としてはこれ以上の処罰は与えられなので、後はお任せします」と言って絵梨は電話を切った。

 

 静波もこれで、学園生活が落ち着いて送れると言っていたそうなので、彼女の憂はこれで完全に取れたとホッと胸を撫で下ろした。

 

 今後の問題は・・・・姉と両親、そして白芭のことだ。

 

 叔母にどう言って話を切り出そうかと思っていると宿のベルが鳴った。


 その後開かれた玄関扉の向こうに、仲居と叔母の姿があった。

 叔母は現在55歳で、農業をしている関係で少し浅黒い肌をしているが子供を産んでいないこともあり皺一つない、実年齢より若く見える女性だった。

 

「叔母さん!」

 年末に顔を合わせているが、今年は例の報道が流れたために1泊しただけで早い帰省だったために嬉しさが込み上げ、玄関前で大きなボストンバックを下ろした叔母に駆け寄り抱きついた。

 

 もう感情を抑えるのは辞めようと素直に再会を喜んだ。

 叔母も嬉しかったのか抱き止めてくれた。


「まあまあ。2週間前にも会ったのに絵梨ちゃんは子供に戻ったようね」

「叔母さんの前でくらい甘えたっていいでしょう」

「ふふふ、私も嬉しいから享受きょうじゅ致しましょう」


 わーいと抱きついたまま、仲居が部屋を出て行ったのを確認して絵梨はぼそりと言葉を吐いた。


「叔母さん、私〈鍵〉を受け取ったわ」


 びくりと体を揺らした後、叔母の田中美由紀は絵梨の顔を見て冗談ではないと感じ、ゆっくり話を聞こうとポンポンと軽く背中を叩いた。

 

 ローテーブルに向かい合って座ろうと、美由紀は荷物をテーブル横に置きながら質問して来た。

「いつ〈鍵〉に会ったの?」

「今週水曜日。姉さんのお墓参りの際に会ったわ」


「えっと・・・・もしかしてその後、拉致(らち)、されたの?」

 その言い分を聞いて、叔母は〈鍵〉が何で、どういう役割を持っているのか、全て知っているなと半眼で見つめた。

 

「叔母さんはその辺の事情全部知ってるのね」

「それは・・・昔興味があってお父さんに聞いた事があるの」


 叔母の父。祖母の父でもあった人。


 白芭の〈鍵〉として存在していたはずの人が愛人を作って白芭を追い出された人。

 叔母に引き取られ、1度だけ会ったことのある曾お祖父ちゃん。


 あの人は白芭の先代表より現在の妻、叔母の母を心から(いつく)しんでいる。

 叔母の母親はアルツハイマーを患っており、曽祖父は寄り添う形で現在も同じ施設に入所している。


 白芭の事はタブーとしているのか曽祖父はその当時の話したがらない為、敢えてそう言う話題を田中家でも出したことはなかったが、今日はそこを踏み込んでみようと場を設けさせてもらった。


 〈鍵〉が浮気と聞いて思い出すのは、姉の婚約者だ。

 通づるものがあると絵梨は顔を強張らせた。


 叔母は〈鍵〉について問われ真っ赤な顔して俯きながら言い訳のように言葉を選んで言った。 

「もちろんその当時はオブラードに包んだように言われてピンと来なかったんだけど、私が結婚した頃に姉さんにも聞いた事があって。その頃にはもう美鈴ちゃんも結婚していたし思い切って聞いた事があったの」

 相変わらず俯きここから見ても熟れた林檎のような顔の叔母に、この件ではこれ以上の追求は出来ないなと嘆息した。

 

「その事はもういいわ。叔母さんに言っても詮無い事だし」と前置きを置いた上で、本題に入った。


「今日叔母さんをここに呼んだのは、電話でも言ったけどお願いしたいことと、〈鍵〉の事で聞きたいことがあるからよ」


「お願い事は兎も角、白芭関係の事は私は詳しいことは分からないわよ」

「私が聞きたいのは〈鍵〉は〈鍵〉でも曾お祖父ちゃんの〈鍵〉の事よ」


 叔母はハッとして絵梨を見たが、眉を下げて「それなら私でも教えてあげられるわね」と小さい声で言った。

 叔母からすれば、もっと早くに聞いて来るかと思っていたらしく「ようやく向き合う気になったのね」と祖母のような口調で言われて、何故か(しゃく)(さわ)った。


 咳払いをして叔母と向き合った。


「まずお願い事から話そうと思うんだけど、無事〈鍵〉を受け取ったので、お祖母ちゃんが残した遺言書について弁護士と連絡を取って欲しいの。あの人のことだからその辺の人間との連絡の取り方を叔母さんには伝えてあると思ったから」


 正直、分家方が動いていなければ、この問題も先延ばしにするつもりだった。遺言書公開に絵梨が必要なら期限前後に代理人なり弁護士が接触して来るタイミングで事を動かす予定だったが、関係ない人間を誘拐してまで騒動を起こした分家方を思うと、これ以上の放置は命取りになる。


 それなら先に仕掛ける!!


 絵梨の言葉に叔母は、否定も肯定もしないままその先の言葉を促した。

「どうして欲しいの?」

 

「恐らく弁護士は遺言書を公開した上で、私宛の遺言書公開と、もう1つの手紙を〈鍵〉方に渡す。この3つが成されて始めて弁護士側に報酬が支払われるようになっているはず」


 絵梨の言葉に笑みを深めた叔母に、絵梨は肯定と踏まえてその先の言葉を続けた。 

「私ありきの遺言書公開を私抜きでの公開に切り替えて欲しいの」

「どうやって?」 


 そこで絵梨は用意していた封筒から1通の紙をテーブルに滑らせながら、叔母に渡した。 

 そこには【遺言書公開場には行かない】という旨と【財産放棄する】旨が記載されており、白芭の紋が刻まれた判子(はんこ)が押されたいた。


 この判子は4年前、第1の儀式をするために絵梨の目の前に現れた瀧田が手渡して来た物だった。 

 その判子に見覚えがあった絵梨は、瀧田にいらないと1度は突き返したが、「財産放棄をするにしろ()()は必ず必要になります」と言われ仕方なく持っていた物だった。


 恐らくこういう使い方であっているだろうと紙に判を押して、この書類を持って来ていた。 


 叔母は愛おしそうにその判子が押された部分を人差し指でなぞっていたが、その判子は祖母が長年白芭の当主として仕事場で使用していた認印(みとめいん)だった。

 

「弁護士にこの紙を渡して『私なしでの遺言状公開』と『私宛の遺言状と手紙を一緒にして相手方に必ず手渡しで渡してほしい』と伝えて欲しいの。問題なくそれらが遂行されれば、約束の報酬が必ず支払われると言えば、向こうも拒否の姿勢は取らないでしょう」


 そこまで言い放った絵梨に叔母は涙目になった。 

「姉さんにますます似て」

 感無量と涙ぐむ叔母に居た堪れなくなって目を伏せた。


「お願いできますか?」

 絵梨の言葉に叔母はここで初めて肯定した。

「ええ、その旨弁護士には伝えておくわ」

 

「叔母さんが行くわけじゃないよね」

「ええ、仲介役(ちゅうかいやく)を買って出てくれるのは瀧田さんだから」

 それなら叔母が目立つようなことはないなと胸を撫で下ろした。

 

 来て早々に濃い内容の話をしてしまって喉が渇いた絵梨は叔母と2人分、自分でお茶を用意し茶菓子と一緒に喉を潤していると仲居が戻って来た。

 

 夕食の時間の確認と部屋に備え付けの温泉に入られたらどうですかと勧められたので、叔母と2人で入ることにした。


 下着類をキャリーケースから取り出し浴場に向かう絵梨と叔母だったが、忘れ物をしたと言う叔母はその場から居間に戻って行った。

 絵梨は気にすることなく浴場に行き、先に入浴した。

 

 叔母の美由紀は居間に戻ると、絵梨が書いた紙を持ちながら1本の電話を入れた。

 相手は瀧田だった。

「忙しいところごめんなさいね、瀧田さん」

 

『いいえ、問題ございません』

「話は聞いた通りよ。絵梨ちゃんが書いたこの書類を持って弁護士の所に行って早急に処理して来て欲しいの。お相手が〈鍵〉なら1分でも1秒でも縁談をまとめたがっているはずだから、明日中に弁護士には遂行するように行っておいてもらえるかしら?」

 

『私もその方がよろしいかと思います』

「では後のことはお任せします」

『承りました』


 その後、紙をテーブルの上に置いて浴場に向かった美由紀だったが、入浴を済ませ部屋に戻って来た時にはその紙はすでにそこにはなかった。

 

 絵梨が叔母に紙を持っているのかとローテーブルに座りながら確認すれば、瀧田が持って行ったと言われ、神出鬼没の瀧田に相変わらず末恐ろしくなった絵梨だった。

 昔から瀧田は忍者の家系ですか?と言いたくなるほどさっきまでそこに人はいなかったのに、急に姿を見せる彼女に驚かされて来た絵梨は、疑う余地もなく「ああ、そう」と納得した。

 

「何もそんなに急がなくてもいいのに」

 温泉から出て火照った顔に手で風を送りながら呆れて言った絵梨に叔母の方が呆れ顔を向けた。


「絵梨ちゃんはそうでもお相手は違うでしょう。能力のことを考えてもすぐにでも縁談をまとめる方が良いと判断してのことよ」

「・・・・余計なことを・・・」


 ぼそりと言った絵梨に聞こえないふりをして叔母が、水分補給にと急須で2人分のお茶を入れながら「何か言った?」と有無を言わせなかったので目を逸らした。

 

「真梨ちゃんや美鈴ちゃんのことを考えたらその方が良いと思ったんだけど、絵梨ちゃんには余計なお世話だったのかしらね」


 ちょろちょろと緑茶を湯呑みに注ぎながら言う叔母に、絵梨は居た堪れなくなりテーブル上に置いてあった温泉饅頭を口に入れながら呟いた。


「・・・気持ちは嬉しいけど、そう急いでも家族のことが片付かないと結婚とか私無理だから」

「それでも婚約していればいつでも会えるわけだし、ひと昔前みたいにお堅いご時世でもないでしょう?」


 湯呑の1つを絵梨の前に置きながら言う叔母に、そこは叔母として否定して欲しかったと項垂れる絵梨に美由紀は苦笑いになった。

 

「相性は良いって姉さんには聞いてたんだけど、違ったの?」

 どう言う意味での相性だ。とそっぽ向いた絵梨に美由紀は思い出話をし始めた。


「いつだったかしら。姉さんが病院からもう自分が長くないと宣告されて、入院に必要な手続きをするためにカウンセリング室に移動していた際に、瀧田さんが少し席を外していた時に人にぶつかって姉さん転んでしまったそうなの」

 

 えっ、と叔母の顔を見た時に叔母は湯呑みを持ってそこから窓越しに外の方へ顔を向けて寂しそうに微笑んでいた。

 

「もうそんなに体力も残っていなくて 立たれなくて座り込んだ姉さんに、お見舞いに来ていたある男性に手を差し伸べられて立ち上がった時に姉さん瞬時に理解したと言っていたわ。そのお相手が『絵梨の〈鍵〉だ』って」

 

 絵梨は驚き目を見張った。

 祖母と要はすでに面識があったのか。 

 いいや要はその時の事を覚えてはいないだろうが、祖母は要を認識していたと言うことだ。

 

「そこから瀧田さんに彼のことを調べさせてさらに驚いていたわ。だって彼、真梨ちゃんの幼馴染だったんでしょう」

「叔母さんは彼のことを知っていたの?」


「面識はないけど、姉さんからは聞いていたの。遺言書が公開されてから会うものと思っていたから今のこのタイミングとは思っていなかったけどね」

 

 そう言って微笑まれ、恥ずかしくなって視線を下にずらしたが、叔母にまだ見られていると思うと顔が真っ赤になった。


「そこからは怒涛の日々だったって姉さん言ってたわ。〈鍵〉方に色々細工して行動するのは仕事をするよりも楽しかったと言って、亡くなる前にも関わらず笑っていたわ」


「それは・・・私に自分以上の〈鍵〉を渡せると、意地の悪い考えがあったからじゃない」

「自分以上の・・・〈鍵〉?」


「そこは聞いていなかったのね。私に用意された〈鍵〉はA判定じゃない。S判定よ」

 は?とポカンとした叔母にさらに言葉を続けた。


「しかもSSSトリプルエスのね」

 半眼で投げやりに言った絵梨の言葉に、叔母は震え上がった。 


「まあ!どうしましょう!!瀧田さんに明日までに相手方に渡してもらうように言ってしまったわ!!」


 血相を変えて言う叔母に、相性がSSSと知らなかった人の対応で少しは溜飲を下げたが、絵梨はある事実を知っているだけにさらに項垂れた。


「瀧田さんはSSSと知ってる側よ」

 そう言うと美由紀は真っ青になった。

「聞いてない・・・・瀧田さんどう言うこと!?」


 憤っている美由紀に絵梨は、盛大にため息を吐いた。 

 瀧田はその事実を美由紀に告げた場合、後継人の叔母が躊躇(ちゅうちょ)して婚約話も(まと)まらなくなる可能性を考えてあえて言わなかったのだろう。


 あの人はどこまで行っても祖母の味方だから。

 当主の付き人としては最高な存在だが、絵梨からしてみると迷惑この上ない。とさらに脱力する絵梨だった。

 

 そう、味方とはいえ1枚岩とは言えないのだ。

 

 

 



明日1話UP予定です。

よろしくお願いします。



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