18、不届き者②、捕獲完了
暴力的発言が出てきます。
気になる方は閲覧を中止して下さい。
「利籐先生、教師にあるまじき言動ですが。普段から彼女にそんな物言いをされているのですか?」
保健師とはいえ、この学園の同じ教育者の絵梨に言われ、利籐はしまったと言う顔をした後で言い訳をし始めた。
「そんな訳ないじゃないですか。これは・・・少し頭に血が昇ってしまってつい口から出たと言いますか」
「では普段はそんな口調で彼女を追い詰めるようなことを言っていないと?」
「追い詰めるって人聞きの悪いことを言わないでください!」
「ではしていないと?」
本性を見せてみろ。
追い詰めるために何度も同じことを確認すれば、彼女は沸点が低いのかすぐに罵倒し始めた。
「は!?そんな証拠もなしに私を糾弾しようだなんて、なーに。あなたこの方の前だからっていい人ぶってアピールしようとしてるの!身の程を知りなさいよ!」
その言い分に要が反論しようと前に出ようとしたが、その前に静波の瞳が不安や恐怖の色から急に闘志ある強い色に変わり、上着ポケット入れていた物の取り出した。
貴方のような教師が絵梨先生を馬鹿にするなんて許せないと震える手で再生ボタンを押した。
そして糾弾する為に証拠となる音声が保健室内に響いた。
『ああ、ここにいた。役立たずの羽虫のくせにちょこまかと動いて身の程知らずが!』
流れて来た音声に利籐だけでなく、要も何事かと顔を強張らせた。
実は要を電話で呼び出した後に、絵梨は彼が来るまでに静波と打ち合わせ行い、昨日楢崎を追い詰めた証拠のテープレコーダーを再度彼女に渡しておいたのだ。
あの中には昨日、利藤とやり取りした音声記録データーも入っており、頃合いを見てその音声を流して欲しいと頼んだものだった。
『・・・・・利籐先生』
『知崎静波。いい度胸ね〜。役立たずのくせに知崎姓を名乗らせてもらってるいるにも関わらず、私から逃げるなんて』
『やめてください。私これから授業なんです』
『あ?私以上に大事な授業って何があるって言うのよ。あんたは知崎グループを引っ張る立場でもないんだから、そんな授業受けずに私に付き合いなさいよ』
『何で付き合わないといけないんですか?』
『は!?私が副社長と結婚すれば私はあんたの叔母になるのよ。未来の叔母の言うことが聞けないっていうの!?』
『あなたは叔父さんと付き合ってる訳じゃないですよね?』
『今はね!でも出会いさえすれば彼は私の虜になるわ。そうすれば結婚一直線よ!』
今朝この下りを聞いた時、恭二はその自信はどこから来るのかと呆れていたが、真兄の話では彼女はその美貌で貢いでくれるパトロン2人に足代わりに送迎してくれる数名の男性。それと一緒に住んでいる見目が良いホストクラブに所属する若い男性を含む大勢の男達を手玉に取っているらしい。
2年前、教員採用面談時に不可解な点があり素行調査をして判明したらしい。付き合いの長い取引先からの紹介で採用することになったが、履歴書の裏に注意書きで※後々男性関係で問題になるリスクありと明記されていた。
その為2年採用に留め、問題なければ追加採用することになっており2ヶ月後に延長するか聞き取りする予定だったようだ。
そんな女性故に、女としてのプライドや自尊心がとんでもなく高く、事実これまで落ちなかった男がいなかったからこその自信なのだろうと真兄は呆れ顔で言っていた。
その上でアメリカのハイスクール時代に知崎要を見知っており、彼のポテンシャル含めてその地位に魅力を感じて固執している可能性があるとのことだった。
そして今朝学生達から利藤の話を聞いている最中に興味深い情報が入った。
利藤がこの学園に赴任して少しした頃にある出来事をきっかけに利藤と楢崎の距離が近くなり、生徒の間では2人は付き合っているのではないかと噂が流れていたらしい。
と、言うのも利藤が化学室によく出入りしている姿を多くの生徒が目撃しておりその際、利藤の口紅がいつも取れた状態で出て来る姿は日常茶飯時だったそうだ。
ところが去年の秋頃からその利藤が化学室に入れてもらえない状態になり、彼女がキレて化学室の戸を何度も叩いている姿も目撃されていた。
その情報を携えて理事長室に行った際に真一は1つの仮説を立てた。
利藤と楢崎は体の関係はあったもののそこは割り切ったものだったのだろう。その上で楢崎が去年の秋に利藤との関係を精算し静波に目を向けたことで、他の女のせいで関係を切られたと利藤の怒りを買った。
どんな女なのか静波の事を調べて行く内に、彼女の叔父が知崎要であると知った。それならと目的を変更して、静波をきっかけに高校時代憧れていた男を手に入れようと気が弱い彼女を脅してでも近づこうと画策していたのではないのか。というものだった。
楢崎の勘違いから静波へのストーカー行為が始まり、その楢崎をきっかけに利藤にも目を付けられたのが今回の事件の発端であったなら、静波が入学して半年後から2人の教師に付き纏われ始めたのなら辻褄は合う。
『あんたが早いこと彼を会わせてくれればここまで執拗にあんたを追いかけ回す必要もないのよ!だから早く場を設けなさいよ!』
テープレコーダーの内容から見てもその推理は的を得ていそうだと鋭い視線を向けた。
『無理です!私には叔父さんの恋愛に口が挟める権利なんてありませんから』
『まあ、そうよね。女に生まれた以上役立たずなんだから。知崎のおこぼれ貰うだけの羽虫!だものね。だから少しは役に立ちなさいよ。私があんたを有効に使ってあげるって言ってんのよ。うまくいけば知崎一族の末席にでも置いてあげるわよ。未来の知崎社長夫人としてね!』
静波が震える手でテープレコーダーを握ってその音声を流していれば、これ以上は聞くに耐えないと要がその音源の元を取り上げて再生ボタンを解除した。
その上で目の前の女を睨みつけた。
利籐は自分の会話が録られているとは思っていなかったようで、真っ青な顔になって要を見たが、彼に嫌悪感丸出しで睨みつけられて、悲しい表情になった後に怒りの矛先を静波に向けた。
「あんた!こんな盗聴許されると思ってるの!これは犯罪だからね!」
怯えて縮こまる静波の前に立ち塞がり要は言い放った。
「このテープレコーダーは俺の物だ」
え!?と驚いた表情をしたのは利籐だけでなく静波も同じだった。
テープレコーダーは昨日絵梨から預かった物なのにどういうことだと静波は絵梨を見たが、真剣な表情で利籐を見ている保健師に、静波はもしかしてと淡い期待を込めながら一心に見つめた。
そんな静波の前で要が険し表情で女と対峙する。
「去年の秋頃から挙動不審になった静波が気になって渡した物だ。まさかここまでのものが録れるとは思ってもみなかったがな」
さも前から知ってましたと言わんばかりの要の言葉に利籐は真っ青になって1歩、2歩と後ろに下がっていたが、その背中に何か当たり、力なく振り返った先に理事長の真一と恭二の顔を見て、その場に力なくヘタリ込んだ。
数分前から保健室前に待機していた2人は万応じして登場し利藤に冷たい視線を送っていた。
真一は目の前の座り込んだ教師から、寄り添う要と静波に視線を移し声をかけた。
「ここまで来てもらって悪かったな知崎」
真一の言葉に要は首を振った。
「いいや、姪のことで宇崎が動いてくれていることは知っていたからな。早期解決に向けて動いてもらったこと、こちらからも感謝するよ」
「お前と俺の仲だろう。そう畏るな」
「そうか、それならこれはどうする?」
持っていたテープレコーダーを持ち上げた要に真一は笑った。
「そのデーターは消去してもらっていい。その音源はこちらで、すでにコピーして保管している」
「そうか。それでこの女の処分はどうするつもりだ?」
「うちでは解雇が精一杯だが、その後はお前のところに任せるよ」
「兄が出てくるようになるが、構わないか?」
「うちに被害が及ばないなら好きにしてもらっていいよ。流石の知崎社長も法に触れるようなことはなさらないだろう」
「そこまでは・・・・いや、そうならないように俺が見ておくよ」
要のその躊躇具合を見ても社長の娘の溺愛具合が伺えると、恭二と絵梨は半眼でそのやり取りを見ていた。
真一から指示を受け恭二が保健室から利籐を動かそうとその腕を取ると、彼女は暴れ始めた。
「要さん!私を見ても何とも思わないのですか!?」
構図的に見れば、目つきの悪い男に攫われる美女だが、要は冷たい視線を向けて口を開いた。
「どういう意味か知らないが君のような教養もなければ自己中心的で他者を思いやれる配慮すら欠けた人間に敬意すら持てないのに、どこに魅力があるっていうんだ。外見だけ良くても中身が伴ってなければ皆無だろう。お近づき?冗談じゃない。今となっては出会いを画策せずにいてくれた静波には感謝しかないよ」
吐き捨てるように言った要を信じられないと何度も首を振る利籐を恭二は容赦無くその場から引きずって行き、真一もその後の処理があると一緒に保健室を出て行った。
何とか終わった〜と、盛大なため息を吐いた絵梨は、これで静波の憂は全てとれたかと彼女を見たがどうも様子がおかしいことに気が付き首を傾げた。
その目はやけにキラキラしていて、解決がよっぽど嬉しいのかと思ったがその後の会話でどうやら違ったらしいと気付く。
「叔父さん」
「なんだ静波?」
「おじさんが結婚を考えてる人って先生のこと!?」
(!!!?)
絵梨が顔を背ける中、要はその言葉に嬉々として応えた。
「そうなんだ。静波は喜んでくれるかい?」
「本当なのね!もしそうならこんな嬉しいことはないわ!」
「嬉しいか、そうかそうか」
知崎組は2人揃って相貌を崩して頷き合っているが、絵梨はそれどころではなかった。
「先生は違うの?」
絵梨の様子は嬉しいというよりは戸惑いの方が大きいように感じた静波は口にしたが、この子思っているより鋭いわ。と絵梨は冷や汗を流した。
「出会ってそんなに時間経ってないし。気持ちの整理がまだついてないのよ」
「まだそんなこと言ってるのか。エリン往生際が悪いよ!」
「要くんはグイグイ来すぎなのよ!昨日も一昨日も強引に拉致るし!」
一昨日に関してはどこにとは言えないが!
その言葉に静波は2つのことを理解した。
1つはエリンという言葉。
叔父は昔から仲の良かった親友、仲嶺真梨のことをマリンを呼んでいて、その人には妹がいると昨年末の報道で知った。
その言い方からして、先生がその世間で噂になっている探し人なのだと感じた。
そしてもう1つはここ3日、絵梨が同じ服装なのはどうやら叔父が自宅に連れ込んだせいだということだ。
そこに関しては姪として申し訳なさの方が増し、いつくか服を叔父宅に送っておこうと思った静波だった。
「だから恋愛から始めようって言ったばかりじゃないか。と、いうわけで今日も一緒に帰ろう」
「なんで今日も当たり前のように一緒に帰ろうとしてるのよ。1人で帰れるわよ」
「そうしないと自宅に帰るだろう!」
「そこが私の帰る場所だからね!」
「いいや、エリンの帰る場所はもう俺の、いいや俺達の住居だろう!」
「だ・か・ら!私は姉さんや両親のことをまだ解決も整理もできてないの!それを解決しない限り先には進めないの!」
「だからそれは一緒に解決しようって言ったじゃないか!」
・・・・・・言ったっけ?
「この週末もエリンのいう通りに情報収集に行くし」
「そうよ!明日は私出かけるんだから今日くらいは自宅に帰ったっていいでしょう!」
「何言ってるんだ!明日一緒に過ごせないからこそ今晩は一緒にいるべきだろう!」
2人で言い合いをしているが、一方通行のやり取りに静波は頭を抱えた。
そして絵梨にとっては嬉しくもない発言を聞く羽目になる。
「先生、諦めてください。叔父さんは昔から気に入ったものは誰が何を言おうが離さない人だったって聞いているので逃げられないと思います」
何か恐ろしい言葉が聞こえたんだが!?と静波を見て、次に恐る恐る要を見て絵梨は固まった。
ものすごい笑顔で佇むその姿に、魔王のようなオーラを感じ涙目になって助けを求めて静波を見たが、彼女は徐に帰り支度を始めた。
手を伸ばしてその様子をただ見つめるしかなく、支度が終わった静波は時間を確認して保健室入り口に立つと深々と一礼をした。
「帰ります♪」
何故か嬉しそうに言って2人を置いて出て行ってしまった。
何で!?と伸ばした手をそのまま、保健室入り口に向かおうとする絵梨の前に立ち塞がった要は、有無を言わさず笑顔でその手を優しく掴んだ。
結局その場で散々キスされ、意識が朦朧とした状態でまた拉致られた絵梨は大きな荷物と一緒に要の自宅に帰って行く羽目になるのであった。
明日1話UP予定です。
よろしくお願いします。




