16、善因善果 ✩
R15(微)指定です。
善因善果:
よい行いをすれば、必ずよい結果や報いがもたらされること
誤って来週のものが投稿しちゃった。
良かったら見てやって下さい。
30分後、保健室にいた絵梨は要と対峙していた。
保健室に入って来るなり、戸をきっちり閉めた上で絵梨に向かって両手を広げた男に絵梨はスン顔になった。
『今日は大人しくしてほしい』
そう電話で散々言っておいたのに、予防線を大いに踏み上げて突っ込んで来るとはどういう了見だ。
「要くん私言ったよね」
それでも要は、ん!と両手を誇張して広げ、絵梨を受け入れるまでここを動きません、と主張する。
だから!と言おうとしてその顔を見て口を噤んだ。あまりに真剣な表情を向けられ、逆に絵梨は眉を下げた。
それを見た要はそこで初めて微笑んだ。
「エリン、おいで」
本当、この年で初恋愛とか小っ恥ずかしいだが・・・。
そう思ったが、この男が一歩も引かないのでおずおずと近寄ると、要は目の前まで来た絵梨を彼自ら抱き寄せた。
「会いたかった」
「昨日まで赤の他人だったのによくそんなこと言えるね」
「そこは気にしたら負けだよ。運命なんてどこに転がってるかなんてわからないんだから」
「一目惚れだって思いこみだって言う学者もいるんだよ」
「俺とエリンの場合は一目惚れとは違うだろう」
「それなら体から始まったセフレと何が違うの?」
絵梨の言葉に要は驚き、腕の中の愛しい人に視線を送った。
「エリン!」
「だってそうじゃない。紋の影響であーいうことにはなったけどそこにお互い感情があったわけではないでしょう」
「確かにそうだが、一昔と違って、今ならではの考え方もできるだろう。お互い前向きに考えると話したばかりじゃないか」
きちんと話したわけではなく、お互い会話の中でそれとなくそういう言い方をしただけで、、、。
と言い訳がましいことを考えながら途中、絵梨は放棄した。
「要くんはそれでいいの?」
首を傾げる要に絵梨は自信なさげに言葉を吐いた。
「今の私は地味だし」
「エリンはどんな格好をしても可愛いよ」
「どこを見て恋愛と位置づければいいの?要くんのこともあまり知らないのに好きだってどうやって判断すればいいの?」
絵梨の言葉に要も考えて、確かに体から始まった関係では女性側の絵梨が不安に思うのも仕方ないかと思ってしまった。
「それなら今からお互いを知るために恋愛から始めよう」
「どうやって?」
「うーん、要は先に心の距離を縮めたいって事だろう。エリンが不安に思うなら当分体の関係はやめておこう」
絵梨は言質取ったり、と内心ニヤッと笑った。
血の縛り然り呪術に関しても言霊は大事にする。
そう言う意味で紋の縛りをあえて封じる状態にあえて持って行ったが、果たして効果があるのか。
こればかりは手探りでやっているだけにわからなかったが信じるしかない。
「それでお願いします」
了承の意を示すと、要は嬉しそうに目を細めた上で、絵梨の顎を掴んで顔を近づけて来た。
おい。
言ってる側から何してんだ、と手で制止すると要も半眼で見て来た。
「エリン手が邪魔」
「体の関係は当分しないと約束したばかりじゃない」
「キスもダメなのか!」
「それをして、その先を我慢できるの!」
「根性でねじ伏せる!」
言い切った要を、絵梨は呆れて虚無顔になった。
それが昨日はできなかったんですよ、お互い。気が付いてますか要さん。
いや、ここは素直に言っておくか。
正直紋がどこまで効力を発揮したり無効化するのか自信がない以上、不必要な接触は避けるべきだ。
「あの要くん」
「何?」
「ごめん私は多分そこで止められる気がしなくて・・・」
俯きながら絵梨が言えば、要はピシリと固まった。
「だからできればキスもなしでお願」
その後の言葉は要が絵梨に覆い被さりキスをしたことで続かなくなった。
言ってる側からこの男は!
拳を作って胸元を叩こうとしたが、「可愛いこと言うエリンが悪い」とその手首を取られ、もう片方の手で同じ行動をしようと手を挙げた時点でまた手首を取られ、完全に身動きが取れなくなった。
何処に可愛い要素があった!?と睨みつけたが、要は口付けながら2人の位置を変え壁に絵梨の両腕を押し付け完全に身動きを封じると、口の中を荒々しく散々 蹂躙された。
仕事場なのに学園では不釣り合いなクチュクチュと卑猥な音が響く。
お互いの唾液を交換するように何度も顔の角度を変えては噛み付くような口づけを繰り返され、どれだけ長い間そうしていたのか。
息が上がり思考がフリーズする。
要が離れた時にはぐったりして立っていられなくなった絵梨はその後、要に抱き上げられて自宅にお持ち帰りされた。
ただその晩は2人で食事をし、大人しくそれぞれがお風呂に入浴した後、同じベットに手を繋いで寝ただけだった。
絵梨は昨晩のこと然り、学校での出来事もあり疲れていたので、泥のように眠りにつこうと目を閉じて、紋の縛りが発動しなかったことに安堵し意識を手放した。
その翌日、早朝に絵梨は予知夢を見た。
ある三重の塔のあるお寺から「おいで〜、ここにおいで〜」と心地いい声と共に温かい風を体に感じ絵梨は無性にその場所が気になり意識を持っていかれた。
短い時間の中、2度、3度と同じ夢を見て、仕切りに呼ばれたその場所には見覚えがあり、目が覚めて、まず顔を顰めた。
その場所は姉のお墓がある墓地の隣。
今回孫を救出した住職が住む庫裏に隣接するお堂とその横にある塔がある場所だった。
そこに来いと誰かに言われた。あの夢はなんだ?と警戒もした。
すると朝早い時間にも関わらず、自身のスマホが振動した。
薄暗い部屋の中、スマホを持ち上げ画面を見れば恭二からメールが入っていた。
[住職からお礼が言いたいそうだ]
[会って話したいこともあると伝言をもらっている]
[どうする?]
その文面を見て、[今日、昼休憩を利用して行こう]と返信すれば、隣から手が伸びて来た。
驚きその方向を見て絵梨は固まった。
要の目が据わった状態に、何故そんな表情をしているのかわからなかったのだ。
そういえばこの人ショートスリーパーだったなと思い出し、すでに起きていたのかとため息を吐いた。
「何?」
「誰とどこで会うって?」
住職に会うことをなんで機嫌が悪くなるんだ?と思いながら絵梨は話した。
「マリンお姉ちゃんのお墓があるお寺よ。住職がお礼を言いたいそうよ」
「住職?何かあったのか?」
事のあらましを伝えると、眉を下げた。
「そうか、お孫さんを人質に・・・」
「その救出に尽力したからお礼がしたいそうよ。それに・・・・」
「それに?」
「さっき夢を見たの。あの寺においでーって言われる・・・・ね」
「大丈夫なのか?」
事情があったにしろ、住職には一度裏切られている。要が警戒してそう口にしたことは絵梨も分かっていた。
だが、それを差し引いてでも今回は行くべきだと夢の影響もありそう感じた。
「あの夢に悪い気は感じなかった。むしろ温かい包み込むような空気感を感じたのよ」
そう言い切る絵梨の横顔を見ていた要は腕を伸ばして絵梨を抱き寄せた。
「なあエリン」
「何?」
その行為に怪しい動きはないので絵梨は冷静に返事をした。
「その・・・昨日はしなかっただろう。それでも予知夢って見るのか?」
そこは絵梨も気になっていた。
ただ今考えれば、祖母は30年前に〈鍵〉である祖父を亡くしていて、陰りはあったにしろ自身が亡くなるまで生涯その能力を使っていた。
祖母は祖父の遺骨を砕いてペンダントの中に入れていつも持ち歩いていた。
どんな形にしろ〈鍵〉の一部を持っていれば能力解放は成り立つのかもしれない。
どう言う原理かは分からないが毎回、例の行いをせずとも能力は使用出来るし〈鍵〉の一部を持っていれば夢のお告げもあるということなのだろう。
自信はないが、先ほどの夢は予知夢だ。
同じ夢を何度も見ること自体が普段ではあり得ない現象だから、間違いないだろう。
「まだその判断は出ないけど、お祖母ちゃんは亡くなったお祖父ちゃんの遺骨を媒体にして能力を使ってたわ。もしそれが有効なら離れていても夢が見れるように後で要くんの一部をどんな形でもいいからくれない?」
「離れることはないから必要ないのでは?」
「分からないじゃない。学校行事で私が泊まりで出張行ったり、要くんも仕事してる以上家を空けることはあるでしょう」
言われて確かに冷静に考えたらそういう事もあるか、と要も納得した。
「一部?って具体的にどんなものだ?」
「例えば、髪の毛とか」
そんなもの?と一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔で了承してくれた。
「知り合いの美容師に相談してみるよ。持ち運びしやすいようにできるかどうかも含めてな」
「効果があるとわかってからでいいよ」
「いいや俺もエリンの髪の毛のアクセサリーがほしいんだ。効果あるなし関係なくそういうのを作ろう」
まあ変なものでないなら、いいよ。と絵梨も了承した。
その数時間後
本日も洗濯仕立てとはいえ、3日連続同じ服で出勤する形になり絵梨は居た堪れなかった。
今日こそは絶対自宅に帰ろうと思った絵梨だった。
出勤して保健室で作業していると朝練をしていた葉山が勢いよく入って来た。
驚いて葉山を見た以上に、葉山が驚愕な表情をしていたので、どうした?と見やれば呆れた声で言われた。
「先生さぁ、私には夜遊びも大概にしろとか行っておいて先生は3日連続同じ服ってどういうこと」
(!?)
白衣も着ているので、まさかばれているとは思わず絵梨は目が溢れんばかりに目を見開いていいるとさらに呆れられた。
「みんな気づいてるけど、あえて口にしてないだけだから、気をつけた方がいいよ」
マジかよ・・・・。
「洗濯はしてるんだけどな」
「何?ほかの服無くなっちゃったの?」
「そういうわけではないけど・・・・」
自宅に帰れてないだけだ。
昼休憩に自宅に寄る時間を確保するか?と思っていると葉山が心配そうにこっちを見て来るので大丈夫と頭を撫でておいた。
「で、今日はどうしたの?」
「あ、そうだった。部活してて怪我した子がいるから絆創膏を何枚か欲しくて」
「葉山さんが怪我したわけじゃないのね」
「うん!」
「その子を連れてくればよかったのに」
「それが結構血を流してるから連れて来れなかったんだよね」
あっけらかんとそう言う葉山のおでこに絵梨は思いっきりデコピンした。
「馬鹿者!そんな怪我は絆創膏如きで済ませられるわけないでしょう!その場所まで案内しなさい!」
大きめの救急箱を持ってそう言えば、葉山はへへっと笑って「こっちよ、先生」と案内された。
いやでも自分の仕事の領分を思い出し、身が引き締まった。
生徒の怪我の処置をして保健室に戻って少しした頃に静波が登校してきた。
不安そうに保健室に入室して来た静波に、"金曜日のいつもの時間に保健室に来る"ように言えば、理解したようで頷いた後自分の教室に友達と一緒に戻って行った。
金曜の六限目。彼女はいつもこの時間に保健室に来ていた。
この時間は昨日解雇された楢崎の授業の時間ではない。この時間の授業は英語の授業で楢崎と同い年の利藤と言う教師が担当する時間だ。
この日の夕方、踊らさられるのはこの人物だった。
午前中はこれと言って大きな仕事もなく、つつがなく授業の時間は終わり昼休憩になった。
予定通りこの時間を利用して姉のお墓がある墓地に向かう。
恭二とは駐車場で待ち合わせているので急いで準備をし、あれでも時間が押した時のために[退席中。14時には戻ります]と保健室の戸に札をぶら下げて学校を出た。
それから車で恭二とお寺に向かえば、なぜか庫裏の屋根の1部が抜け落ちており2人は驚いた。
数日前にはそんなことなかったのにと言った絵梨に、恭二も昨日孫をここに届けた時にもそんなことはなかったと言われ、2人で目を合わせたほどだった。
住職を尋ねれば、深々と頭を下げられお礼を言われたが、「やむ負えない状況でしたし、気にしておりません。お孫さんに怪我がなくてよかったです」と言えば、目をキラキラさせて見られた。
どうした?
住居の中に通され、庫裏の屋根が落ちた時に1階住居の天井も一緒に落ちたのか応接室の天井の1部がぽっかり穴が開いており、あれはどうした?と2人が天井を見つめていると住職が話し始めた。
「実は昨日孫が帰って来た後にあそこの天井が抜け落ちましてね」
「お怪我はなかったのですか?」
「はいそれは大丈夫だったのですが、天井から音がするので息子が屋根に登って見ていましたら足を滑らせましてね」
え!?と2人でさらに驚いた。
ここの息子は百キロ級の体格のいい男でそんな人が屋根に登ったのも驚きだが、あそこから落ちて無事だったのも奇跡に近いぞと冷や汗を流した。
ただその息子が先ほどお堂でお経をあげていたのをこの耳で聞いていたので無事と言うのは本当なのだろうと思った2人だった。
そんな2人をよそに住職はさらに言葉を続けた。
「どこにあったのか、天井裏にあったのかはっきりしませんが天井が抜け落ちた時に、息子と一緒に1冊の書物が目の前に現れたのです」
そう言って住職は1冊の古びた書物を戸棚から出してきた。
確かに年代物のようで綺麗な連綿体で書かれた紐で綴られた書物が、絵梨の前に置かれた。
「途切れることなく連続して書かれた書体で私どもでは解読は出来なかったのですが、唯一読めた字がありまして。それが『白芭』という文字なのです」
((!!!))
絵梨と恭二が驚き目を見開くと、住職は絵梨を見て眉を下げて言った。
「孫を救って頂いたあなたが昨年末の報道で白芭の方だと知っていたため、この書物をお渡ししたくて本日ここまでご足労頂きました」
住職の言葉に衝撃を受け、恐る恐るその書物を手に取りパラパラと捲ってみるが確かに専門家でなければ読み解くのは難しそうな書物だと絵梨は思った。
身近にこう言う書物を好んで解読する人物がいたので任せようと決め、住職を見た。
「これは預からせて頂いてもよろしいですか?」
「いいえ、これは差し上げます。我々には無用の長物ゆえ、こんなことで恩返しになるとは思っておりませんが、どうぞ持ち帰って下さい」
頭を下げて言う住職に絵梨は椅子に座った状態で、テーブルに額が着くほど頭を下げてお礼を言った。
早朝の夢が予知夢であれば、これは間違いなく何か意味があるものだ。
再度姉のお墓の管理を頼んで2人はその場を離れた。
恭二はまた何か困ったことがあれば宇崎に連絡してほしいと連絡先を置いていった。
帰りの道中では、恭二と一悶着あった。
今日こそは自宅に戻るからいいかと思っていたのに、恭二は絵梨の自宅があるアパートの前に車を停めた。
「服を何着か取って来い」
「なんで?」
「なんで?今日も要さんが来たらここには帰れないからだろう!」
「それこそおかしいでしょう!なんで当然のように要くんと一緒にあっちの住居に帰ると思ってんのよ!」
「あの人のあの状態見てここに帰れると思ってるお前の方がどうかしてるぞ!はっきり言ってやる!今後ここに帰って来れるのは要さんと一緒の時だけだ」
「要くんに送ってもらえってこと?」
「お前そんなこと絶対にするなよ!公害になるから!」
「公害って何よ!」
「昨日の自分の様子を思い出せよ!あんな風になるまでこのアパートでやってみろよ。薄い壁のこのアパートだと近所中に致してますって言ってるようなもんだろうが!」
致してますって、ここでそんなことするわけ・・・・・。
紋の効力が出たら、それもあり得るのかと気づいた絵梨は真っ青になった。
要から言質を取ったとはいえ、それもいつまで効果があるかわからない以上保証はない。
そう思うと次の言葉が出なかった。
「わかったら諦めて服を取って来い」
お前は私の父親か!と思いながら反論も出来ず、数日ぶりに自宅に足を踏み入れる事と相成った。
週末の叔母との温泉にも備えて3着ほどの服と身の回りのものをキャリーケースに入れて車に戻った。
学園に戻る前に腹ごしらえをしようと、恭二行きつけのラーメン屋で遅い昼食を2人で食べて保健室に戻った時には14時少し手前だった。
一旦宇崎の自宅に戻ると言う恭二に、響子に保健室に来るように伝えてほしいと頼むとすぐに駆けつけてくれた。
「おかえり絵梨ちゃん!」
「ただいま響子」
「住職さんお礼が言いたいってことだったけど、それにしては遅かったね。何かあったの?」
その言葉に持っていたカバンから1冊の書物を取り出すと、響子の目の色が変わった。
「どうしたの、それ?」
「その住職からもらった物よ。この書物に白芭のことが書かれているようなの。響子、これの解読頼めるかな?」
言われた彼女は目をキラキラさせながら絵梨の手を取って嬉しそうに承諾してくれた。
彼女は大学時代、古典を専攻していて、こう言う古典の書物を見ると血が騒ぐらしく、何日徹夜しても飽きないと学生時代、目にクマを作って解読に没頭するような人だった。
結婚さえしなければ大学に残って教授の補佐をするほど古典にハマっていたが、子供のために家庭を取ったのだが後悔はしていないと響子自身は良く口にしている事だ。
学生の時分でありながら結婚を決意し子供を産む決断をするだけ、響子は恭二に惚れ込んでいた。
あいつのどこが良いのか私にはさっぱり分からんが、もっと良い人いるだろうに男の趣味だけはどうも合わん。
しかし教授になる夢を諦めたとはいえ、古い書物を見るとやっぱり血が騒ぐらしい。
嬉しそうに目を輝かせて書物を天井にかざして見ている響子に笑いが漏れる。
「時間は気にしなくていいから、くまなく調べて」
「了解!」
胸に抱えてスキップしながら保健室を後にする親友に、釘もきちんと刺しておく。
「徹夜はだめよ!花凛ちゃんのお世話もあるんだからちゃんと時間を選んでやってよ!」
その言葉に振り返り口を尖らせたが、昔とは違うことを理解している彼女は「はーい」とか細い声で言って住居に帰って行った。
響子の解読により白芭の秘密がわかるようになるのはその数週間後の事だった。
次回来週1話UP予定です。
よろしくお願いします。




