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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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15、不届き者①を確実に狩猟する



エピソードタイトル変更しました


 理事長室のテーブルに座っている真一の前で、真っ青な顔でお腹を押さえながら佇んでいた楢崎はその部屋に入ってきた静波を見て駆け寄ろうとしたが、恭二が立ちはだかり、怯えて一歩後ろに下がった。

 それを横目に絵梨は「遅くなり申し訳ありません」と言うと応接セットの椅子へと移動した。


 理事長側に絵梨が座り、配慮として楢崎に一番遠い扉側に静波を座らせた。

「確認は終わりましたか?」 

 真一の言葉に絵梨は頷き、鋭い視線を楢崎に向けた。


 ビクッと体を震わせた楢崎に、絵梨は質問を投げかけた。

「楢崎先生、あなたはここにいる知崎静波さんに好意を抱いていますね」

「・・・・」

 否定も肯定もしない楢崎に今度は理事長の真一が口を開いた。


「楢崎先生」

 ビクッと震えて理事長に視線を向けた楢崎は、悪戯がバレた子供のようにブルブル震え始めた。

「あなたはコンプライアンス違反をしたことを理解されていますか?」

「・・・理事長私は・・・」


「教師でありながら生徒に邪な感情を持ち、あまつさえその感情を生徒にぶつけた。間違いありませんね?」

 真一のその言葉の時に絵梨が静波に顔を向けると小さく頷く仕草をしたのを確認し、そっと彼女の手を握った。 

 が、楢崎は否定してきた。


「私は、いいえ私たちはそんな軽い関係ではありません!」

 ???

 こいつ何を言い出した?と恭二が顔を顰めたが、楢崎以外の人間には理解不能な言い分に思考が停止した。


 真一が理解に苦しむと眉間を揉み込みながら質問した。

「軽い関係ではないとはどう言う意味です?」

「私と彼女は愛し合っているのです!」

 は?

 絵梨はポカンとして横を見れば、静葉も理解できないと真っ青な顔になっていた。


「愛し合って?」

 思わず出た絵梨の言葉に楢崎は、一人芝居がかったように大袈裟に身振り手振りも踏まえて説明し始めた。


「そうです!私と彼女は去年の秋から付き合っているのです!それはもう運命的でドラマチックでした。頬を染めた彼女は私に抱きついて来たのです。熱烈なその行動に私は教師としての矜持も忘れて彼女の気持ちに応えたのです!」


 よくわからん芝居に絵梨は思わず虚無顔で耳をホジホジしながら聞いていたが、どう言うことだ?と静葉を見れば、真っ青な顔して否定する言葉を言い放った。

「授業に遅れそうになって走っていた時に(つまづ)いて転けそうになった時に助けてもらいましたけど、抱きついたつもりはありません!」


「な!君は頬を染めていたじゃないか!」

 都合がいいように解釈して言う楢崎に恭二が現実を口にする。

「ただ単に走って顔が赤かっただけだろう?」

 恭二の突っ込みに、楢崎は「部外者はすっこんでろ!」と吠えた。


 それを見たの理事長が間に入って言った。

「彼女はそれ以降もあなたを避けていたはずです。その行動にはどういう解釈をされたと言うのですか?」

「彼女はまだ若いですから、恥ずかしがっているのだろうと思っていました」


 その言い分にイラつき絵梨は思わず口をついた。

「本気で言ってます?」

 その言い方が馬鹿にされたように感じたのか、楢崎は「あ?」と悪態をついてきた。


「先ほども客観的に見ても彼女は怯えていました。これまでもあなたの授業の時には欠席する程彼女はあなたを避けていたでしょう」

「彼女のことをわかったように話をするな!いつもいつも私と彼女の邪魔をしやがって!知ってるんだぞ、あんたが俺と彼女の間を邪魔していたことを!」


 途中から教師然を捨て、素が出て来たのか一人称が俺に変わった時点で焦りを感じ始めたと感じた絵梨はさらに口を出した。

「邪魔?ふざけないでよ。彼女が保健室に来てあんたから逃げていたのは安全な場所に避難してたからでしょう。私は自分の仕事をしただけよ」


 絵梨の言葉に恭二も乗っかって追及する。

「そもそもよ。あんたが言うことが本当なら彼女は保健室じゃなくてあんたがいる化学室にでも行くはずだろう。自分で矛盾したこと言ってる自覚あるのかよ」


「それは、彼女が恥ずかしがって」

「それならさっき体育館の裏で話の途中であんた、何で逃げ出したんだよ」

 恭二が突っ込めば、それでも何か言い訳がましいことを口走る楢崎が頭のネジが外れた男というのは十分に理解した。


「こちらを聞いてもそんなことが言えるのか。どうぞお聞きください」

 虚無顔で絵梨はここでテープレコーダーの音声を流し始めた。


 再生された音声はバタバタと走り込む足音から始まった。

 その後、静波の『あ!』と焦った声と共に楢崎の声が聞こえてきた。

『知崎さん、ようやく二人きりになれたね』

『やめて下さい!』

 怯えた静波の声と揉み合う音がした。


『嫌も嫌も好きのうちって言うけど、君もそうなんだろう』

『違います!やめて!気持ち悪い!』

 静波の拒絶に楢崎は豹変した。


『あ?気持ち悪いだ?嬉しいの間違いだろう』

『嬉しいなんて思ったことありません!離れて下さい!』

 さらに揉み合い衣擦れの音が聞こえ、楢崎の声もひそめているにも関わらず声がよく聞こえた。


『どうした?今日は随分と威勢が良いな。いつもは怯えて言葉も発しないくせに』

『やめて!髪の毛を触らないで!私好きな人がいるんです!だからもう付き纏うのはやめて下さい!本当にこれ以上近寄ったら他の先生に相談しますから!』


『出来るものならやってみろよ。俺の正当性を証明してくれる人間はたくさんいるんだ。言ったところで君が身持ちの悪い尻軽女と言われるだけさ。君の友達でさえ君を置いて逃げるほどだ。誰も君を(かば)ってくれる人なんて俺以外誰もいやしないのさ』

 ここまで流していたテープレコーダーを絵梨が止めると、皆が楢崎を冷たい目で見つめた。


「ちなみにこのお友達は逃げたのではなく、私を呼びに行ってたのよ。知崎さんのピンチだってね」

 絵梨の言葉に続き、恭二も言葉を続けた。


「ついでに言うと他の生徒からの垂れ込みであんたが知崎さんに言い寄ってたって聞いたんで学園で調査し今回彼女にも協力してもらって音源を撮らせてもらったよ」

「まだ言い訳あります?」


 少なくともこの音源の内容から生徒は教師からの行動に戸惑いと憤り、拒絶と不信感しか感じられない。

 第三者の人間が聞いても同じ見解だろう。


 絵梨と恭二の追及に楢崎は「嘘だ」と呟くと力なく首を横に振っていたが理事長も参戦する。

「楢崎先生、これは完全なるコンプライアンス違反です。申し訳ありませんが、あなたのような教師をこのまま野放しにはできませんので、本日付で解雇致します」


「理事長!」

 慌てて楢崎は詰め寄るが、真一は冷たい視線を送りさらに言い放った。

「このことを知崎家に話せば、ストーカーとして被害届も出るかもしれませんね。警察に行きますか?」


 理事長の言葉に楢崎は真っ青になって、ここに来てようやく事の重大さに気がつき、足まで震え始めた。

 そんな楢崎の目の前に恭二は1枚の紙を理事長の机伝いに突き出した。


「ここに念書がある。これ以上彼女に近づかないと誓うなら警察には突き出さねーよ。ただし約束を破るようなら直ちに警察にしょっぴいてもらうからな」

 力なく立ち尽くし楢崎を、理事長と恭二に任せ絵梨は静波を連れて静かに理事長室を出た。


 彼女は安心したのか、ポロポロと泣いていた。

「先生ありがとうございます」

 可愛らしい彼女に胸元で泣かれて思わず相貌を崩して頭を撫でた。


 こんな可愛い子が胸の中に飛び込んで来たら楢崎ではないが、勘違いしてもおかしくないかもと思ってしまった絵梨は、奴を擁護するわけじゃないが虚無顔になった。

 生徒を落ち着かせようと背中をポンポンと優しく手を置いたり離したりしていると、少し時間を空けて彼女は自分の気持ちを吐露とろし始めた。


「もっと早くに相談しておけばよかった。でも先生同士のことだから信じてもらえないかもって勝手に思い込んで、何もできなかったんです」

 まだポロポロと泣く彼女に、その気持ちも理解できると絵梨は背中をポンポンと優しく叩いた。


 その上で周りの大人に相談しなかったのか気になり聞いてみた。

「ご両親に相談することもできたでしょう、どうしてしなかったの?」

「それは・・・・」

 泣いていた彼女は、急に泣き止み真っ青な顔になって呟いた。


「パパの耳に入ったらこの学園潰れるかもって思ったら、安易に相談も出来なくて・・・」

 この国を代表する製薬会社の社長が娘を溺愛していることは恭二の身辺調査で知っている。


 それならその可能性もゼロではないか・・・と思ったら絵梨は震えた。

 怖。聞かなかったことにしよう。


 この子はこの子なりに色々考えていたのかと肩の力を抜いた。

「じゃあ、あの念書は知崎さんの叔父さんに渡しておくわ。もしあの男がまた目の前に現れるようなことがあったら叔父さんに相談しなさい」


「はい!ありがとうございます!」

 彼女は憂いの半分は取れて泣き笑いしていたが、絵梨は追及の手を緩める気はなかった。


「その上で知崎さん。明日もう1人の人も、けりを付けるわよ」

 思い出し静波は眉を下げた。

「出来ますでしょうか」

「出来るわよ。当事者にご登場願うから」


「え・・・・どっち?」

「両方に決まってるでしょう」

「今までニアミスで無理だったのに、そんなことできるんですか?」

「大丈夫。私に任せなさい」


 絵梨が自信満々に言うので静波は、眉を下げて「先生にお任せします」と言った。

 その顔も可愛ええ。と相貌を崩していると後ろから「絵梨ちゃん」と半眼の響子が肩口から顔を出して声をかけてきた。


 驚きすぎて飛び上がった絵梨は振り返って、目を見開いた。

 響子の他にもう1人男性がいて、見知った人にあれ?と思っていると、後ろにいた静波がその人物に気がつき走ってその胸に飛びついた。


 その人物は知崎の運転手で、いつも静波の送迎をしている人だった。

「大丈夫でしたか、お嬢様!」

「ええ!もう大丈夫よ!心配してくれたの?」

「当たり前じゃないですか!」


 2人の様子を見て、あれ?え!あれれ!!と絵梨は目を見張った。

「あの2人そういう関係?」

 今まで気がつかなかった。


 毎日のように迎えに来る男性は淡々と静波の相手をしていると思っていたが、能力開花したからか2人の周りがピンク色に見える。

「どう見てもそうでしょう」


 横ではっきり言う響子に、目線だけ友に向けると呆れ顔をされた。

「気がつかなかったのね絵梨ちゃん」

 目が鈍ちんと言っていて、ショックだった。


 まじで今までの私って・・・・。

 ただ、おばあちゃんの言った(正確には手紙に書いていた)ことを実感した瞬間でもあった。


【絵梨、自分が感じる感覚を研ぎ澄ますことなく白芭の人間なら悪意と好意は肌で感じられるようになるはずだ。今後はその感覚を信じて自分の人生を謳歌しなさい】


 その手紙に書いていた通り、楢崎の体からは薄黒い周波みたいなものが出ていて、逆に真一、恭二、響子、静波からは黄金色にも似た黄色い周波が出ていた。

 それが悪意と好意の違いであるなら、今後は味方につけられるものと警戒するものの見極めは容易にできるな。と思うと同時に、目の前の2人を見て気付いた。


 好意を向け合う者同士も目視できるのか、と。

 2人の体から同じ周波の色が出ており淡いピンク色の気が心地いい空気とともに運んでくる。


 ただ、、、ここまで2人の露骨な態度今までみたことはないぞ。

 一応鈍いから気づかなかったわけではないと響子には伝えたが、信じられないと表情が謳っていた。

 なんでだよ。本当のことなのに!


 静波の荷物は響子の手腕ですでに知崎の送迎車に乗っているらしい。

 2人して帰路に着こうとしたその瞬間、何故か運転手だけが絵梨の元に戻って来た。


「あの!・・・これ要様から預かっておりまして。必ずお渡しするように念押しされましたので、よろしくお願い致します!」

 そう言って絵梨の手に紙切れを強引に渡し、自身の支えるお嬢様の元に走っていく男を見て、絵梨は渡された物に困惑した。


 そんな絵梨の気持ちを知らない2人は振り返り、揃って絵梨と響子に深々と頭を下げると学校を去って行った。

 2人の姿が見えなくなった後、理事長室の戸が開き中から3人が出てきた。


 楢崎はすでに心ここに在らずと呆然と恭二に連れられて出て来たが、絵梨の顔を見て正気に戻ったのか睨みつけて来た。

 その時理事長の真一が絵梨に顔を向けてにこやかに話しかけて来た。


「お嬢、今日はもう上がって宜しいですよ」

 その言葉に楢崎がえ?と言う表情をしたが、次に恭二の言葉で目を見開くことになる。

「婚約者の知崎さんのところに行くんだろう。さっきの彼女たちと一緒に行けばよかったのになんで行かなかった?」


 恭二の言葉に絵梨は眉を顰めて幼馴染を見た。

「まだ婚約者じゃない」

「どうせ数日中には公表すんだろう。婚約結んだも同然なのに何まだ渋ってんだよ」


 うるさい!私には私の矜持があるんだ。

 乙女心もわからんやつに言われたかないわ!


 そう思い握っていた手に力が入り、手の中にあった紙切れがカサリと音を立てた。

 思わず手を広げてみれば、ぐしゃぐしゃになった紙切れには要の名前と1つの電話番号が書かれていた。


「要さんお前の電話待ってんだろう。早く連絡してやれよ、じゃあな」

 そう言いながら楢崎を引きずって廊下を歩いて行った。

 その間、真一と恭二は2、3言葉を交わしながら歩き、絵梨達の視界から消えて行った。


 どうしよう、これ。

と紙切れを見る絵梨に、響子はうーんと悩む仕草をすると口を開いた。

躊躇ためらう理由は何?」

「・・・・」


「まあ今朝の様子を見ればなんとなく考えてることわかるけど、明日彼が()()()()ならそのメモも無視すればいいよ。でも彼キーマンでしょう。必要なら行くべきだよね」


 先ほど理事長室に行く前に保健室に戻った際に、響子はすでにそこで待機していた。

 そして静波が落ち着くまでの間、テープレコーダーの記録を一緒にざっと聞いていた響子は明日対峙する教師が誰か、そして誰がその舞台で踊らされるか知っているからこそ、出たセリフだった。


 苦虫潰したような表情をする絵梨に響子は助言した。

「不安ならここに来てもらう前に予防線張っておいて、今日は大人しくしてもらったら?」

 普通の関係ならそれが断然いい。


 だが紋が異常なのか、この場合正常になのか分からないが作動した場合、本人たちの意思度外(いしどがい)しでまた大人の階段を3段跳で駆け上がるようになるんだが!?

 末恐ろしい!と体に腕を巻き付けて震える絵梨に、響子は苦笑いするしかなかった。


「まあ、どうするかは絵梨ちゃんに任せるけど。はい」

 そう言って手に乗るほどの箱を手渡してきた。

 それを目にした絵梨は目が飛び出るほど驚き、そのまま勢いよく親友を見た。


「これあげる。昨日は準備もないままだったんでしょう。今後は時期的にそう言うわけには行かないから恭二くんの分けてあげる」

 響子の言い分に絵梨は立ちくらみがした。


 絵梨の手の中には要からもらったメモと、0.02と書かれたゴムの真新しい箱が鎮座していた。

 そりゃ大人だから!響子も出産経験者だから!今朝の私の状態を見て何があったかはわかってるんだろうけど!

 できればそっとしておいて欲しかったと心の中で泣いた。


「絵梨ちゃんこの間、月のもの終わったばかりだから今回は大丈夫だけど次は「あーあーあーあー!」」

 それ以上は口に出して言うんじゃない!

 涙目で親友をを睨みつければ、彼女はフフッと笑って踵を返し絵梨を突き放すように「また明日、会いましょう」と自宅に向けて歩き始めた。


 ルンルンっとスキップして去る親友に、私も響子と恭二の子供がいるところに連れて行ってくれと頼みたかったが、響子の背中が完全拒否を示しており、絵梨は翌日の事も考え結局泣く泣く要に電話する羽目になったのだった。



 




次回は週明け月曜日にUP予定です。

のはずでしたが、本日もう1話(誤って)UPしちゃいました。

良かったら続きをお楽しみください。

よろしくお願いします。



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