14、能力開放と、共闘
その場で地味メイクを施してもらっていた最中、恭二が思い出したように口を開いた。
「ところでよ。エリンの〈鍵〉が知崎さんだって何で新兄は知ってたんだよ」
それに答えたのは瞼を閉じたまま化粧で地味に化け始めていた絵梨だった。
「白芭の能力者同士は同じ預言者の〈鍵〉を感じ取ることができると言われている。真兄は姉さんからそれらしいことを聞いてたのよ。要くんも姉さんから30代になるまで恋愛はしても結婚はしない方がいいと意味深なことを言われてたって言ってたわ」
それを聞いて真一は黙って頷き、恭二はなるほどと腕組みした。
「それで知崎さん、それがどういう意味かわからず、マリン姉ちゃんのお墓参り毎年行ってたってことか」
「恭二は知ってたの?要くんが毎年お墓参りしてたこと」
「当然だろう。毎年お前のお墓参りのタイミングでそれ前後で記者が張り付いてないか、他の問題がないか確認してたからな。最もマリン姉ちゃんのお墓に来てたのは宇崎関係を除けば、3人だけだけどな」
「3人?」
思わず瞼を上げ恭二を見れば、「絵梨ちゃん前向いてて」と化粧を施していた響子に苦言を言われ、「ごめん」と眉を下げて親友に向き直った。
「お前と知崎さんともう1人、マリン姉ちゃんと同い年くらいの女性だ」
誰だろう。と思うと同時に知っておくべきだと勘が働いた絵梨は恭二に質問した。
「その人は今年はまだ来てないの?」
「確認されてない。もう少ししたら来るのかもしれないな」
「ごめん、もしその人がお墓に来るようなら何者なのか追跡して」
意図を理解した恭二は「指示しとくわ」と頷き、スマホでメールを打ち始めた。
少しして響子から施される地味メイクも後少しで終わろうとしていた頃、恭二はコロ付きの椅子に背もたれ部分に顎を乗せて妻と絵梨を見ながら話しかけてきた。
「そういえば知崎さん不思議なほど、いつもお前の直前に墓参りに来ていたな」
恭二の言葉に反応したのは真一だった。
「ニアミスでしょうね。少しタイミングが擦れていれば、二人出会っていた可能性はあったと言うことです」
「〈鍵〉だったなら、その方が良かったんじゃないのかよ」
従兄弟の話に恭二が突っ込めば、真一は首を振った。
「今のこのタイミングだから意味があるのでしょう。そこは白芭の預言者の考えることなので私には分かりませんが」
真一の言葉に恭二が黙ったところでメイクが終わった絵梨が立ち上がり質問した。
「それより墓地を管理している住職はどうなったの?」
その言葉に宇崎陣営は皆が表情を固くした。
「どうしたの?」
異変を感じて絵梨が言えば恭二が口を開いた。
「お前住職に娘がいたの知ってたか?」
「いいえ。息子さんは何度か見かけたことはあるけど、娘さんは知らないわ。それがどうしたの?」
恭二も椅子から立ち上がり理事である新一の机の横に立った。
「ずっと疎遠になっていたその娘が少し前に子供を連れて戻ってきていたらしいんだが、どうやらその娘の子供を人質に取られたらしい」
固い表情で言う恭二に、その意図に気が付いた絵梨も表情を強張らせた。
「・・・・白芭なぎさの仕業なの?」
「白芭なぎさ本人ではないようです」
真一が静かに否定する言葉を告げれば、鋭い視線を向けて絵梨は再度質問した。
「じゃあ誰が?」
「白芭なぎさの祖父。白芭郁三です」
白芭なぎさの祖父は絵梨の曽祖母(曾お祖母さん)の兄に当たる人だ。
女系家系の中で白芭一族に男児が生まれたと第二次世界大戦前に大騒ぎになった曽祖母の兄に当たるその人は、白芭で数百年ぶりに誕生した男児が郁三だった。
他の家であったなら跡取りになり得るそんな人も白芭の能力の前では無力で、その一族の名を引き継ぎはしたが付属扱いを受けた人だ。
だが、そこは血は受け継がれており孫の代で、なぎさが紋を持って生まれたことで欲が出たと言うことか?
「もう八十代後半の人よね」
「はい、ですが白芭なぎさの隣には必ず郁三氏がいると言われているほど、囲い込んでいるようです」
「母親は?」
「すでに亡くなっているようです。彼女が小さい頃にはいなかったと情報が入っています」
白芭なぎさは祖父に育てられ、その意思を繋いでいると言うことか。
「人質に取られたって救出はしてるの?」
「それがどんなに調べても居場所がわからないんだ」
宇崎が調べてわからないってどう言う意味だ。
「国内を出ていないこと以外は、分かりませんでした」
「防犯カメラにも写っていなくて、プロの犯行ではないかと結論づけたところだ」
それならと絵梨は、恭二に日本全体、各都道府県、更に各地方の市町村の三部の地図を用意するように指示を出した。
おばあちゃんは無くし物をどうやって探していたっけ?絵梨は少し考えを巡らせていた。
母は絵梨が小学校に入学した頃から夏休みになると、毎年1日だけ姉と2人で白芭に行くように計画を立てた。
その間、祖母の仕事の様子を見るようにと言われ、白芭の当主だけが出入りが許された部屋に忍び込んで姉妹で祖母の仕事風景を見ていた。
血の縛りが発揮されるその部屋は人の出入りを制限されており、あの白芭なぎさですら入れない特別な場所だった。
他の者がそこに侵入しようとしてもまるでそこに透明な壁が存在しているようにそれ以上歩を進められない、結界が張られたその場所には完全紋を持つ者しか入室が許されていない神秘なところだった。
真梨と絵梨はフリーパスだったため、人知れず入り込んで祖母の様子を見ていた。
それらの行為は姉が亡くなるまで毎年行われていたが、正直絵梨は興味がなくいつも姉が実況する横でいつもスマホを突いていた。
『探し物をする時はああやって手を翳すのですね』
『はい、人探しの時も同じ手法を取ります。まずは日本全体の地図で大まかな場所を探します』
祖母の付き人だった瀧田は祖母から結界返しと言われる特別な物を授かっており、唯一その部屋に白芭以外で出入りを許された人だった。
歴代ただ1人、そういう人物を当主達はそばに置き一緒に行動させる腹心を選ぶのだそうだ。
もし絵梨が白芭を継いでいたなら、その役目は響子がしていただろう。
『探し物や人がいる県がわかった後に、その県の詳しい地図を出してきます』
『分かる、とは?』
『当主様 曰く、そこの部分が温かく感じるのだそうです。ただし探す対象の写真などが必要になりますが』
絵梨はハッとして、その孫の写真はないかと聞くと真一からすぐに提供され、日本地図を前にすぐにその手を翳し、集中した。
温かくなる場所は・・・・ここね。
目を開ければ、そこは都内真っ只中だった。
「ここ近辺の地図を持って来て」
すぐに恭二から提供され、先ほどと同じように手をかざせば、先ほどよりも熱く感じ場所があった。
そこの部分を理事長の机の上にあったペンで◯を描き込み、そこの場所の詳しい地図も用意させた。
同じ動作をすると、ある埠頭からとんでもない熱を感じ指差した。
「ここにその子がいる」
「間違いないか?」
確認する恭二に、初めて自信はないが苛立ちが先に立ち絵梨は檄を飛ばした。
「急ぎなさい。あちら側は今相当焦ってるから何をするかわからないわ。今日は夕方まで、ここのことも膠着したままだろうからそれまでに収拾してきて!」
そう言う絵梨に恭二も苛立ったように反発して口にした。
「無茶苦茶言いやがる」
「急げ、恭二!」
しかし真一にも急かされて「わかったよ!!」と勢いよくその場を離れていった。
残された者達は、力の入っていた肩の力をフーッと抜いた。
「お見事です」
真一にはそう言われたが、絵梨には確信が持てなかった。
「その称賛は見つけて助けられてからにして。私としてはこの能力を正しく使えているのかは手探りの状態だからね」
確かにと目を閉じた真一だったが、響子は違う反応を示した。
「それでも凄かったわよ。お疲れ様絵梨ちゃん」
「うん」
癒し担当の響子は良い。とほんわかする絵梨だった。
全てが終わり、少し早いが響子に支えられながら保健室まで連れて行ってもらい、1人になると椅子に座ってたり立ったりして足に感覚を戻していた。
おのれ、許すまじ知崎要!
痛む腰を支えながら壁伝いに歩行練習をしていたところで、知崎静波が保健室に顔を覗かせて来た。
それに気がついた絵梨は挨拶をした。
「知崎さんおはよう」
笑顔で挨拶すれば、ほっとした表情になった彼女は「おはようございます」と保健室に入って来た。
何故ここに呼ばれたのか不安だったようだ。
叱られるとでも思ったのかな?と少し申し訳なく思ったが、まずは状況を説明しようと机の前にあった椅子に座ってもらった。
「まず、知崎さんごめんなさいね」
「え?」
何故絵梨が急に謝って来たのか分からなかった静波はキョトンとした表情になった。
「秋休み以降、教師のことで悩んでたのよね」
絵梨の言葉に静波はハッとして口元に手を置いて目の前の白衣の保険師を見やった。
「昨日、2年生の生徒が教えてくれてね。ごめんね気づいてあげられなくて」
絵梨が腰を庇いながら床にしゃがみ込み、彼女の手をしっかり握ってそういうと彼女はボロボロと涙を流し始めた。
「同じ教師だから相談しにくかったのよね。でも知ったからにはこの件を放っておくわけにはいかないわ。その教師たちをどうにか引っ張り出して糾弾しないといけないんだけど、知崎さん協力してくれない?」
驚いて目を見開いた彼女は、少しして声を出した。
「協力・・・・ですか?」
「そう、そのためにはあの人たちと嫌な時間を過ごしてもらわないといけないんだけど、今日一日でいいの。これを使って彼らとのやり取りの会話を取って来てくれない?」
テープレコーダーをポケットから差し出しながら言えば、彼女はじっとそれを見つめて、質問して来た。
「本当に今日一日だけですか?」
「うん、約束する。その上で今日明日中にこの問題を解決に持って行く。だから協力お願いできるかな?」
しばらく俯いて考え込んだ彼女は意を決したのか、引き締まった表情を絵梨に向けて了承の言葉を吐いた。
「今日一日我慢すれば、この問題から解放されるなら、私やります」
その言葉に絵梨は眉を下げて頭を撫でた。
「無理はしなくて良いからね。もうだめ!って思ったら中止していいからね」
「いいえ、ずっと誰にも相談できなくて悶々をしてたんです。でも一緒に問題解決してくれる人がいると思うと勇気が湧いて来ました」
気負い過ぎないようにと絵梨はもう一度、静波の頭を撫でておいた。
静波の友達の中に現状を理解していた子が1人いたようで、彼女にも協力を仰ぎ、問題の教師達の言動を把握するために1日中テープレコーダーで静波の周りの会話を撮るよう実行に移してもらった。
お昼すぎに恭二から連絡が入り、住職の孫娘の救出に成功し宇崎で確保したと連絡が入った。
その情報を持って来た響子と二人で細やかにコーヒーで乾杯した。
放課後になり保健室でそろそろ静波が来るかと待っていると、血相を変えて押しかけて来たのは静波の事情を知っていた友人である学生だった。
彼女の言葉を聞いて、絵梨は全速力で静波のいる場所に向かった。
その間スマホで恭二にも情報共有するため電話をかけて、ある場所に来るように言うと電話を切って全速力で向かった。
今日は本来なら教師達は講習が行われる予定になっていたが、真一に一日ずらしてもらった事で時間が空き、まずは一人がその時間を利用して彼女に接触して来たようだ。
予定通りだが、彼女が嫌な思いをしていなければいいなと、学生の頃にもこんなに必死に走ったことないわと思いながら駆けった。
道中、恭二が後ろを着いて来ていることに気が付き安心して体育館裏へと急いだ。
体育館裏から死角になる建物の陰に恭二が待機する姿を見てから倉庫がある方へ足を踏み入れると、聞いていた通り銀杏の木の下に静波と楢崎が不適切な距離感で立っているのを確認し声をかけた。
「楢崎先生、随分生徒との距離が近いように見受けられますが、少し距離を離して頂けますか?」
肩で息をしながら言う絵梨の言葉に、驚き振り返った楢崎はハッとして静波から飛び跳ねるように離れた。
その間に絵梨は静波の元に駆け寄り、二人の間に入り楢崎と対峙した。
後ろにいる静波は男と二人きりで怖かったのだろう。
絵梨にピッタリくっついて白衣を握ってブルブル震えていた。
少し離れた場所から絵梨を不審な目で見てくる楢崎に絵梨も、負けじと質問した。
「ここで何をされていたんですか?楢崎先生」
「え?」
自分の置かれた状況をはっきり理解していないのか、聞かれたことにピンと来ていないのか間抜けな返答にもう一度質問した。
「知崎さんが怖がっているように見えますが、楢崎先生はここで彼女に何をしていたんですか?」
「それは・・・」
「先ほど私が来るまで、やけに距離も近かったようですが、コンプライアンス違反ではないですか?」
「違います!これは・・・そう!彼女が気分が悪いと言うので介抱しようと近づいただけで、決してコンプライアンス違反ではありません!」
言い切った楢崎の顔は引き攣っており明らかに顔つきがおかしい。
絵梨は後ろに振り返り静波に質問した。
「そうなの?」
すると声を出す事も出来ないほど怖かったのか、何度も首を横に振る静波に体をひねって頭を撫でた後、再度楢崎と対峙する。
「なんか違うみたいですけど?」
「知崎さん!?」
それでも何度も彼女は首を振っていたようで、背中越しにそれを感じ、絵梨は楢崎に鋭い視線を向けた。
するとビクッと震えた楢崎はその場を離れようと走って逃げ出したが、絵梨は声を張り上げた。
「恭二!楢崎を確保!」
「おうよ!」
体育館の裏横から飛び出た恭二は、走って自分の方に来た楢崎の前に出ると思いっきり足を上げて奴の腹に中段蹴りをお見舞いした。
楢崎は敢えなくその場に蹲った。
不意を突いたとはいえ呆気ないな。と思った絵梨同様、恭二も「弱」と言いながら意識が朦朧としている楢崎を担いだ。
不届き者の教師は恭二に任せて、絵梨は静波を連れて一旦保健室に戻って行った。
友人と対面を果たしホッとした表情になった静波を見て、最悪な事にならなくて良かったと胸を撫で下ろした。
そして彼女が落ち着いた頃に、絵梨は静波を連れて理事長室に向かった。
そこには未だお腹を押さえ真っ青な顔色の楢崎と恭二、理事長の真一が神妙な面持ちで対面していた。
明日1話UP予定です。
よろしくお願いします。




