12、見えていなかった疑問 ✩
一応R15指定にさせて頂きます。
〈鍵〉
その存在は紋を持つ者の〈伴侶〉を意味する。その時にその預言者の最良の相手として選ばれる重要な存在。
それなのに、なぜ姉の婚約者は紋を持つ姉ではない者に目を向けた?
心を惹きつけ、逆に惹きつけられる相手を〈鍵〉と呼ぶなら、姉が婚約者相手に献身的に接していたのは理解できる。が、なぜあの婚約者は不義を行った?
言い方を変えれば、不義を行えたのだ?
何より婚約を破棄されるまでなぜあの勘の鋭かった姉は気づかなかったのだろうか?
両親の死にも疑問は残るが、母も勘は鋭い人だったにも関わらず、何もせずその時を待ったのだろうか?
疑問が次々と浮かんできては消えていく中、一つずつ情報収集して行くしかない。
で、あるならまずは〈鍵〉の不貞に関しては情報を持ち得ている人物と週末に会えるように手配しようと決めた。
絵梨の涙が止まって考え込んだことに気がついた要が、それまで落ち着かせようと動いていた手が怪しい動きに変わり、絵梨はその手を掴んで阻止した。
「何をそんなに考え込んでるんだ」
「色々とね」
掠れる声で何とか応え、要の腕の中から見上げて「それより」と前置きを置いた上で会話を続けた。
「まずは起きましょう。このままではおかしなことになるのは目に見えて、って!聞いてるの!」
絵梨が掴んでいた手とは反対側の手が徐々に絵梨の腰から臀部に降りて行き、要は絵梨の耳たぶを口に含み始めた。
「エリン俺は第3第4ラウンドOKだ」
何がOKだ。
鬼畜か、この男は。
力の入らない両肘でなんとか要の胸板を押し返し、顔を背けた。
「さっきも言ったけど今日は平日です。お互い仕事がある身でしょう」
一族のことは気になるし解決したいが、現実問題としてそればかり考えているわけにはいかない。
社会に身を置いている以上、責任は伴うし投げ出すわけにはいかないのだ。
だが相手は頭に花が咲いたままなのか、おかしなことを言い出した。
「そのことだが、エリン。今日は一緒に休もう」
整然といい笑顔で宣う要に本気で呆れた。
「昨日も休んでんのよ。しっかりしてよ!孤高の紳士って言われた知崎要はどこに行ったのよ」
週刊誌にこの男の記事が載ると必ず見出しに載るフレーズを出せば、笑顔で肯定する言葉を吐かれた。
「ここにいるだろう」
今のあなたのどこが孤高の紳士なのよ。
彼のことを受け入れると決めたが、無責任に仕事を休むなど言語道断!そこは違う!と意見した。
「ただの性に目覚めた変態じゃない」
辛辣な言葉を言えば、気にする素振りも見せず逆にイタズラっぽい笑みを向けてきた。
「エリンだけだぞ。俺にそんなこと言うの」
「言わせてるのはあなたよ。いいから離して!」
未だ密着している二人はベットの上でじゃれついていた。
「エリン〜」
雰囲気で流そうとしている男に、留めの言葉を突き付けた。
「私はあなたの姪の問題を早急に解決しないといけないことがあるの。分かったら離してちょうだい!」
姪という言葉を聞いて囲い込んでいた腕の力を緩めた要は、虚無顔になった。
「姪・・・静波、静波かぁ」
ここで初めて絵梨から片腕を離して上向きに体を横たえ、片腕を自身の頭に巻き付けるように抱え込んだ。
「昨日帰って兄さんに聞いてみたが、あの子の抱える問題ってのに心当たりがないと言われて、分からなかったんだよな」
「そこは学園の人間をして謝っておくわ。彼女の問題は学園内で起きた問題だったわ」
ベット上に残っていた要の腕を枕にしていた絵梨が捕捉しておいた。
「何か分かったのか?」
絵梨の顔を覗き込むように近づいてくる要の口元に手を置いて絵梨は彼の目を見た。
「ええ、昨日あなた達2人を見送った後に他の生徒から垂れ込みが入ったの。彼女が保健室に頻繁に来始めた頃と時期が一致しているし間違いないと思う。後、彼女の抱える問題は1つではない」
今の紋の状態になったからか、感覚が研ぎ澄まされていて勘が働くのもあるが、昨日日報と時間割を照らし合わせて判明したことが2つあった。
彼女は今、2つのことに頭を悩ませている。1つは昨日の化学教師だが、もう1つは・・・・。
横にいる男に視線を移せば、相手もそれに気がついた瞬間目元に色気が帯び始め口元に置いた手の内側に舌で舐められ震え上がった。
早急にここから離れるのが最良だ。
そう思って向きを変えてベットから出るが、案の定足に力が入らずベットからずり落ちかけ、なんとか片手で床に手をつき頭から落ちることは免れた。
だが腕の力もふにゃふにゃ状態で体を支えきれずに足が浮きかけ、要が腰に腕を回して難を逃れた。
絵梨から安堵の息が漏れるが、2人とも全裸での行動である。
「誘ってるのか?」
「そんなわけないでしょう!服をちょうだい!急がないと生徒が登校してくる時間になっちゃうわ!」
絵梨を引き上げベットの上に座らせると、要は部屋の時計を見て、肩をすくめた。
「エリンまだ6時だ」
「ここで無駄な時間を過ごしてたらあっという間に8時に成りかねないでしょう!」
「無駄ってなんだよ。有意義の間違いだろう」
「この会話も生産性がないことに気がついてる?あまりしつこいと、もうここには来ないわよ」
「なんでだよ!」
「公私はしっかり分けてよ。社会人なら当然でしょう」
至極当たり前のことを言えば、要は苦虫潰したような表情をしたが、そこは引き離すしかなかった。
そうでないと理性が保てなくなる事を本能的に絵梨は感じていた。
部屋を見回して、戸惑い声を出した。
「下着どこ?服は?」
「風呂に入る前に洗濯にかけたよ。もう乾いてると思うから取ってくるよ」
「あれからそんなに時間経ってないわよ。乾いてるの?」
「大丈夫。うちには乾太くんがいるから」
衣類乾燥機の乾太くんは優秀と聞くから大丈夫かと思っていれば、要からとんでもない言葉を投げかけられた。
「問題はエリンのそこだろう。俺を何度も受け入れたから溢、ブッ!」
とんでもない事を口走る男の口を止めるべく、絵梨は真っ赤な顔をしてなけなしの力で顔に向けてクッションを投げ飛ばした。
「分かってるなら自重しなさいよ」
「え、無理」
弱々しく飛んで来たクッションを受け止め要が真顔で宣った。
言い切ったよ、この男。
真っ赤な顔で半眼で睨む絵梨に、要は意地悪な笑みを浮かべながらクッションを持って絵梨に近ずくと持っていたものをベットに返した。
そのままサイドテーブルに置いてあったペットボトルから水を口に含んだ。
喉が渇いていた絵梨もそれが欲しいと手を伸ばせば、要は片方の手で絵梨の腕を掴み体を引き寄せるともう片方の手で後頭部を支え口移しで水を流し込んで来た。
驚き目を見開いたままゴキュッと音を立てて飲み込んだ絵梨に、蕩ける笑顔を向けてもう一度要は軽くチュッと口付けをした。
「今はこれ以上は自重するよ。でも今晩はまたここで過ごそう」
そういうと要は機嫌よく寝室を出て行ったが、その背中を呆然と見ながら絵梨は少しして、無理だなと顔を引き締めた。
静波の問題もそうだが、片付けないといけない問題が山積みでそれらを片付けないことには身動きが取れない。
次会えるのは軽く見積もっても来週の週末かな。
間違っても今晩ではあり得ない。
まあ、今それを言うと要が反発してここに閉じ込めそうな勢いなので、学校に着いたらその辺は伝えよう。
サイドテーブルに戻されたペットボトルに震える手を伸ばし喉の渇きを潤した後、蓋をして気怠さもあり力無くポテっとベットの上に横になった。
その後すぐに下着や服と一緒に蒸しタオルを持って戻って来た彼の表情は緩むっぱなしだった。
長時間の拘束で動かない体にされたことで、着替える事もままならず恨み節を呟く絵梨のお世話を笑顔で甲斐甲斐しく行った要は、絵梨が部屋に来た時と同じ状態に支度を済ませた。
お姫様抱っこで寝室から出た絵梨の前にデリバリーの食事が並んでいた。
昨日夕飯に頼んでいたデリバリー食品を要が入浴前にリビングに取り入れていたらしい。
今が寒い1月だから食べ物が腐らず良かったが、夏なら無駄にしていただろう。
要がそれらを温め直してくれたので朝食代わりに食した。
生まれたての子鹿よろしく腕を振るわせながら食べていれば、見かねた要が絵梨の横で給餌し始めたが、もう反発する気が沸かず成すがまま受け入れで無心で食べた。
それだけ出勤の時間は迫っていたし、何より昨日夕食を抜いた状態で誰かが盛ったせいでお腹が空きすぎていた。
今日この後、静波の問題を解決するに当たって体力を付ける必要性もある。と、いつもよりたくさん食事を口に入れた。
そして要にあることを頼み、私物の1つを借り入れる約束をして、学園に向けて要の自宅を後にした。
明日1話UP予定です。
よろしくお願いします。




