2001年11月
その後、嵐のように襲来した人たちの名前を知った。
女性は、『祠堂篝火』。
男性は、『祠堂薄暮』。
薄暮さんが、元玖条の人間ということで、私の誕生日にきたらしい。
しかし、私の両親だけでなく使用人までも『薄暮』という人物について口をつぐんだ。
そのせいか私の中で好奇心がどんどん膨らんでいく一方だった。
私が小学校高学年の時。
十家の総会が開かれることとなった。
その時には、私の家がどうしてここまで大きくなったのか、自分の内に他の人と違う部分があることに気がついていた。
私は、当主の娘として初めて総会へ参加する流れとなった。
議題は、言うまでもなく『玖条家』についてだ。
『あの一件』以来、玖条の家はどんどん落ちていった。
別に表側では、優秀な資産家としては振る舞えている。
けれど、裏の顔は違う。
威厳を失い、それでもなお『失った栄光』に縋りつこうとしていた。
茂野辺家からは、清貧に立て直すように言われたがそれを聞かず、久峨家からは、危機感を持てと言われたが、うるさいと罵声を浴びせる始末。
声に出さない他家から見ても、玖条の家は『終わり』である。
だからこその総会。
そうして、招集された中一番の統率者の席に———。
「さあ、総会を始めましょう」
『祠堂篝火』がいた。
十家の各意見。
御錠 取り潰し。
吾喰 活動の自粛および各十家への協力要請。
久峨 自粛と制裁。
茂野辺 保留。
栗栖 取り潰し。
キリエ 取り潰し。
姫条 自粛。
兎束 持続。
八家の意見を聞いて私の父は半狂乱だった。
内容はひどいもので自己弁護にすらなっていない。
自分達の家の歴史や血の尊さ、資産の運用。
ここにいる人たちに、何も響かないであろう釈明に聞いている私は肩身が狭い思いだ。
「結構」
その言葉だけで、父の妄言を切った。
もちろん、祠堂篝火の一言だ。
「時間の無駄はしたくないわ。玖条家当主、玖条正明。現時刻をもって当主の座を更迭。変わりは、そこのお嬢さんがいいわ」
「え」
急に話を振られて、変な声が出た。
その言葉に激怒した父が、テーブルをひっくり返して祠堂さんに飛び掛かろうとした。
「愚かね」
その一言だけ。
言葉をかけられた父は、急制動をかけられたかのように地面に転がって彼女の足元に転がった。
はた目から見ても父は気絶していた。
そこにいる全員が息を呑む。
なにせ、何もせず、何をしたのかさえ理解できず、大の大人を気絶させたのだ。
「さあ、総会は終了よ」
言葉通り、他八家は指示に従い退室していく。
みんなが退席した後、私と祠堂篝火と呼ばれた女性と二人で話をすることになった。
「あの時以来ね」
「あの時は、ありがとうございました」
純粋にうれしい時間だった。
周りが形だけのお祝いに対して、彼らは私だけのために来てくれたのだから。
でも。
「こ、今回はちょっと———」
やりすぎであるとは口が開けなかった。
何せ、あれでも父である。
私の中に流れる血を抜き出して、フィルターで濾過したいと思ったほどではあるが。
自分の立ち位置が重大過ぎて血の気が引いている。
「仕事に関しては、今すぐに、と言うわけではないの。表側の仕事は、大学卒業後になるけれど。裏の仕事はこの二、三年で慣れてもらおうと思っているから。もちろん、小学生の身で辛いと言いうのは知っているわ。求心力が無くなると思うから分家に連なる人達をまとめるのは、祠堂一族がサポートに入ります」
彼女の口から出た言葉をまとめると、祠堂一族が極力サポートしてくれるとのことだが。
「私、まだ『夜』の街に出たことがなくて」
その言葉を想定していたのか、祠堂さんは見据えていたように———。
「なら、慣れてもらいましょう。しばらく、私の旦那を貸してあげる。時間を有効に使って慣れなさい」
そう言い切った。
子供にかける声ではない気がするけれど。
「やってみます」
体は、勝手に動いていた。
その言葉に少しだけ。
ほんの少しだけ微笑みを浮かべてくれた。




