2013年5月 Part4
午後の授業を受けて、帰宅する。
うちの高校は特に部活動に力を入れているわけではない。
そこらへんは生徒の自主性を重んじている。
なので、僕と同様に授業終了後に帰宅する生徒も少なくない。
それにうちの学校は、授業の進行スピードがやや速い。
一、二年で高校授業を終了させ三年時にはすべてのエネルギーを模試に費やすスケジュールらしい。
実際に、数学はもう少しで3Cが終了する。
その間も、宿題には全項目が対象で提出されるから、ある意味で忘れることのできない出題形式だ。
それでも部活をしたい人がいてもおかしくはない。
健康は、食事、運動、睡眠が重要になってくる。
何より、自己欲求が加速する歳であればなおさら『健康』を維持するためのコミュニティを形成するのも必要なことかもしれない。
………それどころではない身としては、少しうらやましいと思えてしまう。
切り替えよう。
電車に乗ると朝の車内ほどではないが、少なくもなく多くもない混み具合だ。
この時間帯であれば普通のことだ。
いつものルーティン。
背負っているバッグから宿題を取り出す。
別に車内で記載するわけではない。
車内にいる間に、回答を暗記して、部屋で問題を転写する。
それだけだ。
今日の宿題は、5科目。
数学、物理、英語、政経、現国。
一通り目を通していく。
問題も大したことのないものだ。
各A4の用紙が三枚、四枚くらいだ。
用紙をペラペラめくり回答を暗記していく。
この程度の量であれば、車内時間で完了する。
一番めんどくさい現国はあと回しだ。
問題に回答するために文章内容を理解しなければならない。
英文であれば、一発なのに、どうして現国はめんどくさい言い回しをするのか。
ともかく、パラパラとめくり回答を暗記し、問題集を仕舞ったところで最寄り駅についた。
僕と一緒に降りる人は少なく閑散とした駅構内を抜けていく。
まあ、そうだろう。
ここら辺に住んでいる人はあまりいない。
なにせ工業団地なのだから。
国道こそ通っているものの、周辺は企業が有する保有地だ。
従業員たちの寮も完備されているが、それこそ土日に駅なり車を持っている人に乗せてもらって隣駅付近のショッピングモールを利用しているはずだ。
そうして、しばらく歩いていると———。
「兄さん!」
背後から暴れ馬が現れた。
流れる黒髪は潔いほど凛とした黒の彩り。
幼顔のなかには濁りのない不安が伺い知れた。
おそらくここ最近のストレスが響いていいるのか、綺麗な栗色の目元には隈が見て取れた。うまく寝むれていないのがここ最近暴れている理由かな?
そしてこの人が———。
安喰家、現当主である。
「佳澄さん、おかえり」
まさしく、ドドドドドドドドドという爆音を轟かせて走って来た。
地元のヤンキーが原付バイクを改造したときの音を自分の脚だけで再現できるとは、佳澄さんもすごい特技ができたな。
そんな僕の感慨を持っていた(どこからか取り出した)ハリセンで吹き飛ばした。
「あだっ」
三十年前のツッコミよろしく、僕の頭をしばいてきた。
「兄さん! ケガをされたのなら早退しなさい!」
む。
「そこまでのケガじゃないよ」
授業も出られたし、なんなら体育も出た。
体の調子としては、痛みと突っかかり程度だ。
死ぬほどのことじゃ———。
バシッ。
再度、ハリセンで頭を叩かれた。
「ここまで『血』の匂いを漂わせて何を言っているのですか? それに『ケガ』というものは、あることが異常なできごとなんです! 直す必要があるから痛み(警報)があるんです。それを無視して『平常』であろうとするのは生物として異常なことです!」
この語りはいつものことだ。
僕がけがをするたびに言われていた『気がする』。
セイブツとしての異常。
人間性の欠落。
配線の切れたロボット。
いろいろな人にそんな風に揶揄されてきた。
でも、そういう風にしか生きられない。
「………ご自身をもっと大切にしてください」
「………ごめん」
言葉では謝罪を口にするけれど、理解できないものは理解できない。
つまりは、形だけの謝罪だ。
佳澄さんとは何年もの付き合いだ。
僕がどんな『いきもの』なのか知っている。
だから———。
「次は、ケガをしたら保健室でじっとしている。もしくは、早退して家に戻ってください。いいですね?」
どうすればいいか、選択肢を与えてくる。
なるほど。
それで佳澄さんの溜飲を下げられるのなら。
「わかった。次はそうする」
そうして、僕たちは再度、帰路についた。
………。
佳澄さんにシバかれながら。
さっきまで、病人のあり方を語っていた人がとっていい行動じゃない気がする。




