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2013年6月 Part4

 顔は、絞首刑台に置いて来た。

 人としての定型は、忘れ去った。

 人間としての価値観は捨てた。

 ただ一つの目的のために。

 目の前のバケモノを殺す。

 その一点のみに費やす。

 私が【魔獣】となっておりたっても、眉一つ動かさない。

 退屈そうな、気だるい態度。

 時折見せる軽蔑するような蔑みの目。

 そこには、恐怖も緊張も、ましてや高揚もない。

 だからこそ、私の判断は正しかったと感じてしまう。

 こいつは———。

 捕らえたあたりに、連撃をかぶせるように畳みかける。

 【魔獣】になっていなければできないことだ。汚染を気にせずに、能力を行使できるからこその『卑怯な技』。借金を気にせず、大技を繰り広げられる。もしかしたら、人間性も犠牲になっているのかもしれないが、ことが終われば朽ちていく残影なれば。

 空間の歪みと多腕による連撃跡地を見る。

 そこには、大きなクレータが出来上がり、無残な死骸が一つ。

 腕は千切れ、脚はあり得ない方向を向き、体の中にあった臓器はどこかに行き、挙句には鼻から上が消えていた。

 「ふぅ」

 歪になった体ではあるが、大きな口から吐息が漏れる。

 精霊が使えなければ、なんということはない。

 タイミングがいいことに、倒しきれ———。

 パラッ。

 音…が、した。

 この忘れ去られた大地に命はない。

 停止した時間の中にいるような錯覚に陥る。

 そんな中で———。

 振り返ると、さっきまで倒れていた【もの】が立っていた。

 「もっと、スマートに立ち回ってもらえます?」

 頭部が破損しているのに、口が動いて………いや、それ以前に動いていること事態が………。

 よくよく見ると、時間が巻き戻るかのように飛び散った血が、肉が、臓器が戻っていく。

 「はぁ!」

 考えるよりも体が動いた。

 能力が回復だとして、まだすべてが治ったわけではない。脚は、未だにちぎれたままだ。

 今度は、小出しで部位を狙うのではなく相手の体と同じくらいの規模で———。

 空間が歪む。

 大規模な規模で空間に負荷をかける。

 悲鳴のようなプラズマがあたりに拡散し、どこからともなく火花が弾けて———。

 

 ガラスを割る音と共に異常は消失した。

 

 「なにが!?」

 自分の能力が打ち消されたことで、数秒のフリーズ。

 が、すぐに切り替える。

 能力が使えなくなったのなら、物理である。

 多腕を振るって、殴打を———。

 「それもさんざん喰らったよ」

 その言葉を皮切りに、まるで何かに弾かれる感覚と共に目の前にいるはずの死体に手が届かない。

 死体。

 そのはずなのに、すでに顔が復元され始めている。

 「どうなって」

 「どうって、僕は複数の【特異体質】を持っているだけだよ」

 軽く言われた事実に驚愕した。

 【特異体質】が複数?

 「それにしても、よくもやってくれたね」

 恐怖が全身を包む。緊張が体を硬直させる。それでも身構えた。

 何か来る。

 両手を叩く乾いた音が響いた。

 そう思った瞬間に。 


 胴体が捩じりきれた。

 

 「あああああああああああああああ!」

 真っ黒な血を吹き出しながら転げまわる。

 「ふーん、結界術って単純なんだね」

 なにか言っているが、まったく話についていけていない。痛みが全身を駆け巡っているのだ。【魔獣】となった身で、痛みで転げまわるなど。

 「【痛覚】をいじりすぎたかな。やっぱり佳澄さんじゃないから、うまくいかないね」

 こいつは何をイッテイル?

 「さあ、まだ何か打つ手があるのであれば抵抗してみてよ」

 ゆるく手を広げて、余裕を見せている。

 それに対して、恐怖と怒りで体が暴走した。

 獣の咆哮と共に、口から炎を出す。

 あたりの気温がいっきに上がる。

 その間に体に空いた大穴が塞がる。

 獣になったおかげで超再生を手に入れていたらしい。

 今のうちに、移動を———。

 そう思った刹那、体が動けなくなった。

 まるで体の周りにセメントでも流し込まれたような。

 「炎は、昔から効かないよ」

 ゆらり、と。

 業炎の中から幽鬼のように進んでくる影が一つ。

 体が、動かない。

 それどころか、どんどん圧縮されているような———。

 「結界術が、昔、流行った理由はその汎用性が高かったからですよ」

 まるでプレス機にかけられたように体の各所から軋みをあげる。

 すでに声すら上げられない。

 「一般的には、四方を囲むように防御するものや、さっきまで見せてくれた空間を捩じるようなことですが」

 腕の各所から骨が折れ、皮膚から突き出る。

 「でも、立体的にとらえられるなら、モノを包むように圧縮しないのかな?」

 それは、結界術では不可能に近いからだ。

 頭の中で、常に座標ポイントを演算しなければいけないからで———。

 まて。

 自分の身に起きている現象が、説明した通りなら。

 

 今、目の前にいる人物は———。

 

 「高々、()()()()()()()()なんだからできてもいいとおもうんだけど」

 

 もう返す言葉もない。

 だから、最後に声を振り絞った。

 「シドウのバケ……モ…ノ」

 「失礼だな。自分自身で【人間】だと思っているうちは人間なんだぞ?」

 その言葉と共に、復元した両手が叩かれ、甲高い音が響いた。

 それと同時に、私はハジ———。

 

 

 


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