2013年5月 Part12
「どうして生きているのですか⁉ 祠堂篝火様‼」
戦慄く口が、吐き出すように言葉を紡ぐ。
その疑問に、少女は当然と言わんばかりに。
「死ねなかったからここにいるのよ?」
疑問は氷解するとともに、新たな疑問が湧いてくる。
「遺体は、回収されたはずです。それにその姿は………」
「単純な疑問ね。肉体が生命活動を停止した。けれど、私はその程度では死ねないの。この体は———。まあ、予備の体だと思って。昔、作った実験体だから、性能はあなたと会ったことのある体とは天と地の差があるけれどね」
次元の違う話を聞かされている。
「『原初の精霊』と言われていた私には、生命活動を止めることができないのよ」
少し寂しそうに語る横顔は、幼いころ見た闇を纏う慈母だ。
「本当なら『あの日』、私は死ぬことができるはずだったのよ。でも、予想外のことがおきた。先に薄暮さんが死んでしまったから」
あの日とは、おそらく『祠堂家の最後』だろう。
「まさか、薄暮さんが私を庇うとは思っていなかったのよ。私のことを理解してくれる唯一の存在なのだから。そして『彼』だけが、本当に私を終わらせてくれるはずだった。どうして私を庇ったのか、理由はわからなくはないのだけど———」
私は、あの日の真相を耳にしていた。
鼓動がさっきからうるさい。
陸だというのに、酸欠でクラクラする。
「妊娠していたのよ、私」
胸が抉れるような感覚が私の膝を折った。
「今まで散々、単一生殖しかしてこなかったのに薄暮さんとの子供は………、なんというか、ね? 言葉にできないものがあったの。灯火の時もそうだったけれど、この世界に、輝きを見た気がしたから」
下唇を噛む。
言葉が出ない。
さっきからあふれ出てくる涙が邪魔で仕方がない。
嗚咽さえ、うるさくてたまらない。
私にすべてをくれた人達の遺言を聞いているのだから。
「こんなに長く生きていたのに、幸福というのは瞬きほどの時間でしかなかったわ」
私も、あなたやハクボさんに会えたことを幸福と思うとともに刹那的な時間に絶望しました。
そう伝えたかった。
でも、口から漏れるのは嗚咽のみ。
不甲斐ない自分が憎らしい。
ああ、本当に。
「もう少しと思っても戻れないのが時間という残酷な縛り。不可逆な真理は私を停止させるには十分なものだったわ」
まるで、大切なものを取りこぼしたかのような嘆き。
「薄暮くんの気持ちも………いや、だからこそわかってしまうというか。でも………せめて連れて行ってほしかったな」
独白。
これ以上ない空虚。
私は、金縛りを受けているかのように動けない。
ただ、眺めていることしか………。
ボトッ。
目の前の幼女から何か落ちた。
———彼女の、腕だった。
見直すと、右腕が腐り落ちていた。
「か、かが、り………さ、ん?」
震える唇は、言葉を紡ぐことさえできない。
「あー、時間切れか」
さして驚くこともなく目の前の幼女は、崩れていく体を当然のように受け入れていた。
「これでも保ったほうかな。………さて、葵ちゃん。私は、最後にあなたにお願いがあるの」
ああ。
察してしまった。
理解できてしまう。
聞きたくない言葉を。
「薄暮さんのところに私を連れて行って」
胸の痛みが、耐えようとする私に襲い掛かる。
のどがひりつく。
胃が痙攣する。
我慢できず、内容物を吐き出す。
視界が揺れる。
フラフラと地面に倒れこむ。
だが、目の前の御仁はそれを許さない。
私の頭を両手で固定し、まっすぐ私を見据えた。
「できるでしょ?」
私は———。
涙を拭いて力強く言葉を返す。
その言葉をきいて、篝火さんはいつか見た慈母のような微笑みを浮かべていた。




