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2013年6月 Part2

 廃屋の中。

 呼吸を整えて、中に入る。

 キープアウトのテープを切って、中に入る。

 足跡がないのに、所々、指でなぞった後があった。

 『あの人』がいた痕跡(きろく)

 本来、こういった廃屋には野次馬や金銭泥棒、心霊スポット配信者なんかが勝手に侵入する場合がある。

 しかし、ここにはそういった人はいなかったようだ。

 荒らされておらず、地面には埃が被り、自分がつけた足跡以外痕跡がない。おそらく、誰もここに踏み込んでいない。

 いや、入れなかったのだろう。

 ここは、そういう土地だから。

 この土地は、まるで深海にいるような圧迫感と重圧がある。抵抗できているのは、十家の血を受け継いでいるからだろう。おそらく、一般人はここに踏み込むだけで倒れる。

 そうこうしているうちに、指定された場所にたどり着いた。

 一見すると、ただの洗面所。

 だけど、引き出しを開いたところにあるテンキー。

 存在するはずのない数字を打ち込むキーボード。

 そこに19750913と入力する。

 ピー、という音と共に床面がそのまま下がる。

 そのまま、洗面所がエレベータのように下がっていく。

 「地下施設をつくるとか、どこの製薬会社よ」

 昔、友達の家でホラーアクションゲームを知ったときに覚えた感嘆とあきれ、あと『お金ってすごい』という思いだった。

 それが目の前で起きている。

 「篝火さん、やりすぎでしょ」

 口から、漏れるあきれ声が周囲に木霊する。

 昇降がストップした先には、()()()()()が培養液に浸されていた。

 だけど、この施設自体が止まっているのか培養液に浸されていた人体からは命を感じない。それどころか、所々腐乱している部分がある。

 主なき今、この屍たちも意味をなさないのだろう。

 いや、むしろ元々意味がなかったのかもしれない。

 元々の主は、今代で移り変わりはやめようとしていたのだから。

 二つ、培養器の中が空になっていた。

 一つは、この前あった篝火さんのものだとしてもう一つは………。

 張り付けられているプレートの埃を手で払う。

 『殺人鬼』

 それだけ刻印されていた。

 ………。

 思考を止めて、歩を進める。

 奥へと足を踏み込んでいく。

 鉄の床パネルは、私の靴の音を増長させるようにカッカッと、私の焦りを体現するように周りに音を響かせた。

 最奥に。

 小ぶりの培養器。

 中には、精霊核に浸された少女が一人。

 

 『あの子をお願いね』

 

 近くにあったプレートには、

 『祠堂遠火(しどうとおか)』と、刻印されていた。

 「篝火さん、紛らわしい名前を………」

 私は、近くにあるコントロールパネルを操作して培養器から中の液体を排水して深呼吸した。

 願いはただ一つ。

 開かれた培養器から、無造作に少女が排出される。

 急いで受け止め、息を確認する。

 かすかだが、ゆっくりとした息の流れを感じる。

 「よかった」

 だけど、この区域は不味い。

 この空間は、生物が入らない生命圏の絶海。

 生きることのできない死滅の陸。

 灯火によると、死霊どころか精霊すら存在しない死海。

 宇宙空間みたいなものらしい。

 あくまで私達がここで活動できているのは、人ではない血のおかげらしい。

 それでも、息が重く、体は不自然なほど動かせない。

 まるで水の中。

 こんなところに長くいれば、どんな頑強な人でも耐えられない。

 急いでこの子を連れ出さなければならない。

 そんなおり、地面を揺るがす振動と爆音が聞こえてきた。

 「な、なに? 爆発⁉」

 盾になるように体を丸めて腕の中の命を守る。

 しかし、断続的な振動は止まず顔をあげる。

 明らかなイレギュラー。

 つまり、———。

 「灯火‼」

 私は駆け出した。

 胸の中に託された命を抱きしめて。

 が。

 屋敷から出たところで。

 「葵様」

 音もなく、目の前にメイドが現れる。

 「燎火、さん」

 私は、この人が嫌いだ。

 だが、そんなことを言っていられない。

 「事態は⁉」

 私の言葉に答えず、燎火さんは私と抱えている子を一瞥してそのまま抱き上げて跳躍した。

 「ちょ———」

 いきなりのことで、取り乱す。

 胸のなかにいる小さな命を手放さないようにしっかり抱き留める。

 そのまま、燎火さんは止まらずに音速に近い勢いで撤収し始めていた。

 

 

 


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