2013年6月 Part1
兎束の総本山から戻って数日。
僕は、とある場所に来ていた。
十年前は、樹海が存在していた。
生い茂る葉は、我先に太陽の光を浴びようと隙間なく埋め尽くされ地上に光を下ろすことなく、暗黒が広がっていた。
地面は、朽木や苔が広がって、独特な原生林が生えていた。
なにより、『僕の友達』がいた場所だ。
それは、ここが僕が記録する生命圏だった頃の話。
今は、ただの焼け野原だ。
言葉を正すのであれば、精霊や妖精すらいない不毛の地だ。
「さあ、仕事の時間だよ」
自分に言い聞かせただけだ。
さして返答があるとは思っていない。
だけど———。
「わかりました」
隣に常駐する使用人は、その言葉だけで乗って来た車から荷物を下ろし始めた。
今日、一緒に来てくれたのは燎火さんだ。
本当は、電車とバスに乗り三時間半の道のりを旅する予定だった。
だけど、燎火さんも一緒に行くとのことで車を出してくれることになった。
おかげで、早朝のタイミングで車を出して昼間際に到着できた。
予想外だったのは———。
「何年ぶりかしら」
隣になぜか、葵さんがいることだ。
なんで?
理由を聞いても、なんか目的があるとかで語ってはくれなかった。
「そっちの仕事をしている間に、こっちもやるべきことを済ませておくから」
そういって、自由奔放に消えていった。
しかたない、こっちはこっちで仕事をするだけだ。
脳裏に『あの時』の惨劇がよぎる。
どれだけ、時がたっても消せない記憶。
消去と更新を繰り返しても、消えないもの。
人としての終わり。
僕が、何者かになった日。
おそらく、ここは僕が僕になったところ。
それと同時に、この大地は不毛の土地になった。
焼き焦げた大地がついこの間まで炎をまとっていたかのように、『あの当時』のまま、残っている。
原生林の後はあるが、そこに命はない。
苔すら生えない。
流れていた小川はすでに干上がっている。
まさしく死の大地。
ここには、命の亡骸があるだけで何もない。
地面の中を見たわけではないけれど、土壌細菌すらいないだろう。
ここは、地上にぽっかり空いた穴だ。
地上の生命圏を穿った空洞。
精霊や妖精、それどころか悪霊や神もいない。
そんなところに命は芽生えない。
だからこそ、僕はこの土地を少しでも元に戻さないといけない。
「せめて生命圏までに回復させてあげないと」
ここでは精霊の力は使えない。
いないのだから、使えなくて当然。
なら自力で、やるしかない。
「燎火さんも手伝って」
「わかりました」
焚火の準備とスコップを手に僕は、燎火さんと奥に進んでいく。
少し離れたところで煙が上がる。
おそらく、灯火の『儀式』が始まったのだろう。
今から十年前。
祠堂一族が襲われ、当主を含め何人もの死体が確認された悲劇の場所。
十家では、『天が堕ちた日』とされ今後の対策が早急に見直されることとなった。
しかし、ある一面において疑問が残った。
『万能な祠堂家がこんなにも簡単に襲われるだろうか?』
何を馬鹿な。実際に事件が起きているのだから、それが事実だろうに。
しかし、私も疑問に思っていた。
『あの人』が、こんなにも簡単に倒されるだろうか?
頭の片隅に疑問を残して日々を過ごして。
でも、私の疑問は正しかった。




