2003年7月 Part2
「待て、葵っ!」
「そうよ、待ちなさい!」
両親は、私に命乞いをした。
別にそんな言葉を聞きたいわけじゃない。
「今回の事件に、私たちは関与していない」
「聞いて驚いているのだから!」
怯えた獲物が胎児のように戦慄いていた。
私の手には凶器は握られておらず、逆に両親の手には、この国では手に入らない『銃』が握られていた。銃口は震えながらも私の頭部に向けられている。
だけど、そんなものは無意味だ。
バンッ。
乾いた音と共に————。
父の肩口が吹き飛んだ。
「あああああああああああああぁぁぁ!」
おそらく、何が起きたのか理解できないだろう。
銃を発射するには、本体とそれに伴う弾が必要だ。
だけど、【投影・投射】の原理においてそんな概念は足枷でしかない。
解釈を広げればいい話だ。
銃という物は、『金属の塊を、狙いを定めて発射させる装置』である。
なら、そこに銃と弾の関係を維持する必要はない。
投影するのは、『想像したものをどうしたいか』である。
だから私が投影するのは、『握りこぶしぐらいの大きさの金属塊』、投射は速度だ。
便利なことに私の質量以下であり、思い浮かべるものは任意のモノだけでいい。
撃ち抜かれた父は、その場でのたうちまわって醜い悲鳴を上げていた。
穿った肩口は致命。
傷口はひどく、腕は今にも重力でちぎれそうだ。
私が当主になってすでに一年以上が過ぎ、私にも余裕が生まれた。
余裕が生まれたのなら、人間は何をするだろうか。
より効率的に、生産的に。
自分のできる範疇を広げていく。
どうにも私にも【特異異能者】の力があったらしい。
私は、見たものを瞬間的に頭にインプットする。
それゆえに、『一度見れば、私の能力範囲内で再現することが可能である』。
実は、さっきの銃の話も拡大解釈の範疇で言えば原因と結果だ。銃があって、目標の肩が吹き飛ぶ。これだけで済む。
だけど、簡単に済ませないのはなぜか。
「いろいろ納得がいかないから」
単純な話。
憂さ晴らしである。
「あなたたちは、この一年間、何かしましたか?」
この人たちは、何もやっていない。
朝からお酒におぼれ、夜間の巡視も行わず夜を恐れ、ベッドに潜り込む。
見て見ぬふりをしてきた。
もちろん、我慢してきた。
体裁上、玖条の家は父が表側を持っていたからだ。
だけど、それはコップに水を注ぎ続ける行為でもある。
例え認識しないようにして、見て見ぬふりをしていても限界がくる。
それがこのタイミングだっただけだ。
不思議なことじゃない。
子供に守られる大人ほど、惨めな存在はない。
ましてや、『大切な人達』が惨殺された後では。
「最後に聞いておきたいの。祖父が行っていた実験に———」
「あれは、俺の責任じゃない! かってに親父がやったことだ」
私の言葉を遮るように父の声が重なる。
悲鳴とも怒号ともとれる声。
「そう。それが遺言になるけれどいい?」
自分の力。
普段は、オーバースペックすぎて使わなかったこと。
私の【投影・投射】の能力は、私の質量に依存する。
なら質量の伴わない投影なら?
大気が歪む。
空気が軋む。
世界が反転する。
ペキッ。
ガラスの壊れる音と共に———。
いつか見た彼岸花の咲く鳥居の下に立っていた。
「なんでも、ここは死の国らしいから。あなたたちがどんな裁きを受けるのか見届けられないのが残念だわ」
背後にいる両親の制止の声を聞かずに、私は入口を閉じた。
あの二人は気がついていなかっただろうけど。
あの二人を囲むように死人が踊り狂っていたのだから。
そうして、目障りな二人を消して私は『祠堂の家』に向かった。




