2013年5月 Part8
スマホで佳澄さんと葵さんにそれぞれ情報を流す。
反応はまちまちだった。
『ま、妥当よね』
と、佳澄さん。
『ゴキブリ並みの生命力よね』
と、葵さん。
ちなみに、今の十家の中で一番多い一族は玖条家だけど。
言わぬが、何とやらだ。
さて、僕も情報収集しよう。
路地裏に住んでいる妖精たちに聞く。
「ここ最近、おかしなこと起きてない?」
『かんなぎの言っていること、よくわからない。ここ常におかしい』
『かんなぎの言っていること理解できない。ここ、常に普通』
おぅ、なるほど。
ここじゃ、何が起きていてもおかしくない日常だった。
妖精たちの常識も範疇がぼやけてきている。
仕方ない。
妖精ではなく、精霊に聞くとしよう。
妖精たちは、精霊の前段階。精霊になるためには、ざっと百年単位の時間が必要になる。でも数百年かけて精霊になっただけあって意思の疎通は行いやすく、現実に及ぼす影響は比較にならない。
もちろん、プライドが高くて高飛車になっている精霊が多いが。
昔、からかわれて死にそうになった覚えがある。
慣れたものだ。
さて近くに精霊は………、いない?
不自然だ。
ここに一定数の妖精がいるのなら、上位互換の精霊がいてもいいはず。
「ここに精霊がいない理由は?」
すると、近くいた妖精たちは怯えていた。
『みんなみんな、死んじゃった。殺されちゃった』
え?
『あの女の子に殺されちゃった』
妖精もそうだが、精霊はこの世界において上位互換。
戦うということよりも、そもそも認知できないはずなのに。
「その子の特徴は?」
『うーん、かんなぎに似ている?』
『というか、かんなぎを巫女にした感じ?』
どういうことだろうか?
『いつも通り、漂っていたら精霊が慌てて僕らを逃がしてくれて、そしたら、目の前で爆発して』
爆発?
『隅で隠れていたら、黒のレインコートを着た女の子が来て、死んだ精霊の核を回収していったの』
精霊核?
それも見えているのか。
厄介な相手だ。
というか、精霊を爆発?できる力があるのなら佳澄さんと葵さんでは対処できない。
そもそも精霊は、この世界の【現象】が意思をもって具現化した存在。
それを無に帰す力を持っている。もはや、脅威以外の何物でもない。
むしろ『十家』でも手に余る。
「その子がどこに行ったか、わかる?」
『街の方角? 精霊核の匂いからだとそのくらいしかわからない』
何だろう。違和感がある。
【能力者】であれば、街ではなく廃屋を拠点に目立たないようにするのが一般的だが。
そいつが、今起きている事件の犯人?
いや、なら尚更、街に近づかないはずだ。
異分子が人間の中に溶け込めるはずがないのだから。
それは僕が一番身を持って知っているのだから。
「また何かあったら教えて。でも、危ないと思ったら隠れてね」
『はーい』
『かんなぎ、またね♪』
そうして、普段の巡視に戻っていった。
「最悪の事態じゃない⁉」
邂逅一番、葵さんがそんな言葉を口にした。
そう言われても。
「そんなわけだから、危険と感じたら逃げてね」
「逃げれるか‼」
時間は、朝の通学電車。
時間帯は早いとはいえ、何人かは葵さんの怒号につられてこっちを見た。
「そう興奮しないでよ。お水飲む?」
「こっちは、あんたの鋼メンタルじゃないのよ。あとこっちの心情は油を通り越してナトリウムよ」
「わお。水じゃ爆発しちゃうね」
「タングステンメンタル………」
手を顔に当ててため息をつく葵さん。
そんな表情を見て大概の人は、絵になるというだろう。実際に何人かは目を泳がせながら、こちらをチラ見している。
「まあ、落ち着いてよ、葵さん。カリカリしても事態は好転しないよ? サルミアッキでも食べる?」
「なんで不味いお菓子持ち歩いているのよ。意味不明だわ」
「え? みんな手軽なお菓子持ち歩くって言っていたし」
「サルミアッキなんて、ここじゃ食べる人いないでしょ?」
「え、そうなの?」
どうやら、チョイスを間違えたらしい。
でも、クラスでは割と人気だった。
『珍しい』とか、『挑戦者』、『勇者』とかみんな口々に言っていた。
だから、持ち歩くようになったのだが………。
「あなたの交友関係を見直したくなったわ」
みんないい奴らだよ⁉
まあ、それはさておき。
「とりあえず、パターンとしては二つ。第三者が原因で【魔堕ち】する人出ていること。もう一つが、それとは別に【魔堕ち】させている人達と第三者がいて現状を混乱させていること」
「どうして二パターンに分けたの?」
「【魔堕ち】現象を引き起こしている人たちは、順当な十家もしくは元十家だと思うよ。警察の索敵網に引っかからないし。でも、第三者は、割と素人かな。ほら」
懐から写真を出す。
今朝の帰りがけ。
警察の人に依頼して防犯カメラを見てもらった。これに関しては申し訳ないと思っているけれど、あっさりと収穫物が出た。
黒いレインコートを着た女性………いや、女児が映っていた。
年齢は、七、八歳程度。
時刻は丑三つ時。
溶け込むには、最適なカモフラージュだが安直すぎる。
なにより、こんな時間に女児が出歩くはずがない。
もしかしたら、『あの場所』に住み始めた住民かもしれないが、ザイが把握していないはずがない。もし知っていたら、僕に連絡が来るはずだ。
あんな獰猛な表情を見せているが、子供には激甘なのだ。
ザイは、施しをしている。
この国にも戸籍を持たない孤児というのは存在している。なんなら大人も、だ。
国の調査だと三千人弱とされているけれど、この地域だけで数千はいる。
表の数字は、まさしく氷山の一角。
何らかの理由はあるのだけど、ひどいのは産んだ子供をトイレに置いていく人がいることだ。
ザイがここの調停派トップになるまでは、さらにひどかったらしい。
まさしく無法地帯。
だけど、ザイは僕たちを利用して孤児の支援を求めるようになった。
実際、ここの区画の地主である吾喰家は、治安維持にも努めなければいけないので快諾。
さらに、十八歳未満の子供に教育できるように学童支援も行っている。
それでも、光になじめずに転がり落ちる人もいる。
ザイは、選択の自由を与えた。でも、戻ってくるヤツには容赦はしない。裏の暴力社会に一度のチャンスを生かせないヤツは死ぬか、奪うかの二択だ。奪って奪われての裏社会には、弱者はただ貪られるだけだ。
ちなみに、どうしてザイがここまでするのか。
昔、助けてくれた人がいたらしい。
けれど、何も返せなくて打ちひしがれて、『あいつがしそうなこと』を模倣しているだけ、と本人談だ。
十分すごいことをしている。
過激派と揉めて、一方的に殴られながらも子供を守るために血みどろになっていることはざらにあった。
そこまでするかな。
ちなみに吾喰家の支援で、炊き出しやリサイクルのための衣類の提供を定期的に行っていたりする。それもザイが吾喰家と交渉した内容でもある。
だからこそ、今ではザイの発言権は裏で一番だ。
でもそんなザイが『見たことがない』と言っていた。
まあ、もう一つ考えられることはある。
わざと映る様に………、認識させるようにしている。
………。
「それでこれからどうするの?」
どうするって。
「とりあえず、治安維持のために原因究明? あとその少女の保護かな?」
「なんで全部に疑問符がついているのよ。まあ、いいわ。実際にこっちの地区に情報らしいものを得られなかったから」
「それなら、いつも通り連携しながらね」
吾喰と玖条の関係は、意外といい。
以前まではそうでもなかったらしいけれど、葵さんが当主になったこと、佳澄さんが当主になったことがよかったらしい。
当の本人たちは、お互いが気に障るらしく、何かとぶつかる。
言い合いが絶えない二人だが、優秀であるがゆえに考え方が似通っているからだろう。
実際に、問題が起きると即応する臨機応変さ、現場の確認、指揮の確認。
しっかりと行っている。
まあ、当本人たちの間で何か譲れないものがあるのでしょう。
僕は、そこに引火しないようにのらりくらりやるだけだ。




