21話:戦いの終わり
「グルゥゥゥオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」
「な、なんだと……!? こんなことがッ!!?」
牙と爪で傷つけられ、竜の鱗に傷が出来る。だがすぐに竜も反撃に出ると、口から炎を吐き出しながらアシリギが描いた竜を爪で引き裂いた。
アシリギ達の前で二頭の竜による凄まじい戦いが繰り広げられる。その争いはとても人間が入り込む余地がなく、アシリギも大人しくそれを眺めていた。そんな彼の元にクロアがフラフラになりながら歩み寄る。
「アシリギ、あれって……!」
「おぅ、クロア。傷は大丈夫か? さっきの戦いも中々かっこよかったぞ」
「そんなことじゃなくて、あの竜……!」
クロアはどこか興奮した様子で竜のことを指差し、アシリギに問い詰める。
考えれば簡単に分かることだが、どうしてもアシリギに直接答えを聞きたかったのだ。それくらい今目の前ではあり得ないことが起こっているのだから。
「ああ、さっき出来るようになった。スケッチで何回も練習したからな。いやぁ、大変だったよ。新しく創造出来るようになるには本当は一週間くらい練習が必要なんだが、今回はモチーフが竜だったからな。俺も気合入れたよ」
「……ッ」
アシリギはそう言って疲れたように肩を鳴らし、手を解す。
彼はやってのけたのだ。初めて見た竜の姿と骨格を瞬時に理解し、どのような行動をするのか、どんな攻撃方法を用いるのか観察し、そして語り掛けることでどのような過去を持っているのか、その全てを把握したのである。だから、創造魔法が発動した。
その事実を目の当たりに、クロアはギュッと拳を握り締める。アシリギの大胆な行動力と、不可能と思われたことを可能にしてしまう実力、それに思わず嫉妬してしまったのだ。自分もこんな風になりたい、そう思ってしまった。故に悔しい。
「まさか、計算していたの? 私達が戦っている間に、竜を描けるように……」
クロアはアシリギの方に顔を向け、そう問いかける。
あの時のアシリギは本当に竜に対抗する手段を持っていなかった。だからこれから作るつもりだったのだ。竜の頑丈な鱗を斬り裂き、灼熱の炎にも耐えられるだけの切り札を。その答えが竜そのもの。そしてそれを創り出せるようになるには長い練習が必要となる。その時間を確保する為に彼は戦闘に参加しなかったのだとクロアは考える。だがアシリギはクスリと笑い、首を左右に振った。
「いや、偶然だよ。俺は本気で絵を描くだけのつもりだった。俺がそんなガッツのある奴に見えるか? 流石に見捨てるとまで非道なことはしないが、今回のは偶々だよ」
確かにアシリギは竜を完璧に描けるようになる為に創造魔法の使用も視野に入れていた。竜を実体化出来るようになればそれで本物の竜に対抗出来るかも知れない、と可能性を抱いていた。だが彼の最大の目的はあくまでも絵を描く事であり、もしも間に合わなければクロア達を連れて逃げるつもりで居た。わざわざ竜退治に付き合う程アシリギは正義感が強くないのだ。
「まぁ、何とか間に合って良かったよ。流石にこの人数を連れて撤退するのは骨が折れるし、ギルドが対応に間に合うかも怪しいもんだったからな」
とは言ってもアシリギも人間の心がない訳ではない。竜を止められるものなら止めたいと思っていたし、誰かが犠牲になるような最悪の事態は避けたいと思っていた。ギルドの対応が間に合うならば彼らに任せたし、自分に止められる力があるのならば止めた。彼はそう割り切っていたのだ。だからあの時、自分が出来る最大のこと、絵を描く行為に専念したのである。
「お前達のおかげだよ。クロア。竜と戦ってくれていたおかげで俺には絵を描く時間が出来た。あの時お前が戦う選択肢を選ばなかったら、俺も逃げることしか出来なかっただろうな」
ふとアシリギはクロアの方に振り返り、そう感謝の言葉を述べる。
そもそもアシリギだけでは暴れ回る竜の対処は出来なかったし、絵を描く余裕もなかった。だからクロア達の援護が必要不可欠だったのだ。完璧な観察を行う為には。
「有難うな。助かったぜ」
「……! こ、今度からは、少しは手伝ってよね」
嫉妬していた相手にお礼を言われてしまい、クロアは複雑な心境を抱く。
これではまるで、自分がアシリギの為に竜と戦っていたようではないか、自分がアシリギを助けたようではないか、そんな感覚を覚え、嬉しいような、恥ずかしいような、よく分からない気持ちを彼女は抱く。
「さて、こっちも決着が付きそうだな」
アシリギの言葉を聞き、クロアは顔を上げる。そこでは傷を負い、動きが鈍くなっている竜達の姿があった。相当激しい戦闘を行ったらしく、どちらの鱗もボロボロになる、翼にも切り傷が出来ていた。
「ぐ、が……まさか、この我が……人間程度にッ……!!」
竜は自分が傷を負っている事実を受け入れなさそうにそう声を吐き出す。その声は最初の頃のように傲慢さが混じったものではなく、余裕のない、焦りが見える声色であった。
「ぅうッ……ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
竜は最後の力を振り絞って咆哮を上げ、口から灼熱の炎を吐き出す。だがアシリギが描いた竜はその炎を浴びながらも同じように炎を吐き出し、竜の視界は真っ赤に染まった。
アシリギ達の元にも届くくらいの熱風が巻き起こり、竜は火の海に包まれる。流石に傷を負っている状態ではその攻撃にもダメージがあったようで、アシリギが描いた竜も光の粒子となって崩壊していき、本物の竜も火の海の中に崩れ落ちた。
「か、はッ……馬鹿、な……ぁ……ッ!」
最後に竜はそう声を漏らし、事切れてしまう。火の海に覆われても動かないのを見ると、本当に力尽きたようだ。その様子を見届けてアシリギも金の筆を懐にしまい、短く息を吐き出した。
「アシリギ凄い……本当にあの伝説の竜を倒しちゃった……」
「倒したのは俺じゃなくて、竜自身だけどな」
今回アシリギは竜と一切戦っていない。彼はこれまで創造魔法での戦闘では、武器を創り出してそれを使用したり、魔法を創って発動したりと、ある程度自分の戦闘能力を駆使して戦っていた。だが今回のマガフレギア戦で戦っていたのは殆どクロア達であり、アシリギも最後は自身が創り出した竜に戦闘は全て任せていた。彼自身は戦いらしい戦いはしておらず、本当に絵を描いていただけなのだ。
「さぁ、あいつ等起こして帰ろうぜ。クロア」
アシリギはそう言うと歩き出し、地面に倒れていたレオンの頬を叩いて無理やり起こそうとする。呆然と竜のことを眺めていたクロアもハッとなると、慌てて勇者達のことを起こしに歩き出した。




