22話:お食事会
事件が起こってから翌日、冒険者達もよく使う行きつけの料理屋は大繁盛していた。何故ならば火山噴火現象の原因であるマガフレギアを討伐したからだ。邪悪な竜を倒したという話は不安を抱いていた人々の心を晴れさせ、あっという間にお祭りムードとなった。
冒険者達も伝説の竜が倒されたと聞いて興奮しており、皆いつも以上に店の中で大騒ぎしている。ある者はテーブルの上で小躍りをし、ある者は仲間と肩を組みながら歌う。静かな場所など一つもないくらいに騒がしかった。
その中には竜を倒した張本人であるアシリギも居る。向かい側にはクロアも椅子に座っており、彼らは料理を淡々と食べていた。だが今回の功労者であるアシリギに周りの冒険者達は全く見向きもしていなかった。
「……ねぇ、良かったの? 竜を倒した功績を勇者なんかに譲って」
やがて黙って食事をしているアシリギの方に顔を向け、我慢できなかったようにそう尋ねた。それを聞いてアシリギは食事の手を止め、手にしていたフォークをクルリと回す。
「俺は直接竜を倒していないからな。そもそも正式に依頼も受けてないし、功績は勇者やギルドに与えられるべきだろ」
そう言ってアシリギはまたフォークを持ち直し、淡々と食事を再開する。その態度を見てクロアは不満そうに頬を膨らませた。
今回の事件。アシリギは見事竜を討伐したというのにその出来事を誰にも言うことなく、手柄を全て勇者達に譲ってしまったのだ。元々調査依頼を任されていたのも勇者達であった為、街の人達も彼らが竜を倒したのだと信じて疑わなかった。
「でも、倒したのはアシリギじゃん!」
クロアは出来るだけ周りに聞こえないくらいの声で、それでいて怒っている感情はしっかりと乗せながらそう不満を述べる。幸い店の中はお祭り騒ぎの状態である為、アシリギ達の会話を気にしている様子はなかった。
「俺じゃねぇよ。マガフレギア自身だ。俺は絵を描いただけ」
「む~。そればっかり。それだってアシリギの力なのに」
「だとしてもクロア達が時間を稼いでくれたから創造魔法を使えたんだよ。だから俺だけが褒められるべきじゃない」
戻って来てからもクロアは何度も指摘したのだが、アシリギは全く功績を認めようとせず、あろうことか竜を倒したのも自分ではなく、絵で描いた竜だと主張した。彼はあくまでも自分の力ではないと言い続けるのだ。それがクロアには納得がいかなかった。
「それより今回はお祝いだからって店側がタダで料理出してくれるんだぜ。せっかくなんだから味わえよ」
「むむぅ……」
アシリギは話を誤魔化すようにそう言い、テーブルの上に置いてあった料理を勧める。クロアはまだ何か言いたげだったが、美味しそうな料理の匂いに釣られてしまい、フォークを持った手が勝手に動いてしまう。
それからクロアももう何かを言うことはなく、やけになるようにパンを食べ、スープを飲み干した。その食べっぷりにアシリギも笑い、楽し気に料理を食べていく。
「そう言えば竜の絵、描いてるんでしょ? どう? 進んでるの?」
ふとクロアは蜂蜜の掛かったパンを口にしながらそう話題を振る。
事件が終わってからアシリギは竜のスケッチをかなり気に入っており、「今なら最高の絵が描ける」と言って本番の絵を描いているのだ。
「ん、ああ。良い感じだよ。今までの中で一番ノッてる」
アシリギはそう言って上機嫌そうに指でテーブルを叩く。
態度からも嬉しさが出ているところから、本当に調子が良いようだ。その子供っぽい部分にクロアは笑みを零す。
「やっぱり伝説と言われるだけあって竜ってのは凄いな。あんな巨体なのに機敏に動くし、鱗の形状も独特だし……あれは多分尻尾で身体を支えてるんだろうな。描き甲斐があるってもんだよ」
アシリギは食事のことも忘れる程饒舌に竜のことを語り始める。それだけ彼の中でもマガフレギアは衝撃的な存在であったのだ。語っている最中も感情を乗せるように強くフォークを握り締め、目を輝かせている。
そんな彼らの元の歩み寄って来る女性が居た。その人物は周りの冒険者達に声を掛けられながらもそれを断り、真っすぐアシリギの元へと向かう。そしてテーブルの前に辿り着くと、彼女はペコリとお辞儀をした。
「こんな所で食事していたんですね。見つけるのに苦労しましたよ」
「え、あっ……」
「あんたは……」
それは柔らかい小麦色の髪を長く伸ばし、小動物のように可愛らしい顔をした女性。肩から真っ白なローブを身に纏い、装飾のある綺麗な服を着ている。
アシリギとクロアはその人物に身に覚えがあった。
「マリー、さんか……勇者の仲間であるあんたが何か用か?」
それは勇者と行動を共にしていた女神官マリーであった。
クロアも竜と一緒に戦った仲であり、神官でありながら高度な防御魔法を駆使する。実際彼女が居なければ竜との戦闘は危ない場面が何度もあり、アシリギでさえ一目置いている存在であった。
「ちょっと話したいことがあるだけですよ。良いですか? ここ」
マリーは空いている椅子に手を添えながら確認を取るようにアシリギ達に目を配る。
最初アシリギは嫌そうな表情を浮かべたが、断れば神官である彼女はあらゆる手を使って接触して来ようとするはずの為、仕方なく頷いておくことにした。
それを見てマリーは満足そうに頷き、どうもとお礼を言ってから椅子に座った。




