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第13話

 ◇ ◇ ◇


 翌日の朝。ダイナ君たちは戻ってきた。

 ヒッポ君と、おそらくは人質であっただろう多くの子供たちを引き連れて。

 ダイナ君の手元には、縄でぐるぐる巻きにされた見るからに荒くれという男性がいた。

 彼がおそらくは盗賊の頭領なのだろう。


「お帰りなさい!」

「ああ……。待っててくれたのか?」

「ううん、ごめんね。私は少し寝ちゃってた。ダンギさんが寝ずに見張りしてくれて、教えてくれたんだ」


 出迎えが嬉しかったのか、普段無表情気味なダイナ君の口角が少しだけ上がった。

 そういう顔をしてくれると、こちらも嬉しい。

 まあ、眠ってしまっていたのだけれど。

 おじさんも本当は起きてたかったんだよ? 他の人達に怒られちゃったから……。


「ヒッポ君も、無事でよかったよ」

「は、はい」

「怖かったでしょ。よく頑張ったね」


 未だに震えているヒッポ君へ近づいて、そっと抱きしめてあげる。

 何かすぐそこで驚いた声が聞こえた気がするけれど、きっと気のせいだと思う。


「それまでずっと脅されてた相手に歯向かったんだもの。それは、凄い勇気がいることだよ」

「で、でも。僕はただ、待っていただけで……」

「それでも」


 そう、それでもなのだ。

 見てただけ? 凄いじゃないか。

 おじさんだったら、きっと待ってもいられなかった。

 怖くて、自分のミスで大勢が傷ついたらどうしようって。大事な人が傷ついたらどうしようって。不安で不安で仕方がなかった。


「頑張ったね」

「う、うぅ……」

「いいよ。泣いても。嬉しい時は、泣いてもいいんだ」


 おじさんに抱かれながらで、静かに泣きじゃくるヒッポ君。

 そのまま、顔をダイナ君の方へ向ける。

 ……なあに、その不機嫌そうな顔は。


「ダイナ君、本当にありがとう」

「案を考えたのは、お前だ」

「ううん。ダイナ君がいなければ、私の案はただの願望だった」


 目の前で子供を見殺しにしたくない。そんな、子供染みた願望でしかなかった。

 結局おじさんにできることなんて何一つとしてなくて。

 誰かに頼ることしかできない話だった。

 その誰かが、快く引き受けてくれたからこそ、今がある。


「現実にできたのは、ダイナ君のおかげだよ。ありがとう」


 だから、せめてできることを。

 こうして、嬉しいと笑顔で示して、お礼を言うんだ。

 おじさんは、ただの村娘だからね。


「……ならば、無理やりにでも戻ってきた甲斐があったというものだ」


 少しだけ照れくさそうに。

 ダイナ君も、笑ってくれた。


「しっかし、随分な数だなぁ。何人だ?」


 ひょっこりと、村のみんなも姿を現す。

 おじさんが最初にこうして出迎えたのは、そうしたほうが良いからだというダンギさんの推薦あってこそだ。

 理由はよくわからない。


「いち、にぃ……十一人ですかね?」

「つまり残り十組か。面倒なことになったなこりゃ」


 ヒッポ君とその妹さんで一組。残りの十人はそれぞれ別の村に派遣された子の人質だろう。

 そう考えると、かなり大規模な盗賊団だったことが分かる。

 それだけの数村や旅人を襲ったということなのだから、ゾっとする話だ。


「どうする? この人数まとめて村で面倒みれるか?」

「流石にうちの村だけじゃ厳しいんじゃないか?」

「もとはと言えばサンダク村の連中が騙されたせいなんだし、巻き込めばいけるか?」


 村の人たちのもっぱらの関心は、人質にされていた子供たちをどうするか、だ。

 流石に盗賊の手から解放されたとなれば、安易に殺すという案は出てこなさそう。

 よかったよかった。


「もうちょい畑広げられそうだから、うちで幾らか引き取っても問題はないが……相方をどうやって探すかだよなぁ」

「それが一番の難題だな」


 そう結論が付くと、今度はダイナ君に捕まっている盗賊の頭領(仮)にみんなの視線が向く。


「……くっ。そう簡単には吐かねぇぞ」


 せめてもの抵抗だと吐き捨てる。

 彼は情報を吐けば殺される。それが分かっているから、抵抗する。

 そして、おじさんたちは彼が情報を吐くまでは殺せない。

 同時に、おじさんたちには尋問のノウハウなんてない。


「安心しろ。お前が素直に吐く必要はない」

「え? ダイナ君、それはどういうこと?」

「知り合いにそういうのが得意な奴がいてな。廃人にはなるかもしれんが、問題はないはずだ」


 しれっと凄い恐ろしいことを言ってない?

 ダイナ君はこの十年間、一体どんな暮らしをしてきたの……?

 ほら、頭領さん凄い顔色になってるよ? 真っ青だよ。おじさんこんなに人の顔色が悪くなるの初めて見たよ。


「ダイナ君。その人は信頼できるのかい?」

「信頼はできる。が、素直に言うことを聞いてくれるとは思えん」


 ……少しだけ、それはダイナ君が悪い面もありそうだなぁとか思っちゃった。


「なら、最悪そちらはダイナ君を頼らせてもらおう」


 お父さんが決めたのなら、と村の人たちも同意する。

 まあ、誰だって尋問なんてやりたくないもんね。そうだよね。


「まあ、なんにせよ、これで盗賊問題は解決ってことだな!」


 誰かが発したその一声で、一斉に歓声が上がる!

 中にはダイナ君に駆け寄って、やるじゃないかって頭をくしゃくしゃにしている人すらいる。

 今回の事で多少は見直してくれた人もいるみたい。良かった。


「……お姉さん。ありがとうございました」

「ヒッポ君。もう大丈夫なの?」

「はい。あんまり妹に情けない姿も見せられませんからね」


 そっか、妹さんも無事に救出されたんだもんね。

 あんまり女の子に抱き着いて泣いてる姿は見せたくないか。

 こっちをじっと見てきてるあの子がそうかな?

 少しだけ手を振ってみよう。あっ、目を逸らされた。


「ごめんなさい。みんな、不安なんです」

「そっか。そうだよね」


 そっと離れて、子供たちの方へ向かう。

 びくりと体を震わせて怯えている。

 ああ、昨日のヒッポ君と同じだ。

 また傷つけられるんじゃないかって、怯えている。

 その中でも、そっとみんなを庇うように立っているのは、ヒッポ君の妹ちゃんだ。


 そっと、その場でかがんで子供たちと視線の高さを合わせる。

 微笑みは忘れずに。


「大丈夫。悪い人たちは、そこのお兄さんが倒してくれたから」

「……お姉さんは」

「私はカメリア。ここの村に住んでるの。あなたは?」

「ミナ」


 ミナちゃんかぁ。かわいい名前だねぇ。

 さてさて、この子の緊張を解かないとね。


「私たちはあなたたちを助けたいの。協力してくれる?」

「……そう言って、また騙すんでしょ」

「大丈夫。何もしないよ。ほら、おいで?」


 両腕を広げて、おいでと受け入れる姿勢を示す。

 警戒されてる。

 それでも、じっと来てくれるのを待つ。


 周りの人もそれを見守る。

 これは儀式だ。村にこの子たちを受け入れますよという、総意をおじさんが代理でしているに過ぎない。

 この子たちが拒んだら、申し訳ないけれど、おじさんたちの手には負えないかもしれない。

 救われる側にも、救われる準備は必要なのだ。


「……本当に、騙さない?」

「うん。どうか、私たちに君たちを助けさせてくれないかな?」


 前の世界の感情を持ち込むのは間違っているかもしれないけれど。

 それでも、できる限り子供は笑っていてほしい。

 こんな厳しい世界でも。厳しい世界だからこそ。

 そんな思いを込めて、できるかぎり優しい笑顔を作る。


「……うぅぅ」

「おいで。他の子も、一緒に」


 泣きそうになってしまったので、そっと腕を大きめに開く。

 すると、一斉に泣きながら子供たちがおじさんの胸の中に飛び込んでくる。

 よしよし。怖かったよね、辛かったよね。

 もう、大丈夫だからね。


「そんじゃ、ひとまず――」


 村の中に入ってから続きを話そう。と、ダンギさんが言いかけた時。

 遠くから、蹄の音が響いてきた。

 一頭? いや、複数頭だ。耳をすませば、馬車の車輪の音も聞こえてくる。

 行商の人? いや、にしては音の数が多い。

 ぎゅっと、子供たちを抱き寄せる。


 これだけの数の馬を引き連れるだなんて、まさか……。

 あり得ない。理由がない。だって、税の時期じゃない。

 でも、目の前の光景には、そのあり得ないものが映っていた。


 その馬車を見た瞬間、咄嗟にダイナ君以外がその場に膝をついた。

 おじさんと子供たちは、非常にまずいことに対応できなかったけれど。

 ヒッポ君は、周りを見て真似してくれた。ありがとう、と心の中で呟く。


 馬車はおじさんたちの近くまでくると止まり、勢いよく扉が開かれる。


「ダイナ! 色々と放りだして帰郷だなんて、本当にいいご身分ね!」

「……よりにもよってお前が来たか」

「ええ、その通り。アルカナ様が来てやったわよ!」


 ――この馬車は領主一家の馬車で、周りには何名か護衛の騎士が馬に乗って付き添っている。

 エンビローグ伯爵家の馬車から出てきて、堂々と目の前におわすのは、そのご息女であるアルカナ・エンビローグ様だった。

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