霧の国
ついに、私掠船は険しい海を渡りきり、僕たちは『ブリタニア諸王国』の港へと足を踏み入れた。
私掠船に乗り込んだ時とは対照的に、ゆったりとタラップを降りると、そこは、この国を象徴する深く立ち込める白い霧の世界だった。
どこか冷たい湿り気を帯びた石畳の道、煤を纏ったガス灯の鈍い光、そして独特の格式高い外套をまとって早足に行き交う人々――。
僕が生まれ育った大陸とは明らかに異なる、どこか退廃的で、それでいて洗練された異国情緒が、僕の音楽家としてのインスピレーションを激しく、そして心地よくかき立てる。
((ねえ『ミーナ』、見てよこの美しい街並み!凄く幻想的だ……。この霧の情緒や、あそこに見える独特のゴシック様式の建築、いつか劇場の演出に応用できないかな?状況が落ち着いたら、この素晴らしい文化をぜひ王都に持ち帰りたいな!))
新天地への感動に目を輝かせる僕の脳内で、呆れ果てた『私』のツッコミが炸裂した。
『ちょっとカース!あなた今、自分が「大陸中を追われる指名手配中の亡命犯」だってこと忘れてない!?なに優雅にインバウンド観光客みたいなこと言ってるのよ、メンタル強くなりすぎでしょ!ジュリアスとお父様の陰謀に、立ち上がれないほど落ち込んでいた頃の、あのお豆腐メンタルは何だったのよ!?』
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