鎮海のソプラノ
「おいカース! 飯の準備が終わったなら、今日もあの一曲を頼むぜ!」
宴席の夜はもちろんのこと。
何でもない昼下がり、退屈な見張り中であっても、キャプテン・スカロはしょっちゅう僕に歌をねだった。
潮風が激しく吹き抜ける甲板の上。
遮るもののない広大な海原に向かって、僕は『SMPC音楽院』で、そして前世からの執念で鍛え上げてきた、神の領域の歌声を響かせる。
「――♪~~~~~~ッ!!」
天空にまで突き抜けるような、どこまでも透き通った美しいボーイソプラノが、荒れ狂う波の音すらも優しく掻き消して広がっていく。
その瞬間、それまで下品に下ネタを叫んで騒いでいた海賊たちが一斉に水を打ったように静まり返り、作業中の手を止めて僕の歌声に深く聴き入った。
そのあまりの美しさと神聖さに、まるで敬虔な信徒のようにボロボロと涙を流し始める、顔に厳つい傷のある巨漢の航海士までいる始末だ。
「……おいおい。何度聴いても鳥肌が止まらねぇな、こりゃあ……」
キャプテン・スカロが、愛用のラム酒のボトルを片手に、感嘆の息を漏らす。
「おい野郎ども、聞いたか!?俺たちの『権天使』さまの歌の前にゃ、船乗りの魂を惑わす伝説の海の魔女『セイレーン』だって、恥じ入って海の底へ引きこもるぜ!」
「「「ウオオオオオオオッ!!」」」
言葉にならない猛々しい歓声と、けたたましい口笛が甲板に割れんばかりに響き渡る。
いつの間にか、僕は海賊たちにとっての『勝利の女神』ならぬ『幸運の天使』として、一味から絶大なリスペクトと信仰に近い感情を集める存在になっていた。
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