命がけの商談
僕は一歩も引かず、肉食獣の如くギラついた、船長の視線を真っ向から見据えた。
そして外套の内側、上質な仕立ての音楽院の制服から、『SMPC』の紋章が刻まれた純金製のボタンを力任せに引きちぎる。
華奢な指先が硬い金属と擦れて赤く腫れたが、そんな痛みに構っている余裕なんてない。
ジャラッ、と重みのある鈍い金の音を立てて、それを船長の分厚い手のひらに無理やり握らせた。
「これは前金だ。僕をブリタニア諸王国に連れて行ってほしい」
船長は手の中の純金をまじまじと見つめ、それから面白そうに片眉を上げ鼻を鳴らした。
「ほぉ……こりゃまた、ずいぶん肝の据わったお坊ちゃんだ。だがなァ、ガキ。この程度の金じゃ船の飯代にもなりゃしねぇ。お前をこのまま捕らえて、帝国かどっかの闇奴隷商に売り払った方が、よっぽど実入りがいいんだが?」
船長の脅しに呼応するように、周囲の海賊たちがギラギラとした欲望を隠そうともせず、下卑た笑い声を上げる。
だが、僕は怯むどころか、フッと冷ややかな、余裕すら感じさせる笑みを浮かべてみせた。
脳内の『私』の知識をフル活用して、カストラートクラスを率い、あの強欲な学長や王宮の百戦錬磨の財務大臣を相手取り、大金の動くビジネスを仕掛けてきたこの僕だ。
今更、海賊のテンプレのような脅し文句ごときで、怯むわけがない。
「ビジネスの計算もできないのかい? 僕をただの『一過性の商品』として売れば、手に入るのは一度きりの端金だ。だけど、もし僕を無傷でブリタニアに連れて行き、『女王陛下に取次いで』くれたなら——」
僕はわざとそこで言葉を区切り、船長の目を射抜くように見つめた。
「君たちは国家規模の名誉と、一族が一生遊んで暮らせるほどの莫大な富を手に入れることになるよ。乗るかい?この最っ高に割のいい賭けに……!」
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