本当の罠
「え……? ミハイル、どうして……?」
呆然と立ち尽くす僕に、ミハイルは周囲の視線を必死に警戒しながら、蚊の鳴くような、ひどく掠れた小声で早口に囁いた。
「(知らないのか!?フラネル共和国は、つい三日前にローデンブルク帝国と『軍事同盟』を締結したんだ!もはやこの国も安全じゃない。それどころか、今は親帝国派の役人たちが、点数稼ぎのために血眼になって王国の人間を狩っているんだよ!)」
その言葉が頭に響いた瞬間、僕の衣服の懐にある、あのレオンから受け取った『帝国発行の偽造通行証』が、まるで鉛のようにズシリと重くなった気がした。
『――しまっ……た!!やられたわ!!カース、レオンがあなたをわざわざ見逃した本当の理由、これだったのよ!あの通行証はあなたを救うためなんかじゃない。あなたを弄び、確実に仕留めるための「追跡の罠」よ!共和国が帝国側につくことを知っていて、わざわざあなたをこの逃げ場のない袋小路へ誘導したのよ!!』
((そんな……! じゃあ、あの時レオンが言っていた『無様に地の果てまで逃げたまえ』っていうのは……っ!))
『きっと、「逃げた先すらも、僕たちの掌の上だけどね」って意味よ!まったく最悪の性格破綻者ね……!今ここに留まったら、間違いなく子爵邸の誰かに密告されて、帝国軍に引き渡されるわ。そうなったら、今度こそ弁明の余地なく、即座に公開処刑よ!!』
「ポルネー家の中にも、すでに親帝国派の耳目が光っている。……僕にできるのは、君を今すぐここから追い返すことだけだ……!頼むから逃げてくれ、生きるんだ、カース!!」
ミハイルは美しい瞳に涙をいっぱいに浮かべながら、僕の背中を強く突き放した。
これ以上、僕の存在のせいで大切な友人を危険に晒すわけにはいかない。
「ありがとう、ミハイル……!君も、どうか、どうか無事で……!」
僕は最愛の友に言葉少なに感謝と別れを告げ、息つく間もなく逃避行を再開するのだった。
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