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カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜  作者: nhhtn
動乱編

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すれ違う正義


((王宮へ行く。陛下に直接お会いして、僕たちトラッド家が……いや、父上とジュリアスがしでかした真実を伝えて弁明しなきゃ……!))


『正気なの!?カース、絶対にダメよ!!』


緊迫する寄宿舎の一室で、僕と脳内の『私』は、かつてないほど激しい激論を交わしていた。

実家の裏切りの報せを受け、王都中が「トラッド辺境伯の血族を八つ裂きにしろ」と怒り狂っている今、僕が外に出るのは自殺行為以外の何物でもない。

けれど、僕にはどうしても行かなければならない理由があった。


((このままじゃ、何も知らない母上まで売国奴の一族として処刑されてしまう!母上は、冷酷な父上と暴走するジュリアスに逆らえなかっただけなんだ。僕が、僕が今すぐ動いて、母上だけでも助けないと……っ!))


『気持ちは痛いほど、それこそ胸が張り裂けそうなほど分かるわよ!!でも、今の王宮はパニック状態の大修羅場よ!?辺境伯の長男であるあなたがノコノコ現れたら、弁明を聞く前にその場で首を撥ねられるのがオチよ。わざわざ死にに行くつもり!?』


『私』の言葉は100%正しい。

前世である現代日本の常識からしても、この世界の冷徹な政治のルールからしても、僕のやろうとしていることはただの蛮勇、あるいは無謀な悪手でしかない。

でも。

あの日、僕が男としての未来を奪われ、絶望のどん底で泣いていた時。

僕のベッドの傍らで、誰よりも心を痛めて涙を流してくれたのは――母上だけだったんだ。


((ごめんよ『ミーナ』。本当にごめん……。いつも君の言う通りにしてきた。君の知識とアドバイスがあったから、僕はここまで来られた。だけど……今だけは、君の助言に従うわけにはいかないんだ……!))


脳内の必死の制止を振り切り、僕は地味な外套を深く頭から被ると、一人、怒号と嵐の吹き荒れる王宮へと向かって駆け出した。


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