リベンジマッチと資金の穴埋め
「……というわけです、学長。楽器科の生徒たちの実家から集めた多額の支援金は、これからは全て、各科へと平等に分配してください。彼らの不満を根本から解消しなければ、第二の爆弾があなたのその立派な椅子を粉々に吹き飛ばすことになりますよ」
僕はミハイルを背後に伴い、再び学長室の重厚なドアを叩いていた。
僕の突きつけたあまりに恐れ知らずな提案に、学長は顔を青くしながらも、忌々しげに首を横に振った。
「カース君、何度も同じことを言わせないでおくれ。理想論では腹は膨らまんのだよ。楽器科に予算を現地還元すれば、カストラートクラスの育成費が大幅に減額されてしまう。その穴埋めは一体どうするというのかね!?繊細なガラス細工を極上の芸術へと育てるための潤沢な資金がなければ、我が校の経営そのものが成り立たんのだ!」
「ええ、もちろん分かっています。ですから本日は、その減額分を十二分に補填する、前世の――いえ、僕たちが考案した『画期的なビジネスモデル』を提案しに来たんです」
ニヤリと不敵に笑う僕の隣で、ミハイルが、あらかじめ用意しておいた何枚もの書類を学長のデスクへと手際よく広げた。
【音楽院経営改革案:チャリティコンサートの常設化】
概要: これまで年に数回だった教会でのチャリティコンサートを、隔週、あるいは最低でも月1回の『定期一大イベント』へと大幅に頻度アップする。
本案のメリット
1:資金調達の機会創出
王都の富裕層や高位貴族、目の肥えたマダムたちをメインターゲットに据え、チケット代のみならず、特定の生徒――いわゆる『推し』への寄付という名目で合法的に莫大な現金を荒稼ぎし、これらをカストラートの育成費に直結させる。
2:生徒たちの圧倒的な『実戦経験』
在学中から大衆の前に立つことで、プロとしての度胸と技術を磨く。
また、新たなパトロンとの出会いの機会が爆発的に増えるため、卒業後のデビュー成功率が跳ね上がる。
メリットがあるのは、なにも生徒側だけではない。
卒業生のデビュー成功率が上がれば上がるほど、この音楽院のブランド価値は跳ね上がり、教師陣や経営陣の名声もまた、天高くへと押し上げられる。
守銭奴の学長のことだ。
年端もいかない少年らにわざわざ事細かに説明されずとも、デスクの上の書類からプンプンと漂う強烈な『金の匂い』を敏感に嗅ぎ取っていることだろう。
結局のところ、人間という生き物は、『富と名誉と権力』にこそ群がるものなのだから。
脳内の『私』の記憶が告げている。
この改革が成功すれば、10年後――この『サントマリオ・ピエタ・カプアナ音楽院』の名は天下に轟き、入学希望者は現在の10倍を軽く超える一大マンモス校へと進化を遂げているはずだと。
「いかがです?予算をケチって大切なガラス細工を壊すより、このシステムでより洗練された『最高級ガラス細工』を量産するべきだとは思いませんか、学長?」
僕は獲物を追い詰めた肉食獣のような笑みを、老獪な経営者へと向けた。
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