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カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜  作者: nhhtn
学院編

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52/246

足元を固めよ


恐怖で竦み、暗闇に沈みそうになる僕の手を、脳内の『私』が力強く引っ張り上げた。


『でも、怯える必要なんてこれっぽっちもないわ。今回の爆破テロが失敗に終わった以上、ジュリアスも同じ手で刺客を差し向けるなんて愚は冒さないはずよ。あいつの冷徹な計算をこれまで以上に狂わせてやるために、今は私たちがやるべきことをやりましょう!』

((やるべきこと、って……?))


『この音楽院を、完全にあなたの「城」にすることよ。外からの脅威に対抗するには、学院内が一枚岩であるに越したことはないわ。学長が腰を上げないなら、私たちが直接、学内の根深い「格差是正」を急ぐのよ!』


――そうだ。『私』の言う通りだ。

楽器科の生徒たちが、その心の奥底に燻らせていたカストラートへの猛烈な憎悪。

それがジュリアスに都合よく利用され、今回の4人のような『鉄砲玉』を生み出す隙を与えてしまったんだ。

なら、その歪んだヘイトの構造そのものを僕たちの手で根本から破壊し、楽器科の生徒たちをも味方に引き入れなければならない。


「ジュリアス……。君がそのつもりなら、僕はもう、ただの無知で可哀想な『お兄ちゃん』のままでいてあげるわけにはいかないな……」


僕は、あの惨劇の夜からずっと身に纏っていた、煤けた聖歌隊の衣装を未練なく脱ぎ捨てた。

そして、クローゼットの奥から、持っている中で一番仕立ての良い制服を取り出す。

自分の身を守るため。

そして、理不尽に夢を奪われた仲間たちの無念を晴らすため。

前世の知識と、辺境伯令息としての冷徹な交渉術。

そのすべてを武器に、僕は音楽院の勢力図を根底から塗り替えるための、本格的な『学内改革』へと動き出すのだった。


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