脳内会議:冷徹な警告
『――ちょっとカース。あなた、本当にいい加減にしなさいよ』
((え? 何がさ。世界が平和ならそれでいいじゃない。僕たちの命が狙われてないなら、一件落着だよ))
思い当たる節が何もない僕は、いつも通り、辺境伯令息にしてはかなり緩い思考で返事をする。
一体何が『私』をここまでピリつかせているのだろう。
『いいわけないでしょ!何が差別主義者のテロよ、おめでたい頭ね!サスペンス小説の読みすぎじゃない!?いいから私の話を……「高度に発展した豊かな国で二十年余り生きてきた『知的な』お姉さん」の冷静な分析を!一言一句たりとも漏らさず聞きなさい!』
ずいぶんとナルシズムと自己主張に満ちたプロファイルが聞こえた気がしたが、いつになく真剣で、どこか悲痛な『私』の声色に、僕はベッドの上で思わず居住まいを正した。
『いい? 状況を整理するわよ。
1つ、大人しいはずの名馬が突然暴走して、あなたの股間をピンポイントで蹴り上げた、すべての始まりである「最初の事故」。
2つ、あなたが家督を辞退すると聞いた時の、ジュリアスの不自然な詮索。
3つ、あなたが音楽院に特待生として合格して、修道院送りを回避した時の、あの蛇のように冷たい視線。
そして4つ、今回の爆破事件で、綺麗に逃げ遂せて消えた「5人目のフードの人物」……』
((うん。……それが、どうかしたの?確かに不気味だけど、繋がらないよ))
『まだ気づかないの!? 捕まった楽器科の4人は、ただの都合のいい「鉄砲玉」よ。裏から潤沢な資金と軍用火薬を提供され、カストラートへのヘイトを巧みに煽られて動かされた操り人形に過ぎないの』
『彼らに命令を下し、絶対に口を割らせないほどの恐怖で口封じをして、なおかつあなたの命を執拗に狙えるだけの『権力』と『執念』を持った人間なんて、この世界に唯一人しかいないわ』
ここまで一気に捲し立てるように説明した『私』は、一瞬、胸が詰まったように苦しげに口を噤んだ。
だが、やはりここで伝えておかねばならないと、魂の底から深く息を吸い、冷徹極まりない警告を僕の脳髄へと突き刺した。
『消えた5人目の容疑者も、これまであなたの身に起きた全ての不幸も——全部、あなたの実の弟・ジュリアスの陰謀よ。あいつ、最初からずっとあなたを社会的にも肉体的にも「殺す」つもりなのよ!!』
「え……?」
鈍器で頭を殴られたような衝撃。
そんな、まさかジュリアスが?
学業優秀で、ちょっと生意気だけど、僕の代わりに実家を背負うと言ってくれた、あのしっかり者で可愛い僕の弟が?
けれど『私』が突きつけてきた最悪のピースがパチリと嵌まった瞬間、僕の脳裏では、これまでの違和感が不気味な輪郭を結び始めていた。
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