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カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜  作者: nhhtn
実家編

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逆転の発想:神の悪戯か、悪魔の配慮か


((待てよ?))


絶望のどん底で、前世の『私』の記憶が、激流のように脳内を駆け巡る。

『私』には、どうしても叶えられなかった夢があった。


それは、音楽史の教科書に燦然と輝く天使たちの名。

ノイズ混じりの劣化したテープでしか聴くことのできない『奇跡の歌声』。

ーーどうか雷鳴のように力強く、ヴェールのように神秘的な響きをこの耳で。

願わくば自らがその歌い手とならんことをーー


変声期前の少年に施される、美声を保つための残酷な処置。

現代では人道的な理由で完全に禁止された、バロックの殉教者たち。

禁忌の生贄により実を結んだ至高の芸術。


「……ある。ここには、揃っている。いや、むしろ『失うべきものは最初から失っている』……!」


絶望で震えていた身体の奥から、今度は別の震え――武者震いが湧き上がってきた。

自分の喉に手を当てる。

どこまでも高く、美しく澄んだ僕の声。

これから成長していけば、男性としての圧倒的な肺活量・骨格と、女性のような超高音の音域を併せ持つ、唯一無二の存在になれる。


「ーーだったら、なってやろうじゃないの!オペラの花形、『カストラート』にさ!!」


どん底の絶望は、一瞬にして『不敵な笑み』へと変わった。

家督がなんだ。貴族の義務がなんだ。

男を捨て(というか馬に奪われ)、跡継ぎの座を追われるこの状況。

ならば僕は僕のやり方で、世界に、歴史に、この名を刻んでやる。


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