絶望の未来予想図
「落ち着け。落ち着くんだ、僕……」
まずは深呼吸をして、現状を客観的に分析しなければならない。
ベッドの上で頭を抱えながら、僕は脳内で『状況整理』を開始した。
【現在のステータス】
身分: トラッド辺境伯家の長男(本来なら次期当主、輝かしいエリートコースだ)。
身体状況: 暴れ馬の渾身の一撃により、男性としての機能――主に『後継者を残す能力』を完全喪失。
(丸々二週間も生死の境を彷徨っていた僕を診てくれた、我が家お抱え医師の診断だ。「今後、奇跡が起きても覆ることはないでしょう」と憐れみの目で告げられた。絶望的である。)
貴族社会において、子供を作れない男子の価値などゼロ、いやマイナスだ。
となれば、我が家の面々は間違いなくこう動く。
【家族の反応予想】
父上:
「子を成せぬ男子など我が家門には不要! 今すぐ修道院にでも行くがいい!」
――うん、確実に言う。
恥晒しは最初からいなかったことにされるパターンだ。
母上:
「あなた、そんな追い出さなくても……そこまでしなくてもいいと思うのだけれど、ねえ……?」
――きっと庇ってはくれる。
だけど母上は押しが弱い。
これまで父上の決定を覆せた例がない。
弟:
「ふん、兄上がおられずとも、父上と僕さえいればトラッド辺境伯家は盤石ですから。ご安心を」
――これ幸いと鼻で笑いながら跡継ぎの座に収まるに違いない。
本当に一卵性かと疑うほど生意気な弟だ。
「……つまり、最悪で『幽閉 or 除籍追放ルート』。良くて『廃嫡』ってところかあ……」
『私』の記憶にある乙女ゲームの悪役令嬢……否、悪役令息か、僕は。
どう転んでも『バッドエンド』。
家督相続なんて夢のまた夢。
家族にも疎まれて未来は絶望、お先真っ暗である。
「お、終わった……。男としても、貴族としても、僕の人生、プロローグで詰んだ……」
わずか八歳にして背負うには重すぎる現実。
僕は絶望に打ちひしがれ、ベッドの上で丸くなり枕に顔をうずめて頭を抱えた。
しかしその時。
僕の脳内で、もう一つの人格――クラシック音楽に魂を捧げた『音大生だった私』が、パチリと指を鳴らしたのだ。
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