目覚めたら、色々と「ナシ」になっていた件
「ーーっ、あ、あつ、熱い……ッ!?」
股間に走る、焼きゴテを当てられたかのような激痛。
あまりの痛みに、ベッドから跳ね起き――ようとしたが、身体が鉛のように重い。
僕は抗うこともできず、寝汗で湿ったシーツへと再び沈み込んだ。
頭が割れるように痛い。
いや、頭だけじゃない。
全身の細胞という細胞が、一斉に悲鳴を上げている。
「はぁ、はぁ……、な、んだこれ……」
呼吸を荒くしながら、おそるおそる自分の身体へと手を伸ばす。
そして、股間のシーツを掴んだ瞬間、僕は文字通りフリーズした。
脳裏をよぎる、圧倒的な『違和感』。
(……あれ? ない。……ない。僕の、僕の股間の大事なアレ(の、特に丸い方二つ)が、綺麗さっぱり消え失せている……!?)
その取り返しのつかない喪失を理解した瞬間。
パチパチと脳内で火花が弾け、濁流のような『記憶』がドッと押し寄せてきた。
それは、お互い交わるはずのない、二つの異なる人生の記憶。
【第1の記憶:この世界の僕】
名前: カース・ディ・トラッド
身分: 王国北端の広大な森林地帯を治め、国土防衛の要を担う『トラッド辺境伯家』の嫡男。
状況: 乗馬の稽古中、興奮した馬を宥めようと近づいたところ、運悪く股間を真正面から蹴り上げられ、生死の境を彷徨っていた。
そしてもうひとつは、まったく見覚えのない「異世界の記憶」。
【第2の記憶:前世の私】
名前:奏江 美波
出身: ニッポンという、平和で豊かな国。
趣味: 寝ても覚めても、明けても暮れてもクラシック音楽。
身分: オペラを愛する、生粋の『音楽学校の女学生』。
状況: コンクールからの帰り道、居眠り運転のトラックに跳ね飛ばされて死亡。
「っ……!う、嘘でしょ……?」
二つの記憶が融合し、新たな自己が確立される。
それと同時に、あまりにも残酷すぎる現実が僕(私)を襲った。
「トラックに跳ねられて死んで、異世界に転生した……んだよね? ……なのに、男の子に生まれ変わったと思った瞬間、馬に蹴られて――」
我が身に起きた悲劇を噛み締める。
消えたのだ。
私の、いや僕の、輝かしい未来が。
「『金玉』無くなっちゃったんだけどーーーーー!!?」
悲痛な叫びは、まだ声変わりを迎えていない鈴の鳴るようなハイトーンで、辺境伯邸の静かな寝室に虚しく響き渡った。
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