表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜  作者: nhhtn
学院編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/239

崩せない壁


しかし、学長はトントンとデスクの上で書類を整えると、まるで何も知らない子供を哀れむような目で僕を見た。


「カース君。君が首席特待生として、また貴族の長男として、学校全体の調和モラルを考えてくれたことは非常に素晴らしい。――だがね、答えは『却下』だ」


「なぜですか!?」

「簡単な算数だよ、カース君」


学長は冷徹な笑みを浮かべ、分厚い帳簿の表紙をノックするように、トントンとその肉付きの良い指で叩いた。


「我が校の絶対的なブランドを支えているのは、世界中の大歌劇場で主役プリモ・ウォーモを張るカストラートたちだ。彼ら一人を完璧な『至高のガラス細工』として育てるには、君の想像を遥かに絶する金がかかる」

「最高級の食事、最高峰の医療、そして超一流の教師陣……。これらを維持するためには、パトロンからの投資だけでは到底足りんのだよ。楽器科からの支援金も全て注ぎ込まねば、カストラートの育成クオリティを保てない。そして、『未熟なカストラートを輩出する』ということは、我が音楽院のブランドの死を意味するのだよ」


「で、ですが……!それでは楽器科の生徒たちの不満は、彼らの尊厳はどうなるのですか!?」


必死に食い下がる僕に向かって。


「彼らは『お客様』だ」


学長はあっさりと、残酷な本音を口にした。


「高額な代金と引き換えに、名門音楽院の『卒業生』という肩書きを買いに来ている、おめでたい貴族の凡才たち。一方、カストラートは我が校の看板となる『商品』であり、命を賭して守るべき『財産』だ。お客様が支払った代金を、商品価値を極限まで高めるべく君たちに再投資する。商売として、一体何が悪いというのかね、うん?」


学長の言葉が、ナイフのように僕の胸に突き刺さる。


「……そもそも芸術の世界は平等ではない。才能も、機会も、待遇も、その全てがだ。出自と才能に恵まれ、首席特待生としてこの場にいる君が、一番理解しているはずだろう?」

「……っ」


何も、言い返せなかった。

脳内でいつもあれほど騒がしかった『私』さえも、今は冷や水を浴びせられたように静まり返っている。

僕が毎日、当たり前のように受けている至高のレッスンも、至れり尽くせりの健康管理も、この恵まれた環境も……。

すべては楽器科の生徒たちの『搾取』の上に成り立っている、歪んだ砂上の楼閣だったのだ——。


少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると大変励みになります!

基本毎日更新です。

今後もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ