十年後の大志
馬車の座席でピンと背筋を伸ばし、スー、ハー、と深く意識的な呼吸を繰り返す。
『私』の圧倒的な熱量には引きずられるばかりだけれど、不思議と嫌な気はしなかった。
馬に局部を蹴られてすべてを失ったあの日、僕の人生は一度完全に終わったのだ。
絶望のどん底にいた。
だけど今、僕の胸には、前世でも今世でも味わったことのないような、熱く激しい情熱の火がパチパチと音を立てて灯っている。
十年という、果てしもなく思える長い歳月。
血と汗と涙の、努力の日々。
その果てに待つ舞台で、僕は一体どんな歌声を響かせているのだろう。
「……ふふ、首席卒業、か。うん、悪くないね」
気がつけば、僕は窓ガラスに映る自分の顔に向かって、どこか不敵な笑みを浮かべていた。
すっかり『私』の戦闘民族マインドに毒されてしまったらしい。
ふと意識を外に向けると、いつの間にか景色は、旅の商人や町人、武装した衛兵らが行き交う賑やかな大都市へと変貌していた。
どこか遠くから、職人がカンカンと鉄を打つ音が聞こえてくる。
この大都会なら、歴史ある高名な楽器工房もあるはずだ。
ガタゴトと小気味よい音を立てながら、馬車はついに王都の巨大な城門をくぐる。
その瞬間、はるか高くにそびえ立つ音楽院の時計塔が、僕たちの到来を祝福し、同時にこれからの波乱万丈な幕開けを告げるかのように――美しく気高い、重厚な鐘の音を王都の空へと響かせていた。
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