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カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜  作者: nhhtn
学院編

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脳内会議:音大生のスパルタ進路指導


『ちょっとカース、何そのピクニックにでも行くようなユルい顔は!馴れ合いなんて絶対にダメよ!?「お友達」を作りにいくんじゃないの!ライバルを蹴落としに……じゃなくて、切磋琢磨して実力を高め合い、貪欲に競い合いに行くのよ!』


((け、蹴落としにって、今本音が漏れてたよ……。そんなにギスギスしなくてもいいじゃない。同じ音楽を志す仲間でしょ?))


たしか『私』が暮らしていたニッポンって、平和で豊かな国じゃなかったっけ?

一体どうして、音楽のことになるとこんなに血の気が多くて武闘派になるんだろう。

だが、そんな僕の甘ったれた態度に、脳内の『私』のボルテージがさらに跳ね上がる。


『甘ーーーーい!!あなた、自分がどれだけ特別で、同時にどれだけ崖っぷちな立場か分かってる!?せっかく一般受験に乱入して最高の実技を披露し、特待生入学をもぎ取ったのよ?周囲の特待生狩り……じゃなくて、嫉妬やプレッシャーは並大抵じゃないわ。志は常に高く!目指すは当然、「首席卒業」よ!!』


((えええええ!!?卒業って十年後だよ!?まだ入学式すら迎えてないのに、気が早すぎない!?))


『サントマリオ・ピエタ・カプアナ音楽院』は、音楽の基礎から応用までをじっくり叩き込む、全寮制の十年制カリキュラム。

今の僕は九歳。

つまり、無事に卒業を迎える頃には、十九歳の立派な大人になっている計算だ。

十年もあれば、日々切磋琢磨し試験の順位やオーディションで競い合う中で、僕にだって好敵手や親友の一人、二人くらいはできるはず。

生涯の友を得られるなら、最終的な順位なんてどうだっていいじゃないか。

たとえビリっけつでの卒業後だって、歌は歌えるわけだし、少しくらいキャッキャウフフの学園生活を謳歌したってバチは当たらないはず……。

けれど、脳内の『私』はそんな僕の半分拗ね、半分甘えの計算を無慈悲にも端から全てぶった斬っていく。


『十年なんて音楽の世界じゃ一瞬よ!最高のカストラートとして歴史に名を残すんでしょ!?それなら、在学中から歌劇場の主役プリモ・ウォーモを張るくらいの気概が必要なの!隙を見せたら蹴落とされるわよ!?馴れ合っている暇なんて一秒たりともありません!!』

((そ、そんなぁ……!))


僕の背後(脳内)には、敵前逃亡は断じて認めないとばかりに鞭を握って腕組みする『私』。

前方には泥沼の戦場と思しき音楽家への道。

さらに左右には辺境伯家の威信を賭けて絶対に失敗を許さない父上と守銭奴のロベルト先生。

僕のキラキラ学園生活の夢は儚く打ち砕かれ、しかし逃げ場は何処にも無い。


『ほら、何を呆けてるの!背筋を伸ばして!腹式呼吸の確認よ!』

「は、はいぃっ!」


馬車の中で思わず声に出して背筋をピンと伸ばす。

王都へ向かう道中、僕は入学前から、脳内の鬼コーチによる『意識改革レッスン』に早くもしごかれる羽目になるのだった——。


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