二つの平手
ガチャリ、と音を立てて扉を押し開けた瞬間、室内にいたミハイルが凄まじい勢いで床を蹴り、ツカツカとこちらへ近付いて来た。
「あ、ミハイル――」
僕が先ほど用意したばかりの、建前の言い訳を口にする間すら、彼は与えてくれなかった。
――パァンッ!!!
乾いた高い音が静かな室内に響き渡り、僕の左頬にじわりと熱い痛みが走る。
張り飛ばされた視線の先、鏡を見れば、僕の白皙の肌の上に、赤く綺麗な手形がくっきりと浮かび上がっていた。
僕がその痛みに小さく息を呑み、驚きに目を見開いた、まさに次の瞬間――。
――パァンッ!!!
今度は右側から、容赦のない衝撃が飛んできた。
ソファーから矢のように飛び出してきたアイシャが、その可憐な見た目からはおよそ想像もつかない鋭さで、僕の反対側の頬を綺麗に張り飛ばしたのだ。
左右の両頬を交互に、寸分の狂いもなく完璧に引っ叩かれ、僕は完全に目を白黒させてその場に立ち尽くすしかなかった。
脳内で『私』までもが、予想外の展開に『えっ……!?』と言ったきり完全にフリーズしている。
裏の世界を恐怖で支配し、世界を揺るがす教皇庁の権天使ともあろう僕が、いまや完全に形無しだった。
「心配したんだぞ、カース!!」
「心配したんですよ、本当に!!どれだけ私たちが生きた心地がしなかったか、分かっているんですか!?」
二人は肩を激しく上下させながら、怒りと、それ以上の安堵が入り混じった瞳で、僕を真っ直ぐに睨みつけていた。
あの日、不穏な殺気と狂気を纏って、何の説明もなく自分たちを部屋に閉じ込め、一人でどこかへ消えてしまった僕。
そんな僕のことを、彼らは怒るよりも前に、気が狂いそうなほどに心配し、ただ無事を祈り続けてくれていたのだ。
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